海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

アルキメデスの大戦

本日、映画「アルキメデスの大戦」を観てきました。
(ネタバレになってはいないつもりです)

端的に良い映画でした。
フィクションですが、そうであったかもしれないと思わせる良い脚本、田中泯さんの渋い演技、浜辺美波さんの古風な可愛らしさ、ストーリー展開の見事さ。VFXの出来栄えの良さ。

ご覧になられる事をお勧めします。私はDVDを購入して再度みようと思います。

 

さて・・・
8月は6日に広島・9日に長崎に原爆が投下、同日(9日)ソ連が一方的に日ソ不可侵条約を破棄し参戦。
14日にポツダム宣言受諾、15日正午にいわゆる玉音放送
これにより英米に対する組織的戦闘行動は停止されマッカーサーによって攻撃中止命令がだされた。

 

ソ連とは戦闘を継続していた陸軍だったが、玉音放送後にだされた「大陸命1381号」(陸軍への命令書)で、積極的侵攻作戦を中止スベシ、となりました。
翌16日の「大陸命2382号」でようやく即時停戦(自衛戦闘は除く)が発令されました。これから大陸での悲惨な撤退が始まります。

 

正式な終戦は9月2日。アメリカ戦艦ミズーリ艦上での降伏文書調印によります。
しかしソ連は同じ9月2日に歯舞、5日に千島全島を占領しました。20日には樺太で真岡郵便電信局事件が起こり、民間人である電話交換手(女性)がソ連のレイプを恐れて自決、他にも民間人である局員への銃殺や爆殺がおこり悲惨でした。

 

中国共産党軍も日本の関東軍に対して攻撃を続け、8月15日以降年末ごろまでに、3000名ほどの将兵が亡くなりました。

 

8月15日をもって戦闘が終わったと勘違いされている方も多いのでは?実は違うのです。

 

戦争は勝っても負けても悲惨です。人命は失われ経済も国土も荒れる愚行蛮行です。火を見るより明らかです。
しかし理不尽な暴力は今も世界のあちらこちらで行われており、今も止む事はありません。
また、夢や空想で頭上に飛来するミサイルを止められる訳でもありません。
それゆえ安全保障論が今でも研究され続けているのです。平和を希求するが故です。

 

この時期になると、相変わらず騒ぐ人も多いですが、8月15日はこころ穏やかに迎え、亡くなられた310万柱の霊に哀悼の誠を捧げたいと思います。

日米同盟の意味(続編)

6月27日にアップしました「日米同盟の意味」の続編です。

 

前回、「日米同盟は双務性がある。トランプ大統領の言う不公平であるという指摘はあたらない」といくつか理由を述べさせてもらいました。

また、安全を守るジレンマ「同盟のジレンマ」(2017/10/09)に少し詳しく書きましたが、同盟には見捨てられる恐れが常にあります。

自主防衛ができない構造の我が国は常にこれにさらされていますが、それが表面化したような形になり、マスコミでは大きく報道されました。

マティス前国防長官さえいてくれたら・・・と思いますね。

1期4年・最大8年の任期でアメリカ大統領は変わりますが、8年ごとにコロコロ安全保障政策が変わってしまうようでは、世界の覇権国の地位は維持できるはずもなく、そのあたりは米議員・閣僚・軍は認識しているでしょう。あの民主党オバマ政権でさえ日米同盟は堅持したのですから。

しかし日米同盟が永遠に不滅であるという保証もなく、今後どうなるのかは我が国でもしっかり考えて準備はしておく必要はあるでしょう。思考停止は最も危険です。

さて、今回は現状でアメリカは同盟を破棄した場合どうなるのかを考えようと思います。(多少の毒舌バージョンでお送りします)

日米同盟破棄となると・・・

 

基地返却

日本は在日米軍の撤退を要求します。安保条約第6条には「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」とありますので、駐留の根拠が無くなり撤退を要求することになります。

撤退すると基地は不要です。基地が無くなるとは米軍人も帰還することになるか、他の基地に移動するしかありませんが、在日米軍5万人。簡単に移動ってできると思いますか。米軍は配置に苦労することになるでしょうが、知ったこっちゃありません。

それに伴い、米軍基地で働いていた多数の日本人と食料など物資の納入業者なども仕事が無くなります。5万人の米軍人相手の商売は成り立たなくなります。飲み屋からレジャー施設までなにもかもです。「基地よ出ていけー!」派の人に聞きますけど、倒産・失業増えますね。米軍人と結婚した日本女性沢山いますけど。どうしますか?

 

核の傘

そもそもあるかどうかわからない「ハッタリの核の傘」ですが、一応多少の安心には役立ってはいるようです。核保有国に囲まれつつも核の恫喝を受けた事がほぼ無い事や、核保有国同士の正面戦争が起きていないことがその証明です。

しかし正真正銘「核の傘」は無くなりますので、日本は周辺国の核の脅威におびえる事になります。そうなると「核武装論」が勢いを増すでしょう。日本にとって核保有はハードルが高いですが、アメリカのコントロールできない核保有国の登場もあり得るシナリオが。

国際的な締め付けがあっても、もし、中露北朝鮮から僅かでも威嚇されれば「見捨てられた日本」は「アメリカのせい」にして核武装を進める世論が強くなります。世論は民主主義の根幹です。核保有という選択をしても手続きに不備がなければOKです。また核不拡散条約(NPT)があっても、日本が核保有するかもしれないとなると、アジアに核保有論が拡がりかねません。日本が核拡散の先べんをつける事になってもいいんですか?自国の原発でさえ騒ぐのに。

 

予算

在日米軍関係経費(平成31年度予算)で総額およそ5,823億円と巨額の予算が必要なくなります。突然無くなる訳では無いですが、撤退となると施設の土地を提供している地主に借地料が入らなくなりますし、漁業補償も騒音対策の費用も貰えなくなりますが、そのお金も元々は日本政府が支出しています。(間接的に個人・団体へ税金を投入していた)このお金は他に回せますが、米軍の穴埋めに使うことになるでしょう。ただし米軍の穴は巨大です。この額では全く不足していますので、防衛費増額は間違いありません。それでいいんですか?

 

装備品

海兵隊もいないので独自で島嶼防衛しなければなりません。輸送艦揚陸艦、補給艦などの補助艦艇が全く不足なので増備。さらには電子戦機や早期警戒機、空中給油機、現場の航空優勢確保の為の空母や強襲揚陸艦、艦隊護衛のためのイージス艦や潜水艦、それらを常時運用できるように最低でも3個護衛隊群(空母込み)を追加。なんなら広大なEEZの監視に原子力潜水艦も。将来の核報復能力確保の為には実績は必要でしょう。

弾道ミサイル防衛のための早期警戒衛星の増備、イージスアショアやTHAADミサイル導入、指揮命令システムなどへのサイバー攻撃対応能力の確保など。反対にアメリカに気を使う事無くEU諸国の兵器も買えますが。それらの配備場所には在日米軍基地の後がいいでしょう。あれ?米軍が出ていっても基地は全部は返ってきませんね。

ホルムズ海峡、マラッカ海峡などのチョークポイントのシーレーン防衛は我が国とっても死活問題。そのためのアセットと法整備、なんなら憲法改正しないと、石油入らなくなりますよ。護憲派の方々はどう思いますか?

もう目白押しです。ミリタリーマニアにはたまらない展開かもしれませんが、自衛隊にはそんなに人がいないのでリクルートに苦労することになります。「徴兵制になる!」って声が聞こえてきますが、海空はシステム化されたハイテク兵器ですので邪魔なだけです。それどころか教育に回す人材・機材すら不足するでしょう。

※「徴兵制はあるのか」(2019/02/26)に他の要素については書いています。

余談ですが戦闘機の独自開発なんて我が国には無理です。そんな技術力はありません。民間機のMRJでさえ何年かかっても飛ばないじゃないですか。前回テーマのUS-2はUS-1Aという下敷きがあったし、F-2はF-16というベースがあった。F-15導入時には「侵略兵器だー!」とか言って、「空中給油口を塞げ!」とか、F-35の国際共同開発でさえ参加させなかった左巻きが多いのに、国産戦闘機なんて夢です。ゼロ戦の時代じゃないんですよ。お金も無いし。

かかる予算の試算はいくつかありましたが、現在GDP比1%の防衛費が1.3%~2%になるようです。当然、増税と他の予算カットです。埋蔵金も打ち出の小づちもありませんので。

 

アメリカと第三国との関係

同盟関係は即応体制が命です。

軍事同盟であっても、有事の際に助けるのが遅れれば既成事実化され対応が後手に回ります。つまり南シナ海や台湾が中国による危機に晒された時、米軍は介入してくれるのか疑わしくなり同盟関係の信頼性が低くなります。

また、ホルムズ海峡やアメリカにとってのシーレーンの維持に艦隊を派遣し任務を果たしたあと、補給・休養で帰港することになりますが、グアムやハワイまで帰らなければなりません。時間とコストが増大します。費用対効果が悪化しますが日本を使えませんので仕方ありません。

当然、「力の空白」が生まれますので、中国は海洋進出、台湾併合、南シナ海の聖域化、第二列島線への進出でハワイがミサイル射程圏内。日本の南西諸島などの占領と既成事実化をコツコツ進めます。日本が独自対応できるまでの軍備を拡大するには10年や20年はかかりますので間に合いません。

それらの結果、アメリカへの不信がアジアで増すことになり覇権国としての地位を失いますが、それで良いんですか?トランプ大統領

 

結論

ということで、日米同盟は堅持することが最も安上がり。アメリカにとっても良い事しかありません。駐留経費を増やせ!と言って来たら顔を立てて少し増やせばいい。自国民に自慢してくれること請け合いです。その代わり、地位協定を日本にとってもっと使いやすいようにすることとバーターです。ディール好きなトランプ大統領はこれで大丈夫。 

 

あースッキリ(笑)

救難飛行艇US-2に女性機長が誕生!

女性機長誕生!

US-2救難飛行艇。 海上自衛隊が運用するこの飛行艇に、この度初の女性機長(岡田2等海尉)が誕生しました。素晴らしいことですね。自衛隊の女性進出には目覚ましいものがありますが、この機会に個人的にも大好きなUS-2という飛行艇を振り返りたいと思います。

 

我が国は飛行艇先進国

我が国の航空機開発は戦後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の命令で途絶えました。その後に少しづつ開発はされてきましたが、一旦途絶えた技術は追いつくのが難しく未だに完全な国産戦闘機の開発はできずにいます。

しかし、飛行艇は違いました。US-2は前身であるUS-1A US-1 PS-1に遡り、さらに戦時中の二式飛行艇(通称:二式大艇)、さらには九七式飛行艇に至ります。

US-2の開発主契約者(プライムメーカー)は新明和工業兵庫県神戸市)で、その他に三菱重工業川崎重工業、日本飛行機、富士重工業(現:SUBARU)など大型機の開発経験があるメーカーが加わりました。

新明和工業は戦前、川西航空機というメーカー(兵庫県西宮市)で、その時に開発したのが「九七式飛行艇」「二式飛行艇」や水上戦闘機「強風」、それを陸上機化し局地戦闘機紫電」となり、さらに「紫電」の問題点を改良し「紫電改」を生みだしました。

それらの設計の多くは菊原静雄氏で、戦後初の国産旅客機YS-11の開発にも関わった人です。この流れを新明和工業は受け継ぎ、戦後も飛行艇(大型機)の開発に関わり続けました。我が国は戦時中、零戦水上機化した「二式水戦」や専用設計された「強風」など多くの水上機を生みだしましたが、これは広い太平洋の島々に素早く展開し滑走路ができるまでの間の防空を水上戦闘機に依存する必要があったからです。反面、土木力がケタ違いの米軍は滑走路の造成に時間がかからなかったため、水上戦闘機は発達しませんでした。陸上戦が主役のヨーロッパ諸国ではほぼ不要な機種です。

戦時中の航空機設計者では菊原静雄氏の他に、三菱重工業堀越二郎氏が「零戦」、川崎航空機の土井武夫が「三式戦・飛燕」、中島飛行機の太田稔が「一式戦・隼」、航空研究所の木村秀政氏は周回世界記録を作った「A-26」を設計するなど、航空機の機体設計は当時では世界有数でした。しかしエンジンの開発は遅れを取っています。

 

US-2は世界一

US-2は世界最高の性能を持つ飛行艇です。波高3mでの離着水が可能で、高度9000m(3万フィート)の高高度で飛行できますが、任務上、怪我人や病人の緊急輸送が想定されるため、荒天を避けて高高度を飛行しても患者に影響が無い様にキャビンを与圧化しています。また4発あるエンジンのプロペラの回転方向を同一として維持コストを抑えていますが、回転トルクによる飛行姿勢の偏りを抑えるためにエンジンの取りつけ角を少し傾けるなど創意工夫が詰まっています。

 波高3mという外洋での離着水を実現するために、およそ90km/hという極めて低速での飛行や離着水が可能です。速度が速ければそれに応じて着水時に機体が受ける衝撃は大きくなりますが、艇体部や翼、フロートは上向きの波の衝撃に耐えねばなりません。着水速度が遅いほど衝撃は小さくなり、強度にも余裕が生まれ軽量化が図れます。その為にBLC(境界層制御)と呼ぶ高揚力装置を装備することで大きな揚力を得ています。これらが相まって着水に必要な距離は330m、離水には280mという極端に短いSTOL(短距離離着水)能力があります。

 またプロペラが波で叩かれにくくするために両翼のフロートは十分な浮力を確保しつつも軽量化するため炭素複合材を採用、操縦系統も3重系統のFBW(フライバイワイヤ)を採用しコンピュータにより制御され操縦安定性を高めています。

我が国は世界第6位の広いEEZ排他的経済水域)を持っているため、救難時には遠くまで進出しなければなりません。そのため、航続距離は長大で最大4700kmに及びます。1900km進出し2時間捜索できる行動半径を誇ります。

これによりアクセスできる離島は260以上、さらに離島には僅かな揚陸設備(スロープとエプロン)があれば滑走路は無くてもいいですし、船と違い1000kmを2.5時間で移動できることも大きな魅力です。US-1と合わせて出動回数は1000回を越え、多くの命を救っています。1000名以上の人命を救ってきたUS-2の価格は1機140億円ほど。意外と安い買い物だと思いませんか。

ところで、設計コンセプトが違うので一概には言えませんが、カナダのボンバルディア社の飛行艇(Cl-415)は、US-2の半分程度の小型機ながら離水には800m、航続距離は2400km、波高1.8m。US-2の優秀性が際立ちます。飛行艇を開発している国は、日本、カナダ、ロシアの3か国のみです。

 

オスプレイと競り合った

開発時にはV-22オスプレイが対抗候補に挙がったこともあるようです。こちらも従来のヘリコプターよりも長大な航続力、速度、30名が搭乗可能などUS-1の後継機としてはまずまずでした。ただし、着水しての救助はできずホバリングしてのピックアップとなり、プロペラのダウンウォッシュ(下降気流)は、対象者次第では問題があると考えられました。結局は新明和工業の熱意とUS-1での実績、V-22オスプレイの開発遅れでUS-2の開発が決まりましたが、US-1から20年以上も開発期間が開いたことは新明和工業にとっては辛かっただろうと思います。技術や思想は伝承されなければ、一旦途切れたらなかなか復活はできません。航空機開発の道を一旦閉ざされた我が国は、MRJもC-2輸送機もP-1対潜哨戒機も苦労の連続。複雑な航空機の開発は継続し続けノウハウを蓄積しないと結局は高価な開発費などに悩まされる事になります。

 

海外展開できるか 

インドがUS-2に興味を示してはいるようで、輸出交渉も行われているようですが、ユニットコストが高く、スムースにはいかないようです。しかし「開かれたインド太平洋」を提唱する我が国としては、インドとの連携を強めるためにも、また初の大型装備品の海外輸出の経験を得るためにも、上手く行って欲しいと思います。インド洋を活動域とするならUS-2はお役に立てます。他にもインドネシア、タイなども興味を示しているようです。さらに山火事などの消火に使えるように消防用に改造するアイデアもあり、コスト低減を図ったUS-3(仮称)の計画もあるようです。我が国の航空技術が人命救助に役立つことを願っています。

 

命がけの任務

US-2は2015年に5号機が事故で水没し喪失していますが、これは洋上において4発のエンジンのうち1発が波をかぶり出力低下を起こし3発で離水しようとしたものの、失敗し海面に激突してエンジンが脱落したものです。(乗員は全員救助)危険な任務です。

岩国基地に配備されいつ起こるか分からない事態に対処するため、万全の体制で常に待機し、いざとなると長距離を飛行し、レーダー、赤外線、目視などによって米粒のような小さく見える遭難者を発見、荒天の海に着水し救助をおこない、素早く離水し一刻も早く患者や遭難者を搬送する。この任務に命がけで取り組んでいるのが、US-2の開発・製造者とその乗員・整備員たちなのです。心から賛辞を送りたいと思います。

f:id:anzenhoshounobenkyou:20190703143121j:plain

US-2 出典:海上自衛隊HPより

 

日米同盟の意味

G20直前、トランプ米大統領が「日米同盟は不公平だ」と言ったとマスコミではニュースになっていましたね。相変わらず面白い人ですね。

 

日米同盟は非対称

確かに、日米同盟は非対称です。アメリカは日本の防衛義務を負いますが、日本は集団的自衛権の範囲を超えての防衛義務は負わず、アメリカ本土どころかハワイが攻撃されていても自衛隊はハワイ防衛ができる訳ではありません。まぁ、トランプ大統領の言うように第三次世界の時に、日本はソニーのテレビを見ているだろうとは思えませんが。湾岸戦争の時はそうでしたが、なんせ世界大戦ですからね・・・・

 

見落としがちな点

日米安保はその点では非対称ですが、この条約によってアメリカは日本に基地を置き、日本の予算も費やして維持しています。

そもそもこの条約のカタチを決めたのは、日本の再軍備を自由にさせないようにコントロールしようとした結果であり、またアメリカが太平洋~インド洋、対ソ連・対中国などの共産主義国家などに対応するために日本に軍事力を置く必要があったためです。日本はお蔭で戦後復興が進みました。

 

地理的に重要な日本

最強の海軍と言われるアメリカ第七艦隊は、遠くインド洋までを任務地としており、その範囲は広大です。

艦隊には母港やドック、乗員の休息地などが必要ですが、日本はアメリカ本土~インド洋においてちょうど良い位置にあるうえ、かつての帝国海軍の名残もあって、巨大なドック、親米的な国民、高い技術と造船能力、本土以外では最大の燃料や弾薬の貯蔵量があります。

勿論ペルシャ湾東シナ海南シナ海、それらのシーレーンに戦力投射をおこなうには、日本はアメリカにとって好都合なのです。ハッキリ言いますが、日本が無ければアメリカの覇道は成立しません。

 

対中国にとっても

また近年中国の軍事的脅威が高まっていますが、アメリカにとって核抑止力を確保するには、中国の戦略原潜弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を遠ざける必要があります。今のところ、中国の戦略原潜ソ連時代の旧型を数隻保有しており、搭載ミサイルの射程距離もそれほど長くはありません。

この貴重な報復能力によってアメリカ本土・ハワイなどを核攻撃(報復)するなら、日本海や沖縄などの第一列島線を超えて進出しなければなりませんが、このラインは世界一とされる海上自衛隊の対潜哨戒能力によって監視されています。

もし、危険な兆候があった場合は、旧型で大柄な戦略原潜を見つける事は容易であり、ミサイル発射の為に潜望鏡深度まで浮上すれば、追跡していた自衛隊からの連絡を受けた米軍に即座に撃沈されることになります。

逆に言うと中国はアメリカに対して軍事的恫喝をおこなう為には、海自のディフェンスラインを突破しなければなりません。

日米同盟によって自衛隊は掃海、哨戒に注力できるので米軍の負担は相当に軽減されているはずです。

この点でも日米同盟はアメリカにとっても必要なのです。

 

本音は違う

今回の発言は日米同盟は日本にとって死活的に重要な同盟関係だが、アメリカにとっては、重要ではあるが死活的ではないと受け取るべきだと思います。

アメリカは覇権を握れなくはなるが、すぐに滅亡する訳ではありませんが、日本は中国・ロシア・北朝鮮に囲まれており、韓国も旗色は分かりませんし、狭い国土は縦深性が無いため、海という防衛ラインを突破されれば、まさに死活問題です。

NATOなどと比べても多くの駐留経費を負担している点は、トランプ大統領も評価しているところですし、マティス前国防長官も日米同盟の重要性は高く評価していました。軍事専門家はその事はよく判っています。「日米同盟破棄によりアメリカが得るものは何も無い」のです。

日本はアメリカとあらゆる点で深い関係性を持っています。アメリカが日本を守らない時、アメリカは多くを失います。

世界第三位の経済大国の信用、4億ドル以上のアメリカ製防衛装備品購入国、130か所以上の基地や軍事施設、1,200億ドルの貿易相手国、日本企業の雇用する80万人以上のアメリカ人、EU28か国よりもはるかに多い対米直接投資。これら全てがアメリカ経済に影響を及ぼします。

経営者でもあったトランプ大統領がこの事を軽視するはずがなく、来日前のこの発言はもっと対等になるような同盟関係に見直したいとのメッセージかもしれません。もし費用負担が増えるのなら、逆に地位協定をさらに見直すことや、日本の施政下にあるとした尖閣について、日本の領有権を明言させるなどの取引をおこなうなどすればいいだけです。

トランプ大統領は今のところ平和主義者のような振る舞いをしています。過去に例のないほど攻撃性の高い言葉とは裏腹に、実際に戦闘行動を米軍に命令したのは、効果のあやふやなシリアへの巡航ミサイル攻撃くらいのものです。今回のホルムズ海峡でのタンカーへの対処も今までのところ言葉だけの攻撃です。

 

マスコミは発言をセンセーショナルなものとして取り上げるだけでなく、もっと冷静な報道を望みたいと思います。

アメリカは中国の脅威に対抗する

アメリカは中国の脅威に対抗する事を決意したように思えます。

興味深いレポートが2つあります。

ひとつは、米国国防長官府が出した年次報告書の「米国議会への中華人民共和国に関わる軍事・安全保障上の展開2018」であり、もうひとつはアメリカのシンクタンクである、戦略予算評価センターの提言する新たな戦略「海洋プレッシャー」とその作戦構想「インサイド・アウト防衛」です。

 

債務の罠

年次報告書には、中国は増大した経済・外交・軍事力の影響力を行使し、一帯一路イニシアチブによって中国資本への依存度を高め、他国の利益を自国の利益とし、中国に対する批判と対抗を抑制しようとしているとしています。まぁ周知の事実なんですが。

オーストラリアのダーウィン港、ギリシャピレウス港、スリランカのハンバントタ港などの長期(99年)租借権獲得(その他の港湾も巨大投資をしています)や、対北朝鮮の為に韓国が配備した、終末段階高高度地域防衛システム(THAAD)に対して、観光客の禁止など外交的圧力を使ったりしたこと、尖閣に対する常時の接続水域への侵入やパトロール(※1)南シナ海での領有権争い、インドとの国境争いを問題視しています。(※2)

 

不法な技術取得

さらに報告書では、軍の再編と近代化を急速に進めるために、必要な外国技術取得に不法な手段を多用しており、民間の合弁企業、学生や研究者の海外経験、産業スパイなども活用し短期的能力向上を目指している。と明確にしています。党と軍、民間は非常に関連が深く、民生用技術の軍事利用も容易であることも問題視。また外国企業への制限を加速する法整備をおこなっていることも書かれています。ファーウェイを巡るカナダ対中国の人質合戦なども記憶に新しいですね。

 

台湾併合

中国は台湾の軍事力による統一を否定しておらず、その為の軍事オプションがいくつも存在し、それはアメリカの介入を許さず迅速に既成事実化するものである。と警鐘を鳴らし、中国が平和維持軍に注力するのは戦闘経験を積ませることや海外情報収集の為であり、現実に地域最大の軍であり装備の近代化、組織の改編、戦略投射可能な軍への改革を進め、新型の弾道ミサイルを開発し核戦力の強化をしている・・・

この辺で止めておきますが、もう何でもありです。アメリカの焦りが感じられます。アメリカはオバマ政権時に関与政策をとり中国には穏やかに接してきましたが、その間に軍の近代化をすすめ領域を拡大し経済を大きく発展させました。トランプ政権はアメリカの焦りの表れが生んだのかもしれません。

 

※1

従来は波高2m程度で海が荒れた場合は、中国の海警(沿岸警備隊に相当)は一旦引き上げていたようですが、現在はその程度では引き揚げず、海上保安庁にプレッシャーをかけ続けています。接続水域への侵入は常態化しています。これは主権の存在をアピールするためと、相手の疲弊と状態の慢性化を意図しているのではないでしょうか。次は時々領海侵入を繰り返し、その頻度を上げ、緊張のレベルを引き上げることと、日本側の対応を見極めているのでしょう。

海自ではなく海保、中国海軍ではなく海警。ここは重要な点です。過度に反応せず緊張を適度にコントロールできればいいのです。直ぐに勇ましい右側の方が「撃沈せよ!」とか馬鹿な事を言いますが、口実を相手に与えるような真似はしてはなりません。脅威はコントロールできれば良いのです。

 

※2

インドと中国に挟まれているブータンでは、中国による一方的な道路延長が行われ、国土の20%が中国に実効支配されているようです。小国で僅かな兵力しか持たないブータンに打つ手はありません。日本との関係を築こうとしているのも、このことがあってのことでしょう。

幸せの国ブータンの人々が平穏でいられるように、中国に対し外交的な圧力はかける必要があるのでしょう。眞子さまが訪問された事を日本のメディアは報じますが、その国の背景は報じない。ジャーナリストってなんなんですかね。

 

海洋プレッシャーとインサイドアウト防衛

さて、もうひとつのレポート「海洋プレッシャー」と「インサイドアウト防衛」ですが、端的に言うとアメリカは従来とは異なって巨大化し近代化された中国に対抗するための新たな戦略を提言しています。軍事的な解説は省き概要のみ纏めてみます。

 

既成事実化を阻止する

2014年にロシアがウクライナに対して行ったような迅速な併合は、その既成事実化によって不当な占拠がおこなわれた事実を覆すことができないことを証明しました。我が国の北方領土竹島のように既成事実化されたものは、なかなか取り返せないのです。

台湾や尖閣諸島に対してそのような行動が行われた時、同様な状況に陥る可能性があります。

そのため、新たな戦略を用いて中国指導部に軍事的試みを諦めさせることを主眼としています。(防衛的・拒否的抑止)

所謂第一列島線(九州~沖縄~台湾~フィリピン~ボルネオ)に大量に分散配置される対艦・対空ミサイルと支援するネットワークを確立すること、第一列島線内側は自衛隊海兵隊が監視し、外側には艦艇、航空機が控えることでバックアップする。迅速な対応によって既成事実化を防ぎ、懲罰的な軍事行動や封鎖の時間稼ぎをおこなう。

このような事を中国に分からせることで、コストのかかる大規模な紛争へのエスカレーションを防ぐことを目的としています。

ロシアとのINF条約によって、中距離弾道ミサイル巡航ミサイルの制限があったアメリカと異なり、中国はこの分野では優位に立ってきましたが、INF破棄を決定した今、アメリカはミサイルの射程延伸などを通じて中国に中距離ミサイルに対応するためコストをかけさせることができるようになります。

 

日本の重要性

このように対中抑止としての方策を提言していますが、文中に「同盟国とパートナー国が・・・」と言う文言が沢山見られます。つまり日本と自衛隊が非常に大きな役割を担うことになりますし、南西諸島の基地化や沖縄の重要性がますます増大することは間違いありません。日米同盟強化と深化は益々重要になってくるのです。

海自潜水艦と陸自の対艦ミサイル部隊はインサイド戦力として、空自の早期警戒網はセンサーノードとして重要な役割を担うことになります。

 

台湾を併合したら南シナ海は中国の聖域になります。そうなると沖縄~南西諸島は時間の問題。アメリカはグアム・ハワイに退くかもしれません。そうなると我が国の持つ広大なEEZをわがもの顔で利用するでしょう。自衛隊にそれらを排除する戦力はありません。中国のわがままを拒否するためには我が国は非常に重要なプレーヤーです。

「かが」と「加賀」~フネの名前~

先日、日本に国賓として来日したトランプ米大統領

最終日に、海上自衛隊保有する最大のヘリコプター搭載型護衛艦・かが(DDH184)に乗艦しましたが、この「かが」という名称は2代目にあたります。

 

艦名の決め方

艦名には一定の規程があり、この規定の正式名称は海上自衛隊訓令第30号・昭和35年9月24日付の「海上自衛隊の使用する 船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令」によって定められ、機動艦艇(一般的に言う護衛艦)は「海上自衛隊の使用する船舶の名称を選出する標準について(通知)」によって同型艦は同系統のものを用いるとされています。

訓令30号の別表には従来なかったFFMという艦種が載っています。(付則・平成30年4月1日)FFMとは海上自衛隊が新たに調達する新型の艦艇です。

 この訓令に則って1番艦を「いずも」2番艦が「かが」と名付けられているのですが、どちらも律令時代の旧国名出雲国」「加賀国」に由来しています。前級の「ひゅうが」「いせ」も「日向国」「伊勢国」です。

帝国海軍時代にも命名基準はあり、旧国名は「戦艦」に名付けました。「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」などです。

 

初代・加賀

初代「加賀」も実はもともと戦艦として起工され、途中で解体の危機があったものの免れて航空母艦(空母)「加賀」として昭和3年竣工しました。

空母になぜ戦艦の名前がついたのかというと、空母自体が新しい兵器であることもあって、起工時には命名の明確な規定がなかったこと、途中で戦艦から空母へ艦種を変更した事などがその理由です。

 

この「加賀」は当初飛行甲板が3段になっており、今でもマニアには人気ですし、アニメ宇宙戦艦ヤマトの敵役・ガミラスでは3段型空母が登場しています。この3段は不都合が多くてその後に改装を受け1段だけの全通甲板になりましたが、戦艦からの改装が幸いして船体が幅広いため高い安定性と大きな飛行甲板を持つ就役時から戦争の終盤まで海軍最大の空母でした。

上海事変真珠湾攻撃、南方での作戦に従事しましたが、ミッドウェー海戦で戦没しています。

 

海自の「かが」もヘリコプター搭載型護衛艦から、改修をうけて固定翼機(F-35B)搭載可能な艦になる事を考えれば、なんだかゆかりのようなものを感じます。

イージス護衛艦が「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」「あたご」「あしがら」「まや」など、山岳名。旧海軍では重巡洋艦につけられていた名前ですが、まぁ妥当なところでしょうか。

 

人名は使わない

来日時にトランプ米大統領は、在日米軍横須賀基地を訪問し強襲揚陸艦「ワスプ」に乗艦しましたが、その際に横須賀に停泊している修理中のイージス駆逐艦「John S McCaim(仲が悪かった上院議員の名前)」(艦尾に書いてある)のペイントを隠したそうです。

海上自衛隊の艦船には人名は規定されておらず、このような心配はありません。例外的に南極観測船「しらせ」がありますが、建前は日本人初の南極上陸である白瀬中尉由来ではなく、南極の白瀬海岸を由来としたから問題ないとしたとか。いや、そもそも海岸名が人名由来ですから・・・ある意味日本的です。

 

艦内神社 

さて、護衛艦や帝国海軍艦艇の多くは「艦内神社」があります。「加賀」「かが」どちらも石川県白山市の「白山比咩神社」が祀られています。乗員は参拝してるのでしょうね。私も地上からですが航海の無事を祈っています。

軍事力の使い方の分類

「軍事力」と言ってもその使い方がいくつかに分類されています。今回はそのうち「抑止」「強要」を概観します。

多くの研究がされており言葉の定義やその範囲など細かな点では不一致がみられるものの、大まかにはほぼ同じようですが、この分野では2005年にノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリング博士の著作「紛争の戦略」(ゲーム理論を使った研究)が有名です。 これには「力ずく」もあるんですが今回は省きます。

 

以前にも書きましたが、最も研究されており重要なのが「抑止」です。相互のバランスをとって有事に至らないようにするものです。軍事力という強制力をもって現状維持をはかるものです。

これにはおおきく3タイプの分類があります。(線引きが曖昧で厳格に分類できない場合もあります)

 

〇懲罰的抑止・・・「攻められたら反撃するぞ。」

 例えば、核による相互確証破壊。核攻撃するなら核によって反撃するので相手は手を出せない。(暴発されたら世界の破滅)

 日米安全保障条約なども該当しますね。「日本を攻めたらアメリカが反撃するぞ」ですし、今回のトランプ大統領訪問では「アメリカは令和初の国賓として来日し天皇陛下と会談するほど強固な同盟関係だ。だから日米安保は信用性が高いぞ」となり、抑止力を間接的に向上させています。紙切れの約束が何の役に立つんだ?と言う人がいますが、「もしかしたら・・・」が重要なんですよ。

 

〇拒否的抑止・・・「攻めても無駄だぞ。」

 例えば、イージスアショアなどのミサイル防衛システム。ミサイル攻撃してもかたっぱしから迎撃され効果が上がらず無駄になる。コストもかかる。そのうえ攻め手は国際的な非難を浴びるのは必至。

でも拒否的抑止にはお金がかかります。全て想定される事態に対応する装備や人員などはとても賄えるもんじゃありませんし、装備の更新や教育訓練費用も大変です。そのため、脅威度を判定し優先順位をつけて対応します。

過去、米ソ冷戦時代にはソ連の脅威が高かったため、北海道に陸上自衛隊戦車主力が駐屯していましたが、順次整理縮小廃止され、今は対中国に備え、水上艦艇の拡充や水陸機動団の創設など南西諸島防衛に向けた改変がされています。戦車ファンにとっては若干寂しいですが。

 

〇報償的抑止・・・「止めたらご褒美をあげよう」(いやなら武力で・・ゴニョゴニョ・・・)

 例えば、1994年の米朝枠組み合意。核開発の代わりに軽水炉を作ってあげたり、原発が発電できるまで発電用重油を供給してあげようとしました。しかしこれは失敗した好例?です。その間に核開発を極秘に進められてしまいました。

などがあります。

 

それと対のように言われるのが、「強要」と呼ばれるものです。

例えばA国がB国の現状に対し、A国が軍事力を強制力として使用すると脅す威嚇をおこない、B国の現状変更を要求、B国は威嚇されることでやむを得ずA国の要求に従った行動を選択するものです。

一般的に外交交渉とともに併用される手段でありA国の要求を達成するには、B国の行動が必要な場合には効果的な戦略とされています。

ただし軍事力行使や威嚇がどの程度なら「強要」に該当するのかなどは、明確な定義がないようです。

これにも「懲罰的」「拒否的」の2分類があるとされています。

〇懲罰的

B国がおこなう行動で得る利益以上のコストを課すぞとA国が脅すこと。

この場合はB国が課されるコストを受け入れてしまえば、A国はその行動を阻止できない場合があり得ます。そうなった時には、A国は実力行使にでるか諦めるかになってしまいますし、実力行使に出た場合でも、その強度次第ではA国にも相応のコストがかかり損得勘定が難しくなります。

〇拒否的

B国が選択した行動でB国が得る利益を得られないように阻むぞと脅すこと。

これによってB国の行動を変える事を目指します。

 

ざっと見ただけでも武力行使に至る前には多くの戦略が考えられます。

武力行使はどの国にとってもコストがかかるものであり避けるべきものでしょうが、どの線を超えたら武力行使をすると判断するのかは、国家の事情、国際関係、経済、文化、政治などの諸条件が左右しますので、明確な決まった閾値がある訳ではありません。

ですから、平時こそ正確な情報分析、それに基づく適切な軍事力整備、官民それぞれのあらゆる交流や外交努力、経済の深化などあらゆる手段を講じなければなりません。

特に我が国では法、資源の海外依存度の高さ、自衛隊の戦力などにおいても使える手段は限られます。

この点を理解していないと、丸山穂高議員の発言になります。その点で彼は安全保障を語る資格のある議員とは思えませんので、前回「辞職」を求めました。それもクリミアを併合するようなロシア相手に・・・