GSOMIA破棄について
GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄について
2016年に締結した機微な軍事情報を扱うための協定ですが、この協定はもっと前に俎上にあがった事があります。 その際に締結直前に韓国側が一方的に交渉を中止。4年ほどの期間を経て、西側の結束を訴えるアメリカの仲介によって締結したいきさつがあります。
本来、韓国に対して有利な協定です。
日本は警戒監視衛星を7基運用中。韓国は保有していません。哨戒機も韓国の10倍。イージス艦の優秀なレーダーもあるうえ、沿岸部のJ/FPS-5(通称:ガメラレーダー)も4基あり、監視網は非常に濃密。
弾道ミサイルなどの軌道計算などで得たデータは韓国側にとっても喉から手が出るほど欲しい情報。
逆に日本側が得る情報はさして多く無いと考えられています。
対北朝鮮・中国を考えた時、日韓の軍事情報が融通できないことはアメリカにとっても痛手。だからこそ仲介していました。
韓国の思惑は「ホワイト国外しをした日本が悪い」としたいのでしょうが、アメリカの逆鱗に触れる可能性も高い。
通常、貿易などで2国間交渉が難航しても、軍事交流は続けるもの。でないとそこらじゅうで戦争になってしまいます。
一部の品目の輸出管理を通常の手続きに戻しただけであるうえ、現在まで輸出を拒否していません。手続きに問題無い場合は許可もでています。実害はまだ無いのです。
トランプ大統領は気まぐれなので、「あ~メンドクサイ」となった時、在韓米軍を引き上げると言いだしかねません。
在韓米軍は、対北朝鮮のトリップワイヤーとして機能させていたが、それがなくなると北の軍事侵攻が現実味を帯びます。
最近、頻繁に発射していたミサイルは完全に対韓国用のもの。これで金正恩が漁夫の利を得る。中露にもメリットしかありません。アメリカは激おこプンプン。
国連決議に基づき、北朝鮮の背取り監視にはフランスやカナダ、オーストラリアなどと連携しているのに、肝心の韓国がこれでは・・・
しかし、これで日本は一歩も譲れなくなりました。安全保障は自国のみで完結できる時代では無いため、多国間協力をするのですが、GSOMIA復帰を日本から要請すると、「復帰する代わりになにをくれるのか」と要求されかねないからです。
今回の韓国の手法はリンケージ戦略と呼ばれるものにあたるのでしょうが、リンクさせるものを間違うと、とんでもない結果を生むもの。
11月には協定が失効しますが、どんでん返しはあるのかないのか?
このまま突き進んで「日韓基本条約」の破棄まで言いだすのか?
軍部のクーデターもあるのか?
まぁ、どれもシナリオとしてはあまり無いでしょうが、大丈夫なのか・・・韓国政府・・・
止まらないですね。
時事ネタはあまり扱いませんが流石に書かずにいられないなぁ。
東京オリンピックとインパール作戦
なぜインパール作戦のことを書こうと思ったのか?
それは最近「東京オリンピック」を「インパール作戦」になぞらえる人のSNS投稿を見たからです。いつかは書こうとは思っていましたが良い機会?なので (^_^;)
インパール作戦のことを知っている人は多いと思います。書籍も多くテレビでも特集とかありますしね。
概要
大東亜戦争末期の1944年(昭和19年)3月から7月まで日本陸軍がおこなった作戦です。
インパールとはインド北東部にある急峻な山岳に囲まれた盆地にある町。
当時インドはイギリス領でしたが、イギリスは日本が支那(中国大陸)で戦っている「国民党軍(蒋介石政権)」に支援をしており、そのルート(援蒋ルート)を遮断するため、実施しました。
司令官は「牟田口廉也中将・十五軍司令官(後に予備役)」上官は「川辺中将(後に大将)」です。
あまりにずさんな計画で参謀本部でも反対意見があったのですが、この二人が強行し多くの戦病死者を出した最悪の地上戦でした。
1月ごろに開始し雨季までに決着させるという根拠のない計画で始まったため、食料や資材運搬の車両手配も間に合わず、また食料補給は途中の町で徴発(奪う)するか戦利品で得ることや、運搬に牛や羊を使い順次食料にしていく(駄牛中隊)などを計画します。いや・・・いつの時代?って感じです。
そのため1か月程度の食料を携行して徒歩で進軍することになりました。さらに部隊の集合が遅れ行動開始は3月8日となりました。
対するイギリス軍は、倍の兵力と5倍の航空機をもつ重装備の部隊で制空権も握っていました。
この作戦前には現地に詳しい参謀たちがいたのですが、軒並み反対するので次々にクビにしてしまい、組織改編の際には現地に詳しい参謀が殆ど残っていなかったのです。
作戦開始したけれど・・・
劣悪な条件のもと、兵士は1か月で500kmを徒歩で山中を行軍。
駄牛中隊の牛たちは、途中の崖から転落したり、渡河中に水死したり、敵の攻撃に驚いて逃亡したり・・・結果、積んでいた弾薬や食料も散逸し戦力が減少しました。
インパール近くにはたどり着いたものの、空輸で補給するイギリス軍に頑強に抵抗され、持久戦の様相を呈します。インパールはモンスーン地帯で、雨季には滝のような雨が降ります。周囲はヒマラヤを望む山岳地帯、乾季には小川でも雨季には激流。道は泥沼で車両や銃砲は運びづらく、火もなかなか着かないのでコメも炊けず、生水は危険でも飲むしかない。
そして赤痢やマラリアに罹患し兵士はバタバタと倒れていきました。補給も無いので攻撃するにも弾もない。
さっさと撤退すればいいものを、メンツにこだわる二人は顔を見合わせて威勢のいい掛け声だけはるか後方から。「やめる」を決断できないまま続け、士気は下がり死者(病死)は増え続ける。
退却を進言し続けた佐藤中将は、5月に死刑覚悟の命令違反によって部隊を後退させました。本来であれば軍法会議(陸軍刑法42条)ですが、表ざたになって監督責任を問われる事を恐れた参謀本部は、うやむやにしてしまいます。
この現状を知った、東条英機首相・参謀総長は7月1日に天皇に「作戦中止」を上奏し、翌2日に南方軍が中止命令、5日には中止され司令官は8月20日に解任されました。
白骨街道
日本兵からの感染を恐れ、追撃してくるイギリス軍は道端で見かけた日本兵の生死に関わらずガソリンを掛け焼却。それが無くても足を止めたら、戦車に踏みつぶされたり、トラやヒョウ、ハゲタカに生きたまま食われます。
結果、参加兵力のおよそ70%を損失。退却路は「白骨街道」と呼ばれ、現地の政治状況などから近年まで遺骨収集事業も行われていませんでした。
この戦いにはINA(インド国民軍)も参加しており、日本降伏後独立運動に参加、後にインド独立を勝ち取ります。
インド初代首相のネルーは「インドは程なく独立する。その独立の契機を与えたのは日本である。インドの独立は日本のおかげで30年早まった。この恩は忘れてはならない。(後略)」と語っています。
2つは同じ構図
このインパール作戦と東京オリンピックが似ているとは、非常に的確に思えます。
A.雨季(季節)を考慮しないで実施した。兵士の都合ではなく司令官の都合。
a.真夏に実施。選手の都合ではなく放送権(収益)の都合。
B.掛け声はいいが、具体的な作戦計画が杜撰。
b.アスリートファーストと言いながら、水が・・・日差しが・・・
C.兵站を無視した作戦を強行。メシとタマが無けりゃ戦えない。精神論では勝てない。
c.選手の体調管理なんて自身でしてねと言わんばかり。
D.責任の所在があいまい。参謀本部なのか、現地司令官なのか。
d.森さんとこ?小池さんとこ?それとも政府なの?
E.組織内の融和と序列を優先し、合理的結論を導かず決断できない組織。
e.JOCと東京都、財界、政府・・・誰が決めるの?
F.二百三高地以来の「突撃」のみの作戦。
f.ボランティアの扱いが・・・
G.管理責任を負わない保身主義。
g.小池さん見てたら・・・ねぇ・・・
H.気に食わない意見を言う人を除外する。理由は「組織の調和を乱すから」
h.多分「これじゃ駄目だ」って言ってた人もいるだろうなぁ。(証拠は無い)
I.能力も無いのに希望的観測のもとに戦線拡大。
i.借金大国で労働力不足なのに。いつまでJapan as No1のつもり?
日本人って75年たっても変わらないなぁと思います。
オリンピック組織委員の方々、少しは戦史の勉強したらどうでしょう?
良い教材になりますよ。多くの方の死が少しでも役立つのではないでしょうか?
こんな遠くまで行ってたんですよ。 (GoogleMapより)
インパール周辺。盆地の様子が分かりますね。 (GoogleMapより)
アルキメデスの大戦
本日、映画「アルキメデスの大戦」を観てきました。
(ネタバレになってはいないつもりです)
端的に良い映画でした。
フィクションですが、そうであったかもしれないと思わせる良い脚本、田中泯さんの渋い演技、浜辺美波さんの古風な可愛らしさ、ストーリー展開の見事さ。VFXの出来栄えの良さ。
ご覧になられる事をお勧めします。私はDVDを購入して再度みようと思います。
さて・・・
8月は6日に広島・9日に長崎に原爆が投下、同日(9日)ソ連が一方的に日ソ不可侵条約を破棄し参戦。
14日にポツダム宣言受諾、15日正午にいわゆる玉音放送。
これにより英米に対する組織的戦闘行動は停止されマッカーサーによって攻撃中止命令がだされた。
ソ連とは戦闘を継続していた陸軍だったが、玉音放送後にだされた「大陸命1381号」(陸軍への命令書)で、積極的侵攻作戦を中止スベシ、となりました。
翌16日の「大陸命2382号」でようやく即時停戦(自衛戦闘は除く)が発令されました。これから大陸での悲惨な撤退が始まります。
正式な終戦は9月2日。アメリカ戦艦ミズーリ艦上での降伏文書調印によります。
しかしソ連は同じ9月2日に歯舞、5日に千島全島を占領しました。20日には樺太で真岡郵便電信局事件が起こり、民間人である電話交換手(女性)がソ連のレイプを恐れて自決、他にも民間人である局員への銃殺や爆殺がおこり悲惨でした。
中国共産党軍も日本の関東軍に対して攻撃を続け、8月15日以降年末ごろまでに、3000名ほどの将兵が亡くなりました。
8月15日をもって戦闘が終わったと勘違いされている方も多いのでは?実は違うのです。
戦争は勝っても負けても悲惨です。人命は失われ経済も国土も荒れる愚行蛮行です。火を見るより明らかです。
しかし理不尽な暴力は今も世界のあちらこちらで行われており、今も止む事はありません。
また、夢や空想で頭上に飛来するミサイルを止められる訳でもありません。
それゆえ安全保障論が今でも研究され続けているのです。平和を希求するが故です。
この時期になると、相変わらず騒ぐ人も多いですが、8月15日はこころ穏やかに迎え、亡くなられた310万柱の霊に哀悼の誠を捧げたいと思います。
日米同盟の意味(続編)
6月27日にアップしました「日米同盟の意味」の続編です。
前回、「日米同盟は双務性がある。トランプ大統領の言う不公平であるという指摘はあたらない」といくつか理由を述べさせてもらいました。
また、安全を守るジレンマ「同盟のジレンマ」(2017/10/09)に少し詳しく書きましたが、同盟には見捨てられる恐れが常にあります。
自主防衛ができない構造の我が国は常にこれにさらされていますが、それが表面化したような形になり、マスコミでは大きく報道されました。
マティス前国防長官さえいてくれたら・・・と思いますね。
1期4年・最大8年の任期でアメリカ大統領は変わりますが、8年ごとにコロコロ安全保障政策が変わってしまうようでは、世界の覇権国の地位は維持できるはずもなく、そのあたりは米議員・閣僚・軍は認識しているでしょう。あの民主党のオバマ政権でさえ日米同盟は堅持したのですから。
しかし日米同盟が永遠に不滅であるという保証もなく、今後どうなるのかは我が国でもしっかり考えて準備はしておく必要はあるでしょう。思考停止は最も危険です。
さて、今回は現状でアメリカは同盟を破棄した場合どうなるのかを考えようと思います。(多少の毒舌バージョンでお送りします)
日米同盟破棄となると・・・
基地返却
日本は在日米軍の撤退を要求します。安保条約第6条には「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」とありますので、駐留の根拠が無くなり撤退を要求することになります。
撤退すると基地は不要です。基地が無くなるとは米軍人も帰還することになるか、他の基地に移動するしかありませんが、在日米軍5万人。簡単に移動ってできると思いますか。米軍は配置に苦労することになるでしょうが、知ったこっちゃありません。
それに伴い、米軍基地で働いていた多数の日本人と食料など物資の納入業者なども仕事が無くなります。5万人の米軍人相手の商売は成り立たなくなります。飲み屋からレジャー施設までなにもかもです。「基地よ出ていけー!」派の人に聞きますけど、倒産・失業増えますね。米軍人と結婚した日本女性沢山いますけど。どうしますか?
そもそもあるかどうかわからない「ハッタリの核の傘」ですが、一応多少の安心には役立ってはいるようです。核保有国に囲まれつつも核の恫喝を受けた事がほぼ無い事や、核保有国同士の正面戦争が起きていないことがその証明です。
しかし正真正銘「核の傘」は無くなりますので、日本は周辺国の核の脅威におびえる事になります。そうなると「核武装論」が勢いを増すでしょう。日本にとって核保有はハードルが高いですが、アメリカのコントロールできない核保有国の登場もあり得るシナリオが。
国際的な締め付けがあっても、もし、中露北朝鮮から僅かでも威嚇されれば「見捨てられた日本」は「アメリカのせい」にして核武装を進める世論が強くなります。世論は民主主義の根幹です。核保有という選択をしても手続きに不備がなければOKです。また核不拡散条約(NPT)があっても、日本が核保有するかもしれないとなると、アジアに核保有論が拡がりかねません。日本が核拡散の先べんをつける事になってもいいんですか?自国の原発でさえ騒ぐのに。
予算
在日米軍関係経費(平成31年度予算)で総額およそ5,823億円と巨額の予算が必要なくなります。突然無くなる訳では無いですが、撤退となると施設の土地を提供している地主に借地料が入らなくなりますし、漁業補償も騒音対策の費用も貰えなくなりますが、そのお金も元々は日本政府が支出しています。(間接的に個人・団体へ税金を投入していた)このお金は他に回せますが、米軍の穴埋めに使うことになるでしょう。ただし米軍の穴は巨大です。この額では全く不足していますので、防衛費増額は間違いありません。それでいいんですか?
装備品
海兵隊もいないので独自で島嶼防衛しなければなりません。輸送艦、揚陸艦、補給艦などの補助艦艇が全く不足なので増備。さらには電子戦機や早期警戒機、空中給油機、現場の航空優勢確保の為の空母や強襲揚陸艦、艦隊護衛のためのイージス艦や潜水艦、それらを常時運用できるように最低でも3個護衛隊群(空母込み)を追加。なんなら広大なEEZの監視に原子力潜水艦も。将来の核報復能力確保の為には実績は必要でしょう。
弾道ミサイル防衛のための早期警戒衛星の増備、イージスアショアやTHAADミサイル導入、指揮命令システムなどへのサイバー攻撃対応能力の確保など。反対にアメリカに気を使う事無くEU諸国の兵器も買えますが。それらの配備場所には在日米軍基地の後がいいでしょう。あれ?米軍が出ていっても基地は全部は返ってきませんね。
ホルムズ海峡、マラッカ海峡などのチョークポイントのシーレーン防衛は我が国とっても死活問題。そのためのアセットと法整備、なんなら憲法改正しないと、石油入らなくなりますよ。護憲派の方々はどう思いますか?
もう目白押しです。ミリタリーマニアにはたまらない展開かもしれませんが、自衛隊にはそんなに人がいないのでリクルートに苦労することになります。「徴兵制になる!」って声が聞こえてきますが、海空はシステム化されたハイテク兵器ですので邪魔なだけです。それどころか教育に回す人材・機材すら不足するでしょう。
※「徴兵制はあるのか」(2019/02/26)に他の要素については書いています。
余談ですが戦闘機の独自開発なんて我が国には無理です。そんな技術力はありません。民間機のMRJでさえ何年かかっても飛ばないじゃないですか。前回テーマのUS-2はUS-1Aという下敷きがあったし、F-2はF-16というベースがあった。F-15導入時には「侵略兵器だー!」とか言って、「空中給油口を塞げ!」とか、F-35の国際共同開発でさえ参加させなかった左巻きが多いのに、国産戦闘機なんて夢です。ゼロ戦の時代じゃないんですよ。お金も無いし。
かかる予算の試算はいくつかありましたが、現在GDP比1%の防衛費が1.3%~2%になるようです。当然、増税と他の予算カットです。埋蔵金も打ち出の小づちもありませんので。
アメリカと第三国との関係
同盟関係は即応体制が命です。
軍事同盟であっても、有事の際に助けるのが遅れれば既成事実化され対応が後手に回ります。つまり南シナ海や台湾が中国による危機に晒された時、米軍は介入してくれるのか疑わしくなり同盟関係の信頼性が低くなります。
また、ホルムズ海峡やアメリカにとってのシーレーンの維持に艦隊を派遣し任務を果たしたあと、補給・休養で帰港することになりますが、グアムやハワイまで帰らなければなりません。時間とコストが増大します。費用対効果が悪化しますが日本を使えませんので仕方ありません。
当然、「力の空白」が生まれますので、中国は海洋進出、台湾併合、南シナ海の聖域化、第二列島線への進出でハワイがミサイル射程圏内。日本の南西諸島などの占領と既成事実化をコツコツ進めます。日本が独自対応できるまでの軍備を拡大するには10年や20年はかかりますので間に合いません。
それらの結果、アメリカへの不信がアジアで増すことになり覇権国としての地位を失いますが、それで良いんですか?トランプ大統領。
結論
ということで、日米同盟は堅持することが最も安上がり。アメリカにとっても良い事しかありません。駐留経費を増やせ!と言って来たら顔を立てて少し増やせばいい。自国民に自慢してくれること請け合いです。その代わり、地位協定を日本にとってもっと使いやすいようにすることとバーターです。ディール好きなトランプ大統領はこれで大丈夫。
あースッキリ(笑)
救難飛行艇US-2に女性機長が誕生!
女性機長誕生!
US-2救難飛行艇。 海上自衛隊が運用するこの飛行艇に、この度初の女性機長(岡田2等海尉)が誕生しました。素晴らしいことですね。自衛隊の女性進出には目覚ましいものがありますが、この機会に個人的にも大好きなUS-2という飛行艇を振り返りたいと思います。
我が国は飛行艇先進国
我が国の航空機開発は戦後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の命令で途絶えました。その後に少しづつ開発はされてきましたが、一旦途絶えた技術は追いつくのが難しく未だに完全な国産戦闘機の開発はできずにいます。
しかし、飛行艇は違いました。US-2は前身であるUS-1A US-1 PS-1に遡り、さらに戦時中の二式飛行艇(通称:二式大艇)、さらには九七式飛行艇に至ります。
US-2の開発主契約者(プライムメーカー)は新明和工業(兵庫県神戸市)で、その他に三菱重工業や川崎重工業、日本飛行機、富士重工業(現:SUBARU)など大型機の開発経験があるメーカーが加わりました。
新明和工業は戦前、川西航空機というメーカー(兵庫県西宮市)で、その時に開発したのが「九七式飛行艇」「二式飛行艇」や水上戦闘機「強風」、それを陸上機化し局地戦闘機「紫電」となり、さらに「紫電」の問題点を改良し「紫電改」を生みだしました。
それらの設計の多くは菊原静雄氏で、戦後初の国産旅客機YS-11の開発にも関わった人です。この流れを新明和工業は受け継ぎ、戦後も飛行艇(大型機)の開発に関わり続けました。我が国は戦時中、零戦を水上機化した「二式水戦」や専用設計された「強風」など多くの水上機を生みだしましたが、これは広い太平洋の島々に素早く展開し滑走路ができるまでの間の防空を水上戦闘機に依存する必要があったからです。反面、土木力がケタ違いの米軍は滑走路の造成に時間がかからなかったため、水上戦闘機は発達しませんでした。陸上戦が主役のヨーロッパ諸国ではほぼ不要な機種です。
戦時中の航空機設計者では菊原静雄氏の他に、三菱重工業の堀越二郎氏が「零戦」、川崎航空機の土井武夫が「三式戦・飛燕」、中島飛行機の太田稔が「一式戦・隼」、航空研究所の木村秀政氏は周回世界記録を作った「A-26」を設計するなど、航空機の機体設計は当時では世界有数でした。しかしエンジンの開発は遅れを取っています。
US-2は世界一
US-2は世界最高の性能を持つ飛行艇です。波高3mでの離着水が可能で、高度9000m(3万フィート)の高高度で飛行できますが、任務上、怪我人や病人の緊急輸送が想定されるため、荒天を避けて高高度を飛行しても患者に影響が無い様にキャビンを与圧化しています。また4発あるエンジンのプロペラの回転方向を同一として維持コストを抑えていますが、回転トルクによる飛行姿勢の偏りを抑えるためにエンジンの取りつけ角を少し傾けるなど創意工夫が詰まっています。
波高3mという外洋での離着水を実現するために、およそ90km/hという極めて低速での飛行や離着水が可能です。速度が速ければそれに応じて着水時に機体が受ける衝撃は大きくなりますが、艇体部や翼、フロートは上向きの波の衝撃に耐えねばなりません。着水速度が遅いほど衝撃は小さくなり、強度にも余裕が生まれ軽量化が図れます。その為にBLC(境界層制御)と呼ぶ高揚力装置を装備することで大きな揚力を得ています。これらが相まって着水に必要な距離は330m、離水には280mという極端に短いSTOL(短距離離着水)能力があります。
またプロペラが波で叩かれにくくするために両翼のフロートは十分な浮力を確保しつつも軽量化するため炭素複合材を採用、操縦系統も3重系統のFBW(フライバイワイヤ)を採用しコンピュータにより制御され操縦安定性を高めています。
我が国は世界第6位の広いEEZ(排他的経済水域)を持っているため、救難時には遠くまで進出しなければなりません。そのため、航続距離は長大で最大4700kmに及びます。1900km進出し2時間捜索できる行動半径を誇ります。
これによりアクセスできる離島は260以上、さらに離島には僅かな揚陸設備(スロープとエプロン)があれば滑走路は無くてもいいですし、船と違い1000kmを2.5時間で移動できることも大きな魅力です。US-1と合わせて出動回数は1000回を越え、多くの命を救っています。1000名以上の人命を救ってきたUS-2の価格は1機140億円ほど。意外と安い買い物だと思いませんか。
ところで、設計コンセプトが違うので一概には言えませんが、カナダのボンバルディア社の飛行艇(Cl-415)は、US-2の半分程度の小型機ながら離水には800m、航続距離は2400km、波高1.8m。US-2の優秀性が際立ちます。飛行艇を開発している国は、日本、カナダ、ロシアの3か国のみです。
オスプレイと競り合った
開発時にはV-22オスプレイが対抗候補に挙がったこともあるようです。こちらも従来のヘリコプターよりも長大な航続力、速度、30名が搭乗可能などUS-1の後継機としてはまずまずでした。ただし、着水しての救助はできずホバリングしてのピックアップとなり、プロペラのダウンウォッシュ(下降気流)は、対象者次第では問題があると考えられました。結局は新明和工業の熱意とUS-1での実績、V-22オスプレイの開発遅れでUS-2の開発が決まりましたが、US-1から20年以上も開発期間が開いたことは新明和工業にとっては辛かっただろうと思います。技術や思想は伝承されなければ、一旦途切れたらなかなか復活はできません。航空機開発の道を一旦閉ざされた我が国は、MRJもC-2輸送機もP-1対潜哨戒機も苦労の連続。複雑な航空機の開発は継続し続けノウハウを蓄積しないと結局は高価な開発費などに悩まされる事になります。
海外展開できるか
インドがUS-2に興味を示してはいるようで、輸出交渉も行われているようですが、ユニットコストが高く、スムースにはいかないようです。しかし「開かれたインド太平洋」を提唱する我が国としては、インドとの連携を強めるためにも、また初の大型装備品の海外輸出の経験を得るためにも、上手く行って欲しいと思います。インド洋を活動域とするならUS-2はお役に立てます。他にもインドネシア、タイなども興味を示しているようです。さらに山火事などの消火に使えるように消防用に改造するアイデアもあり、コスト低減を図ったUS-3(仮称)の計画もあるようです。我が国の航空技術が人命救助に役立つことを願っています。
命がけの任務
US-2は2015年に5号機が事故で水没し喪失していますが、これは洋上において4発のエンジンのうち1発が波をかぶり出力低下を起こし3発で離水しようとしたものの、失敗し海面に激突してエンジンが脱落したものです。(乗員は全員救助)危険な任務です。
岩国基地に配備されいつ起こるか分からない事態に対処するため、万全の体制で常に待機し、いざとなると長距離を飛行し、レーダー、赤外線、目視などによって米粒のような小さく見える遭難者を発見、荒天の海に着水し救助をおこない、素早く離水し一刻も早く患者や遭難者を搬送する。この任務に命がけで取り組んでいるのが、US-2の開発・製造者とその乗員・整備員たちなのです。心から賛辞を送りたいと思います。
日米同盟の意味
G20直前、トランプ米大統領が「日米同盟は不公平だ」と言ったとマスコミではニュースになっていましたね。相変わらず面白い人ですね。
日米同盟は非対称
確かに、日米同盟は非対称です。アメリカは日本の防衛義務を負いますが、日本は集団的自衛権の範囲を超えての防衛義務は負わず、アメリカ本土どころかハワイが攻撃されていても自衛隊はハワイ防衛ができる訳ではありません。まぁ、トランプ大統領の言うように第三次世界の時に、日本はソニーのテレビを見ているだろうとは思えませんが。湾岸戦争の時はそうでしたが、なんせ世界大戦ですからね・・・・
見落としがちな点
日米安保はその点では非対称ですが、この条約によってアメリカは日本に基地を置き、日本の予算も費やして維持しています。
そもそもこの条約のカタチを決めたのは、日本の再軍備を自由にさせないようにコントロールしようとした結果であり、またアメリカが太平洋~インド洋、対ソ連・対中国などの共産主義国家などに対応するために日本に軍事力を置く必要があったためです。日本はお蔭で戦後復興が進みました。
地理的に重要な日本
最強の海軍と言われるアメリカ第七艦隊は、遠くインド洋までを任務地としており、その範囲は広大です。
艦隊には母港やドック、乗員の休息地などが必要ですが、日本はアメリカ本土~インド洋においてちょうど良い位置にあるうえ、かつての帝国海軍の名残もあって、巨大なドック、親米的な国民、高い技術と造船能力、本土以外では最大の燃料や弾薬の貯蔵量があります。
勿論ペルシャ湾、東シナ海、南シナ海、それらのシーレーンに戦力投射をおこなうには、日本はアメリカにとって好都合なのです。ハッキリ言いますが、日本が無ければアメリカの覇道は成立しません。
対中国にとっても
また近年中国の軍事的脅威が高まっていますが、アメリカにとって核抑止力を確保するには、中国の戦略原潜(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を遠ざける必要があります。今のところ、中国の戦略原潜はソ連時代の旧型を数隻保有しており、搭載ミサイルの射程距離もそれほど長くはありません。
この貴重な報復能力によってアメリカ本土・ハワイなどを核攻撃(報復)するなら、日本海や沖縄などの第一列島線を超えて進出しなければなりませんが、このラインは世界一とされる海上自衛隊の対潜哨戒能力によって監視されています。
もし、危険な兆候があった場合は、旧型で大柄な戦略原潜を見つける事は容易であり、ミサイル発射の為に潜望鏡深度まで浮上すれば、追跡していた自衛隊からの連絡を受けた米軍に即座に撃沈されることになります。
逆に言うと中国はアメリカに対して軍事的恫喝をおこなう為には、海自のディフェンスラインを突破しなければなりません。
日米同盟によって自衛隊は掃海、哨戒に注力できるので米軍の負担は相当に軽減されているはずです。
この点でも日米同盟はアメリカにとっても必要なのです。
本音は違う
今回の発言は日米同盟は日本にとって死活的に重要な同盟関係だが、アメリカにとっては、重要ではあるが死活的ではないと受け取るべきだと思います。
アメリカは覇権を握れなくはなるが、すぐに滅亡する訳ではありませんが、日本は中国・ロシア・北朝鮮に囲まれており、韓国も旗色は分かりませんし、狭い国土は縦深性が無いため、海という防衛ラインを突破されれば、まさに死活問題です。
NATOなどと比べても多くの駐留経費を負担している点は、トランプ大統領も評価しているところですし、マティス前国防長官も日米同盟の重要性は高く評価していました。軍事専門家はその事はよく判っています。「日米同盟破棄によりアメリカが得るものは何も無い」のです。
日本はアメリカとあらゆる点で深い関係性を持っています。アメリカが日本を守らない時、アメリカは多くを失います。
世界第三位の経済大国の信用、4億ドル以上のアメリカ製防衛装備品購入国、130か所以上の基地や軍事施設、1,200億ドルの貿易相手国、日本企業の雇用する80万人以上のアメリカ人、EU28か国よりもはるかに多い対米直接投資。これら全てがアメリカ経済に影響を及ぼします。
経営者でもあったトランプ大統領がこの事を軽視するはずがなく、来日前のこの発言はもっと対等になるような同盟関係に見直したいとのメッセージかもしれません。もし費用負担が増えるのなら、逆に地位協定をさらに見直すことや、日本の施政下にあるとした尖閣について、日本の領有権を明言させるなどの取引をおこなうなどすればいいだけです。
トランプ大統領は今のところ平和主義者のような振る舞いをしています。過去に例のないほど攻撃性の高い言葉とは裏腹に、実際に戦闘行動を米軍に命令したのは、効果のあやふやなシリアへの巡航ミサイル攻撃くらいのものです。今回のホルムズ海峡でのタンカーへの対処も今までのところ言葉だけの攻撃です。
マスコミは発言をセンセーショナルなものとして取り上げるだけでなく、もっと冷静な報道を望みたいと思います。
アメリカは中国の脅威に対抗する
アメリカは中国の脅威に対抗する事を決意したように思えます。
興味深いレポートが2つあります。
ひとつは、米国国防長官府が出した年次報告書の「米国議会への中華人民共和国に関わる軍事・安全保障上の展開2018」であり、もうひとつはアメリカのシンクタンクである、戦略予算評価センターの提言する新たな戦略「海洋プレッシャー」とその作戦構想「インサイド・アウト防衛」です。
債務の罠
年次報告書には、中国は増大した経済・外交・軍事力の影響力を行使し、一帯一路イニシアチブによって中国資本への依存度を高め、他国の利益を自国の利益とし、中国に対する批判と対抗を抑制しようとしているとしています。まぁ周知の事実なんですが。
オーストラリアのダーウィン港、ギリシャのピレウス港、スリランカのハンバントタ港などの長期(99年)租借権獲得(その他の港湾も巨大投資をしています)や、対北朝鮮の為に韓国が配備した、終末段階高高度地域防衛システム(THAAD)に対して、観光客の禁止など外交的圧力を使ったりしたこと、尖閣に対する常時の接続水域への侵入やパトロール(※1)、南シナ海での領有権争い、インドとの国境争いを問題視しています。(※2)
不法な技術取得
さらに報告書では、軍の再編と近代化を急速に進めるために、必要な外国技術取得に不法な手段を多用しており、民間の合弁企業、学生や研究者の海外経験、産業スパイなども活用し短期的能力向上を目指している。と明確にしています。党と軍、民間は非常に関連が深く、民生用技術の軍事利用も容易であることも問題視。また外国企業への制限を加速する法整備をおこなっていることも書かれています。ファーウェイを巡るカナダ対中国の人質合戦なども記憶に新しいですね。
台湾併合
中国は台湾の軍事力による統一を否定しておらず、その為の軍事オプションがいくつも存在し、それはアメリカの介入を許さず迅速に既成事実化するものである。と警鐘を鳴らし、中国が平和維持軍に注力するのは戦闘経験を積ませることや海外情報収集の為であり、現実に地域最大の軍であり装備の近代化、組織の改編、戦略投射可能な軍への改革を進め、新型の弾道ミサイルを開発し核戦力の強化をしている・・・
この辺で止めておきますが、もう何でもありです。アメリカの焦りが感じられます。アメリカはオバマ政権時に関与政策をとり中国には穏やかに接してきましたが、その間に軍の近代化をすすめ領域を拡大し経済を大きく発展させました。トランプ政権はアメリカの焦りの表れが生んだのかもしれません。
※1
従来は波高2m程度で海が荒れた場合は、中国の海警(沿岸警備隊に相当)は一旦引き上げていたようですが、現在はその程度では引き揚げず、海上保安庁にプレッシャーをかけ続けています。接続水域への侵入は常態化しています。これは主権の存在をアピールするためと、相手の疲弊と状態の慢性化を意図しているのではないでしょうか。次は時々領海侵入を繰り返し、その頻度を上げ、緊張のレベルを引き上げることと、日本側の対応を見極めているのでしょう。
海自ではなく海保、中国海軍ではなく海警。ここは重要な点です。過度に反応せず緊張を適度にコントロールできればいいのです。直ぐに勇ましい右側の方が「撃沈せよ!」とか馬鹿な事を言いますが、口実を相手に与えるような真似はしてはなりません。脅威はコントロールできれば良いのです。
※2
インドと中国に挟まれているブータンでは、中国による一方的な道路延長が行われ、国土の20%が中国に実効支配されているようです。小国で僅かな兵力しか持たないブータンに打つ手はありません。日本との関係を築こうとしているのも、このことがあってのことでしょう。
幸せの国ブータンの人々が平穏でいられるように、中国に対し外交的な圧力はかける必要があるのでしょう。眞子さまが訪問された事を日本のメディアは報じますが、その国の背景は報じない。ジャーナリストってなんなんですかね。
海洋プレッシャーとインサイドアウト防衛
さて、もうひとつのレポート「海洋プレッシャー」と「インサイドアウト防衛」ですが、端的に言うとアメリカは従来とは異なって巨大化し近代化された中国に対抗するための新たな戦略を提言しています。軍事的な解説は省き概要のみ纏めてみます。
既成事実化を阻止する
2014年にロシアがウクライナに対して行ったような迅速な併合は、その既成事実化によって不当な占拠がおこなわれた事実を覆すことができないことを証明しました。我が国の北方領土、竹島のように既成事実化されたものは、なかなか取り返せないのです。
台湾や尖閣諸島に対してそのような行動が行われた時、同様な状況に陥る可能性があります。
そのため、新たな戦略を用いて中国指導部に軍事的試みを諦めさせることを主眼としています。(防衛的・拒否的抑止)
所謂第一列島線(九州~沖縄~台湾~フィリピン~ボルネオ)に大量に分散配置される対艦・対空ミサイルと支援するネットワークを確立すること、第一列島線内側は自衛隊や海兵隊が監視し、外側には艦艇、航空機が控えることでバックアップする。迅速な対応によって既成事実化を防ぎ、懲罰的な軍事行動や封鎖の時間稼ぎをおこなう。
このような事を中国に分からせることで、コストのかかる大規模な紛争へのエスカレーションを防ぐことを目的としています。
ロシアとのINF条約によって、中距離弾道ミサイル、巡航ミサイルの制限があったアメリカと異なり、中国はこの分野では優位に立ってきましたが、INF破棄を決定した今、アメリカはミサイルの射程延伸などを通じて中国に中距離ミサイルに対応するためコストをかけさせることができるようになります。
日本の重要性
このように対中抑止としての方策を提言していますが、文中に「同盟国とパートナー国が・・・」と言う文言が沢山見られます。つまり日本と自衛隊が非常に大きな役割を担うことになりますし、南西諸島の基地化や沖縄の重要性がますます増大することは間違いありません。日米同盟強化と深化は益々重要になってくるのです。
海自潜水艦と陸自の対艦ミサイル部隊はインサイド戦力として、空自の早期警戒網はセンサーノードとして重要な役割を担うことになります。
台湾を併合したら南シナ海は中国の聖域になります。そうなると沖縄~南西諸島は時間の問題。アメリカはグアム・ハワイに退くかもしれません。そうなると我が国の持つ広大なEEZをわがもの顔で利用するでしょう。自衛隊にそれらを排除する戦力はありません。中国のわがままを拒否するためには我が国は非常に重要なプレーヤーです。