海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

アメリカは中国の脅威に対抗する

アメリカは中国の脅威に対抗する事を決意したように思えます。

興味深いレポートが2つあります。

ひとつは、米国国防長官府が出した年次報告書の「米国議会への中華人民共和国に関わる軍事・安全保障上の展開2018」であり、もうひとつはアメリカのシンクタンクである、戦略予算評価センターの提言する新たな戦略「海洋プレッシャー」とその作戦構想「インサイド・アウト防衛」です。

 

債務の罠

年次報告書には、中国は増大した経済・外交・軍事力の影響力を行使し、一帯一路イニシアチブによって中国資本への依存度を高め、他国の利益を自国の利益とし、中国に対する批判と対抗を抑制しようとしているとしています。まぁ周知の事実なんですが。

オーストラリアのダーウィン港、ギリシャピレウス港、スリランカのハンバントタ港などの長期(99年)租借権獲得(その他の港湾も巨大投資をしています)や、対北朝鮮の為に韓国が配備した、終末段階高高度地域防衛システム(THAAD)に対して、観光客の禁止など外交的圧力を使ったりしたこと、尖閣に対する常時の接続水域への侵入やパトロール(※1)南シナ海での領有権争い、インドとの国境争いを問題視しています。(※2)

 

不法な技術取得

さらに報告書では、軍の再編と近代化を急速に進めるために、必要な外国技術取得に不法な手段を多用しており、民間の合弁企業、学生や研究者の海外経験、産業スパイなども活用し短期的能力向上を目指している。と明確にしています。党と軍、民間は非常に関連が深く、民生用技術の軍事利用も容易であることも問題視。また外国企業への制限を加速する法整備をおこなっていることも書かれています。ファーウェイを巡るカナダ対中国の人質合戦なども記憶に新しいですね。

 

台湾併合

中国は台湾の軍事力による統一を否定しておらず、その為の軍事オプションがいくつも存在し、それはアメリカの介入を許さず迅速に既成事実化するものである。と警鐘を鳴らし、中国が平和維持軍に注力するのは戦闘経験を積ませることや海外情報収集の為であり、現実に地域最大の軍であり装備の近代化、組織の改編、戦略投射可能な軍への改革を進め、新型の弾道ミサイルを開発し核戦力の強化をしている・・・

この辺で止めておきますが、もう何でもありです。アメリカの焦りが感じられます。アメリカはオバマ政権時に関与政策をとり中国には穏やかに接してきましたが、その間に軍の近代化をすすめ領域を拡大し経済を大きく発展させました。トランプ政権はアメリカの焦りの表れが生んだのかもしれません。

 

※1

従来は波高2m程度で海が荒れた場合は、中国の海警(沿岸警備隊に相当)は一旦引き上げていたようですが、現在はその程度では引き揚げず、海上保安庁にプレッシャーをかけ続けています。接続水域への侵入は常態化しています。これは主権の存在をアピールするためと、相手の疲弊と状態の慢性化を意図しているのではないでしょうか。次は時々領海侵入を繰り返し、その頻度を上げ、緊張のレベルを引き上げることと、日本側の対応を見極めているのでしょう。

海自ではなく海保、中国海軍ではなく海警。ここは重要な点です。過度に反応せず緊張を適度にコントロールできればいいのです。直ぐに勇ましい右側の方が「撃沈せよ!」とか馬鹿な事を言いますが、口実を相手に与えるような真似はしてはなりません。脅威はコントロールできれば良いのです。

 

※2

インドと中国に挟まれているブータンでは、中国による一方的な道路延長が行われ、国土の20%が中国に実効支配されているようです。小国で僅かな兵力しか持たないブータンに打つ手はありません。日本との関係を築こうとしているのも、このことがあってのことでしょう。

幸せの国ブータンの人々が平穏でいられるように、中国に対し外交的な圧力はかける必要があるのでしょう。眞子さまが訪問された事を日本のメディアは報じますが、その国の背景は報じない。ジャーナリストってなんなんですかね。

 

海洋プレッシャーとインサイドアウト防衛

さて、もうひとつのレポート「海洋プレッシャー」と「インサイドアウト防衛」ですが、端的に言うとアメリカは従来とは異なって巨大化し近代化された中国に対抗するための新たな戦略を提言しています。軍事的な解説は省き概要のみ纏めてみます。

 

既成事実化を阻止する

2014年にロシアがウクライナに対して行ったような迅速な併合は、その既成事実化によって不当な占拠がおこなわれた事実を覆すことができないことを証明しました。我が国の北方領土竹島のように既成事実化されたものは、なかなか取り返せないのです。

台湾や尖閣諸島に対してそのような行動が行われた時、同様な状況に陥る可能性があります。

そのため、新たな戦略を用いて中国指導部に軍事的試みを諦めさせることを主眼としています。(防衛的・拒否的抑止)

所謂第一列島線(九州~沖縄~台湾~フィリピン~ボルネオ)に大量に分散配置される対艦・対空ミサイルと支援するネットワークを確立すること、第一列島線内側は自衛隊海兵隊が監視し、外側には艦艇、航空機が控えることでバックアップする。迅速な対応によって既成事実化を防ぎ、懲罰的な軍事行動や封鎖の時間稼ぎをおこなう。

このような事を中国に分からせることで、コストのかかる大規模な紛争へのエスカレーションを防ぐことを目的としています。

ロシアとのINF条約によって、中距離弾道ミサイル巡航ミサイルの制限があったアメリカと異なり、中国はこの分野では優位に立ってきましたが、INF破棄を決定した今、アメリカはミサイルの射程延伸などを通じて中国に中距離ミサイルに対応するためコストをかけさせることができるようになります。

 

日本の重要性

このように対中抑止としての方策を提言していますが、文中に「同盟国とパートナー国が・・・」と言う文言が沢山見られます。つまり日本と自衛隊が非常に大きな役割を担うことになりますし、南西諸島の基地化や沖縄の重要性がますます増大することは間違いありません。日米同盟強化と深化は益々重要になってくるのです。

海自潜水艦と陸自の対艦ミサイル部隊はインサイド戦力として、空自の早期警戒網はセンサーノードとして重要な役割を担うことになります。

 

台湾を併合したら南シナ海は中国の聖域になります。そうなると沖縄~南西諸島は時間の問題。アメリカはグアム・ハワイに退くかもしれません。そうなると我が国の持つ広大なEEZをわがもの顔で利用するでしょう。自衛隊にそれらを排除する戦力はありません。中国のわがままを拒否するためには我が国は非常に重要なプレーヤーです。