海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

北朝鮮情勢の今後

前回書いたものを含め「当面軍事行動はない」としましたがもう少し掘り下げておきます。

 

・非戦闘員の退避を実施していない。これは最大の理由と考えています。

ソウルは38度線(休戦協定ライン)に近く、迎撃が困難なロケット弾、自走砲などの北朝鮮の火砲の射程内であり、開戦後にソウルが火の海になる。韓国人はもとより、旅行、出張、駐在などで多くの外国人が滞在しているので、安易に巻き添えにする訳にはいかない。

但し退避命令や渡航禁止に従わない人や、火中の栗を拾いに行くジャーナリストなど事は配慮しません。軍事目的達成の為に極限的な被害を許容するのが米国。もっと平気なのはロシア。これは是非では無く考え方の違い。

ソウルほどの大都市の退避作戦の困難さはベテラン軍人のマティス国防長官(海兵隊出身)、マクマスター補佐官(陸軍出身)は良く知っているでしょう。

米韓は朝鮮戦争以来「国連軍(多国籍軍)」を形成しており戦時の指揮権は米軍にあるのですが、休戦を破棄し軍事行動をするなら「韓国軍」との連絡調整が必須。現在韓国大統領が不在で国家の命運を左右する重要決定を「代行」がおこなうとは思えない。つまり可能な限り「現状維持」を望むでしょう。

※勘違いされている方もいるかもしれませんが、国連憲章7条に基づく正規の国連軍は結成された事がありません。

 

・米国「核実験すれば予防攻撃をおこなう用意がある」との声明

核実験以外には米国は反応しない。軍事的威圧をおこなうが、核実験以外では先制攻撃する意思はない。とも解釈できる。米中会談で「中国が韓国をなんとかしろ。」となっているのに、中国が動く前に一方的に戦端を開くわけにはいかない。戦後を考えた時に中国の協力なくして「朝鮮半島」の安定化は望めず、会談したばかりで習近平の顔を潰す訳にはいかない。そんなことをすれば半島のみならず、南シナ海東シナ海でどのような行動をするか読めなくなる。中国は米国のシリア攻撃に際して安保理で「反対」せず「棄権」することで米国に配慮した。このような経緯から当面は中国の動向を見守ります。

 

ということで、この2点からだけでも「当面、軍事行動はない」という事ですが、「当面」というだけで「無い」とは断言できません。メディアに煽られて騒ぎたてるのは愚かな行為ですが、一般人にとって未だ情報源の主要な地位を占める「マスメディア」からの情報を鵜呑みにするのは仕方のない事かも知れません。しかし、政府はそうはいきません。自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣であり、国の使命は「国民の生命・財産を国土・文化・歴史を守る事」であるからです。

 

「~だろう」や「~はずがない」は禁句であり、今回の事態を奇貨として「最悪を想定」した準備を粛々と進めるべきなのです。

完全無欠な防衛もありえず民間人の退避方法や有事立法、自衛力を高める装備、体系、法律など問題は山積しています。問題点を整理ししっかりと対応していく必要があります。

北朝鮮がチキンゲームを好み、核実験を強行することも十分に考えられます。その際は、米国は動かざるを得なくなりますので、準備は必要です。その点は十分と留意しながら、「何も起きずによかった~」で済ませていけません。

日本は戦後72年間、戦争はおろか戦闘すらしていません。戦死もありません。しかし、世界では、中東戦争朝鮮戦争ベトナム、イラン・イラク、湾岸などや、紛争~内戦と呼ばれるもの至っては書ききれないほどです。

過去、国際社会が送り続けてきた対話のメッセージを無視し続けた北朝鮮は今後どうするつもりなのでしょうか。武力衝突が起きると限定的であれ人命を失うことになります。

1994年の最初の核危機以降、米朝枠組み合意~六か国協議、国連決議、経済制裁など話し合いの場を持つ努力と武力以外の圧力を加えてきましたが、自国への脅威も目前にして、もはや話し合いの段階は済んだと米国が考えるのも無理のないことかもしれません。

軍事的に威圧する段階を徐々に引き上げていき、「抑止」から「強制」の段階に至ったのかもしれません。

 

我が国が経験したように、米国にとっては「抑止(かなり強力だが)」の「ハル・ノート」を「最後通牒」と解釈し、国民の熱狂によって戦争に突入したようになるのでしょうか。

 

メディアに煽られないで!

まずは一言。北朝鮮とアメリカのニュースが賑やかですが

「メディアに煽られないようにしてください。」

 

最近報道された内容はおおよそ以下の通りです。

 

・米第三艦隊所属・カールビンソン空母打撃群が日本海へ来た!と騒ぐ。

(理由1)横須賀を母港とする「ロナルドレーガン」はドックにメンテのため入渠中。その代打として来るに過ぎない。この後「カールビンソン」に変わって「ニミッツ」が来ます。「ロナルドレーガン」が出渠すると「ニミッツ」は中東へ。つまりローテーションの一環。よくあること。

(理由2)空母打撃群は強力だが打撃群だけで戦争を始めるには非力。以前にも書いた通り「初撃」で相当の戦力を奪わないと、「在日米軍基地」や日本の各地が危険。もし日本に被害が出ると「反米・反基地」闘争が始まるため、米軍としても活動がしにくくなる。(前線基地として日本が使えなくなる)理想は北朝鮮が暴走しミサイルを発射、漏れなく迎撃すること。こうすれば「親米・安保堅持」となりアメリカには好都合。

 

・前回の弾道ミサイル発射の報道について

高度と距離から「失敗」とされているが、もしかすると北朝鮮が「自爆」させたのかもしれません。アメリカが強硬姿勢に出たタイミングで日本海に撃ちこむか間違って韓国にでも被害がでると、マジで戦争になりかねません。北朝鮮にしたら新型エンジンの燃焼を確認できればいい訳で、それ以上の不要な刺激は避けたのかも。

 

・トランプ米大統領の「我々には強力な潜水艦がある」発言について

空母打撃群には元々潜水艦が随伴しています。(攻撃型原潜SSN)今回の発言は「巡航ミサイル原潜SSGN」の事を指すのかもしれませんが、やはり打撃力は空母打撃群と所属する攻撃機のほうが大きい。ものの数が違う。SSGNは順次数を減らしており現在展開中は3隻と目されます。ロシアの報道ではSSGNが朝鮮半島へ向かっているとされていますが、その根拠と証拠がない。トランプ米大統領は軍事音痴なのでSSGNの存在を知ってテンションがあがって口走っただけかも。

 

・横須賀の基地祭が中止になった=戦争に備えてか?

元ネタはテレビ神奈川の憶測による報道のようです。米軍に取材もせず報道したことが確認されています。中止は米副大統領がドック入りしているロナルドレーガンを視察する事によるものです。

 

・38North「核実験の準備が進んでいる」

これは事実である確率が高そうです。

 

こういった過激でセンセーショナルな報道が出るたびに、「戦争だ!」とか「やはり米軍は危険だ!」とか騒ぎますが、メディアさんは軍事に詳しい訳では無いのでご注意を。メディアさんの意向もあるでしょうし、取材ソースによるでしょうしね。緊張が高まっているのは確かですが。

 

もし、米軍が攻撃するなら韓国との協議が必要です。(クリントン政権の時は韓国政府が大反対し武力攻撃を諦めました。)その様子は見られませんし、退避勧告も出していません。在日米軍は活発に活動をしていますが、部隊の移動は見られません。

SEALS(海軍の特殊部隊)が沖縄に待機している可能性もありますが、確認はとれていないようです。

 

考えても見てください。シリアで米軍が59発も巡航ミサイル(タクティカルトマホーク)をぶち込んで飛行場に穴ぼこ空けただけです。

北朝鮮に同様の攻撃をしても意味が無い。

トランプ米大統領は軍事音痴ですが、バノン首席戦略官をNSC(国家安全保障会議)から追い出したので、会議のトップはマクマスター補佐官、統合参謀本部議長が加わり、主要メンバーに軍関係者が多くなり比較的冷静な判断をすると考えられます。

本当に始めるなら、在韓の同盟国国民に退避させます。特にアメリカが突如攻撃を開始してソウルが反撃され、退避もままならないまま米国のみならず第三国の国民に死傷者が出たらアメリカが苦しい立場になります。情報公開を派手にしてるし現段階ではありませんね。シリアやイラクとは訳が違います。韓国の首都が戦場になる事態は避けざるを得ない。北はそれも見越してチキンゲームを仕掛けています。

 

慌てず冷静な対処をしていきましょう。

 

大国の夢

中国はアメリカと2か国で世界のルールを作ろうとしています。

政府高官のそのような発言は過去に沢山あり、意志は明確であるのは確かです。オバマ米大統領と習主席との会談でも 「太平洋は、中国とアメリカの二国が活動するのに、十分な広さがある」 名言しています。日本がこんな事を言ったらどうなるんでしょう?大騒ぎでしょうね。

 

さて、中国には鄧小平時代に軍事上の概念として登場した地図上の線に「第一列島線」(沖縄・尖閣諸島南シナ海)「第二列島線」(伊豆諸島~小笠原~サイパン・グアム)があります。

第一列島線の内側は「核心的利益」(戦争も辞さない絶対に譲らないライン)とし、第二列島線は自国の安全保障の為に進出する必要のあるラインです。

背後にソ連があった時代は、中国の脅威(仮想敵国)はソ連であったため陸軍国として陸上戦力に注力していましたが、ソ連が崩壊しロシアとなった今軍事的脅威は減少しました。

 

代わりに米国が脅威となってきたのです。

第一、第二どちらの列島線上には日本もあり、オーストラリア、シンガポールには米軍基地があり、囲まれています。

資源確保には第一列島線の獲得、米国の接近阻止のためには第二列島線までの進出が必要なのです。シーレーンの確保も含めその為の装備と訓練をしています。

 

空母保有もその一環です。遠い地域に戦力投射するには「空母打撃群」が必要であることは、台湾海峡危機で身を持って知っています。

また、南シナ海周辺の軍事力の小さな国は、「中国・空母打撃群」のプレゼンスは脅威であり、恫喝することで南シナ海を自由に使えるようになるでしょう。それが戦力的には小さなものであってもです。

 

米国は未だ最強国であるのは確かですが、その差は徐々に縮まっています。ネットワーク能力で中国を遥かに凌駕しています。

しかし衛星やネットワークに過度に依存しているとも考えられ、軍事的弱点がそこにあるかもしれませんし、その点の突破も中国は目指しています。

有事の際に米国の軍事ネットワークをウィルスなどを使っての破壊や、人工衛星をミサイルで破壊するなども実験しています。オーストラリアのダーウィン港の租借権を得たり、全地球ネットワークのための独自衛星網の構築も急いでいます。

南シナ海でやっているような「力での現状変更」は、到底許されるものではありませんが、クリミア半島はそれが実現しています。

 

戦い方を変えるNIFC-CA

以前にも概要を説明したことがありますが、前回・前々回との流れで再度取り上げようと思います。

イージス艦と呼ばれる戦闘艦があるのはご存知でしょうか。イージスシステムを搭載した艦艇を一般的にそう呼んでいます。そのシステムの中心となるのが「イージス武器システム」です。この特徴は多数の目標を同時に補足追尾できるSPYレーダーです。このレーダーは360度全周を常時見張る事ができ、多数の目標を同時に探知できる優れモノです。ソフトウェアの改修などでどんどんアップデートされ高機能化しています。

しかしレーダーである以上、超えられない限界があります。

それが水平線の向こう側です。地球は丸く、電波は直進するため、水平線の向こう側は視えません。できるだけ遠くを索敵する為にレーダーを高い位置に取りつけてはいますがやはり限度があります。

攻撃側は水平線の向こう側(OTH/超水平線)から対艦ミサイル、巡航ミサイルを発射、ミサイルはなるべく見つからないよう、またできるだけ近づけるよう海面ギリギリを飛行(シースキミングと言います)します。

まして中国が開発中の超音速対艦巡航ミサイルであれば、近くまで隠れて飛行し、そしてレーダーに捕捉されても速度が極めて速いため、防衛側は対処する時間が短くなります。これは艦船にとって非常に脅威です。中国にしてみれば現在進めているA2/D2(接近阻止・領域拒否)戦略を実現するため、できるだけ以遠で米海軍や海自を迎え撃ちたいのです。

しかし米海軍が運用を始めたこのNIFC-CA(ニフカ)というネットワークシステムはこの問題を解決し飛躍的に防空能力を高めます。

その運用はと言いますと・・・

まず高高度に最新のE-2D早期警戒機(航空自衛隊も導入します)を複数飛ばします。

飛行機なので勿論早く移動でき遠くまで見通せます。E-2Dのレーダーは非常に優秀で、ステルス機、小さな巡航ミサイル、弾道ミサイルまで補足し追尾できます。

探知した脅威の情報はTTNT(戦術ターゲッティングネットワーク技術)を使い、見通し外にあるリンク先の地上の基地や司令部、射手であるイージス艦などの艦船へリアルタイムで転送されます。そしてCEC(共同交戦能力)なども活用して適切な射手が選定され、低空目標ならSM-6ミサイルを発射し迎撃します。E2-Dは探知からデータの中継機能、管制と多くの機能を果たします。

SM-6(スタンダードミサイル6)は新しいミサイルです。現在SM-2が艦対空、SM-3が弾道ミサイル迎撃用として運用されていますが、このSM-6ミサイルは新型艦対空ミサイルで、従来のSM-2ミサイルが発射母艦からの誘導が必要であったのと異なり、発射母艦以外での誘導や、データリンクでの情報のやり取り所謂「撃ちっぱなし」ができるミサイルで従来より長射程(370km)となりました。

このミサイルによってイージス艦はシステムの負担が減り「同時交戦目標数」が増えることになります。発射母艦であるイージス艦には最新のイージスシステムベースライン9が搭載されていることが条件です。

NIFC-CAは「イージスシステム・ベースライン9」と「E-2D」「SM-6」の組み合わせによって従来よりも飛躍的に高い防御力を提供するものです。

このシステムは陸上、航空、海上のあらゆるものと統合運用が可能であり、米軍では各種のテストが行われています。

さて、自衛隊にも同じものがあります。イージス艦は米海軍に次いで保有数が多く、E-2Dは導入が決まり、SM-6は運用が可能なイージスシステム・ベースライン9搭載艦が建造されれば(予定あり)導入されるでしょう。

 

イージスシステムにはさらにイージスBMDという弾道ミサイル対応のためのシステムがあります。これも最新バージョンにいくつかの機能を付加すると、複数の弾道ミサイルに複数のイージス艦が対応します。どのミサイルをどの艦が迎撃するのか、いつ発射するのか、管制はどの艦が受け持つのかなどまで、情報を共有しながら対応します。平たく言うと、複数の移動可能なSPYレーダーで多数の目標を探知し、適切などれかが発射管制をし、適切などれかが迎撃することになります。

探知も発射も管制もすべてがリンクで共有されることになります。リンクで共有されたものは全てが一つの兵器として扱われるという事です。中国はこの点においてアメリカに大きく差をつけられています。

そして、次に日米で共同防衛ですね。例えば米軍のE2-Dが探知、日本のイージス艦が迎撃し、米空母打撃群を防衛するとか、日本の防空を行うとか・・・この場合においてもやはり「集団的自衛権」の運用になります。

もはや、単独で戦える時代ではありません。仕事もネットワークがなければ何事もできなくなってきたのと同じように防衛もローカルではできないのです。集団的自衛権はいわばLANみたいな感じでしょうか。

(SM-6ミサイル)

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新鋭機岩国配備

前回名前がでた「E-2D」と「F-35B」について説明しようと思います。

在日米軍岩国基地(米海兵隊岩国航空基地)に新たに配備された機材として、
(1)早期警戒機E-2D・アドバンスドホークアイ 
(2)最新鋭ステルス戦闘機F-35B
があります。

まずは「早期警戒機E-2D・アドバンスドホークアイ」という飛行機ですが、これは高性能なレーダーを載せて長時間高空を飛行し地上目標・航空機・巡航ミサイル・弾道ミサイルなどを全て監視する飛行機です。
またステルス機も探知可能とされるレーダーも装備しており、まさに鷹の目です。

発見した脅威についての情報は即座に米軍基地・航空機・艦船などに共有され、戦闘機の指揮管制もおこないます。(CEC・共同交戦能力)
監視能力としては沖縄あたりの位置から海上目標は台湾あたりまで、空中目標に対しては中国沿岸部まで監視できると言われます。

またNIFC-CA(ニフカ・海軍統合火器管制-対空)という新たなシステムの運用の中心となります。
米軍はこの機体を「デジタル・クオーターバック」と呼び、アメフトの司令塔であるクオーターバックに例えています。

※NIFC-CAについてはここでは詳しく書きませんが、もの凄いシステムです。

次にステルス戦闘機F-35ですが、(愛称はライトニングⅡだったような・・・言いにくいなぁ。ラプターとかイーグルとか言いやすいし猛禽でカッコいいのに)

A型(基本形)B型(短距離&垂直離着陸型)C型(艦載機型)があり、高いステルス性、高性能レーダー、多種多様なセンサー類、高速なデータ通信機能を持つ新鋭機です。

開発時は「統合打撃戦闘機計画」の略称であるJSFと呼ばれていました。探知されない距離からミサイルを発射し攻撃でき、360度全周を見渡せるセンサーを備えています。この能力を活かして前方に展開しNIFC-CAのセンサーノードとしても期待されています。

ざっくりいうと、NIFC-CAとは、この2機種と最新のイージス戦闘システム搭載艦、SM-6などを組み合わせて、見通し線外(水平線の向こう)からの巡航ミサイルの攻撃、飽和攻撃に対処することになります。CEC(共同交戦能力)、イージスBMD、THAAD、SM-3ブロックⅡAその他多くのシステム、兵器を組み合わせて増大する脅威に対応します。(お金も時間もかかります)

自衛隊ではF-35AとE-2Dを航空自衛隊が導入し、海上自衛隊では最新のイージスシステムとイージスBMDを改修や新造艦で対応することにしています。
戦力化にはまだ数年かかりますので、その間は限定的な防空能力に留まります。

※なお、米軍と連携しミサイル防衛を行うと防空能力がかなり強化されます。この点でも「集団的自衛権」の行使は必要です。自衛隊単独だと限定的である防空能力も米軍と連携すれば飛躍的に能力向上が見込めます。日米双方にとり好ましい状態です。

 

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E-2D

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F-35B

韓半島有事

まずは北朝鮮の現状をみてみましょう。

・液体燃料を使ったミサイル中距離弾道弾「ムスダン」、西日本攻撃に「ノドン」、射程延伸型「スカッドER」など多様なミサイルを保有し同時発射も可能

・固体燃料系の「北極星1型」「北極星2型」の発射試験もおこなった。固体燃料は扱いが難しいが即応性が高い

・着弾地点を調整するための技術も保有。着弾点を調整するため「ロフテッド軌道」での発射も試験済み

・TELという移動発射車両を多数保有している

・核実験も実施し威力も大きくなっているが、核弾頭にする為の小型化の技術レベルは不明

・目標は在日米軍と明言しているが米本土はまだ攻撃できないレベル

つまり、各種ミサイルを複合して同時発射し、ある程度狙った場所へ複数を落とせるという事です。また移動発射のための車両も保有しており、発射前に破壊は困難です。

これに「北極星」系統のミサイルが搭載されれば、山中などにTELを隠し衛星などによる探知を避け、巡航ミサイル空爆などの攻撃をかわしつつ突如として発射できます。

狙いは勿論日本です。(在日米軍基地・自衛隊基地・原発・港湾など)

ソウルは国境に接しているため、ミサイルは使用せずとも大量のロケット弾、砲弾を撃ちこめば攻撃可能ですし、ミサイルより数が多く迎撃されにくい。既に測的(距離などを測定すること)などの射撃前の準備は必要ないほど準備はできていますから、命令一つでソウルは戦場となります。

これを防ぐため、米軍が先制攻撃するとします。(予防攻撃

いくらアメリカとは言っても北朝鮮に一発の反撃も許さず、金正恩氏を殺害し全ミサイルを破壊はできません。イラク戦争などがその証明です。私は北朝鮮イラクの比にならないほどの困難があると思っています。イラクは砂漠が多く偵察による発見も容易ですが、北朝鮮は山間地も多いのです。

もし、一気に北朝鮮の戦闘能力(特に核・ミサイル)を完全に破壊もしくは掌握できなかった場合、韓国には北朝鮮の地上軍と特殊部隊が侵入し地上戦となります。

在韓米軍は反撃し食い止めて時間稼ぎをしますが、その後に準備を整えた在日米軍も支援に向かいます。

北朝鮮とすればそれを阻止すべく38度線を超えると同時に、各種ミサイルで攻撃します。日米はイージス艦日本海側に配備しSM-3ミサイルで弾道弾を迎撃します。現状ではイージス艦といえども全ての脅威に対応できる訳ではありません。対応できる数に限度があります。それを超える攻撃(飽和攻撃)をされたら対処できません。(米軍では徐々にその能力をつけていますし、自衛隊も一部が予算化されましたがこれについては回を改めます)

トランプ米国大統領と習金平中国主席の会談が間もなく行われます。

アメリカは中国に「北朝鮮をなんとかせよ。さもなくば武力行使もありうる」「北朝鮮に攻撃をする場合には中国に傍観するよう要求する」「これに乗じて東シナ海南シナ海で混乱を起こさないように求める」などと迫るでしょう。

勿論中国は反発します。隣の韓国にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を配備したことで、(実は迎撃用ミサイルそのものに反対しているのではなく、THAADのための高性能レーダーによって自国の空域が監視される恐れがあるためです。)神経を尖らせているうえ、北朝鮮有事の際は韓国の政情不安も相まって自国に難民があふれ出すのではないかと危惧しています。

アメリカは自国に難民が流入する事も無いため、中国にとっては極めて身勝手な言い分と思えます。

アメリカの安全保障の都合で、北朝鮮難民が中国に入り騒動を起こすのは割りにあいません。

引き換えに「一つの中国」政策の継続、「新たな大国関係の構築」「航行の自由作戦の中止」など条件にするのでしょう。

また慰安婦(少女)像問題の進展がなにもないまま、3カ月ぶりに長嶺駐韓大使が帰任しましたが、これはこのあたりの情報収集や邦人保護、韓国との連絡調整も見越しての帰任に思えます。

米軍は岩国基地に最新鋭の早期警戒管制機「E2-D」と最新鋭の戦闘機「F-35B」を配備、それを運用可能な強襲揚陸艦「ワスプ」を第七艦隊所属としましたが、このタイミングはステルス機であるF-35で北朝鮮のレーダーを掻い潜りピンポイントで攻撃する可能性があるということかもしれません。(ワスプは秋ごろに佐世保へ来る予定)

このような状況の時、相変わらず「豊洲」と「森友」で盛り上がっている我が国のノンビリ具合には驚きます。

戦争を身近に感じないのはある意味我が国の誇りですが、危機が迫っていてもこれでいいのでしょうか。いつも言いますが「意志」があり「能力」を持ったときには・・・

 

楯と矛

北朝鮮がミサイルを4発同時発射したニュース映像はご覧になったと思います。

ミサイルはスカッドER(スカッドミサイルの改良型で射程延伸型です)とみられます。射程は1000km、高度は260kmとの発表もありました。

過去には3発同時はあったのですが、今回は4発同時、しかも同地点に着弾させているようです。現在は自衛隊が着弾海域を捜索中。脅威度はさらに増してきています。

(米国は5発発射し1発は失敗したとも考えているようです)

過去に何度も書きましたが、自衛隊イージス艦によるBMD(弾道ミサイル防衛)体制を強化しており、重要地点にはPAC-3ミサイルを配備しています。(詳しくは過去記事をお読みください) しかし、同時発射弾数が増えると迎撃率は落ちると考えられますし、着弾地点によっては1発でも落ちると甚大な被害を被ります。

今回のスカッドERは「液体燃料」であるため、発射に時間が必要(燃料注入)ですが、前回実験済みの「固体燃料式」エンジンの開発もほぼ終了しており、このエンジンが、スカッドERのエンジンになると、即時発射可能となるために事前の探知が難しく我が国にとって非常に脅威です。

このように加速度的に脅威度を増す北朝鮮のミサイル能力に対応するため、29年度防衛予算で計上する予定であったBMD関連事業は前倒しされ、PAC-3MSE(PAC-3の能力向上型)の導入、イージスシステム搭載護衛艦の能力向上(BMD能力の付与)、弾道ミサイル迎撃体制の調査(多分THAAD/高高度防衛ミサイル)などが、28年度補正予算で計上されています。

THAADは最近、韓国が導入を決定しました。(在韓米軍が配備運用します。)

29年度予算では、BMD用の迎撃ミサイルSM-3ブロックⅠAに変わり、大きく能力を向上させたSM-3ブロックⅡAを取得します。これは日米共同開発のミサイルで先月迎撃実験を成功させたミサイルです。

航空自衛隊の警戒監視レーダー(J/FPS-7・通称ガメラレーダー)も、弾道ミサイル防衛用に改修や新設します。

これらは「楯」の部分です。

さて、「楯」だけでは防ぎきれない場合があります。それは「飽和攻撃」です。迎撃能力には限界があり、迎撃率も100%はありえません。BMDシステムは複数同時攻撃対処能力を得てきてはいますが・・・万一1発でも在日米軍基地や大都市に着弾したら・・・スカッドERの数を揃える事ができたらあり得ます。

 

近頃は国会でもネットでも「矛」の意見がかなり出てきました。

先制攻撃論や敵策源地攻撃論と呼ばれるものです。

先制攻撃論は憲法の壁やエスカレーションなどもありなかなか実現は難しいのですが、敵策源地攻撃となるともっと難しいのが現実です。

自衛隊には全くその装備はありません。また北朝鮮の映像にもあるようにミサイルの発射器はTELと呼ばれる「移動式発射台」です。山間地も多い国土の中では隠ぺいも容易でレーダーや人工衛星では見つけにくく発射前の破壊は困難です。

一般に聞くのが「トマホーク巡航ミサイル」による攻撃ですが、トマホークは固定目標には使えますが、移動目標には使えませんし速度が遅く迎撃されやすいのです。

「矛」と言えば米軍ですが・・・

米軍はB-2ステルス爆撃機でのバンカーバスター(地中貫通核爆弾B-61)の試験も成功し異例の公表をしています。

米軍による攻撃(斬首作戦)もトランプ政権下ではありえますが、少しでも手間取ると日本向けにミサイルが発射されることになります。

米ウォールストリートによるとトランプ大統領は「軍事力の増強」とともに、北朝鮮への武力行使や政権転覆を検討しているとも報じられています。

 

中国・ロシアの問題もありますし、きな臭い嫌な情勢になってきました。

(写真はロイターより)