楯と矛
北朝鮮がミサイルを4発同時発射したニュース映像はご覧になったと思います。
ミサイルはスカッドER(スカッドミサイルの改良型で射程延伸型です)とみられます。射程は1000km、高度は260kmとの発表もありました。
過去には3発同時はあったのですが、今回は4発同時、しかも同地点に着弾させているようです。現在は自衛隊が着弾海域を捜索中。脅威度はさらに増してきています。
(米国は5発発射し1発は失敗したとも考えているようです)
過去に何度も書きましたが、自衛隊はイージス艦によるBMD(弾道ミサイル防衛)体制を強化しており、重要地点にはPAC-3ミサイルを配備しています。(詳しくは過去記事をお読みください) しかし、同時発射弾数が増えると迎撃率は落ちると考えられますし、着弾地点によっては1発でも落ちると甚大な被害を被ります。
今回のスカッドERは「液体燃料」であるため、発射に時間が必要(燃料注入)ですが、前回実験済みの「固体燃料式」エンジンの開発もほぼ終了しており、このエンジンが、スカッドERのエンジンになると、即時発射可能となるために事前の探知が難しく我が国にとって非常に脅威です。
このように加速度的に脅威度を増す北朝鮮のミサイル能力に対応するため、29年度防衛予算で計上する予定であったBMD関連事業は前倒しされ、PAC-3MSE(PAC-3の能力向上型)の導入、イージスシステム搭載護衛艦の能力向上(BMD能力の付与)、弾道ミサイル迎撃体制の調査(多分THAAD/高高度防衛ミサイル)などが、28年度補正予算で計上されています。
THAADは最近、韓国が導入を決定しました。(在韓米軍が配備運用します。)
29年度予算では、BMD用の迎撃ミサイルSM-3ブロックⅠAに変わり、大きく能力を向上させたSM-3ブロックⅡAを取得します。これは日米共同開発のミサイルで先月迎撃実験を成功させたミサイルです。
航空自衛隊の警戒監視レーダー(J/FPS-7・通称ガメラレーダー)も、弾道ミサイル防衛用に改修や新設します。
これらは「楯」の部分です。
さて、「楯」だけでは防ぎきれない場合があります。それは「飽和攻撃」です。迎撃能力には限界があり、迎撃率も100%はありえません。BMDシステムは複数同時攻撃対処能力を得てきてはいますが・・・万一1発でも在日米軍基地や大都市に着弾したら・・・スカッドERの数を揃える事ができたらあり得ます。
近頃は国会でもネットでも「矛」の意見がかなり出てきました。
先制攻撃論や敵策源地攻撃論と呼ばれるものです。
先制攻撃論は憲法の壁やエスカレーションなどもありなかなか実現は難しいのですが、敵策源地攻撃となるともっと難しいのが現実です。
自衛隊には全くその装備はありません。また北朝鮮の映像にもあるようにミサイルの発射器はTELと呼ばれる「移動式発射台」です。山間地も多い国土の中では隠ぺいも容易でレーダーや人工衛星では見つけにくく発射前の破壊は困難です。
一般に聞くのが「トマホーク巡航ミサイル」による攻撃ですが、トマホークは固定目標には使えますが、移動目標には使えませんし速度が遅く迎撃されやすいのです。
「矛」と言えば米軍ですが・・・
米軍はB-2ステルス爆撃機でのバンカーバスター(地中貫通核爆弾B-61)の試験も成功し異例の公表をしています。
米軍による攻撃(斬首作戦)もトランプ政権下ではありえますが、少しでも手間取ると日本向けにミサイルが発射されることになります。
米ウォールストリートによるとトランプ大統領は「軍事力の増強」とともに、北朝鮮への武力行使や政権転覆を検討しているとも報じられています。
中国・ロシアの問題もありますし、きな臭い嫌な情勢になってきました。
(写真はロイターより)