海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

ロシアによるウクライナ侵略についてまなぶべきこと

まず大きな点は「核抑止力」は効いていると考えられる点。ロシアの侵攻が思うように進まず何度か「核使用」を暗に匂わせる言動をとっているにも関わらず使用していない事実があります。
ただし、抑止が効いているのかどうなのかは証明ができないので、あくまでも推測でしかありません。核が使用された場合は明らかに核抑止は失敗したと言えるのですが、使用していない理由が「核抑止力」が効いているからなのか、それとも他の理由なのかは現段階では証明できません。
 
 また所謂「安定-不安定のパラドックス」は起きていると考えられています。これは米・NATO・露の双方とも核の抑止が効いているからこそ、核攻撃へのエスカレーションが起きない反面(核の安定)、通常戦力による攻撃が容易となって地域が不安定な状態となっていることから、そのように考えられています。
 
核大国のロシアも武器供与しているからと言ってNATO諸国には攻撃をしていないのはNATOによる大規模介入の口実を与えたくない、核戦争へのエスカレーションは望んでいないということでしょう。
 
またNATOウクライナ国外への戦火の拡大を避けたいため、NATO加盟国では無いこともあってウクライナには資金や武器供与に留め直接の軍事支援はしていません。
しかしNATOが機能しているからこそ戦争は拡大していないと考えられるため、フィンランドなどがNATO加盟を求めるのもこのような軍事同盟の意味を考慮しているからでしょう。
 
また最近ロシアは原発周辺を攻撃の拠点とするなど、原発による放射能汚染のリスクが高まっています。
ロシアは「ジュネーブ諸条約」を批准しており遵守する義務がありますが、特に第一追加議定書の第三十五条・基本原則の1項~3項において「いかなる武力紛争においても、手段は無制限ではなく、残虐な兵器の使用、投射物や物質、戦闘の方法を用いることを禁止し、大規模な環境破壊や長期的な損害を与える、または予測される手段を禁止」しています。原発・ダムなどの大規模インフラを戦闘に利用することはこのことに繋がるため禁止されます。
 
そのほかにも85条など多くに明確に違反していますが、アナーキーな国際社会においては、条約には強制力が伴わないためロシアは違反し続けています。
 
ご承知の通りロシアは国際連合常任理事国国連憲章のもと特権的地位を与えられた国ですが、その国連は機能不全であり安全保障に関してなんら強制力をもちません。
 
つまり文言では、戦争を止める事はできていません。
(因みに偽情報の使用は戦闘行為での使用は禁止されていません。)
 
「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」 と、プロイセンの軍人クラウゼビッツは著書「戦争論」で言いました。
 
そして世界は戦争は起こる前提として認識しつつもそこから非人道性を取り除くため、前述のジュネーブ条約など多くの戦時国際法を整備し紛争解決機関を創設するなど、あらゆる努力をしていますがやはり戦争はなくなっていません。
 
日本人は長い間戦争をしていませんが、ロシアーウクライナで見られるように、戦争はしなくてもされる場合がある事文言では防げない事を事実として認めなければなりません。
それが常任理事国であっても経済的に繋がりが深くてもです。
 
また、今回も同様ですが戦争は止め時がわかりません。
抑止や戦術・戦略の研究は多いのですが、終戦についての研究はそれほど多くありません。
 
今回で言えばウクライナは2014年クリミアの占拠以前の状態を取り戻したいでしょう。ロシアは当初はキーウの占拠とゼレンスキー政権転覆・傀儡政権の樹立が目標でしたが達成できそうもありません。
 
西側の支援が続く限りウクライナは領土回復を目指して何年でも続けるでしょうし、ロシアはウクライナの疲弊を待つことになります。西側諸国が経済制裁をしていますが、それは制裁する側も痛みを伴っています。
 
開戦当初の衝撃も薄れ、物価高などによって生活が苦しくなると民意で成り立つ民主主義国では制裁解除=エネルギー確保の流れも生まれるでしょう。
 
政権は民意によって成り立つので厳しい局面を迎える事になります。
特にNATOでもロシアの脅威度が低いポルトガルやイタリアは軟化するかも知れず、NATOの結束が揺らぐ恐れもあります。
 
アメリカもエスカレーションを避けるためロシアの対応を見つつ段階的に軍事支援するしかなく、膠着状態のままウクライナは厳しい冬を迎える事になります。
 
一部のおバカさんは「降伏すれば人命が助かる」とか「停戦交渉を」とか言っていますが、どちらも選択肢としてはあり得ません。
 
前提としてウクライナ自身が選択していないことと、降伏すれば人命が助かる保証はありません。
 
 
今回もウクライナ・ブチャの虐殺がありました。民間人女性への強姦後の殺害、子供の体を切り刻むなどが明らかになっています。それもロシアとの停戦交渉の時期に起きています。ロシアが国際的な取り決めを守らないのは前述の通りです。
 
日本も8月15日以降にソ連になにをされたか知っていれば、安易に降伏論は言えないでしょう。有名なシベリアでの強制労働、民家への強盗や放火、また日本女性を複数で強姦したり(そのあと腹を割いた例もある)・・・筆舌に尽くしがたいものがあります。
 
停戦も実態が伴わないことも多く、またウクライナが侵略された領土の実効支配に繋がること、停戦期間中にロシアが戦力の回復を図って再度侵攻してくる可能性があること、人道回廊も相手次第で実効性が乏しく、再開された穀物の輸出も、査察や品質管理などの実務面や違反した時の強制力がありませんので、ウクライナが望むような合意はできないでしょう。
 
国土を取り戻せないなら、ウクライナ側からすれば「負け」に等しいのです。
 
 
またウクライナが負けるという事は、主権と領土の一体性と言う国際ルールを武力で常任理事国が変えることを認めることになります。これも受け入れがたい状態です。
 
一旦戦争が始まればエスカレーションの恐れがあり、また止め時が難しいのが良く分かります。「しない」ことは勿論ですが「させない」対策をしっかりとしなければなりません。
 
ウクライナNATOに加盟しておらず、2014年に簡単にロシアにクリミアを占領され、通常戦力でも10倍以上の差があったことが、今回の引き金になりました。
 
それでも半年も持ちこたえているのは脅威ですが、それは自国の土地と文化・民族を守りたいとする国民の意思があり、それを西側諸国が認め支援し続けているからです。
意志と能力の掛け算が戦力となる原則はここでも活きています。
 
さて我が国はどうでしょうか。
先ごろおこなわれた第209回臨時国会での衆議院の質問事項をみても、全41質問中にウクライナに関する質問は1件、サハリン2に関する質問が1件、国葬儀関連が10件、統一教会関連が6件となっており、世界からみれば小さな問題が半数を占めているのは異常ではないでしょうか。
 
ウクライナでは今まさに多数の人命が失われおり、国土が蹂躙されているというのに。
悲しいのは私だけでしょうか。人の命がーと叫ぶ人こそ、この状態を憂うべきではないでしょうか。