海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

安保三文書ー平和を考えた

安全保障において良い戦略とは、自国に有利な状況を作ることによって、戦争という破滅的な状態を回避するものであるので、戦争が生起した時点で最良の戦略とは言えない。平和な状態では無くなるからだ。
ただし戦争に勝つ事の重要性が低くなるわけでは無い。勝つ為の備えこそ回避する最良の手段だからである。
 
しかし、「回避」が成功している場合に戦略が成功しているかどうかの評価は極めて難しい。
その為に「無駄遣い」の批判はどうしても起こるが、自動車保険を「無駄遣い」とは言わないであろうし、ドライブレコーダーや自動ブレーキを取り付ける事も「無駄遣い」とは言わず、寧ろ安全が向上したと考える人が多い。
 
 意思がなければ能力があっても危険では無い。アメリカは核保有かつ世界一の軍事力、経済力があり、在日米軍基地があり第七艦隊母港であるにもかかわらず、殆どの日本人はアメリカを危険とは見做していない。数発の核と日本海すら越えることのできない軍隊しか持たない北朝鮮の方がはるかに危険であると考えている。
 
簡単に人を轢き殺す事のできる自動車に乗っていても、轢き殺す意思が無ければほぼ危険ではないのと同じだ。
 
軍事や安全保障を即「危険思想」とする人の多くはこの点を誤解しているように思う。
 
戦略を構築するには国家の目標が明確に示されなければならないが、法による秩序を重んじる我が国は覇権を求めてはおらず、「持続的な繁栄」と「国際協調」がその目標となろう。
 
これでは些か具体性に欠けるので、もう少し掘り下げてみると、持続的繁栄のためには、日本と世界に対する平和な状態を脅かす脅威を判定したうえで、現実を認定し、その脅威を如何に抑止するかを考え、国際協調のために法と秩序に基づく自由を保証する環境を能動的に作ることだろう。
 
目標設定を明確にしたのちには手段の選択となる。
前述のような視点から有限なリソース配分(資金、人材、技術など)と、どのようにすすめるかのロードマップに沿った開発や整備などを行うが、軍事関連はとにかく時間がかかる。
 
安保三文書はその行動指針であって、これからようやく実行段階に移行する訳だが、その際に様々な法的技術的な課題があるだろう。
 
しかし我が国が国際社会において重要な地位を占めたいのならば、このようなことは克服しなければならない。このことは、まさに日本国憲法前文の趣旨に沿った行動であり、一部が言うような「軍国化」では決して無い。
私に言わせれば「ようやくマトモに考えるようになった」レベルである。
 
 
国家の場合、ある国の技術や資源が欲しいからと言って合併吸収は現代社会では許されない。(企業ではM&Aや株式取得などで関与できるが)
 
しかしロシアーウクライナ戦争で見るように、覇権国家においてはその限りでは無く、属国化や支配をしようとするため、それに備える必要がある。
過去に我が国がおこした過去の過ちの多くは「尊大な態度による属国化を求める態度」からもたらされた。我が国はそのような国のかたちから決別したが、未だにそのような国は数多ある。
 
ウクライナのゼレンシキー大統領がロシアに対し融和的に対応したにも関わらず、また西側諸国の警告にも関わらず、プーチン大統領は電撃的に攻撃を行いウクライナを支配しようとし、それが叶わないとなれば、市民の虐殺とインフラを破壊し尽くしウクライナを長期戦に持ち込もうとしプレッシャーをかけている。
 
このような真正面からの戦争は21世記には起こらないだろうとの予測があったが、古い形の戦争(殲滅戦)が今もウクライナを苦しめている。まさに19世記の軍人クラウゼヴィッツが「戦争論」で喝破した「政治の道具としての戦争」である。
言語による“対話”ではなく、暴力による“強制”を選択する事が現代においてもあり得ることを明示した。
ほぼリアルタイムでロシアーウクライナ戦争を知る事ができる現代。このような現状をみたとき、我が国の安全保障強化は必須であるだろう。
 
プーチン大統領同様な文脈で先の大戦“太平洋戦争、大東亜戦争”が語られる事がある。周辺国が危険だから自衛圏を拡大しようとしたのだと。自存自衛であり止むを得ない戦争であったと。
 
これは政府•陸軍•海軍の三者三様の戦略と錯誤が招いた結果であり、周辺国には被害を及ぼし敗戦によって終わりを告げた。如何に正当性を訴えようともこの時期の施政者や高級軍人が国策を誤ったのは事実である。そのような指導者の下で家族や友人、国を守りたいと多くの人々が傷つき死んでいった。指導者の失敗は悲しみしか生まない。
 
そのような事を起こさせないのは自由主義社会共通の認識であろうし、大戦以降にも多くの犠牲を払いつつも慣習国際法判例、決議、条約などを積み重ね、平和を希求した。にがい過去の歴史をもつ我が国こそその先頭にたち、平和と自由の旗手となるべきだ。
その為には国家としての戦略を構築し目的と手段の明確化と透明性と責任のある行動で、安心で安定的な状態を作らなければならない。
 
私は今回の岸田政権の策定した安保三文書を強く支持する。