海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

防衛計画の大綱と中期防とレーダー照射

昨年12月「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」と、「中期防衛力整備計画(平成31年度~平成35年度)について」が閣議決定されました。また、タイムリー?な事に韓国海軍がやらかしたので、それとリンクさせつつ。

 

「防衛計画の大綱」とは・・・

概ね10年を目安に閣議決定された「国家安全保障戦略」(外交・安保の指針)を元に、防衛の基本方針や自衛隊に関する方針などを策定したもので、こちらも概ね10年を目安にしていますが、状況に応じて見直されます。実際に前回は平成25年12月17日に閣議決定されましたが、これを平成30年で廃止することになりました。改定のペースが速いのはそれだけ安全保障環境の変化のペースが速いという事ですね。

 「中期防衛力整備計画」とは・・・

「大綱」を具体化するために向こう5年間の防衛力整備計画をまとめたもの。

 

クロスドメイン・マルチドメインに対応

さて、今回の大綱にも書かれていますが、我が国を取り巻く安全保障環境、国際社会のパワーバランスは極めて速いスピードで変化、複雑化し既存秩序の不確実性の増大に対応するとし、特に「陸」「海」「空」だけでなく、サイバー空間、宇宙、電磁波などの新しい領域での対応を迫られてきているとしています。この新しい分野では中国などがアメリカの軍事力に対抗できる可能性が高く、またその方面の投資や開発が積極的に行われており、さらに以前にも書いた「シャープパワー」の行使や「グレーゾーン」の創出なども取り上げられています。物理的な軍事力の行使に関しては一定の国際的ルールがありますが、新しい分野ではそのようなルール・規範づくりが遅れておりその点を指摘しつつ対処するとしています。

 

アジア諸国への役割

我が国も独立国家として、またアジア諸国に範を垂れようとするのなら、国家間や地域の秩序維持に努めなければならないでしょう。その為には従来の考え方に留まらず迅速かつ実効的な防衛力整備とアジア地域でのプレゼンスを高める努力も必要です。その観点から、インド太平洋沿岸国との海洋安全保障能力向上に関する協力も進めていき、不当な南シナ海への進出を続ける中国への抑止力強化も図ります。12月22日には、初の「日米英」三か国での共同訓練を実施しました。

 装備の新規導入に関しては、DDHいずも(ヘリコプター搭載護衛艦)を改修し戦闘機F-35B(SVTOL・短距離離陸垂直着陸型)を搭載できるようにすることと、高速滑空弾などの新たな装備品、水陸機動団や物資輸送の為の輸送力強化、装備品の国産に拘らず、米軍との連携を重視するなどいくつかの目玉はありますし、報道の中心になっています。確かに装備品は単価が高く予算の使途としてきちんとチェックしなければなりません。

 

少子化が問題

 しかし私は装備品の調達に関してよりも、日本が少子高齢化に向かう中で果たして人員が確保できるのかが心配です。女性自衛官の活用や定年の引き上げなどは少しずつ進めてきていますが、自衛隊は「軍隊」という特別な世界。そして決して待遇が良いとは言えません。所謂「労働条件が良い」だけで集まるような人材は「軍隊」には不向きなのかもしれませんが、「情熱や想い」だけでは現実的には人が集まらないでしょう。

任務が多様化・高度化し優秀な人材が必要なのに、労働条件も厳しいのであれば人は集まりません。せめて「軍隊」として社会から尊敬されるようであればいいのでしょうが、決してそうとばかりは言えないでしょう。自衛隊員の社会的地位向上も図らねばなりません。阪神大震災以降の災害派遣等で認知度は高まり、航空祭や艦艇公開、総火演なども人気のイベントになりましたし、ネットやDVD、雑誌などのメディア露出も多くはなりましたが、いつも書くように日本を守る自衛隊員を守るのは、我々一般人です。

 

インド太平洋ビジョン

 また、今回の大綱に多く登場するのが「自由で開かれたインド太平洋」と言う文言。安倍総理の提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」から始まり、最近はビジョンと表現されています。このビジョンは、法の支配の下の海洋の自由を訴えつつ、中国の横暴な海洋進出をけん制するものと解釈されています。(ただし一定のルール、例えば高い透明性、財政の健全の確保などに基づくならば中国との協力はあり得る)

つまり諸外国は日本は海洋権益に関して自国のみならずインド太平洋地域において、プレゼンスを発揮し、不法な行為や威圧に対してはコミットする事と解釈しているでしょう。低成長が続くとはいえ、日本は未だGDP3位、74年前には世界相手に戦争をし、日米同盟はNATOに並ぶ軍事同盟です。戦後はODAなどでもアジア諸国の発展に寄与し、一時は日本製品は世界を席巻しました。日本に安全保障面でも期待するアジア諸国があってもおかしくはありません。「いずも」空母化はまさにそう解釈されるでしょうし、英海軍との演習、アジア諸国への自衛艦の寄港などもその為です。

レーダー照射

この点から今回の大綱は纏められたと考えていますが、それならば今回の韓国駆逐艦の射撃管制レーダー照射に関しては、毅然とした態度を取るべきなのです。

飛行ルールを守りつつ自国のEEZ排他的経済水域)の監視活動をしていた自衛隊機に射撃管制レーダーを照射し、呼びかけに応じなかったのは明らかに準同盟国としてのふるまいではありません。その後の推移も概ねご存知の通りですが、日本政府が韓国に対してさえあやふやで腰の抜けた態度を取るのなら、眼前の中国の軍事的脅威にさらされているアジア諸国は日本を信用しなくなります。

 韓国との関係が一旦冷え込んだものになったとしても、他に多くのアジア太平洋諸国が「日本は強くなった」と思ってくれるのなら、信用も高まるでしょうし、信用は発言力に繋がりますし、中国に対する抑止力の一端となるのではないでしょうか。