海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

空母・遼寧

 先般のニュースでご存知な方も多いと思いますが、中国海軍の空母である遼寧(りょうねい)が、東シナ海台湾海峡を航行しました。

今回は台湾の総統が外遊中で、米政権の移行期であること、「なぜ一つの中国に縛られなければならないのか」のトランプ砲、これによる中国国内へむけて政権の強い姿勢のアピールなどの要素があっての行動だと思われます。

遼寧に空母としての攻撃力はさほどありませんが 、空母そのものは珍しくはありませんし、米海軍は巨大な原子力空母を日本に配備しています。横須賀基地は米国外で唯一の空母をメンテナンスできるドックを備えています。このドックは戦艦大和や武蔵の同型艦である、空母・信濃を建造したドックで敗戦後米軍に接収されてからはそのまま使用されています。このドックが無いと米空母はハワイまで回航せねばならず時間的なロスが大きくなるため非常に重要なドックです。(日本は米国の戦略的根拠地である証明のひとつです)

他の空母保有国はイタリア・インド・ロシア・イギリス・スペイン・ブラジル・タイ・フランスなどです。(殆どが中型を1隻程度しか保有していませんが)ですので、中国が保有すること自体に驚きはありません。経済規模は前述の国々よりも大きく、シーパワー国家を目指すのなら空母が欲しくなるのも当然でしょう。

また米国中心の既存の国際的な枠組み(レジーム)に挑戦し、大国としてルールを作る側にまわりたい中国としては、海洋覇権は求めたくなるでしょうし、自国の生存権の確保の為に自国有利のシーレーンの確保による安全保障政策は当然の帰結。

その為には強大な海軍力が欲しいとなり、そうなれば目指すは米海軍でしょうし、米海軍の花形は「空母打撃群」です。台湾海峡危機の時に「米空母打撃群」の接近にスゴスゴと逃げ帰った経験はトラウマでしょう。

湾岸戦争時に見たあの攻撃力は欲しいと思うのも当然かもしれません。空母搭載機と随伴する駆逐艦など合わせると千発規模のミサイルを保有しているのです。一定の軍事力があれば相手のなすがままにされることは無いのです。

この遼寧防衛省では「グズネツォフ級空母」と呼称していますが、実はこの艦は元々はグズネツォフ級2番艦(艦名:ヴァリャーグ)としてソ連時代に建造が始まったもので、ソ連崩壊後にウクライナとロシアが所有権を争い、その後ロシアが所有権を放棄。ウクライナも建造途中(船体、主機は完成していた)で放棄。中国のペーパーカンパニーが、カジノにするとして買い取って大連港に曳航しました。その後に中国海軍が装備品を取り換えるなどして就役させました。

動力は蒸気タービンで原子力ではありません。航空機を発艦させるためのカタパルト(射出機)も無く、その為に艦首にスキージャンプ勾配と呼ばれる傾斜がつけられています。

その為軽量でS/VTOL(短距離離着陸機)機で無ければ発艦できません。遼寧に搭載していいるJ-10と呼ばれる戦闘機は、燃料を満タンにできずミサイルも十分に搭載できない(若しくは意図的に搭載していない)まま発艦しています。

空母としては戦闘力が無いに等しいのですが、中国海軍は「訓練用」として割り切っており、ここで得たノウハウを現在建造中とされる2番艦、3番艦に活かすつもりでしょう。着実に力をつけているのが分かります。よく、「へなちょこ空母なんて、潜水艦の魚雷ですぐに沈めることができる!」とか勇ましい意見も散見されますが、同じ人間です。こちらができて相手ができないと考えるのは危険です。

さて、同型艦を運用しているロシアでは、先日事故を起こしていますし、空母を常時10隻以上も保有する米海軍では戦後だけでも3ケタに及ぶ事故を起こしています。

このように空母への離着艦・運用は非常に難しいものなのです。

空母については以前に詳しく書きましたが(2015.06.18)搭載機と艦隊運用が前提で、常時軍事プレゼンスを誇示するには3セット程度が必要になり、維持にも莫大な資金が必要でとてもカネ食いムシです。最近経済成長が鈍化している中国ですが、アメリカと日本を相手に急ピッチで軍拡しています。

このままだと冷戦期のソ連の二の舞を演じるのでは?と言う意見も多くあります。ただし長い間揉めていたロシアとの国境線画定問題はようやく解決し大陸北方の脅威が減じた分、海軍に振り向けられるようになったとも言えます。今後も中国海軍の動向を注目する必要があります。

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(2017.01.15)