不安定化する世界のなかで
EUは現在非常に不安定になっています。
イギリスがEUを離脱しようとしており、移民問題とテロの頻発で大揺れになり、地中海を隔てて北アフリカ、中東からの移民やISやイスラム原理主義の脅威、ロシアのウクライナなどで見られる強行な態度に脅かされています。
これらの脅威に対応する努力は払われていますが、ある国々にとってはロシアは脅威でもある国にとってはさほどでもない場合があり、(アフリカなども同様に)脅威の度合いが異なります。このため一定の負担に対してなかなか合意できないなど、対応に苦慮しているようです。
しかしロシアは「ハイブリッド戦争」と言われる手法をとっているとされ、正規軍を大規模に派遣するのではなく、非正規戦闘員(実態は階級章を外した軍人だったりします)や現地民兵への間接的支援、政治的な扇動、混乱を狙った虚偽情報の流布(ディスインフォメーション)、プロパガンダ、サイバー戦などを駆使し自国に有利な状況を作りだしていると考えられています。
冷戦期にはアメリカがNATO(北大西洋条約機構)に深く関与し安全保障に寄与していたのですが、2000年ごろのヨーロッパの安定期に「アジア重視」という名の「経費削減・負担軽減」を行ってきた結果、現在は非常に不安定になっています。
アメリカもトランプ政権の政権運営が不安定であり、また相対的国力が衰退していくなかでは、アメリカの軍事的関与が増大することは望めない現在ではEUは自力対応をすすめなければなりません。
インド洋周辺も穏やかではありません。
多くの石油資源などが通過するこの海域では中国の存在感が際立っています。
以前にも書いたと思いますが、中国の安全保障上のネックであるエネルギー確保とマラッカジレンマ、国内の余剰資本を解消するため、バングラデッシュやパキスタンなどとの関係を深めており、潜水艦の寄港や港湾のインフラ整備、などを推し進めています。いわゆる一帯一路構想です。他にもモルディブやスリランカ、ミャンマーなどともインフラ整備などの対外援助を通じて関係を深めようとしています。
今後安全保障上の利害が一致しないインドとのせめぎ合いが激しくなっていくと予想されますし、実際にインドは対抗策をとっています。反面2010年、中国は病院船(自衛隊は保有していない)を海賊対処活動として長期間派遣し、国際貢献をアピールしています。
現在までの秩序維持者であるアメリカにとっては、現状維持を変えようとする「挑戦者」
の存在は望ましく無くアメリカとの駆け引きも活発になるでしょう。
我が国は「北朝鮮」によるミサイルの脅威と「中国」による領土的野心という脅威、「韓国」とのいくつかの感情的とも言える摩擦があり、それらには自国だけでは対処できないものも多くあります。米国、EUやインドなどの国々には内向きになられると不都合です。そこで積極的に「国際貢献活動」「インフラ投資」「民間交流」を実施するとともに、国際機関やメディアへのロビー活動の支援、情報管理、利害が一致する国々との経済的、軍事的な交流と協力が必要です。この観点からは我が国の自衛隊が海外に派遣され一定の割合で役割を果たすことは、自国の安全保障に資することに繋がっています。
極東と呼ばれる日本での出来事に関心が高まらないのは、EUはそれどころでは無いという事情もありますし、ドイツ、イギリス、フランスなどは中国との経済的関係も強いため日本の存在感が低くなっています。しかし最近は一部で中国に対する安全保障上の脅威も語られているようです。(EU/グローバル戦略・2016年)