海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

2021.07.21に発表された『ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について』(プーチン論文)を再読してみた。

全文は原文で約4万字にもおよぶ、2021年7月21日に発表されたいわゆる「プーチン論文」ですが、発表された当時、多くの専門家が解説をしてくれていますので、正直今更感もあるのですが、実際にコトが起こったあとに読むと解釈も違うかもしれないと思うことと、もしかしたらプーチン大統領の心情が少しは読み解けるのではないか、と思い翻訳ソフトの力を借りて改めて読んでみました。

 

長い論文(?)なので思いっきり要約したうえで、私なりの解釈を付け加えます。太字は論文の要約、細字の記述は私です。原文解釈の間違いなどをご指摘いただければ幸いです。

 

私はロシアとウクライナの間で不幸な壁が生じていることは十分認識しているが、それは私たちの過ちの結果でもあるが、意図的に団結を弱体化しようとする軍隊の活動の結果でもある。

 

NATO拡大・EUのことを指摘しているのだと思われますが、冷戦終結以降NATOとロシアは協調路線を模索していた時期もあり、NATOEU拡大が特段の脅威であったとは言えないと思います。

東欧に配備するイージスアショアは弾道ミサイル迎撃のみの機能しかなく、モスクワを攻撃できる能力はありません。

またNATOはクリミア侵攻前まで「NATOロシア基本文書」を遵守しており、戦術核や兵力の常駐はしていませんでした。

しかし冒頭に言及するということは、やはりNATOに責任があると言いたいのでしょう。

 

 

本論のなかで千年以上にわたる歴史のすべてを網羅することはできないが、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人はどちらも、ヨーロッパ最大の国家であった古代ロシアの継承者で言語や経済的にも深いつながりがあった。

(ここからしばらくは歴史談義が続きます)

リトアニア大公国」や「モスクワ大公国」などの古代~中世ヨーロッパの歴史を延々と述べ、1667年アンドルソヴォ条約によってロシア-ポーランド戦争が終結ロシアはキーウ、ポルタヴァ、チェルニーヒウ、ザポリージャを含むドニエプル川の左岸の土地を得てリトルロシアと呼ばれたとか、ソ連時代にはウクライナ人はウラル、シベリア、コーカサス、極東の開発に参加し最も重要な役割を果たしたし、フルシチョフやブレジネフとも密接な関係があったなどウクライナとロシアの不可分性を延々と述べています。

さらに191712月、ロシア国内にウクライナ人民共和国UNR)が設立されたが、ドイツ・ポーランドオーストリアが食料を欲しさに軍を送りこみ外国に支配されたなどを述べた後こう言います。「現代のウクライナは完全にソビエト時代の発案によるものです。それが歴史的なロシアを犠牲にして作成され、17世紀にどの土地がロシアと併合し、どの領土とウクライナソ連邦を去ったかを比較するだけでわかる」とも言います。

このくだりのプーチン式歴史講義?で印象に残るのは、プーチン大統領が一体性の根拠として繰り返し述べているのは、文化や宗教は勿論、言語にも重きを置いているだろうと思われる点。

私も言語は思考や文化の基礎であり地域性そのものであると考えています。

近年日本語の荒廃と劣化が指摘されていますが、自国の言語を疎かにする国家は亡国となるのではないかといつも危惧しています。

安易な英語化などによって、表現の豊かな日本語を置き替えようとする行為は日本の味わい深い文化をじわじわと破壊する行為とも考えています。

 

この点(言語に対する考え方)ではプーチン大統領と共通するのかもしれません。

 

 

ソ連崩壊後の困難な1990年代にロシアはウクライナに巨額の支援をしてきた。

1991年から2013年でウクライナ820億ドルのガス費用を節約しガス通過料の15億ドルを得ているが、両国が良好な関係になればさらに数百億ドル得ることができる。

ウクライナソ連時代のようにロシアと一体であれば、欧州トップレベルの国家であるはずだったが、かつて誇ったハイテク産業(インフラストラクチャ、ガス輸送システム、高度な造船、航空機製造、ロケット製造、計器製造、世界クラスの科学、設計、工学の学校 )は、全盛期の半分程度に落ち込み欧州最貧国となった。

その責任はウクライナの指導者にある。

 

ロシアは財政的にも苦しい時代にあってもウクライナに支援をし続け、ウクライナは安いガスで利益を得ており、ロシアに恩があるはずだ。しかし現在のウクライナの経済的困窮はウクライナ指導者に責任があると指摘。

確かにソ連崩壊後に多くの先端技術がウクライナで開発されていることが明るみになりました。

原子力技術、造船技術(実際に中国初の空母「遼寧」はウクライナ・ムィコラーイウで建造中だったソ連空母)、ロケットモーターやエンジン、ミサイル開発技術など高い技術と工業力を誇っていたのは確かですが、ソ連崩壊後の混乱の中で困窮したのは東側諸国共通の課題であり、ウクライナ一国だけの問題ではないでしょう。

もし指導者に責任があるとしても、それを他国が指図するのはおこがましいでしょう。

 

 

2014年まではロシアとウクライナは協調して歩み双方に利益をもたらしてきた。しかしウクライナのエリートたちは過去を否定し独立を正当化してきた。2014年よりも以前からロシアはEUとウクライナとの対話を望んだが、EUウクライナーEU当事国の問題であるとロシアとの対話を拒否した。

ウクライナは欧州によって地政学的に利用され、欧州とロシアを隔てる障壁とし、またロシアに対する橋頭保とし、「反ロシア」国にしようとしている。

20142月には西側諸国によって内政に干渉しクーデター(マイダン革命)を支持し、ウクライナの国家政策を決定し始めた。

ウクライナ人は大祖国戦争(第二次大戦)で多くの英雄を生んだがナチズムたちはそれを忘れさせようとしている。

ウクライナ代表は「ミンスク合意」を履行しようとせず、「犠牲者」を演出し、恐怖を作りだし、内外に敵を作りだすことで西側に依存させ、NATOによる軍事的開発や外部からの統制、西側企業による農地や資源の収奪がおこっている。

この負担は子々孫々支払わせることになる。

 

ロシアはEUとの和解を望んだが、マイダン革命を西側により扇動され国家を転覆させミンスク合意も遵守していないとは被害妄想も甚だしい。

ソ連解体後の政情不安は東ヨーロッパ諸国共通であったし、ウクライナ汚職は現在も深刻で、これはソ連時代の負の遺産

またロシアでは確かに見かけは普通選挙が行われているが、対抗勢力は権力によって潰したり、不都合な記事を書くジャーナリストは不慮の事故死を遂げる、投票用紙に「プーチン」と書いたかどうか写メで選挙担当者に送らせるなど不正まみれでとても正当な選挙が行われたとは言えない。

 

ウクライナがゼレンスキーを選んだのは選挙監視団の監視下で行われた選挙であってゼレンスキーは法的・手続き的に正当に選ばれました。

「犠牲者を演出」もウソで監視団の監視下で大量虐殺などできるはずもないし証拠もありません。

要はウクライナEU/NATO寄りになることで、モスクワが前線に近づき戦略的縦深を喪失することが許せない。ロシアからみれば歴史的にも脅威は常に西からやってきているのでNATOを遠ざけたいがNATOの東方拡大は止められませんでした。

ウクライナの食料資源も西側資本に食い物にされている(資本の進出)のが我慢ならないのでしょう。

 

クリミア人とセバストポリの人々は「反ロシア」を否定する選択をしたが、ナチズムの信奉者によってテロリストとされ、民族浄化と虐殺の恐れのため命を守るため武器をとった。

ウクライナ大統領(ゼレンスキー)は「平和」を公約としたが、それが嘘である事がはっきりした。

「反ロシア」に反対する多くのウクライナ人は迫害され殺される。

 

クリミアは民族自決のためにやむを得ず戦う選択をしたが、ゼレンスキーは反ロシアの政策をとり、親ロ派は迫害されている。などとは全く根拠がありません

ウクライナには欧州安全保障協力機構(OSCE )の特別監視団が人権状況監視などのために派遣されており、日本も資金200万ユーロの財政支援や人員派遣などをしています。各国の監視のもとで迫害などできません。

 

 

しかしオーストリアとドイツやアメリカとカナダは民族構成、文化、実際には同じ言語で密接に関わっているが、夫々が主権国家のままであり、同盟関係を妨げるものではない。

ロシアとウクライナもそのようになれるはずであるが、「反ロシア」がそれを妨げている。

ウクライナにはロシアと連携したい人達が多くいるにも関わらず、法的に阻害され脅迫され追いやられているが、ロシアはそれらを解決する対話の用意がある。

 

ロシアとウクライナは一体になっても独立性は保持できるはずである。とはつまりウクライナを併合する訳では無く独立性は担保するという事なのでしょうが、国力が圧倒的に異なる国による併合の恐れを払拭はできないだろうし、その国がどの道を選択するのかは力によって強制されるものではありません。

どうせ選挙や行政・立法に介入するでしょうし。このなかでは「対話」と言っていますが、ソ連時代に辛苦を経験し、ハイブリッドによるクリミアを併合されたウクライナロシアを信用できないのは当然でしょう。

 

ウクライナはロシアとのパートナーシップによってのみ、真の主権を守る事ができる。何世紀にもわたって繋がりが形成されたきたロシアとウクライナは、結局のところ一つの民族なのだ。

 

ウクライナの多数はウクライナはもはや独立した国家で、ロシアとは異なると思っています。その選択の結果がゼレンスキー大統領です。

たとえ歴史的・民族的・文化的ルーツが一つであろうとも、武力を背景にした意思の強制は21世紀において許されるものではないことをプーチン大統領は知るべきで、今回の戦争はロシアは負ける必要があります。

その経験(武力による一方的な現状変更の試みは通用しない)が、今後の世界にとって必要なことであるのは間違いないでしょう。特に中国が隣にある日本にとっても死活的に重要です。このルールがあるため、日本もロシアに実行支配されている北方領土を武力で取り返すことは許されません。たまに日本にも武力奪還を唱える人がいるのは恥かしい限りです。

 

 

論文全体を読んだ「印象」はプーチン大統領、だいぶ拗らせてますね。

西側相手に対峙した過去のソ連の栄光が忘れられないようです。

プーチン大統領にとってソ連崩壊後にロシアが弱体化した隙をついてのNATO拡大は、かつての構成国の裏切り行為、資本主義者の搾取であって、経済的にも力を取り戻しつつある現在のロシアはそれを容認しないということでしょう。

大ロシアの復活は自身の務めであり、ロシアの兄弟と考えているウクライナの肥沃な土地、黒海とその沿岸は手放したくないんでしょうね。

 

ウクライナポーランドリトアニア大公国モスクワ大公国オスマントルコ帝国などの支配をうけ続け、ようやく20世紀以降何度も独立を宣言しそのたびに挫折してきました。

第二次世界大戦のころにはソ連による弾圧、ナチスドイツによる強制労働や迫害、戦中はソ連・ドイツ側に分断され殺し合わなければなりませんでした。

人口の75%以上を占めるウクライナ人にとって「独立」の意味は、島国日本の我々とは全く違う渇望するものであるのでしょう。

 

だからこそロシアは負けねばならないと思うのです。