海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

衛星リモートセンシングにおける軍民技術

自衛隊は「宇宙の平和利用」との名目の為、宇宙空間の利用には制限が付きまとっていました。
このため、防衛省所有の宇宙関連防衛装備品は貧弱で、従来は民間衛星の利用などに留まっていました。
 
防衛省専用の衛星は2017年以降にXバンド通信衛星を2機運用している程度で本年度追加の1機を打ち上げる予定です。(従来は民間衛星の一部をレンタルするなど非常に脆弱な体制であった)IGS(情報収集衛星)は所管:内閣官房・運用:内閣衛星情報センターで、今後10機運用体制を目指します。
 
情報収集衛星の画像は「特定秘密保護法」によって「特定秘密」に指定されており非公開です。
 
2020年に航空自衛隊に「宇宙作戦隊」が発足、2022年には改編し「宇宙作戦群」となり、スペースデブリの監視、衛星などの軌道や運用意図などの監視などのため、宇宙状況監視(Space Situation Awareness:SSA)を発展させた宇宙領域把握(Space Domain Awareness:SDA)を米軍・JAXAと緊密に連携しながらおこないます。「特定秘密保護法」の制定によって重要な情報の保全が図られることで米軍との連携が深まりました。
 
デブリの監視は地上に設置したデブリ監視専用レーダー、将来的に打ち上げるSSA光学衛星、低軌道衛星監視用のSSAレーザー測距装置、これらを統合運用するシステムでおこないます。
これら新たな能力を持つ部隊創設には安全保障環境の厳しさを理解していた安倍総理の強力な支援があったようです。
 
 
不審な衛星とは「キラー衛星」があげられますが、その手段はハードキルソフトキルに大別されます。ハードキルは文字通り「物理破壊」を、「ソフトキル」はジャミングやハッキングなどをおこないます。
「キラー衛星」はターゲットとなる衛星に密かに近づき、いざとなれば起動し破壊活動を行うため、事前の監視が重要です。
また自国の衛星群の機能保証や相手側の指揮・通信等を妨害する能力も強化しますが、この際には民生技術をフル活用することとなっています。
 
 
また、デブリの増加によるリスクが高まるため国際的な非難があるなか、中露はすでにキラー衛星による衛星破壊実験に成功しています。すでに上空36,000km(静止衛星軌道)以下は戦場になり得えるということです。ガンダムの世界はそう遠くないのかも・・・これらに伴い宇宙作戦群はさらに増員を予定しています。
 
宇宙領域・衛星の活用は、領域横断作戦(陸海空が連携した作戦)に極めて重要な技術です。
 
 
衛星リモートセンシング技術のうち身近なものがGPSなどの測位衛星ですが、これら通信や画像、測位などを総称して「GEOINT」(地理空間インテリジェンス)と言い、簡単に言えば「地理空間情報付きの情報」で、スマホカメラのジオタグや、カーナビ、GISソフトウェア、ドローン飛行、船舶が利用するAIS(船舶自動識別装置)、ミサイルの誘導、さらに衛星搭載の合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)データや画像データとあわせて防災研究、地質学や火山学、地殻変動の計測などあらゆるところに応用されています。(総称しGeo-Intellignce
また日本が運用している準天頂衛星システム「みちびき」は、測位制度が数センチと高精度です。
 
昔は地図・天気図すら戦略的に重要な資源でしたから、測量や三角点設置は軍などが所管する軍機密でした。しかし現在は高精度なGoogleMapやGoogleEarthをどこでも見られて便利です。
GoogleMapでは場所や経路、お店の情報、口コミまで網羅されていますが、良い使い方だと思います。
 
そのほかには民間では高精度な位置情報を利用して埋設された水道メーターの位置の把握や、無人建機の操作など多様に活用されています。林業においても活用が進んでおり木1本の正確な位置まで把握し、GISソフト上で管理することができます。
 
 
軍用ではミサイルや戦闘機、艦船、無人アセット、また小型無人機のスウォーム(群れ)運用に位置情報を与えるのもGPSなどの精度の高い測位衛星であり、20世紀型の戦争と言われているロシアーウクライナ戦争でも有用である事が証明されました。
 
ウクライナには西側諸国も衛星情報を積極的に提供していると思われますが、勿論どの国がどのような情報提供をしているかは、それこそ軍事情報になるので非公開。
しかし衛星通信は勿論のこと、衛星から提供される各種情報のうち位置情報は長射程火砲、対地ミサイル、無人機(UAV)などの無人アセットによる攻撃画像情報は敵の戦力分析や戦果確認赤外線情報はミサイル発射の熱源探知にも活用されています。日本では北朝鮮弾道ミサイルなどの発射を米軍協力のもとで赤外線センサーで捉えて追跡しています。
 
最近ではウクライナのMiG-29にGPS受信器であるGARMINを取り付け位置情報を取得し、iPadのようなものでミサイルを制御して攻撃するなど、民生品が防衛に役立っています。
 
ロシア製戦闘機にアメリカ製ミサイルをポン付けして、攻撃できるとは専門家もビックリの運用だったようです。勿論兵器の性能を100%引き出せてはいないでしょうが、それでも戦局に影響を与えたようです。
 
逆に資金不足で充分な衛星網を構築できていないと考えられる(または保守できていない)ロシアは、衛星情報の不足によってウクライナの攻撃を充分に察知する事ができていないと思われます。
 
昔は航空機の偵察でしたが、ウクライナ防空網が機能しているため、ロシア機はウクライナ上空を偵察飛行できませんし、勿論西側諸国からの衛星情報の提供はありません。そのためウクライナの攻撃に対してロシア軍は非常に脆弱で地上戦力で圧倒的に勝るロシア軍が各地で領土奪還を許す一因にもなっています。
ロシア兵が不用意にスマホで撮影した写真をネットにアップしたため、位置が特定され攻撃されたり、通信を傍受されたり、衛星画像で武器・弾薬・部隊の位置が特定されたりしています。
 
 
民間が提供する高解像度(分解能1m以下)の衛星画像情報は例えば、コメの作付け状況の把握、森林の状態や植生、降雨の監視、日本のような広大な海洋エリアの監視など軍民両用に有効な活用はいくつもありますが、逆にテロ組織に悪用されるリスクも高まるため、衛星より得た高分解能の情報は、自由に利用できる訳では無く「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律(通称:衛星リモセン法)」によって制限が設けられています。
生活にも企業活動にも有益な衛星情報ですが、悪用されないようしっかりと法の規制と取り締まりをお願いしたいものです。(軍用衛星の分解能は30cm以下とも)
 
 
中国などの滑空兵器は速度が速く軌道が変化するため、地上レーダーや従来の衛星では追尾が難しいため、自衛隊は衛星コンステレーション(小型低軌道に多数投入しネットワーク化し運用)も活用しようとしています。
スターリンク(スペースX社)は将来的に1万機以上を展開しインターネットサービスを提供しますが、我が国でも同様に高性能な赤外線センサーを搭載した多数の小型衛星を低軌道に配備し、極超音速滑空兵器(HGV)を早期に探知・追尾するのに役立てようとしています。
またコンステレーション衛星は多数の衛星が同じ地点を互いがカバーし合いながら長時間観測できる利点もあります。
 
GPS衛星・準天頂衛星・小型コンステレーション衛星、それらに搭載する多様なセンサーの重層的な利用によって、C4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)機能の強化や冗長性・抗たん性が高まります。
防衛省では「衛星コンステレーションに関するタスクフォース合同会議(議長・防衛副大臣)」を設置し議論を進めています。
 
しかしこの分野ではまだ日本は遅れています。
法整備もここ数年整備されつつありますが、大型のH-3ロケットの開発は遅延しており、重量物を遠くまで運搬する能力には不安が残ります。軌道上に迅速安価に運搬できる手段を他国に頼るのは安全保障上問題であり、技術の向上と継承の為にも自国開発のロケット技術確保は必須です。
 

JAXAは2017年に超低高度衛星技術試験機「つばめ」を打ち上げ、低軌道衛星がイオンエンジンで高度を維持する実証試験を実施し成功するなど独自の技術も開発しています。(飛行高度はギネス記録)

また、一般社団法人日本宇宙安全保障研究所(理事長:元防衛大臣森本敏)などの専門シンクタンクも活動しており、各種提言をおこなっています。

 
自衛隊だけでは無くJAXAや関連企業、シンクタンク、大学など研究機関への十分な予算確保を期待したいと思います。
 
おまけ
通信利用での中国の優位性
中国が軍事利用を念頭に開発をしているのが、暗号量子通信で、この分野においての研究では最先端です。
実験も成功していると報道されましたが、将来的には軍事通信ネットワークをこの技術で確立させるでしょう。
量子通信は暗号の解読ができないため極めて秘匿性が高いため軍事利用に最適なのです。
ただしその他の利用では、国際連携が行える西側諸国が有利です。中国が単独で整備運用する衛星情報を、西側諸国では各国の衛星情報をある程度共有しようとしています。価値観を共有する諸国との益々の連携と技術情報保護がさらに重要になってきています。