海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

北朝鮮ミサイル発射に関して

防衛省発表・要約】

本日午前5時58分頃、北朝鮮西岸のスナンから1発の弾道ミサイルを北東方向に発射。午前6時05分頃から07分頃にかけて北海道渡島半島及び襟裳岬の上空を太平洋に向けて通過。

午前6時12分頃、襟裳岬の東約1180kmの太平洋(我が国の排他的経済水域EEZ)外)に落下したものと推定。飛翔距離約2,700km、最高高度約550kmと推定。

 

グアム方面に撃てば「引くに引けない」ことになりかねず、かといって撃たなければ「ビビった」と思われ北朝鮮国内のトップの立場が悪くなる。そこで日本国土を可能な限りかわしつつ、アメリカの戦略的根拠地であるハワイ方向に撃ったのではないでしょうか。全然距離的にはハワイには届きませんし、ちょっと方向も違う。アメリカも反応に困りますね。

それにしても飛距離が短いので失敗の可能性もあります。または、燃料を減らして短くしたか・・・アメリカに近づくほどリスクが高まり北朝鮮には望ましくない。3つに分かれたという情報もありましたし。

高度550kmですから、「ミニマムエナジー」軌道で発射し再突入のデータを取得したと思われます。北朝鮮は低高度ならレーダーで追尾しセンサーデータを取得できるのではないでしょうか。それとも新型?

北朝鮮がなにもコメントしていないので詳しくは分かりません。

この件に関してメディアやネットには多くのコメントが見られましたが、そのなかには「トンデモ」なものもありましたので少し取り上げて纏めておきます。

 

「Jアラート関係」

改めて言いますが、被害を少しでも少なくするためのアラートです。

豪雨の時の避難勧告と同様に「万一に備えて」広範囲に警報を発します。

寝てたのに起こされたなど個人の都合は関係ありません。逃げるより寝てたかった人は兎も角、少しでも安全な場所へ身を隠したい人もいます。個人的な都合でシステム全部を批判するのはわがままでしょう。震災時の教訓を忘れたのでしょうか。

またミサイル発射の失敗などに備え広範囲にアラートを発したのです。飛行中に爆発してバラバラになるかもしれません。政府内ではどのコースに飛んだらどの範囲にアラートを流すかは想定済みのはずですので、発射後間もなくして一定の範囲にアラートを出せたのです。システムの不具合などは訓練などによって精度を上げる性質のもの。

発射直後~ブースト段階では落下点は確定していません。レーダーで軌道を追いながら軌道計算を随時おこないます。弾道頂点付近で落下点がおよそ確定。

しかし発射の確認ができたらおよその方向は分かるので「およその範囲」にアラートを発する事は正しいです。軌道が確定してからだともっと準備時間がなくなります。

 

「逃げられない」

いつでも避難できる場所にいる訳ではありません。そんな事、地震でも同じでしょう。緊急地震速報なんて数秒後に地震来ますよ。少しでも安全な場所へ行けるなら行きましょう。という意味です。建物ないからどうしようもないと愚痴を言っても始まりません。

 

「避難に意味が無い」

あります。実際にイスラエルは民間人の被害を限定しています。韓国も避難訓練しています。日本は戦後そのような事態に遭遇していなかっただけです。

 

「迎撃しないのか」

自衛隊には「破壊処置命令」が出されたままです。

破壊処置命令は、自衛隊法82条3の1落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるとき 」となっていますので、必ず迎撃するというものではありません。

また、見送れば海に落ちるミサイルを不用意に迎撃すると場所によっては国土に破片の落下もありえます。今回の高度なら現有のSM-3BlockⅠAで迎撃がギリ可能でしょうか。

「撃たせない努力が必要だ」

今までも六か国協議、国連決議、経済制裁、日米韓首脳のコメント、ASEANなどの国際会議の場など対話の機会は多くありました。それに応じず強硬姿勢でチキンゲームを行っているのは北朝鮮側です。文句を言うならまずは北朝鮮です。勿論外交努力は続けられるべきもので放棄してはいけません。

 

「領空通過」

550kmといえばISS(国際宇宙ステーション)よりも高い宇宙空間とみなされるので日本上空では領空外ではないでしょうか。でも国連決議違反なので容認できませんが。通告なしのいきなりですし。漁船がいたら?部品が落下したら?確かに不安は尽きませんし腹立たしい。
 

このような事態に備え、自衛隊始め多くの関係者が昼夜を問わず警戒してくれています。メディアやネットでは政府などへ文句を言う人が多いですが、警戒にあたる方々へも思いを馳せ、感謝してほしいと思います。人として。

あ、それからこういった案件の場合には地図は「メルカトル図法」では無く「正距方位図法」でみると位置関係、距離などが理解がしやすいと思います。

こんな記事を読みました。

こんな記事を読みました。 リンクを貼っておきますね。

gendai.ismedia.jpこの記事関しての意見を今回は書く事にしました。

 

BMD対応のこんごう型・現有4隻、あたご型2隻はBMD改修します。これはその通り。

次の二隻は改・あたご型になり、イージスのベースラインすら違ってくる。多分新型になり「あたご型」では無くなると思います。しかしこれは就役はまだまだ数年先。

その頃にもし北朝鮮の攻撃力が今より数段高まっていても過剰と言える?

 

そもそもこの新造する2艦は既定路線。29年度予算に乗るかな?と思っていたくらい。26年3月の27年度中期防衛力整備計画にすでに計画は記載されているんです。
 

また、全8隻が常にオンステージしている訳ではありません。訓練などで日本近海を離れることもあるし、ドックに入ることもある。南西諸島防衛に対応する必要もある。


そして、こんごう型は就役して既に20年ほど。艦齢は古く更新も近づく。通常は25年~30年程度で退役。つまり新型が就役するころには退役が近づく。(艦齢延伸工事はするでしょうけど)また全イージスが弾道ミサイル防衛に当たれる訳では無いでしょう。弾道ミサイル攻撃があるなら、その他の攻撃も考慮に入れて対応することになりますよね。

ひ弱だけど「潜水艦」だとか、漁船で潜入してくるとか、ロシアや中国がこの期に乗じて情報収集しに領海・領空侵犯しにくるとか。


現行のSM-3Block・ⅠAは試験結果は良好でしたよ。ⅡAはこれから実績を積む段階なので批判する以前の問題だと思います。


全弾迎撃できないなら意味が無いと言うが、少しでも被害極限する為の迎撃でしょう。完璧なんてない。多層防衛を敷いて完璧を期す。これは大いに意味がある。と思います。
一発落ちたら無効と言うなら丸腰で全弾着弾しても良いのか。って事に繋がりますよね。それはイヤでしょう?
多数を同時発射された時に、1つのイージスで弾道ミサイル全て対応できない。多数で攻撃するなら多数で迎え撃つしかない。1機のイージスで対応できる弾道ミサイルの数には上限があるでしょう。それ以上の数の場合はそれに応じたイージスが必要でしょう。
その為のイージスであり、アショアであり、PAC-3MSEの導入。
アメリカの押し売り的な事を書いてますが、自国開発なんて時間がかかる。そんなことより在日米軍との連携を考えた時、この選択肢しかない。(しかないのを選択肢とはこれ如何に)SM-3Block2Aは、共同開発で半分くらい国産ですし。

そもそも在日米軍イージス艦が既にあるので、現在でも日本周辺に米海軍のBMD対応艦は8隻ある。(事故っちゃったので2隻減った)でも米海軍はあくまでアメリカのもの。自前で守る気概が無くてどうするんですか。いつまでアメリカをあてにしてるの?アメリカ追従を批判しながらアメリカを頼るんですか?

ここからは記事とは直接関係ないですが。

被害極限の意味からは、避難訓練は決して無駄じゃない。Jアラートも使って訓練してこそ精度があがる。直撃なら家の中だろうが外だろうが同じかもしれないが、離れたところに落ちた時、窓際と屋内では大きく違う。イスラエルなんかはそれで人的被害を少なくしている。弾道ミサイルはCEPがあまり良くない。北朝鮮のはなおさら。原発に直撃させる能力はないし僻地にある原発狙うより少々外れても被害を与えられる「大都市」を狙う。その時に避難訓練が生きる。重傷者100人と80人とでは医療の負担も大きく違う。少しでも被害を受けないようにするのが防衛の意味。100人か80人の中に「あなた」が含まれているのかどうかは関係がない。

同じように10発落ちるのと1発落ちるのとでは全く意味が違う。

そもそも文句を言うなら「北朝鮮」にどうぞ。発端はアッチ。 まぁ、中国もこっちにミサイル向けてるんで渡りに船ですが。(笑)

北朝鮮対応で中国にも対応できる。中国が北朝鮮をどうにかしないからウチはしゃーなしに増勢するんやで。という口実になります。

北の問題が無く防衛費増やしたり、装備の拡充すれば、すぐイチャモンつけてくるから。。。内政干渉じゃわい。(-ω-)/

 

世界中で常に紛争と戦争は起きているのに、日本は長い事戦争してないんで、少し我が身のことと考える切っ掛けになったんじゃないですか?

戦争していないこと自体は素晴らしいんですが、どうも他人事のように受け取る傾向がある気がします。

やる気が無くてもやられる事もあるんです。日本に対しても理不尽な暴力は起きうるんですよ。

=追記=

ある方(経済学者)からこんなコメントを頂きましたので要約しますと・・・

経済学から見てもおかしい点がある。ざっくりいうと「ハンバーガーの売買じゃないんだからFMSによる契約を単純に異様とは言えないのではないか」

そうなんですよね。生活感覚で軍事を語る訳にはいかないんです。

 

取材しているから見えることもあるでしょうが、取材しているから正しい解釈をしているとは限らないでしょう。クローズのブログやFBではなく、記事として広く公開し一般の読者に届けるんですから、誤解が生まれないよう客観的に書いてほしいと思います。

平成30年度概算要求について

メモ代わりに。詳しい事はまだ発表されていないので評価で来ませんという前提付きですが。報道にあったように防衛省が「平成30年度予算案の概算要求」についておよそ5兆2500億円とする方針を決めたそうです。

新鋭イージス艦、3000トン型コンパクト護衛艦、最新の潜水艦、イージスアショア、無人偵察機グローバルホーク、新型弾道弾迎撃ミサイルSM-3Block ⅡA、などを調達するようですね。詳しい事は公式発表のあとに。

さて防衛費はここ数年の緊張の高まりと共に微増を続けてきました。2016年度の実質GDPがおよそ520兆ほどですから、GDP比1%を超えることになるかもしれません。

金額も大きく1%を超えることで反発も多くあるかもしれませんが、GNP比1%に現在は根拠はありません。昔は周辺国に配慮する意味でも政策として1%枠がありましたが、それも撤廃されていますので、「まぁ、みんなが騒ぐといけないからなんとなく守ります」的な感じです。我が国が1%枠に収めていても周辺国は全然気にしていないので、国内事情だけで考えても文句はないでしょう。

過去にも書いてはいますが他はどうなっているでしょうか。(GDP:率)で記載します。

アメリカ 17.9兆ドル 3.3%

中国 10.8兆ドル 1.9%

日本 4.3兆ドル 1.0%

インド 2.2兆ドル 2.5%

韓国 1.4兆ドル 2.7% 

ロシア 1.3兆ドル  5.3%

因みにイスラエルはGDP比10%! 東京都のGDPは1.1兆ドル!東京ってその気になれば韓国並みの軍事国家になれるんですね。

アメリカは総額でここ10年で5%程度減少していますが、中国は額で3倍、平均13%以上の伸びで急増しています。しかも推計はバラバラなうえに内容について一切公表していませんので信ぴょう性は低いですね。

日本は律儀に1%枠と言う過去の遺物的な政策を引きずっていますが、軍事の世界は正直です。ロシア、中国は急増し、北朝鮮と休戦中の韓国は財政規模に対して高額な支出をしています。周辺国(中国・パキスタン)と緊張状態が続くインドですが、空軍力と海軍力を高めており我が国以上の軍事費を支出しています。こちらも印中で一触即発状態ですので目が離せません。インドは核も持っていますので軍事大国と言えるかもしれません。

日本は北朝鮮のミサイルによる脅威、中国による先島諸島への実効支配の意志、ロシアに対する脅威にも対応しなければなりません。実は領空侵犯などの対処のための自衛隊機のスクランブル(緊急発進)については、本年度は現在まで中国は半減、ロシアは増加しています。中国に対しては米軍、英軍による南シナ海への軍事プレゼンスが増大しており、東シナ海は後回しになっているのか、北朝鮮対応で日米をあまり刺激したくないのか、最近は行動が抑制的です。

日本の防衛費は過去最大規模と言っても1%をちょっと超えるだけですし、世界標準では最下層のランクです。自衛隊員の数も充足しておらず、人員の増加も図らなければなりません。身につける装備品すら新しいものになかなか買い替えられないのは国防に従事する人たちに対して失礼だと思います。

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イージスアショアおさらい

日本にも「イージスアショア」導入が決まりました。まさか「THAAD」になるのかな?と思っていましたが、やはり「イージスアショア」でした。

今回は「イージスアショア」のおさらいをしておきます。

イージスアショアはイージス艦に搭載しているイージス武器システムの地上版で、ミサイル迎撃に特化したシステムです。

「イージスアショア」のハードウェア構成(勿論、細かな数字は機密事項ですので、おおよそこれくらいだろうと言われている数値です。仕様書やテストの様子などから推測されているものです)

・SPY-1レーダー

目標をまずは探知しなければどうにもなりません。

フェイズドアレイレーダー(SPY-1)と呼ばれる360度全周を常時見張りながら同時に128目標以上を追尾できるレーダーが受け持ちますが、探知距離は500kmほど。現在開発している新型レーダー(AMDR)は1000km以上らしい(^_^;)

・ミサイルランチャーMk41VLS

ミサイル垂直発射器です。コンテナ式になっておりこのなかに迎撃ミサイルを収納します。コンテナ式のため整備も容易です。

・スタンダードミサイルSM-3

弾道ミサイルを迎撃するためのミサイルです。現在はSM-3 BlockⅠAという型が海自のイージス艦に搭載されています。射程1000km射高500kmほどと言われています。テストは何度も行われており成績はほぼ満点です。新型の開発も進んでおりSM-3 BlockⅡA と呼ばれ射程は2000km射高2000km以上と物凄い性能です。これ以外に電源、冷却システム、射撃管制システム、データリンクシステムなど多くの付随するシステムがあります。


現在開発中のSM-3 BlockⅡAを装備した場合は1基あれば日本中をだいたいカバーしますし、2基あれば複層的にカバーします。同じイージスシステムでミサイルは(BlockⅠA)MD:弾道ミサイル迎撃能力を持ったイージス艦が2隻でカバーできると言われていますので、多分間違いないでしょう。

韓国は「THAAD」を配備しているのに、なぜ防衛省は今回「イージスアショア」の導入を決めたのは以下の理由があるのではと愚考します。

1)海上自衛隊イージス艦で運用実績があるので、ノウハウを蓄積しており作戦運用までスムーズにおこなえる。

2)整備設備、ミサイルなど共通するものが多いので維持費が安価になる可能性がある

3)ミサイル、レーダーの換装、ソフトウェアのアップデートで性能が向上する余地がある

4)イージス艦を前方進出させたり、早期警戒監視レーダーなど配備されているレーダーをセンサーノードとして活用しそれらとデータリンクする事により、実質的なレーダーの探知距離が広がり、イージス艦は監視、迎撃はアショアが受け持つことができ、イージス艦の能力に余裕がでる。このため、海上の他の脅威の監視に穴があかない。

5)常時配備のためイージス艦がドック入りや日本近海にいなくても(数が少なくても)迎撃能力を補完できる。

6)単純に迎撃ミサイルの数が増えるので、対処できる弾道ミサイルの数が増える。

7)SM-6とNIFC-CAも運用できるとあらゆる脅威に対処できるようになる。(NIFC-CAについては4月7日に解説しています)

8)当然ですが運用する人間の数がイージス艦を運用するより少なくすむ。

9)垂直発射器の数を増やせば迎撃数が増える。艦船ではランチャー数以上には増やせないまたランチャー全部にSM-3を搭載する訳にはいかない。

反面デメリットもあります。

1)ゲリラや先制攻撃の的になりやすい。先制攻撃する時はレーダー網を最初に潰します。

2)ばらして組み立てて移動できるらしいのですが、でかいので移動がやっかい。多分動かさないでしょうが。

3)設置場所の選定で揉めそう。青森、鹿児島、佐渡島、函館・・・管轄が空自か陸自か海自のどれになるかも関係しますし。

現在海自にはイージス艦が6艦あり、弾道ミサイル能力を付与されているのは「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」の4艦、「あたご」「あしがら」は改修中。新たに建造する予定の8200トン型イージス護衛艦2隻では初めから最新の弾道ミサイル対処能力が付与されます。

運用はノウハウのある海自が担当するのでしょうか。

海自は「破壊処置命令」が出っ放しで既に多く負担をしていますし、中国に対処するため潜水艦も増勢しています。任務が極めて多く人員の不足が心配されます。メカと違い練度の高い士官や隊員はそう簡単に育成できません。

空自はPAC-3や早期警戒監視レーダー(通称:ガメラレーダーJ/FPS-5)を運用していますが、近年中国による領空侵犯処置でのスクランブルで忙しい。

はたまた弾道ミサイルに直接対処していないが、基地警護能力のある陸自に新たに任務を与えるのか。どうなるんでしょう。防衛省の判断を見守りたいと思います。

 

 

病院船は不要なのか

「病院船」という船をご存知でしょうか。主に海軍によって運用される文字通り「病院機能を持った船」です。写真のように国際的な戦争時の決まりである、ジュネーブ条約によって以下の要件(抜粋)が定められた船のことを言います。
 
あらましは・・・
1.船体は白色 2.赤十字の表示 3.非武装 4.軍事活動の禁止 5.係争国への通知
 
となっており病院船への攻撃は「戦争犯罪」となり禁止されています。
 
アメリカ海軍はタンカーを改修した大型の病院船を2隻保有し西海岸と東海岸に配備しており、米軍の軍事作戦への従事は勿論、ハイチ地震人道支援団体への医療支援活動などを実施し、米国民のみならず捕虜に対しても治療活動を実施して成果をあげています。
 
中国もアメリカほど大型ではないにしろ、高性能な病院船を運用しており、大規模災害発生時は勿論、平時でも島嶼部や医療の不備な地域への派遣など中国の存在感をアピールするためにも運用されています。中国海軍の海外での評価は実は高いのです。
 
さて病院船に必要な機能とはなんでしょうか。
1)災害時に派遣する場合、着岸(波止場へ横づけ)できない場合もあるため、傷病者の搬送に必要なヘリデッキを持つこと。
2)高度な医療機器の装備、入院設備を相応の数が装備されていること。
3)潤沢に淡水を供給できる能力があること
4)荒天時でも動揺を抑えられること
5)長期間の従事になるため居住性がよいこと
 
などがあげられます。この為、高機能で大型の船になり建造費、維持費とも高額になります。
 
日本でも阪神大震災の時に検討が始められましたが、その時は大型輸送艦おおすみ型」の就役など、ある程度に必要な機能を持つことができる艦船の就役、そして自衛隊法改正により「邦人輸送」が可能になった事などから、輸送、宿泊、医療の機能はこれらで対応可能と判断されました。
 
その後東日本大震災が発生し平成24年4月「病院船(災害時多目的)の建造推進、超党派議員連盟」が発足し、5月に政府に要望書を提出しました。
それに基づき、調査費が予算計上され「災害時多目的船(病院船)に関する調査検討報告書」が内閣府・防災担当から提出されました。類型を3型に分類し検討されています。
 
ざっくりと整理してみます。
 
1.総合型病院船・・・急性期~慢性期の医療を総合的に受け持つ。入院機能あり。72時間以内に被災地へ到着し患者はヘリコプター搬送を行う。災害拠点病院の機能を持つ。
 
2.急性期病院船・・・72時間以内に被災地へ到着し患者はヘリコプター搬送を行う。急性期の応急処置を行い、その後に拠点病院へ搬送する。
 
3.慢性期病院船・・・被災地内の病院も被災しているので慢性疾患患者の対応のための機能を持つ。1週間を目途として到着し近辺に着岸し活動する。
 
報告書ではそれぞれについて「医療装備」「船舶装備」「要員数」「費用」について検討し各種諸元を設定しています。隻数は2隻としておりそれらから生じる「問題点・課題・法律上の制約」を整理しています。また代替案についても検討されています。
 
詳細は省きますが、結論としては「建造~運用コストがかさむこと、転用がしにくいこと、オペレーション上の問題が山積していること、人員確保の点でも容易でないこと」
また海外派遣には「海賊船対処」などの問題もあるとして新規導入よりも既存の艦船(民間船・自衛艦など)に医療モジュールを搭載するなどで対応することがいいのではないか。と纏めています。
 
個人的には「病院船」は海外派遣時に派遣先の国に着岸して医療行為をするということは、世界への貢献のみならず、相手国への相当なアピールに繋がり日本の地位を高める一助になると思うのですが。報告書ではそのあたりにはあまり触れておらず、もっぱら内向きな事情が語られています。「島国根性まるだし官僚の報告書」で世界を見ていないと断罪したいくらいです。
 
お金の問題だけに絞って考えると、建造費は最大で350億円、年間維持費は最大20億円(一隻あたり)と見積もっていますが、平成28年度の「政党交付金」の総額がおよそ310億円ですので、建造費は決して高くないと思います。
 
政党交付金は毎年ですが建造費は1回限り。それで国際貢献ができるのです。安い買い物ではないでしょうか・・・
 
写真は米海軍「マーシー級」病院船

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覇権国のプライド

明日は「終戦記念日」です。この時期になると左右両方で騒がしくなりますが、まずは多くの亡くなった方々へ(国籍問わず)安らかにお眠りくださいと祈らずにはおられません。

今年はそれにもまして北朝鮮関係でも直接的に脅威を受けています。

そこで今回はウォールストリートジャーナルに寄稿された、アメリカのティラーソン国務長官マティス国防長官の連名記事を引用して「覇権国としての安全保障とはなにか」を考えたいと思います。

要約すると・・・

1.米朝関係は朝鮮戦争以来で最も緊迫した状態にある。

2.オバマ政権時の「戦略的忍耐」政策、戦略的に責任を追及する政策に変更する

3.アメリカの目的は朝鮮半島の非核化であり体制には興味が無い。

4.中国の長期的利益に不利益であるので中国は役割を果たせ。

5.国連加盟国は安保理決議を順守すべき。

6.アメリカは北朝鮮と交渉する意思がある。

7.韓国へのTHAAD配備は防衛目的であり軍事に精通した中国軍人は理解しているので共産党も理解せよ。

8.北朝鮮に対して中国にさらなる干渉を望む。さもなくば自国の保護のためアジア諸国は防衛能力を高めざるを得ない。

9.中国とロシアは北朝鮮を説得せよ

10.アメリカは、米国土と米国民、同盟国を守り、北東アジアの安全と安定に寄与するための軍備を維持する。アメリカは核兵器が使用されれば圧倒的な力で対処する



まさに言うべきことを言った感じです。

過去にも何度か書きましたが、アメリカは現在「民主的な覇権国」の地位にいます。

この寄稿文の一文に「わが国は外交を通して北朝鮮に方針を改めさせることを優先しているが、その外交は軍事的選択肢に裏打ちされている。 」と言う部分があります。まさに冷厳に現実を反映しているのではないでしょうか。

今回の寄稿文ではっきりしたのは、「半島の非核化」「中露の積極的干渉」「軍事オプション」ですが、日本もいつまでも現実を見ない生活はできない時代になってきています。

第二次安倍政権になってから「自主外交」としての成果は見えてはいますが、まだアメリカほどの言葉を発することはできませんし、まだまだ世界(少なくともアジアの安定)の為に役割を果たせているとは思えません。皆さんはどう考えるのでしょう。

兎にも角にも明日は心静かに祈りたいと思います。

 

(写真は在日米軍ツイッターより)

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広島・長崎

8月5日は核の年表 8/7は核の効能 核兵器の分類と続けてきました。9日は長崎に原爆が投下された日ですが、この期間は核をテーマに纏めてきました。最後になぜアメリカは原爆を使用したのかを読み解きます。

一般的に4つの理由があげられていますが、まずはそれをおさらいしたうえで、掘り下げていきます。

理由1 ソ連の対日参戦に伴い、日本の分割統治を防ぐため(共産主義の成立を防ぐ)
理由2 戦後のパワーバランスをアメリカ主導としたい
理由3 終戦を早め自国の被害を抑えたい
理由4 リメンバー・パールハーバー

などが良く言われますが事実は一つであるとは限りませんし、通説が正しかどうかも分かりません。そこを今回は掘り下げて考えてみます。

ヤルタ会談前にすでに話し合っていた」

1945年ナチスドイツの敗戦間近に伴い開催された「ヤルタ会談」において取り決めた「ヤルタ協定」によって、ドイツの敗戦後3カ月以内にソ連が対日戦に参戦することが決まっており、その条件として「千島列島、南樺太ソ連への帰属」などがあった。となっていますが、実はその前の1943年11月22日にカイロ宣言、11月28日にテヘランですでにソ連の対日参戦は極秘で協議されています。

ソ連を参戦させる理由はどこにあるのでしょうか。アメリカは陸軍の「上陸作戦必至」(アメリカ兵に多大の出血を強いることになる)海軍の「海上封鎖、空襲で十分」(アメリカ側の被害は少なくすむ)でしたが、本土は「封鎖・空襲」でよくても、満州はそうはいきません。ソ連の参戦があれば早期に日本を屈服させられると考えました。

日本の真珠湾攻撃を利用し、プロパガンダによりアメリカ国民を一つに纏め対日戦を行っていたルーズベルト大統領率いるアメリカですが、東洋の島国にまさかこれほど苦戦するとは思ってもいなかったので、早期に戦争を終結させたいのはあったと考えられます。
その為、ルーズベルトスターリンに千島・南樺太・旅順・大連・南満州鉄道の経営までも譲り参戦を取り付けました。しかし、ソ連が南進し日本をドイツのように分割統治する可能性があったため、原爆で降伏を強要した。と通説ではなっています。

ヤルタ会談の時期に日本はすでに、レイテ沖海戦で敗北しペリリュー島守備隊玉砕、マニラで米軍が市街戦に突入など、一方的な状況でした。しかし地上戦が多く米軍の被害も相当なものであったのは確かです。
本来のソ連の参戦予定は8月11日、アメリカの原爆投下を知り慌てて8月9日に参戦(極東ソ連軍総司令部に命令)しました。

「原爆関連開発は真珠湾より先」

1939年には核分裂の連鎖反応でエネルギ―が放出されることはわかっており、1940年5月には全米科学アカデミーは「原爆の製造は4~5年で可能」と報告しています。
実際にアメリカの原爆開発が始まったのは1941年12月6日(議会で予算が通過)で、日本の真珠湾攻撃よりも前です。

そして当時の原爆は数トンの大型と想定されていたため、運搬手段として大型爆撃機が必要とされ、大型長距離爆撃機(後のB-29)の開発が指示(設計の要求書)されたのは1940年1月、初飛行は1942年9月です。巨額の予算を必要とする巨大爆撃機を4000機ほど生産(予算では9000機)しましたが、対ナチスドイツだけで使用するより日本も相手としたほうが議会も承認しやすいでしょう。

「日本は既に疲弊していた」

また、戦争末期には米海軍は機雷によってあらゆる海域・港湾で「海上封鎖」しており、日本本土は国内での物流すらままならず(道路網が今とは比べ物にならない)、そのうえ5万人以上の人口のある都市はほぼ全て爆撃されています。その爆薬の投射量は2発の原爆と同程度あり、日本の防空能力はすでに無いに等しい状態でした。

しかし初めから候補地としてリストアップされていた4都市「広島・長崎・小倉・新潟」には爆撃しておらず(但し長崎は三菱の軍需工場がありそこは爆撃されています)当初から使うつもりであったのではないかと思います。空襲によって日本は疲弊しきっており、4月には終戦工作を始めているにもかかわらずです。

原爆は3発完成しており、1発は実験で残りは2発。爆撃条件(地理・気象など)も設定されているうえ、残った2発は「ガンバレル型」と「爆縮型」でタイプが違うのも実験的な意味があります。

「分割統治論」はなぜ生まれたか

アメリカはソ連の太平洋への海洋進出を抑えたいため、日本本土(北海道)の占領は絶対に阻止しなければならなかったのですが、広い北海道の占領には相当の日数がかかる事が予想されます。
ソ連の参戦日は分かっているので、それまでに降伏条件の緩和によって降伏を早めることや、夜間に東京湾上空、(それも高度を十分とって)爆発させれば十分に日本への威嚇効果、ソ連への示威行為として効果があったのではないでしょうか。この案は実際に開発者が提言しているようです。
それを無視しあえて2発も使用していることからも「分割統治論」も要因、もしくは後付け理由かもしれません。

「爆撃ありき」

また、爆撃目標を設定するにあたって提示された条件が、
1・B-29の航続範囲内
2・爆撃効果判定ができる場所
3・天候が良いことが予想される場所
4・爆撃不可能だった場合の代替地の選定
5・日本国民に衝撃をあたえ戦争終結を早める効果をあげる 6・士気をくじくこと
となっていますので、やはり爆撃ありきのように感じます。

さらに条件として半径1.6kmに建物が密集していること、軍事施設があること、爆撃の影響をうけていないこと などがありますので、やはり試験的な要素が強いように思えます。

プロパガンダ

リメンバーパールハーバーとして真珠湾を奇襲されたことへの復讐という通説もありますが、これはまさに対日参戦のためのプロパガンタです。
日本は軍事基地を攻撃しただけで、民間人の多く住む都市まるごと焼き払われる理由としては通用しないでしょう。
真珠湾奇襲は大使館の手違いで通告が遅れたのですが、アメリカ自身も他の戦争では奇襲攻撃をしています。しかし、真珠湾攻撃は米国民にとっては忘れがたい事実。それを上手く政権が利用したのではないでしょうか。
なんといっても黒船で日本を開国させたと思ったら、太平洋艦隊の戦艦をごっそり沈められたのですから。

つまり「通説」はそれぞれ 一要素として考えるくらいではないでしょうか。それよりもアメリカ市民が原爆の惨状を知った時、「自国兵士の被害を最小限に抑えるためだ」「共産主義の台頭を防ぐためだ」としておいたほうが、国内対策としても望ましい結果を生むでしょう。

そもそもアメリカはナチスドイツのユダヤ人虐殺を「ホロコースト」と称して激しく非難しています。その一方で都市を無差別爆撃し(日独問わず)、大量の一般市民を殺すのですから、その行為を正当化できる理由が必要です。
また、ドイツ系アメリカ人やイタリア系アメリカ人はアメリカ人として兵役にもついていますが、アフリカ系は危険な最前線へ送られ、日系アメリカ人の多くは強制収容初に収容し、資産凍結もされています。人種差別的な考えがあったのは否定できないところでしょう。

「政権のために」

ルーズベルトの急死に伴い、急きょ大統領になったトルーマンは政権基盤が弱く、次の選挙で当選しなければなりません。その為には国民が「そうだ。正しい判断だ」と思える理由が必要だったのかもしれません。
日本に対しては戦後の占領政策をスムーズに進めるため、アメリカを正義の味方とし、日本国民は指導者と軍部に騙された被害者としておく必要があります。こうしないと、内戦や一部の抗戦派が抵抗したりして占領統治が難しくなります。また反米に傾くと共産主義に走るかもしれません。それは絶対に避けなければなりません。

これらを考えていくと、日本人相手の新兵器の実験が主目的では無かったのかと思えます。どのような兵器であれテストされますが、実践で使う事でその威力と効果が証明できます。原爆もその延長線上ではなかったのか。とも考えられます。

しかし、兎も角オバマ大統領は広島を訪問し、安倍総理真珠湾を訪問したのです。誤った認識は正さなければなりませんが、今はよりよい世界に向けて進む努力をしたいと思います。