海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

イージスアショアおさらい

北の将軍、撃ちまくる!
北朝鮮金正恩が政権を引き継いで以降に、昨年末(2021)時点で94発のミサイルを発射し、4回の核実験を実施。今年は既に10回14発(うち巡航ミサイル2発、失敗1発)で、以前は難しいとされていた「長射程化」「発射方式の多様化」「核弾頭の小型化」「固体燃料」「再突入体」「多弾頭化」「高機動化」など技術的課題は克服してきています。
 
なにより私が危惧しているのは、厳しい経済制裁と国連決議にも関わらず、その発射”数”です。ミサイル本体や発射器などの製造がこれほどのペースでできるとは驚きです。
 
中国は当然ですが、北朝鮮のミサイル能力向上に伴い、弾道ミサイルに対する防空能力の向上が課題となったため、地上配備型イージスシステム(イージスアショア)の設置が望まれましたが、紆余曲折があり迷走しています。
 
ロシアのウクライナ侵略や本年3月24日に北朝鮮が新型とされるICBM大陸間弾道ミサイル)火星17号を打ち上げたりと危機意識が高まっているようですので、自分のためにここではそのおさらいをしていこうと思います。
 
《地上配備型イージスシステム(イージスアショア)》の利点
・米海軍、自衛隊でも実績のあるイージスシステムを地上設置型にし、ミサイル防衛に特化したもの。
・24時間365日間断なく弾道ミサイル防衛がおこなえる。
・ミサイルはSM-3・SM-2・SM-6など各種を運用できる。
・人員と艦船不足の海自の負担軽減ができる。
・艦船と異なりライフサイクルコストが抑えられる。
ルーマニアポーランド、グアムでも運用実績がある信頼性。
護衛艦に搭載しているので訓練期間も短く済む。
・陸上であるので補給が艦船に比べて容易
《経緯》
平成29年(2017)12月 国家安全保障会議閣議を経て導入を決定
平成30年(2018)6月 新屋演習場(秋田県)、むつみ演習場(山口県)を候補地とした旨公表
平成30年(2018)6月 地元(阿武町議会全員協議会)が、ブースター落下の懸念を提起、防衛省は安全な場所に落下させると説明
平成30年(2018)10月 測量・地質・電波環境などの調査開始
令和元年(2019)5月~ 地元説明会などを開始
令和2年(2020) システム改修のための協議をアメリカ側と開始
令和2年(2020) システム改修によるコストと改修期間の増大が判明
令和2年(2020)6月 イージスアショア配備のプロセスを停止すると河野防衛大臣(当時)が公表。
時系列をざっくり並べるとこんな感じです。
 
《なぜこの2か所なのか》
・演習場であるため、土地取得に時間が不要で電力などインフラがある程度整備されている。
・遮蔽物が少なくレーダー視界がとれる。
陸上自衛隊による基地警護が可能な点。
・システムを多数配備すれば迎撃能力は高まるが、コスト面、運用面などから最も効率的に日本をカバーできる数理的な観点から、秋田・山口などの周辺であれば2基で済むとの判断。
他にも候補地はあったんですが、その候補地が落ちた理由は割愛。
 
《配備プロセス停止理由》
ブースター落下による地元への影響が懸念されました。これについては当初防衛省側は迎撃ミサイルSM-3の発射ブース―ターを海や演習場に落下させるように改修し制御すると説明したのですが、その後に供給元であるアメリカ側と協議した結果、大幅なシステム改修が必要でコストとそれに伴う改修期間が10年程度かかるだろうことが判明。この方式は得策では無いとなりました。
 
費用はともかくも急速に近代化が進むミサイル技術のまえで10年もの時間を浪費できないのは確かですが、現段階で既に5年を浪費しています。
 
 
そもそも核攻撃の脅威に瀕している時に、迎撃ミサイルのブースター落下を気にするのは馬鹿げているとしか言いようがありません。
 
ルーマニアポーランドにも配備されているイージスアショアですが、そんな話は聞いたことが無いですし、まして日本は周囲が海であるにも関わらずです。言い換えれば、「核ミサイルが東京に落ちるのは構わないが、自分の近所にブースターが落ちる可能性が少しでもあるのは嫌だ」となります。
 
これを言いだすと極論すれば都市上空でミサイルや敵航空機の迎撃すらできません。撃墜したミサイルの破片や航空機が落ちる可能性があるのですから。
 
 
ほかにも、迎撃ミサイル発射場所ですから、敵の先制攻撃にさらされる恐れがあるとの地元反対がありました。しかし想定する敵国が、そもそも高価な弾道ミサイルや、核報復を招きかねない核攻撃を地方の一基地に行うことは合理的ではないでしょう。同じ攻撃するなら効果の高い都市部を狙います。
(勿論人間が関わる以上、合理的でない判断をすることはあります。)
 
これは可能性と費用対効果の問題で所謂リスクマネジメント。
安全が良ければ、登山をせず自宅にいるべきですが、訓練・装備・登山届けなど可能な限りの努力を尽くし登山するのと同じです。
 
また防衛省側の説明資料のミスが見つかったり、職員の杜撰な対応が非難されたこともありました。しかしイージスアショアは国内で初導入なうえ、また日本側はシステム本体の開発に関与していないので、システムの情報が充分に入手できずに不十分な資料しか作成できなかったののも要因としてはありえます。
 
しかし、それを十分説明できなかったのは大きな落ち度です。対抗勢力によるディスインフォメーションの可能性も噂されますが、それをさせないように備えるのも「政治」と「国防」の役割でしょう。
 
これらのことは防衛省の説明、自治体の理解、双方の努力不足でしょうし、軍事を忌避してきた戦後教育の成れの果てとも思います。
 
 
また有事の際の「保護処置」「避難」などの強制的な法整備が十分なされていないため、防衛省としては「お願い」するしかないのも現状です。
(説明会資料にレーダー照射してても飛行機が飛んでたら照射やめますとか書いてあるんですよ・・・)
 
基地問題同様に地元理解が不十分であれば進めることができず、首長や議員も地元民の意向を反映せざるを得ませんが、国家全体の問題であり、全国民で考えるべき問題のひとつ。
 
端的に言えば、政治とは多数の利益を少数の利益に優先させることであり、その選択権を我々は選挙によって委託したのです。特に危機的状況においては大多数の国民を守るためには少数の不利益を受容してもらうことに他なりません。
 
資料のミスや不誠実な対応など防衛省の手落ちも相当にありましたが、国防に関わる問題であり、防衛大臣や総理などが真摯に対応すべきであったと思います。
総理が地元に直談判しても良かったくらいです。
 
秋田県知事》
3月24日の北朝鮮によるICBM(火星17と推定)発射によって、佐竹秋田県知事は「本当に極めて遺憾だが、遺憾と言っても(北朝鮮は)聞かない。防衛をどうするか真剣に考える時期でないか」と取材に答えましたが、
 
え?いまさら何を・・・
 
感しかありません。当時から当事者だったのに、能天気にもほどがあります。
 
 
《選択肢はない》
ともかくも北朝鮮弾道ミサイル対処は必須であるため、イージスアショアに変わる案が策定されてはいますが、どれも不完全なものばかり・・・迷走としか言いようがありません。
 
コストパフォーマンスにおいても最適解は「イージスアショア」一択です。弾道ミサイル防衛はSM-3が担い、巡航ミサイルはSM-6で対処、ミサイル開発とソフトウェア改修によって、将来的にはさらに高度な迎撃が可能になるでしょう。
 
現在は弾道ミサイル防衛能力がある海自のイージス艦ミサイル防衛を実施していますが、艦船は任務・休養・メンテナンスが必要なため、交代でローテ―ション配置となります。配備された艦は常時ミサイル監視に貼り付けられる事になり、その間は他の作戦、訓練、監視に使えません。訓練時間の減少は練度低下に繋がるうえ、そもそもイージス艦は艦隊防空が主な任務です。
 
《自助努力を》
前回も触れましたが、ウクライナに世界が味方しているのは、自国の必死の戦いがあってこそでしょう。ウクライナよりもはるかに資金力も技術力もある日本が自助努力をせず他力本願では、有事の際には誰も助けてくれないのではと思います。
 
 
今回のロシアの侵略行為によって日本でも安全保障や軍事に少しでも関心が高まればと願いますし、政府・議会には具体的な行動をお願いしたいものです。
 
どうやって抑止し、抑止が破たんした場合はどうやって防ぎ、どうやれば相手は諦めるのか、そのシナリオづくりと装備・法体系を具体化しなければなりません。国際関係づくりも重要です。
 
 
日本のドタバタ劇を見て中国・北朝鮮・ロシアは呆れているかも・・・
 
ロシアの件でもそうですが、無慈悲・無遠慮な暴力は存在するんです。話し合いなんて通じると思いますか?なんでもそうですが能力を備えるのには時間が必要なんです。もう猶予は使い果たしたんじゃないですか?
 
(住民説明会用資料、すっごく気を使ってるんですけどね。他国ならあそこまでは配慮してないでしょう・・・)