中所得国の罠を突破した中国
▼ARC-21
15日に日米仏の共同訓練が公開されました。
離島防衛・奪還作戦を念頭にした実践的なものであり、対中抑止を念頭に置いたものです。日本の本土で陸自・米海兵隊・仏陸軍が合同でおこなう初の軍事演習であり、鹿児島沖では3か国海軍に豪海軍も加えた演習(ARC-21)が実施されました。
▼訓練の意義
共同訓練は実戦に際して軍同士の意思決定と連携をスムーズにすることは勿論ですが、軍の行動はすべからく政治的アピールの場でもあるので、 訓練内容、規模、情報公開は適切に判断されます。
ただし、隣国を想定しての訓練であるため、日本は対中配慮から規模を縮小するように各国に要請したようです。
日本はインバウンドでもサプライチェーンにおいても対中依存度が高く過度に刺激したくないのでしょうが、中国共産党系メディアの環球時報では「日本は強硬な姿勢を見せている」と指摘していますので、日本の配慮なんて気にするどころか、中国メディアは共産党の代弁ですから、共産党は日本に警告しているつもりでしょう。
中国外務省の華報道局長は記者会見で、日米仏豪の共同訓練を「油のムダ遣いにすぎない」「いつも中国を口実に軍事行動を強化している」「4カ国の軍事訓練で中国を脅かすことができると思っているのか」 と批判しているので、多国間連携は一定の効果はあるんだろうと思います。今後さらに合同演習や艦艇の寄港などが常態化すれば、フランスはイギリス、オーストラリアとともに準同盟国とみなせるでしょう。
それにしても・・・中国の記者会見と北朝鮮の報道って論調が似てるなぁ・・・
▼フランスも当事国
中国の横暴とも言える海洋進出や領土の主張をこのまま許すと、当事国であるアメリカ、オーストラリアは勿論、インド洋・太平洋に海外領土とそれに伴うEEZ(排他的経済水域)を持ち、多くの自国民が暮らすフランスやイギリスも影響は必至であり、もし日米と中国との軍事衝突があった場合にも影響をうける事になるため、当事者意識が高まってきているのでしょう。
この点は同じ欧州でもドイツとは大きく異なります。
▼人権意識の高いEU
EUは2009年のリスボン条約2条で、「人間の尊厳,自由,民主主義,平等,法の支配の尊重および少数 者に属する人々の権利を含む人権の尊重という価値に基礎を置く」 を謳っており、この点からも中国・ロシアなどの権威主義国とは相いれず、ウイグル族、チベット族に対する中国共産党による深刻な人権侵害や香港での国家安全法などへの非難をしているため、EUの主要国家であるフランスの行動を中国は無視できません。
▼安倍外交の資産
日本は「ルールに基づく国際秩序」を支持しており、同様の価値観を持つ国々と連携を強める事で、地域のパワーバランスを複雑化させ中国の計算を複雑にしておくことは抑止の観点からも重要です。
安倍政権が「地球儀を俯瞰した外交」として「自由で開かれたインド太平洋」を提唱し、共通の価値観外交を進めた結果、欧米との連携が深まりつつありますが、他国が対中国で連携し抑止し国際ルールに従わせようとしているときに、我が国だけが勝手な行動が許される訳ではありません。
経済的影響を極力抑えつつ、自国権益をしっかりと守る意志と行動を示さねば、欧米から見捨てられる日が来ることになります。
▼本気度が試される
自衛隊員の増員、離島防衛に適した部隊配置。スタンドオフミサイルの開発と配備、警戒監視網の整備と潜水艦戦力の充実、F-15戦闘機、F-2戦闘機の退役が始まることに伴う新戦闘機の開発、有事やグレーゾーンの際の国際法や自国の法の整理、海上保安庁の機能強化など予算が必要な案件が山積み。
日米首脳会談で菅総理が約束した防衛努力はこのことを指していますが、予算の確保は容易ではありません。FMS(対外優勝軍事援助)による調達は導入の用意さと引き換えにコスト高になり、兵器の国産化率の低下を招き自国防衛産業の衰退を招いていますので、この見直しも必須でしょう。
防衛産業の生産規模は金額にすれば小さなものですが、すそ野の広い産業ですから。