海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

5年以内に習金平は台湾を目指すかもしれない

何度も書いていますが、台湾の吸収は中国の核心的利益です。国民党の面影すらも無くさなければなりません。
 
香港返還後にイギリスとの約束を反故にして一国二制度も無くそうとしているのも、中国が支配されていた負の歴史を清算共産党が唯一正当な政権となり、中国を名実ともに世界の覇権国にするためです。それは習金平のプライドでもありそれ自体は施政者として当たり前です。この目標はなんとしても達成しようとします。
 
しかし台湾を吸収するには「力による現状変更」が必須です。台湾は話し合いに応じる意志がない事は明白です。
 
また、隣国である日本(倭国)には多くを与えた教師としての自負がありつつも、海洋の壁に阻まれて冊封体制に組み込めませんでした。さらに日本は開国以来急速に成長し繁栄。清王朝の時代やそれ以前も見下していた日本によって、一時は大陸にまで進出しされました。
 
アメリカの介入によって日本は排除されましたが、中国の力ではありません。そして敗戦後も驚異的に復興しアメリカに次ぐ自由主義社会での大国となりましたが、このことは中国のプライドを傷つけたはずです。
 
力による台湾との統一(吸収)よりも、台湾を国として認め、融和的に関係を深めたほうが損得勘定で言えば得なのに、一切それをしないのはプライドの問題なのです。
 
これは解決できないため、いつかは衝突します。私はここ5年くらいがポイントだと思っています。
なぜそんなに急ぐ必要があるのか?少し相手の立場で考えてみようと思います。
 
【積極的要素】
(1)中国の国力増大に伴い、海軍力・ミサイル戦力を強化した結果、台湾近辺に米軍・自衛隊を接近させないことができるようになってきたとの自信がついた。第一列島線内の聖域化ができるブルーウォーターネイビー(遠征能力のある外洋海軍)としての自信がついた。
 
(2)予算や人員などに縛られてきた海上自衛隊との戦力差がもうすぐ3倍になる。「数の質のうち」で、いくら海自が練度が高いと言っても数でひっくり返せる。
 
(3)海自を排除できれば、世界一とも言われる対潜哨戒網に穴ができるため、米海軍の接近を拒否できる。
 
(4)米軍はINF(中距離核戦力全廃条約)によって中距離ミサイルという運搬手段を保有しておらず、反対に中国は多数保有している。目的は米国本土への攻撃では無く、米軍の接近を阻止するだけで良い 。
このため中距離ミサイルという有利な武器の土俵で戦える状況である。しかし時間がたてばINFを破棄した米軍に追いつかれると予想できるし、本気になった米軍のペースは早い。
 
(5)今まではアメリカに対抗し米軍基地を攻撃する能力のある国家は無かったため、米軍基地は攻撃に対してはかなり脆弱。
今なら多数の中距離ミサイルで、在日米軍基地、自衛隊港湾、飛行場を攻撃しレーダー、滑走路、格納庫などを破壊し即応性を喪失させられる。
時間稼ぎできればその間に台湾を吸収できるかもしれない。
 
(6)日米のイージスシステムによるミサイル迎撃能力には、多数のミサイルによる飽和攻撃やDF-17などの極超音速ミサイルで突破可能。これにより艦船の接近を拒否できるのではないか。
 
(7)米軍は中国より圧倒的な核戦力(ICBM)を保有するが、使えない戦略核は最早意味を持たない。
 
(8)融和的なバイデンが大統領となれば、あと4年はオバマ時代のように時間を稼ぎつつ体制構築ができる。
 
(9)自由主義社会の脆弱性である、資本による世論のコントロールや誘導、社会の分断、経済の深化を進めてきた結果(シャープパワーの行使)、反中勢力は一定量いるものの、親中(もしくは妥協的な)勢力も増えつつある。
しかし徐々に脆弱性を閉じる法整備や規制が進められており、これ以上の効果は見込みにくい。
 
(10)コロナによって疲弊した自由主義社会の経済界は、いち早く回復しつつある巨大市場中国を捨てることはできず、施政者の判断にも影響を与え「台湾を見捨てても自国経済を優先」するだろう。
 
(11)自由主義社会と覇権主義社会では、同じ価値観、人権意識の元では行動していないため、人命の価値は等しく無く、戦術的に負ける事があっても戦略的勝利を得ることができるかもしれない。
 
(12)国際法では民間人への攻撃はできないため、民兵の乗る漁船を民間船に偽装し、これを保護するという名目で、軍用艦艇を航行させグレーゾーンを作り、島嶼部の占拠や沿岸接近拒否に利用する。
民間船への攻撃(無差別攻撃)はハーグ条約8条で禁じられているため、自衛隊保有する機雷による海上封鎖も避けることができる。
 
(13)中国の海洋進出にとって脅威は潜水艦だが、大陸沿岸部は浅い大陸棚が広がっているため接近されにくい。水上艦艇の接近も対艦ミサイルを多数配備してたため拒否できる。
 
(14)北朝鮮・ロシアを背後に抱えたまま正面に中国の三面打ちを強いれば有利に戦える。
 
(15)日米に対し核使用をすれば、核の信頼性を担保するためにアメリカは必ず核報復をおこなう。
これは中国にとって望まないシナリオだが、通常兵器であれば核攻撃は行われない。
 
【消極的要素】
(1)台湾占領の為の攻撃手段は十分だが、兵員の輸送手段が不十分。国民総動員で徹底抗戦された場合、占拠に時間がかかり世界中の介入を招くかもしれない。
台湾の世論調査では戦争になれば8割の国民が戦うと回答している。これを一気に抑えられるほどの上陸戦はおこなえない。
 
(2)これ以上時間がたてばアメリカによる武器売却などによる台湾支援が進む。現在も戦闘機やミサイル及び発射器など多数購入契約しており、またアメリカ議会もそれを認めている。このことはアメリカ議会が台湾危機が近いと感じている証拠である。
台湾はリング中央で足を止めて打ちあう覚悟である事がわかる。
 
(3)価値観が近く同じ海洋国家である日米豪加英印などの軍事的な連携は時間がたてばたつほど深化するが、これは中国にとって好ましくない。
 
(4)移民によって若い活力を維持し続けるアメリカに対し、急速に社会が高齢化する中国には時間が無い。
 
(5)今まで低コストで入手(盗む)できた科学・軍事技術だが、対中包囲網によって今後は入手しにくくなると予想されるため、先延ばしすると先端技術力での差が広がる。
 
(6)連携されてチョークポイントを封鎖されるような長期戦になれば不利になる。
巨大国家を支えるには大きなエネルギーと食料が必要である。太平洋戦争時の日本が好例である。
 
(7)多数の固定目標の攻撃に必要充分なミサイルはあってもISR能力は未だ備わっていない。
 
【防衛側の打てる手】
 
(1)ISR能力(情報収集・警戒監視・偵察)の強化と阻害。
防衛側にとっては相手の行動をつぶさに監視できるようこれらの能力を高めるとともに、攻撃側の能力を阻害する能力を高めること。防衛側がいつどこで何をしているのかを把握させなければ、攻撃できず、また攻撃しても戦果確認させなければ次の行動(攻撃)に移れない。
 
(2)基地の抗堪可
攻撃による被害の低減を図るため、通常弾頭ミサイルに耐えられるような格納庫や滑走路の整備、攻撃されても直ぐに復旧できるような体制を整える。
アメリカがトマホーク巡航ミサイル59発による攻撃でシリアの空軍基地を攻撃したが、通常弾頭の巡航ミサイルでは復旧にはそれほど時間がかからなかったことから、巡航ミサイルに対して基地の強化は効果を見込める。
ただし慣性力がある弾道ミサイルに対抗するには不充分であるため、武器弾薬の分散配置も必要である。(例えば民間空港への分散配備)
 
(3)IAMD(統合ミサイル防衛)体制の早期構築
防衛計画の大綱に従い、またイージスアショア配備断念に伴う防空能力の弱点を補うため、少なくともNATO並みのIAMD体制の構築を急ぐ必要がある。
 
日本はすでに射程1000km前後のミサイル防空体制は地域最高レベルであり、これに従来防空アセットも組み合わせ、JADGE(自動警戒監視システム・空自運用)による一元的な指揮統制をおこなうことで、これらをスムーズに機能させる。
 
その為のクロスドメイン(領域横断)能力をさらに深化させることと、予算処置を十分におこなう。予算の増加はNATO基準に沿った対GDP比2%を目標とする。これにはアメリカの関与を強める効果がある。
 
(4)敵基地攻撃能力の保有
法理的には敵基地攻撃能力の保有は認められる(1956年鳩山首相答弁)うえ、この能力の有無と軍拡競争とはリンクしていないことは明白。
 
日本は法的に問題が無いとしつつも攻撃手段の保有をしてこなかったが、そのことで中国や北朝鮮が軍備拡張をしなかったとは言えないことは現状を見ればあきらか。
 
そしてこの能力の保有によって敵の飽和攻撃や敵ISR能力の阻害をこなう事や増援の阻止が可能(但しミサイル狩りができる訳では無い)。また攻撃を担う米軍の補完戦力ともなり米軍の関与をさせやすくできる。
 
(5)日米同盟の強化と他国間連携
日米が密接に連携し、また日米と連携する国が増えるほど、中国の判断は複雑にならざるを得ず、行動の選択肢を制限し結果を不確実なものにできる。
 
戦略的成果を得られない場合、共産党(習金平)への支持が失われかねないため、行動を抑止することに繋がる。
また、中国のISR能力に負担を強いる事ができ戦力の分散化と大きなコストを強要できる。EPAFTAなどの経済連携や多国間軍事演習、新・防衛法制などによる軍事協力の発展など多くの連携手段を使う。
 
(6)ASEANへの関与
ASEANへの日本の民間投資は成長し続けており、相手国によっては中国以上となりつつある。RCEPなどで中国の経済的な影響力を相対的に弱める事はASEAN自由主義社会を「裏切る」リスクを下げる。
 
(7)新たなアセットの保有
長期戦を見越してチョークポイント封鎖などコストを課すことのできるアセットを保有する。
 
(8)法整備
領海法の制定や武器使用権限の拡大、海保や海自の行動にある程度幅を持たせるため、「できること(ポジリスト)」から「できないこと(ネガリスト)」化する。
 
 
もし有事となれば、全ての攻撃を防ぎ被害を防止するなどは不可能です。
 
戦争になれば被害の一定量は許容しなければならない覚悟を官民とも持たねければなりません。また重点的にどこを守るのかも優先順位も含めて決めておく必要があります。
経済力と軍事力は強い相関関係が認められており、経済力の向上と共に戦力と運用能力向上は嫌でも進みます。
 
しかし相手にとって計算しなければならない要素を増やし判断を複雑にし、攻撃の意志を持つことを躊躇させることならば可能です。
 
我が国としては「現状維持」ができればよく、武力行使に至らなければいいのです。勝つ戦いはできなくても負けない戦いはできると思います。
 
要は「相手が嫌がる事をする」のであって「自分がしたい事をする」のではないのです。政府の議論にはその視点が欲しいと思います。日本は対中国には「弱者」の立場にすでに立っている事を認めることから議論を始めるべきです。
 
また国際関係において「武力の行使」は国連憲章で禁止されているので、中国はあくまで台湾は国内問題として処理しなければなりません。
この点も大いに利用すべきでしょう。
台湾をもっと表舞台で活躍できる場を関係各国で与えるのです。これは民間レベルでもできることがあります。学術的なフォーラムや会議開催、経済と観光、大学や研究機関によるあらゆる共同研究の推進、台湾の得意分野である科学技術を採用した機器やシステムの開発などが考えられます。
 
日米は「自由で開かれたインド太平洋」構想を進めていますが、中国はそれを閉ざそうとしています。開かれると都合が悪いのです。
 
また尖閣沖が騒がしいですが、海保と海警での小競り合いを超える軍レベルにエスカレーションさせてしまえば、これを口実に中国はさらに進出します。
それは相手の思う壺。
中国は少しづつレベルを上げてきており、残された時間はあまり多くありません。
 
東アジア地域は世界中で最もミサイル戦力が多く展開している地域でもあり、中東や欧州などよりよっぽど『火薬庫』であることを日本人も自覚してほしいと思います。
 
(画像:チョークポイントを通過する多くの艦船 MarineTrafficより)

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