なぜ軍事を学ぶのか(番外編)
日本では軍事系の話はご法度というか、「危険人物」と思われがち。
でもね・・・
軍事はお金かかるんですよ。税金をごっそり使うんです。
他国に比べてGDP比は低くても、そもそも分母がデカイんですから、金額もでかいんです。
軍事は基本的には再生産しないお金の使い方です。
確かに多くの企業が関わることで、沢山の人を養いますが。
農林水産業や福祉や国土のインフラに使うお金は、何らかの形で「再生産」されていく活きたお金です。
軍事に使うお金も税金。豊洲市場のお金なんか比じゃない金額。
正しく使っているのか、必要なのか、監視しなければなりませぬ。
その為には沢山勉強しなければなりません。見ないふりしておくわけにはいかないのです。
また、知らないと不必要に過激になったり、臆病になったり。これが恐ろしい。
戦争になるのはこんな感情からです。
戦争をしなくないなら「学ぶ」必要があるんですよ。
環境を守りたいならやはり「学ぶ」でしょ。同じことだと思います。
2月12日の北朝鮮ミサイル発射に関しての考察
【防衛省発表2月12日ー第二報ー】
「北朝鮮は、本日7時55分頃、北朝鮮西岸の亀城(クソン)付近から、1発の弾道ミサイルを東方向に発射した模様です。発射された弾道ミサイルは、約500㎞飛翔し、北朝鮮東岸から東に約350㎞の日本海上に落下したものと推定されます。」
がありました。発射自体はニュースで取り上げられていましたのでご存知の方も多いと思います。
2月14日には、稲田防衛大臣が記者会見をおこない、防衛省の見解を述べています。2月3日には新型のミサイル防衛システム用のミサイル「SM-3ブロックⅡA(日米共同開発)」が米海軍によって迎撃試験も行われています。
また私個人もニュース映像を見て幾つか気になりましたので、今回のテーマとします。
北朝鮮の発射したミサイルの情報を纏めてみました。
1.日本攻撃用のノドンやムスダン、または改良型ではなく新型の「北極星2号(北朝鮮の呼称)」である。
2.北極星2号は以前に潜水艦から発射した「北極星1号」の陸上発射型である。
3.射程は3000~5500kmの中距離弾道ミサイル(IRBM)と見なされるが、防衛省は1000~3000km程度の準中距離弾道ミサイルとしている。
4.液体燃料では無く技術的に高度な固体燃料を使っている。
5.固定サイロからの発射では無く、移動式発射である。
6.コールドローンチシステムの運用に成功している。(これは発射管より射出後にロケットに点火し発射する方式。潜水艦発射はこの方式で高度な技術が必要)
7.今回もロフテッド軌道を採用してか、もしくは燃料を減らしての試射である。
つまり北朝鮮のミサイル技術はかなり高度なものになっているのは間違いありませんし、脅威度は金正恩体制になってから格段に増しています。
如何なる制裁があろうとも断固たる意志でミサイル開発は進めており、米国を攻撃圏に収めるまで開発を推し進めるでしょう。繰り返しますが、北朝鮮は如何なることがあろうともミサイル開発は強行します。
さて、1~7はどのような意味があるかですが、新型ミサイルの開発ペースが速く、毎回きちんとした目的を持っているのが特徴です。
前政権時には「示威行為」や「国威発揚」的であり、言わばシンボル的でありました。どこかで米国が交渉のテーブルにつけば・・・という空気すら感じました。
現政権では「米国を核の恫喝ができるようになる」という目的がはっきりしています。そのため、大陸間弾道弾に必須な「固体燃料」であり、ミサイルの生残性を高める為の、移動発射方式であり、段階的に射程距離を延伸しているのであり、ミサイルの再突入に必要なノーズコーンの開発であり、報復手段としての潜水艦発射(SLBM)の試験です。
固体燃料技術を日本向けのミサイル「ノドン」に採用されれば即時発射できるミサイルを北朝鮮は手に入れる事になります。これは比較的容易に開発できるでしょう。
こうなると日本の各地や重要インフラ、在日米軍が標的ですが数が多すぎて守り切れるものではありません。
このような現状を踏まえて我が国はどうするのかを真剣に考える必要があります。以前にも書いたのですが(2016.9.13参照してください)悠長に構えていられる状況ではありません。日本もミサイル防衛を進めてはいますが。
冒頭にある「SM-3ブロックⅡA(日米共同開発)」は新型の迎撃ミサイルです。現行のSM-3ブロックⅠA(自衛隊)ブロックⅠB(米軍)よりも、格段に性能が良いのですが、導入は2018年ごろとされており、導入を進めても発射するイージス艦の改修や新造が必要ですので、予算上の制限などもあり一気に進むとは思えません。
現在の我が国の防衛費はおよそGDP比1%。NATO基準は2%、米韓印などは3~4%です。財政の厳しい中ではありますが、南西諸島防衛も考えあわせると不安は残りますし、今後はトランプ政権から自主防衛努力は強く求められるでしょう。
(2017.02.18)
中国の海洋戦略
東シナ海、南シナ海での中国の独善的とも言える行動で「中国脅威論」が高まっていますが、中国の海洋戦略の目的は何なのでしょうか。国家には基本的には「生存本能」があり、それを脅かす存在には対抗しようとしますし、基本的には「性善説」に基づいた行動はしません。そこで「成長し続ける」為に戦略を練りますが、戦略にはそれを立案するための要素があるはずですので、それを整理してみましょう。
1.中国は「マラッカジレンマ」を解決したい
中国は資源の大半を輸入に頼っています。(石油で70%~80%ほど)また、世界の工場として急激な経済成長をしています。これら製品の輸出も多くが南シナ海(マラッカ海峡など)を通過していきます。
このチョークポイントを抑えられると、中国は干上がりかねません。その為、パイプラインなどを使っての陸上ルートでの輸送も進めていますが、大量輸送ではやはり海運が一番ですし、大都市はやはり沿岸部ですので。
この海域には膨大な天然ガス・原油があるとされ、これを確保することは「マラッカジレンマ」を軽減することに繋がります。その為海軍力を強化するとともに、周辺国に投資することでその国の経済的な中国への依存度を高めようとしています。
海軍が寄港できる港も整備したり租借するなどしています。こうして南シナ海を中国の聖域としたいようです。
3.アメリカの軍事プレゼンスは、中国の生存を脅かすかもしれない
アメリカは「オフショアコントロール」と呼ばれる戦略を採用することがあります。これは軍事力を行使し海域やチョークポイントで海上封鎖や臨検などで、いわば兵糧攻めとするものです。(拒否・防衛・支配)
このような海上封鎖と経済封鎖も実施します。これに対抗するには海軍力の整備が必須です。しかし第一列島線の封鎖がおこなわれると、中国は突破しようとしますので、当然日本も巻き込まれることになります。
中国から多くの消費財の輸入をしている米国経済もダメージを負うでしょう。諸刃の剣です。
4.アメリカに対抗できる核抑止力の確保がしたい
核抑止論は以前にも書きましたので割愛しますが、核報復能力の確保が「核抑止力」となります。中国は広大な国土の地下に「万里の長城」とも呼ばれるトンネルを掘削し核ミサイルを多数備蓄し有事には移動式の発射台で任意の地点から攻撃できますが、弾道ミサイル搭載の潜水艦の配備も進めています。
この潜水艦が隠れることのできる深い海を自由に行動させるためには、南シナ海から米海軍を追い出しておきたいのです。九段線内は水深が深いのが地図でわかりますし、海南島には中国潜水艦の巨大な基地があります。
細かな戦術論は省きますが、中国は成長に従って資源が必要になってきました。その為には自国の安全保障上の理由からも「米軍の軍事プレゼンス」が邪魔で仕方が無いのです。
台湾有事に際しては東シナ海から太平洋に抜ける所謂「第一列島線」にも接近させたくありません。尖閣諸島が欲しいのはこの為です。
沖縄には最初のステップとして輿論戦(よろんせん)をしかけていると考えられますが、琉球諸島は中国にしてみれば喉から手が出るほど欲しいのです。ここを抜ければ広い太平洋があり、米海軍のグアム基地すら脅かすことができます。
(中国人民解放軍政治工作条例に三戦という概念があり、これは輿論戦・心理戦・法律戦を駆使し戦わずして勝つことを目指します)
5.失われた約200年を取り戻したい。
中国はその支配者が誰であろうと、過去は経済的にも文化的にも大国でした。我が国も多くを学びました。また現在の南シナ海周辺の国々にも影響力を与えたり従えたりしていました。清朝末期以降、西洋列強各国や日本によってその力は衰えましたが、中国共産党指導層はそのことを悔やんでおり、また元の大国への夢を描いているのではないでしょうか。
纏めると、強大な海軍力によって米海軍を東太平洋~インド洋にかけて駆逐し、自国の安全保障能力を安定させるとともに、周辺海域のシーコントロール(制海権・海上優勢)を目指しているのでしょう。
このように大国だけに中長期を見据えた戦略をすすめています。我が国もしっかりと対応し、法と平等が支配する世界を目指さなければなりません。
大国だからといって傍若無人な振る舞いは許せません。この為には有事の対応能力を向上させ無法な行為を躊躇させること、米国との緊密な連携、南シナ海周辺国との外交的経済的な深化、中国との相互交流などをしっかりと行う必要があります。
戦争はその意志と能力が整った時に起こります。平和という状態を保つためには、相互の透明性の担保とともに 意志と能力のどちらかをを持たせないようにすることです。
参考までに各国の軍事費を一部列挙します。
(2015年、公表値による推計、単位:億アメリカドル/GDP比)
米国5,960/3.3 中国2,150/1.9 日本409/0.99
韓国364/2.6 ロシア664/5.39 インド513/2.33
これを見て皆さんは「アメリカ圧倒的じゃないか。中国なんて問題にならないのでは?」と思われるかもしれません。
しかしアメリカは地球上すべてに軍事プレゼンスを維持しなければならないのです。対して中国は南シナ海、東シナ海に軍事力を傾注できます。
このことは考慮し、自国の安全保障を他人任せにするのではなく、進むべき道を冷静に考えなければならないと思います。ハッキリ言うと米中どっちもどっちなので。
(2017.01.25)
空母・遼寧
先般のニュースでご存知な方も多いと思いますが、中国海軍の空母である遼寧(りょうねい)が、東シナ海~台湾海峡を航行しました。
今回は台湾の総統が外遊中で、米政権の移行期であること、「なぜ一つの中国に縛られなければならないのか」のトランプ砲、これによる中国国内へむけて政権の強い姿勢のアピールなどの要素があっての行動だと思われます。
遼寧に空母としての攻撃力はさほどありませんが 、空母そのものは珍しくはありませんし、米海軍は巨大な原子力空母を日本に配備しています。横須賀基地は米国外で唯一の空母をメンテナンスできるドックを備えています。このドックは戦艦大和や武蔵の同型艦である、空母・信濃を建造したドックで敗戦後米軍に接収されてからはそのまま使用されています。このドックが無いと米空母はハワイまで回航せねばならず時間的なロスが大きくなるため非常に重要なドックです。(日本は米国の戦略的根拠地である証明のひとつです)
他の空母保有国はイタリア・インド・ロシア・イギリス・スペイン・ブラジル・タイ・フランスなどです。(殆どが中型を1隻程度しか保有していませんが)ですので、中国が保有すること自体に驚きはありません。経済規模は前述の国々よりも大きく、シーパワー国家を目指すのなら空母が欲しくなるのも当然でしょう。
また米国中心の既存の国際的な枠組み(レジーム)に挑戦し、大国としてルールを作る側にまわりたい中国としては、海洋覇権は求めたくなるでしょうし、自国の生存権の確保の為に自国有利のシーレーンの確保による安全保障政策は当然の帰結。
その為には強大な海軍力が欲しいとなり、そうなれば目指すは米海軍でしょうし、米海軍の花形は「空母打撃群」です。台湾海峡危機の時に「米空母打撃群」の接近にスゴスゴと逃げ帰った経験はトラウマでしょう。
湾岸戦争時に見たあの攻撃力は欲しいと思うのも当然かもしれません。空母搭載機と随伴する駆逐艦など合わせると千発規模のミサイルを保有しているのです。一定の軍事力があれば相手のなすがままにされることは無いのです。
この遼寧、防衛省では「グズネツォフ級空母」と呼称していますが、実はこの艦は元々はグズネツォフ級2番艦(艦名:ヴァリャーグ)としてソ連時代に建造が始まったもので、ソ連崩壊後にウクライナとロシアが所有権を争い、その後ロシアが所有権を放棄。ウクライナも建造途中(船体、主機は完成していた)で放棄。中国のペーパーカンパニーが、カジノにするとして買い取って大連港に曳航しました。その後に中国海軍が装備品を取り換えるなどして就役させました。
動力は蒸気タービンで原子力ではありません。航空機を発艦させるためのカタパルト(射出機)も無く、その為に艦首にスキージャンプ勾配と呼ばれる傾斜がつけられています。
その為軽量でS/VTOL(短距離離着陸機)機で無ければ発艦できません。遼寧に搭載していいるJ-10と呼ばれる戦闘機は、燃料を満タンにできずミサイルも十分に搭載できない(若しくは意図的に搭載していない)まま発艦しています。
空母としては戦闘力が無いに等しいのですが、中国海軍は「訓練用」として割り切っており、ここで得たノウハウを現在建造中とされる2番艦、3番艦に活かすつもりでしょう。着実に力をつけているのが分かります。よく、「へなちょこ空母なんて、潜水艦の魚雷ですぐに沈めることができる!」とか勇ましい意見も散見されますが、同じ人間です。こちらができて相手ができないと考えるのは危険です。
さて、同型艦を運用しているロシアでは、先日事故を起こしていますし、空母を常時10隻以上も保有する米海軍では戦後だけでも3ケタに及ぶ事故を起こしています。
このように空母への離着艦・運用は非常に難しいものなのです。
空母については以前に詳しく書きましたが(2015.06.18)搭載機と艦隊運用が前提で、常時軍事プレゼンスを誇示するには3セット程度が必要になり、維持にも莫大な資金が必要でとてもカネ食いムシです。最近経済成長が鈍化している中国ですが、アメリカと日本を相手に急ピッチで軍拡しています。
このままだと冷戦期のソ連の二の舞を演じるのでは?と言う意見も多くあります。ただし長い間揉めていたロシアとの国境線画定問題はようやく解決し大陸北方の脅威が減じた分、海軍に振り向けられるようになったとも言えます。今後も中国海軍の動向を注目する必要があります。
(2017.01.15)
オスプレイの事故について
沖縄でオスプレイが事故を起こしました。この件について情報が各所から出てきましたのでまずは墜落か不時着水かを整理してみましょう。
このネタはデリケートな部分を含んでいるので扱うかどうか迷いました。あくまで推測の域をでませんので。
しかし、まずは乗員の皆さんが無事であった事を喜びましょう。一部の方々の嫌う「軍人」ですが、同じ「人間」です。敵であろうと何だろうと「命」は同じですしね。
しかしその事と事故原因の解明、対策などは別問題です。
事故の発端はKC-130空中給油機(自衛隊も保有)から、飛行中(飛行モード)に空中給油の訓練中にKC-130からのドローグ(給油ホース)がオスプレイのローター(プロペラ)に接触、損傷したことがきっかけですが、訓練空域から着水場所までは30kmほど離れており、その地点まで飛行している。制御でき
ているからこそ、そこまで飛べたのではないかと思います。
着水場所も絶妙ではないでしょうか。沿岸部で脱出して海を泳ぐことも少しで済むし、陸地に近づくと樹木などとの接触も怖い。火災のリスクも抑えられる。そこでギリギリの沿岸部を選択。かなりの制御が効いていたと思えます。
着水地点は干潮時のサンゴの上のようですが、墜落なら機体はバラバラになるはず。
オスプレイは胴体中央部分以外は、軽量化のために強化繊維プラスチックでできています。このため壊れやすいのですが、それでも事故直後の写真ではある程度原型を留めています。
だからこその「乗員が無事」だったのでしょう。
その後の映像ではバラバラになっていますが、翼の付け根だったり接合部だったりで大きな部品ごとで分かれています。その後に潮が満ちて波に打ち付けられ・・・接合部などの強度の低い部分から壊れていったと推測します。
着水時にはローターは回転していたはずです。着水後に波や不安定なサンゴなどで、機体が傾斜し回転しているローターがサンゴや岩場を叩き、その衝撃で主翼などは破壊されたと考えるのが自然ではないでしょうか。
この点はパイロットの誤算だったのではないかと思います。水深の浅い沿岸部で海底が砂地ならもっと衝撃は少なかったでしょう。夜間でしたので、水面下がはっきり視認できなっかった可能性があります。
左右にあるエンジンはそれぞれ連結され同調して動くようになっているので、一方にトラブルが生じても簡単には墜落しないはずです。ただ揚力などは当然激減するので、飛行能力はあまり無いでしょうが、直ぐに墜落するような状態にならないように作られています。
この点で言えば、ヘリコプターより安全。ヘリコプターならローターが壊れれば即墜落ですし、オートローテーションのような芸当ができるのも中型ヘリまで。
飛行能力が激減した状態では軽量化を先に行うでしょう。
ある程度給油しており燃料が沢山あったのなら、不要な量は空中投棄しています。
その為、写真では着水地点にはあまり燃料漏れの痕跡が認められません。
また、「着水」だったので衝撃が少なく、燃料タンクなどが壊れずに済んだのかも知れませんね。
以上のことから、墜落ではなく不時着水であり、着水地点も考慮された場所と考えます。
また、公式発表通り「機体の異常」ではありません。明らかに訓練中の事故です。
KC-130かオスプレイかどちらかが(若しくはどちらも)人的ミス・整備ミス・想定外の機体の動きなどいくつも原因があるでしょう。しっかりと対策を打って欲しいと願います。事故は危険で残念ですがこのような過程を経て安全性は高くなるものですから。
(2016.12.26)
中国軍用機と妨害弾
12月10日 中国軍用機が宮古海峡上空を飛行しました。防衛省資料によると、中国国防部は「中国空軍航空機が、宮古海峡空域を経て西太平洋における定例の遠海訓練に赴いたところ、日本自衛隊が2機のF-15戦闘機を出動させ、中国側航空機に対し、近距離での妨害を行うとともに妨害弾を発射し中国側航空機と人員の安全を脅かした」と発表しています。
この事案からいくつか考察してみたいと思います。
まず飛行ルートですが、防衛省の資料を画像としてアップしましたのでご覧ください。
沖縄本島と宮古島の間を飛行しています。
ここは「防空識別圏(ADIZ)」であって領空ではありません。ADIZは各国が独自に設定している空域であり領空に近づく航空機を判別する範囲を明示したものです。
この空域を飛行すること自体は基本的には問題はありませんが、通常はこのADIZを飛行する場合には偶発的な事態を避けるため、事前に通告(飛行計画の提出)がおこなわれるものです。
自衛隊は24時間体制でレーダーなどによる監視を行っており、この通告が無い場合は、識別を求めたり場合によってはスクランブル(自衛隊の場合はF-15戦闘機による緊急発進をおこないます)を判断します。
そして識別を行います。領空侵犯に対しては自衛隊法に基づき「領空侵犯処置」をおこなうこととされています。
中国の目的は一体なんでしょうか。通告無く頻繁にADIZを飛行しスクランブルを誘発させ緊張を高める行為の必要性はなんなのでしょうか。
今回飛行したのは、Su-30戦闘機2機 H-6爆撃機2機 TU-154情報収集機1機 Y-8情報収集機1機です。
最大の目的は情報収集です。現代は電波の戦いです。
情報収集機によってレーダー能力や周波数、通信情報、などの情報を収集したと考えられます。
またH-6爆撃機と護衛のSu-30戦闘機の組み合わせは、威嚇・示威行為であり沖縄などへの攻撃訓練の意味もあるかもしれません。両機は長大な航続距離を持ち(Su-30は3,000km、H-6は6,000km)空中給油しなくても沖縄は攻撃範囲に含まれます。
当日は沖縄で「航空祭」が開催されていました。航空自衛隊那覇基地は、官民共用空港(那覇空港)であり、民間人の多数集まっている状況での対応能力がどのくらいあるのかを見極めるつもりでもあったでしょう。
さて、今回相手国の発表によると自衛隊機(F-15J)が妨害弾を発射したとのこと。これはどういう意味でしょうか。
妨害弾というのはおそらく「フレアー」かと思われます。
防衛省の発表では「本件に関し対領空侵犯措置を実施したF-15戦闘機は、中国軍用機の状況の確認及び行動の監視を国際法及び自衛隊法に基づく厳格な手続きに従って行ったところであり、中国軍用機に対し、近距離で妨害を行った事実はなく、妨害弾を発射し中国軍用機とその人員の安全を脅かしたという事実も一切ありません。 」となっています。
つまり「近距離ではなく人員の安全を脅かしてはいない」が、「遠距離で人員に危害を加えない程度の妨害弾は発射している」とも解釈できます。
そもそも「フレアー」とは赤外線探知ミサイル(ジェット機の熱を追尾)に追尾された場合に、ミサイルのシーカー(いわゆる赤外線センサー)を欺瞞するため発射する物体です。
発射後すぐに高温で燃焼しますがすぐに消えてしまいます。
目の前で発射したなら兎も角、攻撃兵器ではないため危険はありません。
自衛隊機が発射したのはもしかしたら、Su-30などによる「ロックオン」があり、F-15の自己防衛装置がレーダー電波を逆探知、レーダー追尾ミサイルなら回避機動しますが、赤外線ミサイルの場合はレーダー電波を出さない為探知できず、パイロットが予防的にフレア―を発射したとも考えられます。しかし実際に撃たれていたら「撃墜」されることはほぼ確実です。
ミサイルは年々性能が向上し「先手」を取らない場合はまず撃墜されることになります。自衛隊は「先制攻撃」を行わないと値踏みされていますので、相手のされるがままとなります。日々警戒に当たっていただいている隊員の皆様のことを思うと胸を締め付けられる思いです。
中国側からするとこんなシナリオも描いていたかもしれません。「ロックオンで自衛隊機がミサイル攻撃されたと解釈し、反撃のつもりでパイロットが慌てて攻撃する。それを理由に国際社会へ日本の不当性を訴え、この地域を係争地にして紛争・軍事衝突に持ち込む。
オバマ大統領は弱腰であるうえ、トランプ次期大統領は日本の味方をせず、自主防衛すべきとの姿勢をとって静観を決め込む。そうすれば日米安保発動は無く、中国有利にコトがすすむ」ま、さすがに中国はこのシナリオには、ほとんど期待していないでしょうが。
戦争の火種はこのような小さなものや偶発的な衝突から始まるものです。「サラエボ事件(WWⅠ)盧溝橋事件(WWⅡ)義和団事件(日露戦争)など、最初は規模の小さなものから始まっています。
このような事態を防ぐため、政府間で交渉中の日中間海空連絡メカニズムの構築が急がれますが、かなり難航(ほぼ停滞)しています。理由は「南シナ海問題で(日本が)根拠のない攻撃を繰り広げていることが悪影響を与えている 」と中国は言っていますが・・・どの口が言うのか・・・
このような現状の中、交戦権の放棄ははたして我が国、国民の安全に寄与しているのかどうなのか。しっかりと見極めねばなりません。
護衛艦の推進方式
護衛艦とはひとつの分類です。
自衛隊の運用するフネ全般は「自衛艦」と呼び、そのうちの戦闘に従事するものを「警備艦」、さらにそのうちの護衛艦と潜水艦を「機動艦艇」と呼びます。これら艦艇は夫々に適した推進方式を採用していますが、今回は護衛艦の推進方式を軽く解説します。
推進方式といってもそれほど難しくはありません。
近年の護衛艦はガスタービンエンジンを採用しています。
これと電動機を組み合わせていたりしますが、その組み合わせ方や駆動方式によっていくつかのタイプに分かれます。
推進方式をざっとおさらいすると、風(帆船)、蒸気機関、ディーゼル、原子力、そしてガスタービン、電気推進 などがあります。
近年の戦闘艦艇が主に採用している、ガスタービンエンジンは、小型・軽量で出力の上昇は早いのですが、ディーゼルなどに比べて燃費が悪く大量の空気を必要とします。
このことは大きな燃料タンクや空気ダクトが必要となりますが、小型・軽量のエンジンは小部屋に収められており振動や騒音を外部に少しでも漏らさないようにしています。勿論、ご近所に配慮している訳では無く「潜水艦」を意識しているのです。
主機(主力とするエンジンなど)は、その組み合わせ方などでいくつかのバリエーションがありますが、海上自衛隊の護衛艦が主に採用しているのは、COGAGという形式のものです。
これはガスタービンエンジンを複数組み合わせたもので、組み合わせるエンジンは同種、もしくは異種のものです。巡航時や低速時には低速用(もしくは一部のみ)だけを駆動し、高速時には高速用(もしくは全機)駆動させることで、巡航時の燃費を稼ぎつつ高速時の機動性も確保する目的があります。同種のエンジンを採用している場合はメンテナンスも容易ですので、戦闘艦艇にはぴったりかもしれません。
また、近年は電装品が非常に多く、膨大な電力を必要とします。このため推進用とは別にガスタービンエンジンを複数搭載しています。
その出力は膨大で、大型艦ならおよそ10,000KWほど。先日「DDH-182いせ」の一般公開時に副長が「小さな町なら賄えますが、フル運転するとすぐに燃料が無くなります」と言っていました。
また、先ごろ(2016.10.19)に命名進水式を終えた、汎用護衛艦「あさひ」(DD-119)は、COGLAGという形式を採用しています。これ流行のハイブリッドです(笑)
低速時・巡航時にはガスタービンエンジンの発電する電力で電動機(モーター)を動かして推進させ、高速時には休止しているガスタービンエンジンも動かしてその機械駆動も併用して推進力を得る方式です。
これは少し機構が複雑になるものの、燃費が優れるとされています。
採用するのは本級(あさひ型)が初めてですが、これは本級が「対潜水艦」任務を主としているためでしょう。
低速~巡航時に曳航式ソナーなどでの潜水艦の探知をしているときには電気推進なため静粛性の向上が期待されます。
結果として探知精度の向上が見込まれます。用途に応じた推進方式を採用しているのですね。
この推進方式は他の護衛艦にはまだ採用されていません。今後どうなるでしょうか。
ガスタービンエンジン・・・大量の空気を取りこみ圧縮機で圧縮、そこに燃料を噴射し燃焼。高温高圧になったガスがタービンを回転させます。回転軸(出力軸)から回転エネルギーを取りだし、回転運動に使うか、発電機を回すかします。回転エネルギーの代わりにガスの噴射を使うとジェットエンジン。
(写真出典:海上自衛隊HPより)