戦争プロパガンダとガンダムー(1)ギレン・ザビ
名作アニメ「機動戦士ガンダム」でジオン公国の実質的指導者であったギレン総帥。
声優の銀河万丈さんの名演技もあり、その演説はアニメ史上屈指の名演説だと思います。
ストーリー中で弟である「ガルマ・ザビ」が戦死しますが、その際の国葬で演説し弟の死でさえ国威発揚のために利用しました。
ネット上でもこの部分だけを取り上げた動画がアップされており、人気の高さが伺えます。
また、逆襲のシャアでクワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)も、ガンダム0083でのエギーユ・デラーズも、同様に演説を行っています。(次回以降に)
過去にも簡単に書いたのですが、プロパガンダとは特定の思想や世論に誘導したり、行動を起こさせたりするものとされています。政治・宗教・思想教育・心理操作などありとあらゆるものが含まれています。
国策や政治の世界だけでおこなうものだけでは無く、ありとあらゆるものを含みますが、最近では主に悪い意味で使うことが多いようですが、戦時においてはそれは戦争プロパガンダとなり、かつてのナチスドイツの宣伝相ゲッペルスは「十分に大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう」と語っており、ヒトラーは「簡潔なテーマを繰り返し感情に訴える」ことが重要であると語っています。
多くの研究者がプロパガンダについて研究していますが、今回は【戦争プロパガンダ10の法則】(アンヌモレリ著・永田千奈訳・草思社)の中で例示されている10の法則が、ギレン・ザビ総帥の演説にどれだけ当てはまるか検証したいと思います。
10の法則とは
(1)我々は戦争を望んではいない
(和平のために最大限努力した)
(2)敵側が戦争を望んだ
(だから防衛のためやむを得ず戦うのだ)
(3)敵の指導者は悪魔のような人間だ
(敵の顔の具体像を描かせて憎しみを煽る)
(4)領土や覇権の為ではなく偉大な使命の為に戦うのだ
(知性・論理ではなく倫理観や感情に訴える)
(5)我々は意図しない犠牲を出すことがあるが敵は故意に残虐行為に及んでいる
(敵は野蛮であり、我々、文明人が野蛮人へ制裁を加えるのだ)
(6)敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
(敵はアンフェアで非人道的兵器を使うなど卑怯な戦いをおこなっている)
(7)我々の被害は小さく敵に与えた被害は甚大である
(人は勝者の立場を好む)
(8)芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
(感動を呼び世論を動かすことのできるのは役人ではない)
(9)我々の大義は神聖なものである
(倫理的正当性を訴え国民の支持を得る)
(10)この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である
(愛国心が足りないと評されマスコミなどによる攻撃の対象となりえる)
の10か条が挙げられています。
では、その演説(国葬時)です。
▼==繰り返し感情に訴える==▼
我々は一人の英雄を失った。これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!
▼==法則7==▼
地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。にも関わらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か!諸君!我がジオンの戦争目的が正しいからだ!これは諸君らが一番知っている。
▼==法則1・3・4・9==▼
我々は地球を追われ、宇宙移民者にさせられた!一握りのエリートが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して50余年、宇宙に住む我々が自由を要求して、何度連邦に踏みにじられたかを思い起こすがいい。
▼==法則9==▼
ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由のための戦いを、神が見捨てる訳は無い。
▼==繰り返し感情に訴える==▼
私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ、何故だ!
新しい時代の覇権を選ばれた国民が得るは、歴史の必然である。 ならば、我らは襟を正し、この戦局を打開しなければならぬ。我々は過酷な宇宙空間を生活の場としながらも共に苦悩し、錬磨して今日の文化を築き上げてきた。
▼==法則5==▼
かつて、ジオン・ダイクンは人類の革新は宇宙の民たる我々から始まると言った。
しかしながら地球連邦のモグラ共は、自分たちが人類の支配権を有すると増長し我々に抗戦する。 諸君の父も、子も、その連邦の無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ!
▼==繰り返し感情に訴える==▼
この悲しみも怒りも忘れてはならない!それをガルマは死を以って我々に示してくれたのだ!我々は今、この怒りを結集し、連邦軍に叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。この勝利こそ、戦死者全てへの最大の慰めとなる。
▼==法則4==▼
国民よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ国民!我らジオン国国民こそ選ばれた民であることを忘れないで欲しいのだ!優良児たる我らこそ人類を救い得るのである!
▼==簡潔なテーマ・スローガン==▼
ジーク・ジオン!! 個人的には最後の一行で胸アツ('◇')ゞ
どうでしょうか。
ヒトラーの言う「感情」に繰り返し訴えかけてもいますね。
プロパガンダはなにも「保守」「右派」に限る話ではありません。「リベラル」「宗教」「メディア」「テロ集団」ありとあらゆる分野で行われるものです。
プロパガンダを行う側は人間の心理や行動原理をよく理解したうえでおこなわれるものですから、惑わされず真贋を見極めるのは非常に困難です。
少なくともそのような社会に生きている事を理解しておく必要はあると思います。