海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

核の分類

核兵器と一口に言っても様々な分類があります。国際間での交渉上便宜的に分類されている程度で特段に国際的な取り決めがあると言う訳ではありませんが、一般的になっているものをここで整理しておきたいと思います。

当然ですが、核兵器は「弾頭」(核)と運搬手段が組み合わさっています。
ミサイルに搭載すれば核ミサイル、爆弾で爆撃機などで運搬し投下するなら核爆弾というふうに。

運搬手段であるミサイルも、「弾道ミサイル」と「巡航ミサイル」があり、アメリカは巡航ミサイル「トマホーク」に核弾頭を載せていた時代もありました。今はありません。

今回は核の運搬手段として一般的な「弾道ミサイル」の基礎知識です。弾道ミサイルは文字通り、ロケットと同様に打ち上げて弾道コースを飛行し高速度で自由落下させるものです。
このため、命中精度は他のミサイルに比べて低くなっています。巡航ミサイルやSM-3ミサイルのように誤差数センチ~数十センチの精度ではありません。
巡航ミサイルなどは当たるまで制御されるのにたいして、打ち上げ後はミサイルにお任せが基本だからです。ピンポイントで命中しない以上、核弾頭を搭載し周囲を一気に薙ぎ払うのがコンセプトです。

ミサイルの命中精度を表す指標に半数必中界(CEP)というのがあります。
わかり易く言えば、10発撃ったらその半分がどのくらいの範囲に落ちるか?です。ソ連のミサイルは100~200mくらいと言われますが、開発した国よってかなりバラつきがあるようです。
そのことを考えるとやはり弾道ミサイルは核とのセットで運用するのです。

核弾頭はミサイルに搭載する以上、小型化する必要があります。ミサイル弾頭部の容積を超えることはできませんし、重いと飛距離が落ちることになるからです。さらにもっと小型化すると複数の弾頭をミサイルに搭載でき、一発のミサイルで広範囲に攻撃が可能となります。複数の弾頭をそれぞれ誘導できるとすると一発のミサイルで複数の拠点を同時攻撃できることになります。北朝鮮の核開発ではミサイル技術も勿論ですが、核弾頭の小型化が重要なポイントになります。

発射軌道は概ね3種類あります。

(1)ミニマムエナジー軌道・・もっとも効率的に遠くへ飛ばす軌道ですが、高度をとらない為、位置エネルギーが少なく多少落下速度(終末速度)が遅くなります。

(2)ロフテッド軌道・・北朝鮮のミサイル実験で有名になりました。高く打ち上げてその位置エネルギーを使って落下速度をあげます。迎撃が難しくなります。

(3)ディプレスト軌道・・高度を抑え発見されにくくする軌道。あまり使われないか。

もともと大気圏外から一気に落下する弾道ミサイルは非常に高速で迎撃が難しいのです。

この弾道ミサイルにも飛距離に応じて分類があります。

(1)大陸間弾道弾(ICBM) 射程5500km以上(6400kmという場合もあり)
(2)中距離弾道弾(IRBM) 射程2000km~6000kmくらい
(3)準中距離弾道弾(MRBM) 射程800km~2000kmくらい
(4)短距離弾道ミサイル(SRBM) 射程~800kmくらい

発射システムの仕組みも現在はおよそ3種類あります。

(1)固定サイロ・・・地下に埋めた発射筒から打ち上げるもので、大型の弾道ミサイルはこの方式を使っていますが、サイロの場所が特定されるため、先制攻撃の場合は先に狙われます。

(2)移動発射式・・・車輪や軌道(キャタピラ)の違いはありますが、大型車両から発射するもので、北朝鮮の軍事パレードでミサイルを載せていた映像を覚えているでしょうか。

(3)潜水艦・・・勿論潜水艦から発射するものですが、潜水艦なので自分の場所が代わります。見つかりにくい代わりに命中精度は低めになります。また、長期間海中に隠れる必要があるため、通常は原子力潜水艦が使われます。

発射にあたっては、ホットローンチ方式とコールドローンチ方式がります。ホットローンチは、発射筒内でエンジン(モーター)を燃焼させ発射するのですが、燃焼の熱で内部が傷むため再利用ができない場合があります。その為今はコールドローンチという発射方式が主流で、まずは圧縮空気(ガス)などで発射筒の外に送り出し、その直後に点火します。技術的にホットローンチよりやや難しいものです。

燃料は液体燃料式と固体燃料式がありますが、コントロール性や推力は液体燃料式が優れ、運用性は固体燃料式のほうが優れています。

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核の効能

前回、かなりおおざっぱに、核兵器の歩みを取り上げましたが、ではなぜ核兵器(とその運搬手段)はこれほど必要とされているのかということになります。

名目は「抑止」です。核兵器は変わった兵器で「相対性」がありません。どういう事かというと、例えば同性能の大砲があるとします。Aが100発の砲弾を所持しBは10発所持しています。このとき、命中精度が同じとしたら撃ち合うと一般的にはAが勝つと予想されます。
核兵器の場合はこうはなりません。たった1発でも食らえば耐えがたい被害を被ります。ですから数でいうと圧倒的なアメリカでさえ核保有国に対し先制攻撃はしていません。

冷戦時代に定着した考え方に「相互確証破壊」というものがありますが、これは核保有国同士が核戦争に至った時に先制攻撃をされた側が、核攻撃能力を残存させ核による報復を行う。この事で相手側の核による先制攻撃を抑止するものです。米ソ冷戦の時には互いに人類を何度も破滅させる数(オーバーキル)の核兵器を主に3つの手段で保有していました。
手段としては、

(1)射程の長い戦略核として地上発射型大陸間弾道ミサイルICBM)

(2)潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)

(3)戦略爆撃機による核攻撃です。

他に射程の短い戦術核(射程500km以下)を多数保有しています。

冷静時代に西側陣営(NATO)は通常戦力で東側陣営(ワルシャワ条約機構)に及ばないため軍事的脅威を感じ、アメリカの「核の傘」にはいることになります。
特に西ドイツは深刻でした。ベルリンの壁の向こうは東側陣営であるうえ、敗戦によって軍備の制限がされていたからです。初期はICBMは開発されておらず爆撃機によるものでした。

その後にロケット(ミサイル)開発合戦が始まり、ミサイル配備合戦となりました。

もう一つの攻撃手段であるSLBM戦略原潜と呼ばれる大型の原子力潜水艦に装備される弾道ミサイルです。地上が核によって破壊されても海中にいる潜水艦には影響がありません。その潜水艦から反撃を行うのです。

これによっても「相互確証破壊」が成立します。現在は潜水艦の数が削減され発射管には「巡航ミサイル」が搭載される型に改修されているものや、艦体の大きさを活かして対テロ特殊部隊を運ぶタイプもあります。

この「相互確証破壊」のロジックは、相手が理性ある国家などであることが条件です。一度核攻撃を始めてしまったら取り返しがつかないーだからやめておこうーとなるだろうと相手をある意味で「信用」していないとできません。
弱小国や国家体制が破たんしかけた国、テロ組織には通用しない考え方ですし、北朝鮮の例のようにアメリカに通常戦力で劣る国は核をはじめとする大量破壊兵器の誘惑にとりつかれるのです。

一方で「核による破滅は明らかであり、核戦争に至るリスクのある戦争はおきない」とする楽観論があります。反対に「管理者の能力や地理、政治などによっては危険性が高まる」とするものもあります。

我が国は核武装はしていませんが、アメリカの核の傘(拡大抑止)に頼っています。
この核の傘(同盟関係と同じように)については「見捨てられる恐れ」があります。

例えばヨーロッパをロシアが核攻撃した場合に、アメリカは本国が核攻撃される危険を承知でロシアに核の報復をおこなうのか?ということです。
そこでNATO諸国は独自の核装備をする国(イギリスはアメリカから購入・フランス)や核のシェア(ニュークリアシェアリング)によって核抑止を保有する国(ベルギー・オランダ・ドイツ・イタリア)があります。

日本も同様で北朝鮮や中国の核攻撃や威嚇があった場合にアメリカは反撃するのか?が「核武装論」を唱える人の論の一つにもなっています。我が国の現状を考えると「信用するしかない」のが実情ですが先ほどまで書いたことを考えると、不安があるのは理解できます。

ただし、日米同盟はNATO以上にアメリカ本国の安全保障に寄与しているため、日本が裏切られるとNATOもアメリカを信用しなくなり、アメリカの覇権国としての信用は失墜します。
因みにアメリカは日本から追い出されるような事態や、軍事的独立、極端な右傾化を避けようとしています。アメリカにとって日本が非常に重要な位置にあるからです。(ここでは詳しく述べませんが、中国や韓国は兎も角としてもアメリカまでが、我が国の首相の靖国神社参拝を反対する理由のひとつです。)

1946年バーナードブロディというアメリカの国際政治学者が、その論文集「絶対兵器」で「核の時代の軍は勝つことが目的では無く戦争を回避することである」と言い抑止力の維持を課題としています。

日本帝国陸軍石原莞爾関東軍参謀)は最終戦争論とした講演の中で「戦争発達の極限が戦争を不可能にする。例えば戦国時代の終りに日本が統一したのは軍事、主として兵器の進歩の結果であります。 ~中略~ 。もっと徹底的な、一発あたると何万人もがペチャンコにやられるところの、私どもには想像もされないような大威力のものができねはなりません すべてが吹き飛んでしまう……。それぐらいの破壊力のものであろうと思います。 このような決戦兵器を創造して、この惨状にどこまでも堪え得る者が最後の優者であります。 」と言います。

この核の現実を耐えて忍び英知を結集し、また多くの痛みを生みだして、ようやく次の時代が来るのかもしれません。その副作用は尋常ではありませんが、これこそが本来「核」の持つ最大の効能かもしれません。

現在は国家の上位の権力機構は存在せず、ある意味無秩序な時代です。「次の時代」とは「世界政府」が生まれ秩序が保たれる時代のことを言うのかもしれませんが、それは現段階では「夢想」に過ぎないことも理解しておくべきではないかと思います。

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核の年表

もうすぐ日本にとって大切な日がやってきます。そうです。8月6日と9日です。広島と長崎に原爆が投下された日です。勿論人類史上、核攻撃はこの前後にはありません。そこで核について振り返ってみたいと思います。

日本の核保有論も取りざたされますが、その事については2,015年9月7日に纏めました。

今回は核についての年表です。

 

1945年7月 アメリカ人類初の核実験成功

1945年8月 広島・長崎に原爆投下

1949年 ソ連核実験成功

1952年 イギリス核実験(1956年核兵器配備)・・・2020年以降もSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)による核抑止力を維持する方針

1957年 国際原子力機関IAEA)設立

1960年 フランス核実験

1962年 キューバ危機

1964年 中国核実験(ソ連より技術移転)・・・日本を含むアジア向けの中距離、台湾向けの短距離の弾道ミサイルを数多く保有するが、情報開示が不透明なため詳細は不明

1966年 フランス・NATO軍事機構より脱退したため、独自の核抑止力を保持する。

現在は「死活的な国益保護のため核抑止力の保持」を明言

1970年 核不拡散防止条約(NPT)発効 (1995年に無期限延長が決定)

1972年 米ソ・弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM)を締結・・・両国とも十分な書く報復能力の保有によって「相互確証破壊」を成立させるため迎撃ミサイルの開発を制限。(アメリカの脱退によって2002年無効化。)

冷戦期は日本・欧州(NATO)は米の「核の傘」(核による拡大抑止)に入る

1974年 インド核実験(NPT未加盟)

1987年12月 米ソ・中距離核戦力全廃条約(IMF)を締結

1991年 ソ連解体

1993年 北朝鮮NPT脱退宣言(核開発疑惑に反発)

1996年 包括的核実験禁止条約(CTBT)が国連総会で採択(未発効)

1998年 インド・パキスタン核実験

2002年5月 米露・戦略攻撃能力削減に関する条約(SORT)に調印し核の削減が始まる。

2002年 イラン核開発疑惑(イランはNPT加盟国)

2006年 北朝鮮核実験

 

少しづつでも核廃絶に向けた努力は続いており、核戦力は削減されつつあるものの、核の技術は拡大を続けています。また、ある意味で相互信頼に基づいた「核抑止力」は崩壊しつつあるでしょう。テロ組織や破たん国家など、「失うものが無い」国や組織が使う事は十分にあり得ます。

一方、消極的な方法ながら「非核兵器地帯」と呼ばれる地域ぐるみで核兵器の一切を放棄する(開発・保有・使用・威嚇も)条約締結地域もあります。

核は間違いなく「非人道的な兵器」です。戦闘員以外の民間人を攻撃、もしくは人質にとるような行為の兵器です。如何に核を無い世界を作るか。夢物語を語るのでなく現実を見据え乍ら考えたいものです。

 

 

 

「ブレイクスルーとイノベーション」

ブレイクスルーとは、進歩、前進、また一般にそれまで障壁となっていた事象の突破を意味する英単語 。
イノベーションとは物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。 (共にウィキペディアによる)

どちらも言葉にはポジティブな意味があり、多くの方のイメージもそのようなものでしょう。でも物事にはポジとネガがあるのはご承知の通り。一般にはネガのイメージで語られる軍事の世界でも同じ状況があるのです。

「V1飛行爆弾」
今年4月6日に米軍が巡航ミサイルによってシリアの空軍基地を攻撃しましたが、この巡航ミサイルの元を辿ると、ナチスドイツのV1に辿りつきます。当時のナチスドイツの正面の敵はイギリスでした。しかし占領したフランス沿岸部からロンドンを直接攻撃できませんでした。ドイツの各都市をイギリスに爆撃され報復に燃えるナチスドイツはV1(通称:飛行爆弾)を開発します。

これは現代では無人攻撃機ドローンや巡航ミサイルに該当する攻撃兵器です。爆弾に羽根とエンジンを取りつけ無人機化し攻撃するのは「イノベーション」といえるでしょう。
V1は2万発以上発射されイギリス本土に被害を及ぼしましたが、現在のように慣性誘導やGPS誘導が不可能であったため精密攻撃はできませんでした。また、発射器は固定の大型のものは連合国側に発見され爆撃されるため、組み立て式の移動式発射台を開発しました。現在のTEL(移動式発射機)に通じるものがあります。

V2ロケット
そして悪名高いのがV2ロケットです。こちらは現在の弾道ミサイルに相当するもので、技術的なブレイクスルーを多く成し遂げなければできなかった兵器です。アメリカが人類を月に送りこんだアポロ計画を主導した、フォンブラウン博士の開発によるものです。戦争終盤から戦後にかけては米ソがロケット技術者の確保合戦を繰り広げました。

ティーガーⅠ戦車」
知られていないのが、フェルディナント・ポルシェ博士のことです。ポルシェ博士とは、そうあのスポーツカーのポルシェの源流の天才自動車工学者です。フォルクスワーゲン・ビートルや、多くの航空機用エンジンも生みだし戦闘機に採用されています。そしてヒトラーの依頼によってそれまでの4号戦車に代わるティーガー戦車の開発を行っています。

ナチスドイツは1号戦車から4号戦車までドンドンと大型化していきましたが、それでも当時のソ連T-34戦車には対抗できませんでした。そこでさらに大型のティーガー戦車の開発が始まり、ヒトラーのお気に入りだったポルシェ博士にも開発依頼がきたのです。
この開発は試作のみで制式採用とはなりませんでしたが、(採用されたのは競争相手のヘンシェル社)ポルシェ博士のティーガー戦車の駆動方式が画期的でした。通常はディーゼルエンジンを搭載し変速機を介して駆動力を伝えますが、博士はディーゼルエンジンを発電用とし、その電力で駆動輪についているモーターを動かすというものです。
この方式は現在ではニッサンのNOTE e-powerに相当しますね。

「V3 15㎝高圧ポンプ砲」
マイナーですがV3という兵器も存在します。
これはロンドンを直接砲弾で攻撃しようとした巨大な大砲ですが、普通の大砲とは仕組みが大きく異なります。砲弾を長距離飛ばすためには、炸薬(火薬)が大量に必要で砲身内(薬室)で大爆発させてその爆発力を利用することと砲身を長くする必要があるのですが、砲身が長くなると自重でたわむ事や、炸薬の爆発力に薬室が絶えられないなどの問題が発生します。それを解決するため、砲身をいくつもに分けて製造し、(全長150m!)薬室は砲身の途中ごとに側面にいくつも分散して取りつけます。(合計28箇所)そして発射後は砲弾の移動に従って順次薬室内の炸薬に点火し砲弾を加速し撃ちだします。
試射での飛距離は88kmに及んだと言います。実践ではほとんど使われ無かったようですが、アイデアとしてはまさに「イノベーション」なのではないでしょうか。

軍事はカネ食いムシで兵器は使う事がないのに限りますが、天才を生みだしたり、革新的な技術を開発します。近年はその逆で民生品を軍事に流用するなども積極的におこなわれています。

現在、アメリカが開発を進めているのが、レーザー兵器と超電磁砲(レールガン)です。
世の中にイノベーションを起こすきっかけになるのでしょうか。

安全保障について基礎から考えた

今までいろんな個別の事案を取り上げたり、兵器の解説をしたりしてきましたが、基本的な事を押さえておく必要があるなと感じてきました。

集団的自衛権の話題が盛り上がった時、「集団的自衛権」「集団安全保障」の区別がなされていない解説や論調をみかけました。それらを踏まえて基礎の基礎である「安全保障」について概要を纏めてみたいと思います。

「安全保障」は非常に多岐にわたる概念ですが、明確な定義はありません。そこで今回は「国際安全保障」についてその類型を取り上げます。

国際的な関わりを考える時に基礎となるのは「国家」です。ある国が領土や食料や文化をあらゆる脅威から保護され安定している状態が大切です。

この安定的な状態を各国間で保つため利害を調整し脅威の発生を未然に防止し、また発生した場合には協力して懲罰を加えるなど、相互依存によって安全を担保しようとする考え方です。また不安定な国家の存在は安定的な国家の脅威となる場合があります。そのようなときには不安定な国家を安定的な存在にするための行動を行います。

おおまかな類型(システム)としては以下の2型4種類です。

A)覇権モデル

  ・・・支配する大国の力(武力・経済など)の優位により秩序を維持する

 1 帝国的・・・強大な力を持つ国(覇権国)が、他国を服従させるもの

        (冷戦期のソ連が該当)

 2 民主的

  ・・・他国の合意を得て国際システムの安定をはかるもの

        (第二次大戦以降のアメリカがある程度該当)

 

B)勢力均衡モデル

   ・・・武力などの勢力が均衡しており、相互が牽制しあうことで独立を守る

 

 1 双極型・・・巨大な2国による均衡(冷戦期の米ソ)

 

 2 多極型・・・3か国以上の均衡

       (普通はこのようになるが徐々に双極型に収斂するようです)

 

余談ですが。

ドラえもんのいない世界でジャイアンが「覇権モデルでの帝国的」な状態ですが、ドラえもんが現れ「勢力均衡モデル」に変化します。

ドラえもんの世界は実に巧妙に描かれており(作者の藤子不二雄先生が意図したかは判りませんが)ドラえもんの世界は「国際関係」を非常に良く表しており、また同盟関係も集団的自衛権すらもドラえもんの世界で説明ができます。

例えば覇権国であるジャイアンスネ夫がプレゼントをします。このことによりジャイアンのいじめを自らに向けさせないようにしています。(報奨的抑止)

また背後にジャイアンがいるので、スネ夫のび太に対して厳しい態度をとり利益を得ることがあります。これはバンドワゴン(追従)と言い、強国に対抗するのでは無く追従し分け前を得るのです。

これに対抗しのび太ドラえもん(民主的な大国)と「同盟」し、のび太ドラえもんの能力を自らにまで拡大させ抑止力を得ます。(拡大抑止)

この抑止力は同居しているが故に、高い信頼性と即応性に優れています。もしドラえもんが未来の世界に存在し時折のび太の様子を見に来る程度だと、ジャイアンドラえもんが來るまでのび太を苛めて原状回復不能にすることができますが、強力な同盟である「のび太+ドラえもん」に対してはそれもできません。

のび太は道具を貸してもらい覇権国(またはジャイアンスネ夫連合)に対抗します。(集団的自衛権の行使)これにより失った利益(例えばオモチャを取り上げられた)を取り返します。

ジャイアンはもう一度のび太のオモチャを自分のものにしたくても躊躇します。(懲罰的抑止力)

 まぁ、このように例えることが適切かどうかは分かりませんが。ジャイアンは時々頼りになるガキ大将だったりしますし、困った時に助けてあげると「おお!心の友よ!」とか言って感激したります。またいくら強大だといっても、「かぁちゃん」の存在は圧倒的です。現実の世界には「かぁちゃん」がいませんが、例えるならその役割を「国連」が期待されているのでしょう。

本題に戻します。

若い方はあまりご存知ないかも知れませんが、所謂「冷戦」(米ソの対立の時期)は互いに核兵器をつきつけ合い、価値観と社会システムの異なる西側諸国と東側諸国が高い緊張状態にありました。しかし、大国同士の戦争は起きなかったのです。その間に我が国は高度経済成長をし戦後復興を成し遂げました。見かけ上はある程度の「平和」の状態でした。

しかし、覇権国であるソ連の凋落と共にこのシステムは機能しなくなり、反面、覇権国でありながら民主的なアメリカの「自由市場経済と民主主義」が正当性を得て、多くの国に支持される結果となりました。

冷戦のような勢力均衡モデルの状態は崩れると戦争になりやすいものです。勢力が強い側が弱い側を支配しようとしたり、勢力が弱い側が挽回の為にあえて不安定な世界を作りだすこともあるからです。また均衡しているといってもその力関係の測定は非常に難しく見誤る恐れもあります。冷戦終結後、世界は非常に不安定で不確実な状態になっています。

安定した世界の為に多くの研究者が研究分析し、政治は様々なレジームやシステムを生みだしています。相変わらず悲惨な戦争や紛争は絶えませんが、過去の歴史を振り返るかぎりでは確実に良い方向へは進んでいるように思えます。

 

 

不安定化する世界のなかで

Uは現在非常に不安定になっています。

イギリスがEUを離脱しようとしており、移民問題とテロの頻発で大揺れになり、地中海を隔てて北アフリカ、中東からの移民やISやイスラム原理主義の脅威、ロシアのウクライナなどで見られる強行な態度に脅かされています。

これらの脅威に対応する努力は払われていますが、ある国々にとってはロシアは脅威でもある国にとってはさほどでもない場合があり、(アフリカなども同様に)脅威の度合いが異なります。このため一定の負担に対してなかなか合意できないなど、対応に苦慮しているようです。

しかしロシアは「ハイブリッド戦争」と言われる手法をとっているとされ、正規軍を大規模に派遣するのではなく、非正規戦闘員(実態は階級章を外した軍人だったりします)や現地民兵への間接的支援、政治的な扇動、混乱を狙った虚偽情報の流布(ディスインフォメーション)、プロパガンダ、サイバー戦などを駆使し自国に有利な状況を作りだしていると考えられています。

冷戦期にはアメリカがNATO北大西洋条約機構)に深く関与し安全保障に寄与していたのですが、2000年ごろのヨーロッパの安定期に「アジア重視」という名の「経費削減・負担軽減」を行ってきた結果、現在は非常に不安定になっています。

アメリカもトランプ政権の政権運営が不安定であり、また相対的国力が衰退していくなかでは、アメリカの軍事的関与が増大することは望めない現在ではEUは自力対応をすすめなければなりません。

インド洋周辺も穏やかではありません。

多くの石油資源などが通過するこの海域では中国の存在感が際立っています。

以前にも書いたと思いますが、中国の安全保障上のネックであるエネルギー確保とマラッカジレンマ、国内の余剰資本を解消するため、バングラデッシュやパキスタンなどとの関係を深めており、潜水艦の寄港や港湾のインフラ整備、などを推し進めています。いわゆる一帯一路構想です。他にもモルディブスリランカミャンマーなどともインフラ整備などの対外援助を通じて関係を深めようとしています。

今後安全保障上の利害が一致しないインドとのせめぎ合いが激しくなっていくと予想されますし、実際にインドは対抗策をとっています。反面2010年、中国は病院船(自衛隊保有していない)を海賊対処活動として長期間派遣し、国際貢献をアピールしています。

現在までの秩序維持者であるアメリカにとっては、現状維持を変えようとする「挑戦者」

の存在は望ましく無くアメリカとの駆け引きも活発になるでしょう。

我が国は「北朝鮮」によるミサイルの脅威と「中国」による領土的野心という脅威、「韓国」とのいくつかの感情的とも言える摩擦があり、それらには自国だけでは対処できないものも多くあります。米国、EUやインドなどの国々には内向きになられると不都合です。そこで積極的に「国際貢献活動」「インフラ投資」「民間交流」を実施するとともに、国際機関やメディアへのロビー活動の支援、情報管理、利害が一致する国々との経済的、軍事的な交流と協力が必要です。この観点からは我が国の自衛隊が海外に派遣され一定の割合で役割を果たすことは、自国の安全保障に資することに繋がっています。

極東と呼ばれる日本での出来事に関心が高まらないのは、EUはそれどころでは無いという事情もありますし、ドイツ、イギリス、フランスなどは中国との経済的関係も強いため日本の存在感が低くなっています。しかし最近は一部で中国に対する安全保障上の脅威も語られているようです。(EU/グローバル戦略・2016年)

 

米国のミサイル防衛

一連の北朝鮮のミサイル騒ぎで、日本でも注目?されてきている「ミサイル防衛」ですが、同盟国の米国はどうなっているのでしょうか。

米国はソビエト連邦との「冷戦」時代を経て今に至っている訳ですし、日本の防衛も米国に大きく依存しているのは否めないので知っておく必要があると思います。

米国は多層的な防衛をしています。それは国土が広く軍事拠点にはハワイ、グアム、沖縄、横須賀、NATO関連など遠隔地もあり、またミサイル攻撃の脅威と考えている国が、イランやロシア、中国、そして北朝鮮ととても多く、その地理的距離などの条件も大きく変わるからです。

最近ニュースにもよく出てきますのでご存知の方も多い「SM-3」(スタンダードミサイル)や「PAC-3」、韓国に配備もした「THAAD」(終末高高度防衛ミサイル)

、先日実験を行ったGMD(地上配備型ミッドコース防衛)などがあります。

それぞれ特徴があり、極めて多層的なミサイル防空体制を敷いています。

また、「SM-3」は海上配備イージス艦からの運用や、ヨーロッパではルーマニアに地上配備して「イージスアショア」としての運用も行っています。ハワイ、グアム、在日米軍基地には「イージス艦配備のSM-3」と基地配備のPAC-3が対応し、本土へはこのほかの迎撃システムも対応します。

攻撃側の弾道ミサイルは、1.ブーストフェイズ(上昇段階)2.ミッドコースフェイズ(大気圏外慣性飛行段階)3.ターミナルフェイズ(終末段階)を経て目標に着弾させます。それを各種のミサイル&システムで複合的に迎撃し防衛するのです。

迎撃役割としては

GMD=ICBM大陸間弾道ミサイル)~IRBM(中距離弾道ミサイル)を、ミッドコースで迎撃する3段式のミサイル。実験の成功率は良くないようです。本土防衛用で移動できません。配備数は40発ほどで少ないです。

SM-3=現在Block1Bを配備、これを性能向上させ射高もアップしたBlock2Aという新型に更新していきます。イージス艦やイージスアショアからの運用を行います。信頼性は非常に高く配備数も非常に多いです。IRBM(中距離弾道ミサイル)以下のミサイルを中心に対応します。ブーストフェイズの最終段階くらいからミッドコースフェイズの最終段階程度まで幅広く対応します。イージスアショアはばらして再度組み立てすれば他の場所へ設置できます。因みにGoogleMapではハワイ(カウアイ島)にイージスアショア試験施設がアップされていました。

THAAD=終末段階で対応します。移動式の発射器でシステムまるごと移動可能。この段階は敵ミサイルが大気圏に再突入しており、迎撃による放射能や生物・化学兵器の拡散もあり得ますが、高度が高く拡散するうえ、爆破の熱で化学兵器などは焼却されほぼ問題無いとされています。試した人はいませんが。

PAC-3=いわゆるペトリオット。ごく狭い範囲のみの防空能力しかありませんし、SRBM(短距離弾道ミサイル)やMRBM(準中距離弾道ミサイル)の対応です。直撃させて破壊します。

さらに開発中なのが、多数の弾頭に対応する迎撃体の開発もおこなっていますし、多数目標に対しての迎撃実験も実施しています。

これらは全てセンサーノード(地上に設置したレーダー、早期警戒機、衛星など)や通信リンク、射撃管制システム、移動式発射器、電源など多くのシステムと組み合わされて運用されます。ミサイルがあっても他のシステムがなければ使えません。運用にも十分な訓練をおこない習熟する必要があります。

しかも、迎撃専門ですからいくら数があっても、拒否的抑止(やるだけムダ)のカードのひとつに過ぎません。でも米国は多大な開発費、維持費をかけて保有しています。

我が国は国内世論と近隣諸国への配慮から、すこしだけSM-3とPAC-3があるだけです。北朝鮮の脅威度が増してきた今になってTHAAD配備を検討し始めていますが、北朝鮮だけでなく中国も多数の弾道ミサイル、長距離巡航ミサイル保有し、一部の照準は日本と公言したこともあるのに、です。

ミサイルとシステムを導入するにも訓練するにも巨額の予算と時間が必要です。一足飛びに準備できる訳ではありません。我が国の現状はあまりに能天気と言わざるを得ないと思います。

今この時も世界のあちこちで戦争や紛争は絶えません。自国だけ大丈夫と信じ込み、時間を浪費するのは無責任でしかないと思います。