海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

新鋭機岩国配備

前回名前がでた「E-2D」と「F-35B」について説明しようと思います。

在日米軍岩国基地(米海兵隊岩国航空基地)に新たに配備された機材として、
(1)早期警戒機E-2D・アドバンスドホークアイ 
(2)最新鋭ステルス戦闘機F-35B
があります。

まずは「早期警戒機E-2D・アドバンスドホークアイ」という飛行機ですが、これは高性能なレーダーを載せて長時間高空を飛行し地上目標・航空機・巡航ミサイル・弾道ミサイルなどを全て監視する飛行機です。
またステルス機も探知可能とされるレーダーも装備しており、まさに鷹の目です。

発見した脅威についての情報は即座に米軍基地・航空機・艦船などに共有され、戦闘機の指揮管制もおこないます。(CEC・共同交戦能力)
監視能力としては沖縄あたりの位置から海上目標は台湾あたりまで、空中目標に対しては中国沿岸部まで監視できると言われます。

またNIFC-CA(ニフカ・海軍統合火器管制-対空)という新たなシステムの運用の中心となります。
米軍はこの機体を「デジタル・クオーターバック」と呼び、アメフトの司令塔であるクオーターバックに例えています。

※NIFC-CAについてはここでは詳しく書きませんが、もの凄いシステムです。

次にステルス戦闘機F-35ですが、(愛称はライトニングⅡだったような・・・言いにくいなぁ。ラプターとかイーグルとか言いやすいし猛禽でカッコいいのに)

A型(基本形)B型(短距離&垂直離着陸型)C型(艦載機型)があり、高いステルス性、高性能レーダー、多種多様なセンサー類、高速なデータ通信機能を持つ新鋭機です。

開発時は「統合打撃戦闘機計画」の略称であるJSFと呼ばれていました。探知されない距離からミサイルを発射し攻撃でき、360度全周を見渡せるセンサーを備えています。この能力を活かして前方に展開しNIFC-CAのセンサーノードとしても期待されています。

ざっくりいうと、NIFC-CAとは、この2機種と最新のイージス戦闘システム搭載艦、SM-6などを組み合わせて、見通し線外(水平線の向こう)からの巡航ミサイルの攻撃、飽和攻撃に対処することになります。CEC(共同交戦能力)、イージスBMD、THAAD、SM-3ブロックⅡAその他多くのシステム、兵器を組み合わせて増大する脅威に対応します。(お金も時間もかかります)

自衛隊ではF-35AとE-2Dを航空自衛隊が導入し、海上自衛隊では最新のイージスシステムとイージスBMDを改修や新造艦で対応することにしています。
戦力化にはまだ数年かかりますので、その間は限定的な防空能力に留まります。

※なお、米軍と連携しミサイル防衛を行うと防空能力がかなり強化されます。この点でも「集団的自衛権」の行使は必要です。自衛隊単独だと限定的である防空能力も米軍と連携すれば飛躍的に能力向上が見込めます。日米双方にとり好ましい状態です。

 

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E-2D

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F-35B

韓半島有事

まずは北朝鮮の現状をみてみましょう。

・液体燃料を使ったミサイル中距離弾道弾「ムスダン」、西日本攻撃に「ノドン」、射程延伸型「スカッドER」など多様なミサイルを保有し同時発射も可能

・固体燃料系の「北極星1型」「北極星2型」の発射試験もおこなった。固体燃料は扱いが難しいが即応性が高い

・着弾地点を調整するための技術も保有。着弾点を調整するため「ロフテッド軌道」での発射も試験済み

・TELという移動発射車両を多数保有している

・核実験も実施し威力も大きくなっているが、核弾頭にする為の小型化の技術レベルは不明

・目標は在日米軍と明言しているが米本土はまだ攻撃できないレベル

つまり、各種ミサイルを複合して同時発射し、ある程度狙った場所へ複数を落とせるという事です。また移動発射のための車両も保有しており、発射前に破壊は困難です。

これに「北極星」系統のミサイルが搭載されれば、山中などにTELを隠し衛星などによる探知を避け、巡航ミサイル空爆などの攻撃をかわしつつ突如として発射できます。

狙いは勿論日本です。(在日米軍基地・自衛隊基地・原発・港湾など)

ソウルは国境に接しているため、ミサイルは使用せずとも大量のロケット弾、砲弾を撃ちこめば攻撃可能ですし、ミサイルより数が多く迎撃されにくい。既に測的(距離などを測定すること)などの射撃前の準備は必要ないほど準備はできていますから、命令一つでソウルは戦場となります。

これを防ぐため、米軍が先制攻撃するとします。(予防攻撃

いくらアメリカとは言っても北朝鮮に一発の反撃も許さず、金正恩氏を殺害し全ミサイルを破壊はできません。イラク戦争などがその証明です。私は北朝鮮イラクの比にならないほどの困難があると思っています。イラクは砂漠が多く偵察による発見も容易ですが、北朝鮮は山間地も多いのです。

もし、一気に北朝鮮の戦闘能力(特に核・ミサイル)を完全に破壊もしくは掌握できなかった場合、韓国には北朝鮮の地上軍と特殊部隊が侵入し地上戦となります。

在韓米軍は反撃し食い止めて時間稼ぎをしますが、その後に準備を整えた在日米軍も支援に向かいます。

北朝鮮とすればそれを阻止すべく38度線を超えると同時に、各種ミサイルで攻撃します。日米はイージス艦日本海側に配備しSM-3ミサイルで弾道弾を迎撃します。現状ではイージス艦といえども全ての脅威に対応できる訳ではありません。対応できる数に限度があります。それを超える攻撃(飽和攻撃)をされたら対処できません。(米軍では徐々にその能力をつけていますし、自衛隊も一部が予算化されましたがこれについては回を改めます)

トランプ米国大統領と習金平中国主席の会談が間もなく行われます。

アメリカは中国に「北朝鮮をなんとかせよ。さもなくば武力行使もありうる」「北朝鮮に攻撃をする場合には中国に傍観するよう要求する」「これに乗じて東シナ海南シナ海で混乱を起こさないように求める」などと迫るでしょう。

勿論中国は反発します。隣の韓国にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を配備したことで、(実は迎撃用ミサイルそのものに反対しているのではなく、THAADのための高性能レーダーによって自国の空域が監視される恐れがあるためです。)神経を尖らせているうえ、北朝鮮有事の際は韓国の政情不安も相まって自国に難民があふれ出すのではないかと危惧しています。

アメリカは自国に難民が流入する事も無いため、中国にとっては極めて身勝手な言い分と思えます。

アメリカの安全保障の都合で、北朝鮮難民が中国に入り騒動を起こすのは割りにあいません。

引き換えに「一つの中国」政策の継続、「新たな大国関係の構築」「航行の自由作戦の中止」など条件にするのでしょう。

また慰安婦(少女)像問題の進展がなにもないまま、3カ月ぶりに長嶺駐韓大使が帰任しましたが、これはこのあたりの情報収集や邦人保護、韓国との連絡調整も見越しての帰任に思えます。

米軍は岩国基地に最新鋭の早期警戒管制機「E2-D」と最新鋭の戦闘機「F-35B」を配備、それを運用可能な強襲揚陸艦「ワスプ」を第七艦隊所属としましたが、このタイミングはステルス機であるF-35で北朝鮮のレーダーを掻い潜りピンポイントで攻撃する可能性があるということかもしれません。(ワスプは秋ごろに佐世保へ来る予定)

このような状況の時、相変わらず「豊洲」と「森友」で盛り上がっている我が国のノンビリ具合には驚きます。

戦争を身近に感じないのはある意味我が国の誇りですが、危機が迫っていてもこれでいいのでしょうか。いつも言いますが「意志」があり「能力」を持ったときには・・・

 

楯と矛

北朝鮮がミサイルを4発同時発射したニュース映像はご覧になったと思います。

ミサイルはスカッドER(スカッドミサイルの改良型で射程延伸型です)とみられます。射程は1000km、高度は260kmとの発表もありました。

過去には3発同時はあったのですが、今回は4発同時、しかも同地点に着弾させているようです。現在は自衛隊が着弾海域を捜索中。脅威度はさらに増してきています。

(米国は5発発射し1発は失敗したとも考えているようです)

過去に何度も書きましたが、自衛隊イージス艦によるBMD(弾道ミサイル防衛)体制を強化しており、重要地点にはPAC-3ミサイルを配備しています。(詳しくは過去記事をお読みください) しかし、同時発射弾数が増えると迎撃率は落ちると考えられますし、着弾地点によっては1発でも落ちると甚大な被害を被ります。

今回のスカッドERは「液体燃料」であるため、発射に時間が必要(燃料注入)ですが、前回実験済みの「固体燃料式」エンジンの開発もほぼ終了しており、このエンジンが、スカッドERのエンジンになると、即時発射可能となるために事前の探知が難しく我が国にとって非常に脅威です。

このように加速度的に脅威度を増す北朝鮮のミサイル能力に対応するため、29年度防衛予算で計上する予定であったBMD関連事業は前倒しされ、PAC-3MSE(PAC-3の能力向上型)の導入、イージスシステム搭載護衛艦の能力向上(BMD能力の付与)、弾道ミサイル迎撃体制の調査(多分THAAD/高高度防衛ミサイル)などが、28年度補正予算で計上されています。

THAADは最近、韓国が導入を決定しました。(在韓米軍が配備運用します。)

29年度予算では、BMD用の迎撃ミサイルSM-3ブロックⅠAに変わり、大きく能力を向上させたSM-3ブロックⅡAを取得します。これは日米共同開発のミサイルで先月迎撃実験を成功させたミサイルです。

航空自衛隊の警戒監視レーダー(J/FPS-7・通称ガメラレーダー)も、弾道ミサイル防衛用に改修や新設します。

これらは「楯」の部分です。

さて、「楯」だけでは防ぎきれない場合があります。それは「飽和攻撃」です。迎撃能力には限界があり、迎撃率も100%はありえません。BMDシステムは複数同時攻撃対処能力を得てきてはいますが・・・万一1発でも在日米軍基地や大都市に着弾したら・・・スカッドERの数を揃える事ができたらあり得ます。

 

近頃は国会でもネットでも「矛」の意見がかなり出てきました。

先制攻撃論や敵策源地攻撃論と呼ばれるものです。

先制攻撃論は憲法の壁やエスカレーションなどもありなかなか実現は難しいのですが、敵策源地攻撃となるともっと難しいのが現実です。

自衛隊には全くその装備はありません。また北朝鮮の映像にもあるようにミサイルの発射器はTELと呼ばれる「移動式発射台」です。山間地も多い国土の中では隠ぺいも容易でレーダーや人工衛星では見つけにくく発射前の破壊は困難です。

一般に聞くのが「トマホーク巡航ミサイル」による攻撃ですが、トマホークは固定目標には使えますが、移動目標には使えませんし速度が遅く迎撃されやすいのです。

「矛」と言えば米軍ですが・・・

米軍はB-2ステルス爆撃機でのバンカーバスター(地中貫通核爆弾B-61)の試験も成功し異例の公表をしています。

米軍による攻撃(斬首作戦)もトランプ政権下ではありえますが、少しでも手間取ると日本向けにミサイルが発射されることになります。

米ウォールストリートによるとトランプ大統領は「軍事力の増強」とともに、北朝鮮への武力行使や政権転覆を検討しているとも報じられています。

 

中国・ロシアの問題もありますし、きな臭い嫌な情勢になってきました。

(写真はロイターより)

なぜ軍事を学ぶのか(番外編)

日本では軍事系の話はご法度というか、「危険人物」と思われがち。

 

でもね・・・

 

軍事はお金かかるんですよ。税金をごっそり使うんです。

他国に比べてGDP比は低くても、そもそも分母がデカイんですから、金額もでかいんです。

 

軍事は基本的には再生産しないお金の使い方です。

確かに多くの企業が関わることで、沢山の人を養いますが。

 

農林水産業や福祉や国土のインフラに使うお金は、何らかの形で「再生産」されていく活きたお金です。

 

軍事に使うお金も税金。豊洲市場のお金なんか比じゃない金額。

正しく使っているのか、必要なのか、監視しなければなりませぬ。

 

その為には沢山勉強しなければなりません。見ないふりしておくわけにはいかないのです。

また、知らないと不必要に過激になったり、臆病になったり。これが恐ろしい。

戦争になるのはこんな感情からです。

 

戦争をしなくないなら「学ぶ」必要があるんですよ。

環境を守りたいならやはり「学ぶ」でしょ。同じことだと思います。

2月12日の北朝鮮ミサイル発射に関しての考察

防衛省発表212日ー第二報ー】

北朝鮮は、本日7時55分頃、北朝鮮西岸の亀城(クソン)付近から、1発の弾道ミサイルを東方向に発射した模様です。発射された弾道ミサイルは、約500㎞飛翔し、北朝鮮東岸から東に約350㎞の日本海上に落下したものと推定されます。」

がありました。発射自体はニュースで取り上げられていましたのでご存知の方も多いと思います。

2月14日には、稲田防衛大臣が記者会見をおこない、防衛省の見解を述べています。2月3日には新型のミサイル防衛システム用のミサイル「SM-3ブロックⅡA(日米共同開発)」が米海軍によって迎撃試験も行われています。

また私個人もニュース映像を見て幾つか気になりましたので、今回のテーマとします。

画像に含まれている可能性があるもの:立ってる(複数の人)、屋外

北朝鮮の発射したミサイルの情報を纏めてみました。

1.日本攻撃用のノドンやムスダン、または改良型ではなく新型の「北極星2号(北朝鮮の呼称)」である。

2.北極星2号は以前に潜水艦から発射した「北極星1号」の陸上発射型である。

3.射程は3000~5500kmの中距離弾道ミサイル(IRBM)と見なされるが、防衛省は1000~3000km程度の準中距離弾道ミサイルとしている。

4.液体燃料では無く技術的に高度な固体燃料を使っている。

5.固定サイロからの発射では無く、移動式発射である。

6.コールドローンチシステムの運用に成功している。(これは発射管より射出後にロケットに点火し発射する方式。潜水艦発射はこの方式で高度な技術が必要)

7.今回もロフテッド軌道を採用してか、もしくは燃料を減らしての試射である。

つまり北朝鮮のミサイル技術はかなり高度なものになっているのは間違いありませんし、脅威度は金正恩体制になってから格段に増しています。

如何なる制裁があろうとも断固たる意志でミサイル開発は進めており、米国を攻撃圏に収めるまで開発を推し進めるでしょう。繰り返しますが、北朝鮮は如何なることがあろうともミサイル開発は強行します。

さて、17はどのような意味があるかですが、新型ミサイルの開発ペースが速く、毎回きちんとした目的を持っているのが特徴です。

前政権時には「示威行為」や「国威発揚」的であり、言わばシンボル的でありました。どこかで米国が交渉のテーブルにつけば・・・という空気すら感じました。

現政権では「米国を核の恫喝ができるようになる」という目的がはっきりしています。そのため、大陸間弾道弾に必須な「固体燃料」であり、ミサイルの生残性を高める為の、移動発射方式であり、段階的に射程距離を延伸しているのであり、ミサイルの再突入に必要なノーズコーンの開発であり、報復手段としての潜水艦発射(SLBM)の試験です。

固体燃料技術を日本向けのミサイル「ノドン」に採用されれば即時発射できるミサイルを北朝鮮は手に入れる事になります。これは比較的容易に開発できるでしょう。

こうなると日本の各地や重要インフラ、在日米軍が標的ですが数が多すぎて守り切れるものではありません。

このような現状を踏まえて我が国はどうするのかを真剣に考える必要があります。以前にも書いたのですが(2016.9.13参照してください)悠長に構えていられる状況ではありません。日本もミサイル防衛を進めてはいますが。

冒頭にある「SM-3ブロックⅡA(日米共同開発)」は新型の迎撃ミサイルです。現行のSM-3ブロックⅠA(自衛隊)ブロックⅠB(米軍)よりも、格段に性能が良いのですが、導入は2018年ごろとされており、導入を進めても発射するイージス艦の改修や新造が必要ですので、予算上の制限などもあり一気に進むとは思えません。

現在の我が国の防衛費はおよそGDP比1%。NATO基準は2%、米韓印などは3~4%です。財政の厳しい中ではありますが、南西諸島防衛も考えあわせると不安は残りますし、今後はトランプ政権から自主防衛努力は強く求められるでしょう。

(2017.02.18)

 

中国の海洋戦略

東シナ海南シナ海での中国の独善的とも言える行動で「中国脅威論」が高まっていますが、中国の海洋戦略の目的は何なのでしょうか。国家には基本的には「生存本能」があり、それを脅かす存在には対抗しようとしますし、基本的には「性善説」に基づいた行動はしません。そこで「成長し続ける」為に戦略を練りますが、戦略にはそれを立案するための要素があるはずですので、それを整理してみましょう。

自動代替テキストはありません。

1.中国は「マラッカジレンマ」を解決したい

 中国は資源の大半を輸入に頼っています。(石油で70%~80%ほど)また、世界の工場として急激な経済成長をしています。これら製品の輸出も多くが南シナ海マラッカ海峡など)を通過していきます。

このチョークポイントを抑えられると、中国は干上がりかねません。その為、パイプラインなどを使っての陸上ルートでの輸送も進めていますが、大量輸送ではやはり海運が一番ですし、大都市はやはり沿岸部ですので。

2.東シナ海南シナ海の膨大な海洋資源を確保したい

 この海域には膨大な天然ガス原油があるとされ、これを確保することは「マラッカジレンマ」を軽減することに繋がります。その為海軍力を強化するとともに、周辺国に投資することでその国の経済的な中国への依存度を高めようとしています。

海軍が寄港できる港も整備したり租借するなどしています。こうして南シナ海を中国の聖域としたいようです。

3.アメリカの軍事プレゼンスは、中国の生存を脅かすかもしれない

 アメリカは「オフショアコントロール」と呼ばれる戦略を採用することがあります。これは軍事力を行使し海域やチョークポイントで海上封鎖や臨検などで、いわば兵糧攻めとするものです。(拒否・防衛・支配)

このような海上封鎖と経済封鎖も実施します。これに対抗するには海軍力の整備が必須です。しかし第一列島線の封鎖がおこなわれると、中国は突破しようとしますので、当然日本も巻き込まれることになります。

中国から多くの消費財の輸入をしている米国経済もダメージを負うでしょう。諸刃の剣です。

4.アメリカに対抗できる核抑止力の確保がしたい

 核抑止論は以前にも書きましたので割愛しますが、核報復能力の確保が「核抑止力」となります。中国は広大な国土の地下に「万里の長城」とも呼ばれるトンネルを掘削し核ミサイルを多数備蓄し有事には移動式の発射台で任意の地点から攻撃できますが、弾道ミサイル搭載の潜水艦の配備も進めています。

この潜水艦が隠れることのできる深い海を自由に行動させるためには、南シナ海から米海軍を追い出しておきたいのです。九段線内は水深が深いのが地図でわかりますし、海南島には中国潜水艦の巨大な基地があります。

細かな戦術論は省きますが、中国は成長に従って資源が必要になってきました。その為には自国の安全保障上の理由からも「米軍の軍事プレゼンス」が邪魔で仕方が無いのです。

台湾有事に際しては東シナ海から太平洋に抜ける所謂「第一列島線」にも接近させたくありません。尖閣諸島が欲しいのはこの為です。

沖縄には最初のステップとして輿論戦(よろんせん)をしかけていると考えられますが、琉球諸島は中国にしてみれば喉から手が出るほど欲しいのです。ここを抜ければ広い太平洋があり、米海軍のグアム基地すら脅かすことができます。

中国人民解放軍政治工作条例に三戦という概念があり、これは輿論戦・心理戦・法律戦を駆使し戦わずして勝つことを目指します)

5.失われた約200年を取り戻したい。

 中国はその支配者が誰であろうと、過去は経済的にも文化的にも大国でした。我が国も多くを学びました。また現在の南シナ海周辺の国々にも影響力を与えたり従えたりしていました。清朝末期以降、西洋列強各国や日本によってその力は衰えましたが、中国共産党指導層はそのことを悔やんでおり、また元の大国への夢を描いているのではないでしょうか。

纏めると、強大な海軍力によって米海軍を東太平洋~インド洋にかけて駆逐し、自国の安全保障能力を安定させるとともに、周辺海域のシーコントロール制海権・海上優勢)を目指しているのでしょう。

このように大国だけに中長期を見据えた戦略をすすめています。我が国もしっかりと対応し、法と平等が支配する世界を目指さなければなりません。

大国だからといって傍若無人な振る舞いは許せません。この為には有事の対応能力を向上させ無法な行為を躊躇させること、米国との緊密な連携、南シナ海周辺国との外交的経済的な深化、中国との相互交流などをしっかりと行う必要があります。

戦争はその意志と能力が整った時に起こります。平和という状態を保つためには、相互の透明性の担保とともに 意志と能力のどちらかをを持たせないようにすることです。

参考までに各国の軍事費を一部列挙します。

(2015年、公表値による推計、単位:億アメリカドル/GDP比)

米国5,960/3.3 中国2,150/1.9 日本409/0.99

韓国364/2.6 ロシア664/5.39 インド513/2.33 

これを見て皆さんは「アメリカ圧倒的じゃないか。中国なんて問題にならないのでは?」と思われるかもしれません。

しかしアメリカは地球上すべてに軍事プレゼンスを維持しなければならないのです。対して中国は南シナ海東シナ海に軍事力を傾注できます。

このことは考慮し、自国の安全保障を他人任せにするのではなく、進むべき道を冷静に考えなければならないと思います。ハッキリ言うと米中どっちもどっちなので。

(2017.01.25)

 

空母・遼寧

 先般のニュースでご存知な方も多いと思いますが、中国海軍の空母である遼寧(りょうねい)が、東シナ海台湾海峡を航行しました。

今回は台湾の総統が外遊中で、米政権の移行期であること、「なぜ一つの中国に縛られなければならないのか」のトランプ砲、これによる中国国内へむけて政権の強い姿勢のアピールなどの要素があっての行動だと思われます。

遼寧に空母としての攻撃力はさほどありませんが 、空母そのものは珍しくはありませんし、米海軍は巨大な原子力空母を日本に配備しています。横須賀基地は米国外で唯一の空母をメンテナンスできるドックを備えています。このドックは戦艦大和や武蔵の同型艦である、空母・信濃を建造したドックで敗戦後米軍に接収されてからはそのまま使用されています。このドックが無いと米空母はハワイまで回航せねばならず時間的なロスが大きくなるため非常に重要なドックです。(日本は米国の戦略的根拠地である証明のひとつです)

他の空母保有国はイタリア・インド・ロシア・イギリス・スペイン・ブラジル・タイ・フランスなどです。(殆どが中型を1隻程度しか保有していませんが)ですので、中国が保有すること自体に驚きはありません。経済規模は前述の国々よりも大きく、シーパワー国家を目指すのなら空母が欲しくなるのも当然でしょう。

また米国中心の既存の国際的な枠組み(レジーム)に挑戦し、大国としてルールを作る側にまわりたい中国としては、海洋覇権は求めたくなるでしょうし、自国の生存権の確保の為に自国有利のシーレーンの確保による安全保障政策は当然の帰結。

その為には強大な海軍力が欲しいとなり、そうなれば目指すは米海軍でしょうし、米海軍の花形は「空母打撃群」です。台湾海峡危機の時に「米空母打撃群」の接近にスゴスゴと逃げ帰った経験はトラウマでしょう。

湾岸戦争時に見たあの攻撃力は欲しいと思うのも当然かもしれません。空母搭載機と随伴する駆逐艦など合わせると千発規模のミサイルを保有しているのです。一定の軍事力があれば相手のなすがままにされることは無いのです。

この遼寧防衛省では「グズネツォフ級空母」と呼称していますが、実はこの艦は元々はグズネツォフ級2番艦(艦名:ヴァリャーグ)としてソ連時代に建造が始まったもので、ソ連崩壊後にウクライナとロシアが所有権を争い、その後ロシアが所有権を放棄。ウクライナも建造途中(船体、主機は完成していた)で放棄。中国のペーパーカンパニーが、カジノにするとして買い取って大連港に曳航しました。その後に中国海軍が装備品を取り換えるなどして就役させました。

動力は蒸気タービンで原子力ではありません。航空機を発艦させるためのカタパルト(射出機)も無く、その為に艦首にスキージャンプ勾配と呼ばれる傾斜がつけられています。

その為軽量でS/VTOL(短距離離着陸機)機で無ければ発艦できません。遼寧に搭載していいるJ-10と呼ばれる戦闘機は、燃料を満タンにできずミサイルも十分に搭載できない(若しくは意図的に搭載していない)まま発艦しています。

空母としては戦闘力が無いに等しいのですが、中国海軍は「訓練用」として割り切っており、ここで得たノウハウを現在建造中とされる2番艦、3番艦に活かすつもりでしょう。着実に力をつけているのが分かります。よく、「へなちょこ空母なんて、潜水艦の魚雷ですぐに沈めることができる!」とか勇ましい意見も散見されますが、同じ人間です。こちらができて相手ができないと考えるのは危険です。

さて、同型艦を運用しているロシアでは、先日事故を起こしていますし、空母を常時10隻以上も保有する米海軍では戦後だけでも3ケタに及ぶ事故を起こしています。

このように空母への離着艦・運用は非常に難しいものなのです。

空母については以前に詳しく書きましたが(2015.06.18)搭載機と艦隊運用が前提で、常時軍事プレゼンスを誇示するには3セット程度が必要になり、維持にも莫大な資金が必要でとてもカネ食いムシです。最近経済成長が鈍化している中国ですが、アメリカと日本を相手に急ピッチで軍拡しています。

このままだと冷戦期のソ連の二の舞を演じるのでは?と言う意見も多くあります。ただし長い間揉めていたロシアとの国境線画定問題はようやく解決し大陸北方の脅威が減じた分、海軍に振り向けられるようになったとも言えます。今後も中国海軍の動向を注目する必要があります。

画像に含まれている可能性があるもの:海、空、船舶、屋外、水

(2017.01.15)