海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

力の真空

「力の真空」という言葉をご存知でしょうか。

簡単に言うと「軍事力の無い、若しくは極めて小さい」地域や国のことをこう呼びます。

 

これは過去の例をさかのぼるとよく判るのですが、「真空」地帯は紛争や戦争が極めて起きやすいのです。

真珠湾攻撃

我が国で言うと太平洋戦争時の真珠湾攻撃はその真空地帯だったため行われました。(勿論他にも幾つかの要件がありますが)

当時のアメリカ・イギリスは元々の海軍戦力で日本とほぼ互角。しかし大西洋ではドイツのUボート(小型の潜水艦)による通商破壊が盛んになっており、アメリカの工業力頼みのイギリスを助ける必要もあり、また世論が経済制裁されている日本よりも軍事的にはヨーロッパに注目していました。そのためルーズベルトは大西洋に注力せざるを得ず太平洋方面には軍事力を割いていませんでした。

その間隙を突くため「桶狭間とひよどり越えと川中島とを併せ行ふ」(山本五十六)ことを決意しました。当時の現状に対する「挑戦国」としてアジアでは日本が勢力を拡大していましたので、その「力の真空」を利用して現状変更の実力行使にでたのです。

フィリピン

1992年にフィリピンから駐留米軍が完全撤退しましたが、その後南シナ海では中国が経済成長と共に軍事力の急激な強化をすすめ、南シナ海自国領海(九段線)と宣言し周辺国に圧力を加えています。美しい島々は埋め立てられ滑走路が整備されサンゴも破壊し漁業では魚を採り尽すなどやりたい放題。武力で対抗できない周辺国は押されっぱなしです。フィリピンが国連海洋法条約に基づいて提訴し勝訴しましたが、それすら「紙くず」と言い放っています。これも「挑戦国」による「現状変更の試み」です。

中東

中東でもアメリカの軍事プレゼンスの低下と共に「力の真空」が生じており、その代わりにイラン、ロシアが勢力を拡大しています。特にロシアは自国の権益確保とNATOとの安全保障上の観点から真空地帯に手を延ばしています。親米国であったトルコ、イスラエルサウジアラビアなどは「見捨てられる恐れ(同盟のジレンマ)」にまさにさらされているのではないでしょうか。

他にも

朝鮮戦争ベトナム戦争も「力の真空」状態を発端として始まりました。

 

これは軍事が好き嫌いというレベルの話ではありません。平和を希求するなら理解しておくべき事実です。

 

「力の真空」を作らないようにするために日本はどうすべきか考えなければなりません。

今、米軍が沖縄から引き揚げるとその真空が生まれます。その後はどうなるのか簡単に想像できるでしょう。

アメリカは近年「オフショア・バランシング」という「引きの戦略」が注目されています。これによってアメリカが引きこもると東アジアのパワーバランスは激変し、中東のような状況に陥るかもしれません。

 

しかし日本はアメリカの国益に直結した地理的な位置にあります。これを活用しアメリカを巻き込み続けることは、かえって安価で抑止力確保ができる事に繋がります。軍事だけでは無く経済・産業も絡めた総合的な視点が必要です。

安全を守る「安全保障のジレンマ」

前回の同盟のジレンマに続き今回は「安全保障のジレンマ」を取り上げます。

「安全保障のジレンマ」は経済学のゲーム理論で有名な「囚人のジレンマ」というモデルを応用したものです。

例えば日本が自衛の為に自衛隊の強化や能力の拡大をする、日米の同盟関係を強化する、インドなどとも同盟を結ぶなどすると、その行動(軍備・能力)が中国から見れば脅威となります。中国は自国の安全確保として軍拡にすすみます。

実際に中国は公式には「自国の安全保障のための軍拡である」と言っています。

しかし日本は中国の行動を見てさらに防衛力を高める努力をします・・・といつまでたっても安心できる状態にはなりません。この状態を「安全保障のジレンマ」と呼びます。

 

日本はそれを避けるために軍備を極めて防衛的なものとし、能力の制限をしてきましたし、アメリカ以外との同盟は結んでいませんし、日米とも防衛関係費や調達先、研究開発項目、装備の能力なども可能な限り公開してきました。日米共同の軍事演習に際してはその場所や訓練目的の公開や視察の受け入れなども実施しています。

しかし中国はあらゆる情報を非公開としています。また環太平洋合同軍事演習(リムパック)に近年参加するようになった中国は海軍同士の慣例やルールを無視した行動を取るなどしています。これでは反感は買っても信用はできません。

この状態で防衛力の低下を招く行動や日米同盟を損なう行動はリスクを高め、かえって世界を不安定化させる要因になりかねません。特に東南アジア諸国は注視しています。

 

囚人のジレンマやスタグハントゲームでは相手を信用できれば(協調できれば)互いに有益であるにも関わらず、信用できないため結果的に損をする事があります。これと同様な事が起こっているのです。

 

アメリカの国際政治学者であるロバートジャービスは、「国家は安全を確保すれば戦争に訴えることは無い」と提唱していますが、そのジャービスも「国際社会は国家より上位の主体が存在しないため複数の国家戦略による相互作用が生じる」と主張しており、囚人のジレンマのジレンマのように2者間で考えるよりももっと複雑です。

しかしゲーム理論的に考えると、攻撃し侵略する場合よりも協調したほうが自国の利益が最大化される場合は協調を選ぶ可能性があると言えます。安全保障のジレンマは、軍事力そのものというよりも「攻撃力」と「防衛力」のバランスの問題であるとされています。しかし「防衛力」と「攻撃力」は明確な区分ができる訳ではありません。

どうやって互いに好ましい選択をするようにしていくのか。これはとても複雑で難解な挑戦です。酒を酌み交わせばいいとか、丸腰になればいいとか憲法9条を守っていればいいとかそんな単純なら既に戦争は無くなっています。

 

古代ギリシアの歴史家トゥキデディスの言葉ですが、「戦争が起きる原因は3つしかない それは「利益」か「恐怖」あるいは「名誉」だ 」と言っています。

恐怖させず名誉を傷つけないようにしつつ、協調こそが利益を得る方法だと互いが理解すれば戦争は起こらないのでしょうが、これがどうしてもできない。

しかしこれは人類共通の目標ではあるようです。

 

(写真はリムパックでの艦体行動の様子。Credit: US Navy)

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安全を守るジレンマ「同盟のジレンマ」

衆議院が解散され選挙が近づいてきました。近年は争点として「安全保障」がとりあげられることも多くなったように思います。個人的にはたまには任期いっぱいで解散をみてみたい(-ω-)

 

今回は安全保障の大きなテーマである「同盟のジレンマ」についてです。もう一つ「安全保障のジレンマ」については回を改めて。

日米同盟は片務的ではあるものの「軍事同盟」であり、日本の安全はアメリカの拡大抑止によって確保しています。外務省によると「米国の拡大抑止は、日本の防衛及び地域の安全保障を支えるものである。米国は、あらゆる種類の米国の軍事力(核及び非核の双方の打撃力及び防衛能力を含む)が、拡大抑止の中核を形成し」とあります。

 

しかし、北朝鮮問題や中国の海洋進出に伴う尖閣防衛問題など、日本に直接関係する安全保障問題を抱えるようになって、この2つのジレンマが注目されるようになりました。

東西冷戦時代はまだ分かりやすかった時代です。アメリカは覇権国として共産主義の進出を抑えるため、そして自国の権益を最大化しアメリカ的価値観を世界に広めるためには、日本の地理的な位置は手放せないものでした。(地理的な優位性は通信・流通などが発達した現代でも幕末と同じく一向に変わりません。)

ですから例えば日本に当時のソ連が進出しようものなら、絶対に防衛するだろうと考えられたのです。そのため日本は強大な軍事力を持つアメリカに守られる事は間違いないだろうと安心していました。自衛隊は米軍の補完戦力であれば十分で「見捨てられる恐れ」が低い時代が続きました。

以前の日本は「憲法9条」「非核3原則」「集団的自衛権保有するが行使せず」という政策をとる事で、「巻き込まれる恐れ」を避けてきました。

しかし、今はアメリカの国力・軍事力は相対的に低下し、中国が経済でも軍事力でも世界2位の大国となり、覇権国を脅かす挑戦者となりましたし、核攻撃力を北朝鮮は備えようとしています。

 このような状況で果たしてアメリカは日本を本当に防衛するのかという心配が出てきました。

実際に冷戦の終結以降のアメリカはそのような論調が見られ「日本のためにアメリカの血をなぜ流すのか」と。対応を迫られていた日本でしたが、安倍政権になり集団的自衛権の行使を容認したことで多少は「見捨てられ」なくなったでしょうが、「巻き込まれる」可能性も必然的に高くなります。これは安倍総理の見解とは異なりますが、このジレンマは表裏一体のもので、同盟には常について回るものです。またこれは同盟国同士の地理的条件が大きな要素となりますので、どの程度の同盟関係が良いのかはなかなか見いだせない問題です。 

 

もし、中国が尖閣や沖縄に武力行使や占領するような行為をしたら・・・それに対してアメリカはどのようにふるまうのでしょうか。

自国のリソースを消費してまで尖閣諸島先島諸島防衛に協力してくれるのか。これが「同盟のジレンマ・見捨てられる恐れ」です。(NATOでもロシアの脅威に対してアメリカがどこまで負担するのかという不安は常にあります。NATO諸国もロシアに隣接する国家は不安が高い反面、離れている国家は脅威を感じない場合もあり、足並みはそろわないかもしれません。集団防衛が機能しないこともあります。)

逆の状況が発生した時、例えば南シナ海でアメリカ海軍が中国海軍と諍いを起こし、その反動で中国が尖閣や沖縄に軍事行動をおこすなど、日本が望まないのに武力衝突が起こるなどの場合が考えられますが、これが「同盟のジレンマ・巻き込まれる恐れ」です。

 

一般論として「日米同盟は危険」という人がいますが、私は逆であると考えています。

同盟関係は極めて強固にしておく必要があります。アメリカにとり日本が無くてはならないものとなった時、(変更できない地理的条件は日本側が有利)アメリカの行動を抑制できるようになるからです。実際に米英はそのような関係です。お妾さんから本妻になる努力をするのです。そうして日本は西太平洋~インド洋にかけてのキャスティングボードを握る必要があります。その為にインドとの関係強化は有益です。インド洋においてはインドの協力を得つつ、日印でアメリカの行動を好ましいものにしていくことこそが正しい同盟であると思います。

また北朝鮮のミサイルが日本には届き、アメリカには届かない現在は(北朝鮮は弾道ミサイル以外にアメリカに直接攻撃できない)アメリカは北朝鮮に軍事行動を起こしやすいと考えられます。攻撃への閾値が低い状態です。

もしアメリカの国益を脅かす境界(レッドライン)を北朝鮮が超えるとしたら、アメリカは自国の安全の為に予防的に攻撃を起こす可能性が無いとは言えません。

アメリカ領土でなくても領海内で核爆発などを行った時は「自衛権」の発動の範囲ですから、アメリカの軍事行動を止める理由は無くなります。(CTBT・包括的核実験禁止条約未発効、北はCTBT未署名、NPT・核拡散防止条約脱退なので国際条約違反にはなりません。)しかしそのリスクは日本が(韓国も)負うことになります。

安全保障上、アメリカとの取引材料が無い我が国はこれを拒否できません。

 

北朝鮮問題に限って言えばアメリカは「同盟国の為にあらゆる用意がある」と言い、軍事的な示威行為をしていますが、中国の海洋進出に関しては「日米安保の適用範囲である」と言っているだけに過ぎず、かなりの温度差があります。

つまり北朝鮮問題では「巻き込まれる」かもしれませんが、尖閣問題では「見捨てられる」かもしれません。

 

さて、北朝鮮問題に限って言うと、北朝鮮としては自国の安全確保には「在日米軍」「在韓米軍」「経済制裁」そして「集団的自衛権」が非常に邪魔となります。そこで日本に対し恫喝することで日本国内の「巻き込まれる恐れ」を誘発し、日本国内の世論誘導を目論んでいるかもしれません。日本がアメリカに対し「軍事行動を拒否」すればするほど時間稼ぎができ北朝鮮が有利になります。

9月14日、国連安保理での制裁決議に反応した北朝鮮の報道官声明は「日本は米国の制裁騒動に便乗した」と 非難し「日本列島島を核爆弾で海に沈めなければならない」でしたが、これは明らかに日米分断を意図したもので「武力による恫喝」です。

恫喝に屈しないために単独でできることは

1)相手の攻撃を全て躱しつづける能力を持つ

2)相手に攻撃される前に攻撃し攻撃力を奪う

3)攻撃による被害を最小限に食い止めたのちにやり返し勝つ  の三択です。

普段の生活なら逃げて警察に助けを求めることができますが、国家より上位の権力はありませんし、国土を動かすことはできません。

 

そして現状は(1)~(3)のどれも完全には成しえません。

1)相手が実力行使に至った場合には、被害極限は可能でも無傷では済まないかもしれませんし、いつまでも躱し続けられるものではありません。また恫喝が続けば恐怖心から戦争に至ることは歴史が証明しています。安全保障がこれほど政策として注目されたことはあまりありません。これは日本国民の中に恐怖心が多少芽生えた証明ではないでしょうか。クラウゼビッツ(1780-1831没)という戦略家の言葉に「恐怖感を持つ人間は、善いことよりも悪いことを信じやすく、悪いことは誇大に考えやすい。」この延長線上に戦争があります。

2)(3)は日本にはその能力がありません。

そこで(4)強い仲間を集めて手出しさせない。となりますが、これはどこまで仲間を信用できるのかという命題があります。

 

しかし良い仲間というのは互いを助け合いもしますが、時には過ちを諫める事ができるものです。片務的な同盟から双務的な同盟へーこれは国力や戦力だけの問題では無く関係性のことと思います。

酒を酌み交わせばわかり合えると言った若者がいましたが、思想信条・政治形態も文化も全く異なる者同士では、そんな簡単にいく訳もなく、世界中の研究者、政治家がこのテーマに取り組み解決できない問題、それが「同盟のジレンマ」です。

 

軍事と平和

軍事力とはなんでしょうか。一般的にはなんとなくとしか捉えていないのが実態でしょう。

例えば拳銃を持った殺人犯に使われるのは「警察力」ですし、その殺人犯が行使するのは「暴力」ですし、暴力団のような組織が行使してもこれは「暴力」ですよね。それは組織や規模の大小を言いません。戦争や武力紛争という状態の時に、少なくとも一方の主権国家が行使する組織的な武力行為を言います。相手が国家で無い場合も多くあります。ISやアルカイダなどのテロ組織相手に対抗するのは、軍隊であって軍事力を行使するのです。

 

では、軍事力はどのような仕組みなんでしょうか。まず直接的には、「戦闘機能」で、兵器・兵士・戦術・戦略がそれにあたります。次に「支援機能」で、兵站・情報・通信などのいわゆる後方支援です。これが無くては戦闘は不可能です。これらを支えるのが「ドクトリン」(基本的な原則)です。これらを一般的には「軍事力」と呼び、民主国家は予算と装備などは可能な限り公表しています。

そしてそれらを支えるのが、工業力・経済力・資源・研究開発力・人口規模などです。いくら能力が高くても人口が少なく動員できる兵士の数が少ないのならば、軍事力としては小さなものになります。

 

「軍事力」は通常は活動域に応じて「海軍」「陸軍」「空軍」などに組織されます。と言っても陸軍や海軍にも航空機はありますし、「海兵隊」などの特別な任務を帯びた部隊を持つ国もあります。

 

軍事力は危険なハードパワーです。「価値剥奪機能」を持ち、他の力に比べて圧倒的な破壊力を持ちます。しっかり管理されていないと不安定の原因ともなります。しかし、このパワーは自国の安全保障にも資するものであって善悪をつけるべきものではありません。極真空手大山倍達の言葉に「力無き正義は無力なり」とありますが、【自国の正義】を貫くには「力」が必要です。その一部分が「軍事力」です。

仏様の世界でも「阿修羅」「金剛力士」「五大明王」など諸悪から仏を守る役割があり、しっかり武器を持って怖い顔をしています。

管理され正しく運用されれば、不埒な国家が出現しても「国際法」を順守させるための強制力ともなりますし、どこかが突出し不安定な要因を作れないように均衡を保つ役割もあります。

 

しかし核兵器保有する国が増えるに従って、安易な軍事力の行使は躊躇されるようになりました。事情はもっと複雑ですが、北朝鮮とアメリカの駆け引きでもそうです。また、経済関係が複雑になった現代では、安易に軍事力を行使することは自国に対する経済的損失を高めることにも繋がりかねず、また高性能な通常兵器の前では人的損害も拡大するかもしれません。民主国家では戦争の最大のコストは人命です。それゆえ昔のように「軍事力」にモノを言わせるようなことはしにくくなりました。かといって「軍事力」の効能が低下してはいません。ISのような国際テロにはやはり「軍事力」は必要ですし、不安定な国家に投入するPKO活動にしても「軍事力」抜きでは活動できません。内戦を「鎮圧」するための強制力を発揮し、新たな暴力を「抑止」したりします。相手側に法の順守を強要するのにも使われます。

 

また軍隊には「自己完結力」があるため、非戦闘能力も活用されます。災害などで発揮される能力を思い浮かべてもらえればと思います。いわゆる民生支援です。食料・給水・医療・救援・・・治安の悪化している地域でのこのような活動ができるのも、組織され訓練されて装備が整っている「軍隊」であればこその機能です。

 

ところで私は自衛隊救急救命・医療体制が不備ではないのかと考えています。幸いにも実践経験もなくその必要性が無かったため、救命のための装備や教育、法律などの不備が多く指摘されています。海外派遣されることが当たり前となった自衛隊ですが、脅威の度合いは低くても自衛隊が派遣される地域には当然危険が伴います。場合によっては自衛隊のみならず、多数の人間が大量に出血するような事態に出合うかもしれません。銃弾や爆弾による怪我は通常の対処では間に合いません。どうやら自衛隊ではそのような事態に備えた装備・体制が十分とは言えないようです。

アメリカやイギリスなどの実践経験豊富な軍から学びながら、少しずつは改善されているようですが、予算の問題もあり未だに時代遅れな感じがぬぐえませんし、以前書いた「病院船」や「装甲救急車」のような装備はありません。

平和と人権を声高に叫ぶ方々が十分な法整備と装備拡充を邪魔している気がなりません。「派遣をすすめる法整備をするとは何事か!」と。現実は既に現場に出ていますし、国内でもそのような事態が発生する不安が無い訳ではありません。「反対」のみを叫ぶのではなく、自衛隊の方々のことを思い現実を見据え乍ら、国民・政府双方が正しく対処される事を望んでいます。自衛隊は我々を理不尽な「軍事力」から守ってくれますが、自衛隊を支えるのは国民である我々です。

 

我が国は戦後70年以上にわたり戦争をしない時代が続きました。これ自体は素晴らしいことであり、誇るべきものであると思います。アメリカは自国の利益を最大化するため我が国を戦後すぐに庇護し、日本はそのもとで経済成長してきました。そうして争いから遠ざかるうちに国家としての意思表示もすることなくぼんやりとした「平和」のなかで暮らしてきました。

しかし世界を見てみるとウクライナは独立を勝ち取る戦いと征服される歴史を繰り返し、クルド人は独立のための戦いを続けています。チベットウイグルは中国に取りこまれたままです。大陸国家は民族・宗教などがひしめき合い複雑であり、そのなかで民族自決を貫くのは並大抵のことではないでしょう。同じような島国のイギリスでさえ「連合王国」としての問題は山積しています。我々もそろそろ国のありかたについて真剣に向き合う時代がきたのではないでしょうか。国家の最重要課題は経済でも社会保障でもありません。それらの根幹は「外交」と「安全保障」であり「軍事」はその道具となるべきものです。そして「軍事力」は強い意志によって正しく制御することにより「平和」を作り上げることのできるものであると思います。

原発は狙いません

原発を狙うのか

北朝鮮のミサイル能力が向上し、アメリカとの緊張の高まりとともにいくつかの議論が起こっていますが、そのなかに「原発が狙われるのではないか」「原発が攻撃されたら被害が甚大だ」というのを見かけました。

東日本大震災に伴う原発事故の記憶も生々しいのでその気持ちはよくわかります。もう二度と原発によって住めなくなるような事になりたくはありませんし、原発は日本のあちこちの風光明媚な地域にあります。そんな日本の資産とも言うべき美しい自然が人の近づけない場所になるなんて考えたくもありません。

しかし、この意見には大きな勘違いがあります。結論を言えば「原発は狙われない」と考えて差し支えないのです。その理由を述べたいと思います。

 

現状はどうなのか

前提として現在の北朝鮮の攻撃力は、日本向けの弾道ミサイルであるノドン・テポドン1・2はおよそ100~200発保有していると考えられます。

そしてこれらのミサイルの発射器は50基ほどあるとされています。また現在のところ弾頭は大半が「通常弾頭」で「核弾頭」の搭載は多くても50発程度。

さて、北朝鮮がなんらかの理由で我が国を弾道ミサイルで攻撃するとしましょう。

 

確率で考えると

発射器は50ありますから、一度に最大で50発は発射できます。

そのうち、MD(ミサイル防衛)でミッドコースで迎撃されるものは迎撃率70%として35発。(試験結果からでは全弾迎撃する可能性もありえますが)

発射に失敗するものが10%として5発。この時点で残り10発しかありません。

そして弾道ミサイルにはCEPというものがあります。半数必中界と呼ぶもので撃ったミサイルのうち半数がどれくらいの半径に落ちるか?を表すものです。命中精度みたいなものですね。精度が良いとされる米ソでも300m(勿論所説あり)くらいとされますので、北朝鮮なら1000mってところでしょうか。

”半数”必中界ですから、通常弾頭のミサイルが原発から半径1000m以内に落ちるのが5発。

そして原発は建屋と格納容器に囲まれ極めて頑強な構造。津波のときのような電源喪失を想定しても電源部は地下で津波の水圧にも耐える分厚い扉で守られています。

原発に5発とも直撃させれれば多少の被害はあるでしょうが、3平方キロ以上の面積の範囲に5発ですから、600平方メートルあたり1発が落ちる計算。

これで原発に当たりますか?無理でしょう。原発敷地内に落ちたとしても、そこが格納容器や原発建屋、制御室であるとは限りません。駐車場や職員の宿舎などかもしれません。

費用面

そしてミサイルの費用です。一発当たりの費用は勿論わかりませんが、日本のイプシロンという低コストを目指した固体燃料ロケットが30億ほどだそうですから、同じとしても50発×30億で1,500億円ですね。

それほどの費用を使い、命中するかどうかわからない原発に貴重な核弾頭を落として何になるのでしょう。

 

戦術的に愚策

まして原発周辺は海岸沿いの「田舎」です。人的被害も限定的でしょう。命中率が多少高かったとしてもそんな効率の悪い事に虎の子の弾道ミサイルを使えない。

ジュネーブ条約追加第一議定書でも原発は攻撃禁止目標です。北朝鮮はこの条約の締結国であるうえ、国連でも自国の核保有を正当化する発言を繰り返しており、その立場からも条約違反はできません。自ら条約違反をすると自国の核保有の正当性を無くすことになり、中露も弁護できなくなります。世界中から反発必至でアメリカの攻撃を誘発します。

 

結論

ということで「原発」には撃ちこまないと考えて差し支えありません。

軍事オプションを想像してみた

テーブルの上に何が?

「全ての選択肢はテーブルの上にある」この台詞何回聞いたんでしょうか。大きく分けると外交による対話、経済制裁国連決議などによる非難、そして軍事力。

最終手段は勿論軍事力。このところ手詰まり感がありますが、軍事オプションには一体何があるんでしょう。少し手段を探りたいと思います。

 

始まりはどっちから?

まずは、周辺の軍事力を強化し威嚇することから始まります。

空母打撃群や、韓国への地上部隊の増派などは北朝鮮の危機感をあおり、北朝鮮が妥協して交渉のテーブルにつくならばいいものの、北朝鮮核武装の意思は固くまずありえない。核実験をしても、結局アメリカは実力行使に出ないと値踏みされており、さらに過激な行動に出る可能性も。

例えば「太平洋に向けて弾道ミサイルのさらなる発射」や再度の「核実験」もやるでしょう。もし、「威嚇」が北朝鮮が存続の危機と受け取りアメリカによる「攻撃準備」であると解釈した場合はさらに致命的な危機が生じると言う人もいますが、それでは北朝鮮にとっても最悪のシナリオ。北朝鮮は戦争すれば崩壊することは自覚しているでしょう。しかし中国とロシアはアメリカの攻撃をチャンスとして利用します。

南シナ海東シナ海、クリミアやシリア、アフガニスタンなどでアメリカの影響力を排除しようと動くでしょう。アメリカはそれに対応しつつ北朝鮮と戦うことになり、厳しい戦いになります。中国はこの事態を見越してか、インドとの国境付近のいざこざは一旦手打ちにしており、ロシアは武力攻撃に「反対」の立場を貫いています。

 

手を出させるアメリカ

米軍は先制攻撃はしません。如何に大量破壊兵器であっても「実験」段階での攻撃は筋が通らず国際的に非難を浴びますし、アメリカも冷戦時にはもっと大規模に「実験」をしてきているのです。今はブッシュJrの時代とは違い、アメリカの国力は相対的に落ちているので、国際世論を無視した武力行使は不可能です。また、「自衛権」の発動にならない事態での開戦は「侵略戦争」になり、攻撃の正当性を無くします。

ただし、北朝鮮が核をどのような形であれ「使用」した場合は攻撃することになります。

そうしないと「核の傘」の信頼性が揺らぎかねず、アジアでのアメリカの立場は地に落ちます。日本、韓国もドミノ的に核兵器保有論が強くなるでしょうし、それをアメリカは拒むことができなくなります。特に被爆国の日本が万一核保有に至った場合は韓国、台湾、ベトナムなども一気に核保有に走りかねません。また、北朝鮮の核保有を認めて交渉するというカードも同じような結果を生むのでこれもできません。

そこで「威圧」し続け「暴発」を待つことになります。その際には韓国、日本、グアムが標的となります。この初撃の被害を如何に最小化するのか。ここは重要なポイントになるのではないでしょうか。

 

勝手なシナリオを書いてみた

北朝鮮の先制攻撃後、空想的攻撃シナリオを勝手に書いてみました。

(1)潜入

SEALs(米海軍特殊部隊)が北朝鮮内部に潜入。金正恩の所在地確認など情報収集にあたる。また米軍機が撃墜された場合に備えパイロット救出任務も。

(2)ジャミング

EA-18Gグラウラー(電子戦機)をエスコートジャマーとして飛ばし、対空レーダー網と通信網をダウン(ジャミング)させる。E2-D、E-3も発進し航空管制と空中警戒にあたる。

(3)トマホーク発射

戦略原潜ミシガンや在日米軍イージス艦4隻などから巡航ミサイル「トマホーク」を発射し、固定目標(レーダー、通信網、ミサイル発射施設)を破壊。総数は300発規模となる。(ミシガン154発 水上艦各50発として)同時にMQ-9リーパーなどのUAVによる対地攻撃を実施。可能な限り弾道ミサイル発射施設、TEL(移動式発射器)を破壊。BMD(弾道ミサイル迎撃)能力のある残り8隻は弾道ミサイル警戒(太平洋側)海自は日本海側に布陣。韓国にはイージスはあるがBMD能力は無いので警戒監視のみ。弾道ミサイルのみがアメリカへの直接の脅威。その観点からソウルに被害を与えるロケット砲や長距離砲は後回しになる。

(4)防空能力の剥奪

佐世保強襲揚陸艦ワスプ搭載のF35、岩国基地配備のF35が航空優勢を確保する為、北朝鮮の深部に進出し対空ミサイルランチャーを破壊。(ステルス機は敵地侵入が比較的容易)またトマホークでは地下目標、移動目標には効果が限定的なため。その後に進出するのは韓国軍のF-15K、在韓米軍のF-16など第4世代機が掃討する。(発射機の位置確認のためあえて発射させる可能性も。)

(5)空母出撃

空母「ロナルドレーガン」のFA-18E/F攻撃機4個飛行隊は38度線付近へ進出するグアムのB-1BとB-2スピリットの直掩にあたりつつ進出。

(6)爆撃開始

B-1B、B-2は38度線付近の火砲を爆撃で破壊。在韓米軍の地上軍と韓国軍は北朝鮮の侵入を阻止すべく38度線を守る。北に地上軍の派遣をすると中国を呼びこみかねず、そのリスクを避けるため北方に地上軍派遣は無い。

 

      ==ここまでをほぼ同時に一気にすることが必要==

 

(7)北朝鮮の反撃

韓国向けのスカッドERは配備したばかりのTHAADが、日本向けのノドン・テポドン1は散発的に発射される。海上自衛隊のイージスがこれを迎撃する。日本を超えたミサイルについては米軍が対応するが、海上に落下するミサイルについては無視する。

(8)ミサイルランチャーの破壊

発射後に米軍は赤外線を探知しミサイルランチャーに向けて攻撃し破壊。ランチャーは全部でおよそ50基なので撃ち漏らしたランチャーを破壊する。そうすればミサイル残弾があっても無意味。しかしリアクションタイムがとれない韓国は被害甚大。日本にも落下する可能性がある。目標は東京、横須賀、佐世保

(9)対中国警戒

開戦と同時に中国海軍(北海艦隊)は「尖閣諸島」の領有化を進めるために上陸を画策。軍隊には海保は対応できない。この事態を想定すると海上自衛隊第四護衛隊群は佐世保から出港し東シナ海の警戒へ。同時に沖縄・那覇の空自第九航空団は哨戒任務に就く。嘉手納、三沢の在日米空軍は韓国へ移動。

(10)中国人民解放軍

中国北部戦区の戦力を北朝鮮との国境線まで移動させる。難民流入対策。

空母「遼寧」は朝鮮半島近海へ展開。

(11)ソウル混乱

ソウルに北朝鮮の特殊部隊が侵入し後方かく乱を図るが、韓国軍に2~3日で制圧される。ただしソウルはインフラ、政府機関にかなりの混乱が生じる。

(12)在韓邦人救出

在韓邦人救出は韓国の同意が得られていないため、自衛隊が上陸することはできない。そのため民間機(船)による出国が開始される。攻撃前に大規模に退避させると北朝鮮に先手をとられかねないため、開戦直前に退避作戦を開始する。アメリカも韓国も自国民の保護で精一杯。まぁ開戦前には渡航禁止がでるでしょうし、徐々にソウルからは退避させるのでしょう。暫く韓国には行かないほうがいいですね。

(13)ロシアの進出

ロシアは軍事情報収集のため、航空機、艦船を日本海へ大量に派遣する。またシリアへの介入を強める。アメリカに対しての非難声明とロシア周辺の警戒に海軍がウラジオストックより日本海に展開。

(14)ネイビーシールズ

SEALsが金正恩を確保。

 

 

ということで、こんな大規模作戦無理でしょう。いや、勝手な想像なんですけど。

韓国は自国への被害が大きすぎて攻撃は同意しないし、アメリカは中露に振り回される。戦費は膨大で財政難の現状では議会も承認するのかどうか。

また、北朝鮮内に墜落したパイロットは捕まればどんな目にあうことやら。戦後処理の問題は解決しないでしょうし、比較的穏便に統一した東西ドイツと異なり、戦後復興も抱えたまま韓国は北朝鮮と統一しても大きな利益はない。それこそデフォルトに陥るし、ゲリラの対応、国内のテロに悩まされることになります。

日本も同じようにテロの対象とされます。さてこれにどう対応するのか。戦争をしない場合はこの先々ずっと北朝鮮に核によって威嚇されつづけることになります。このままでは弾道ミサイルの質と量は増えていき、どのような要求も飲まざるを得なくなるのは確実でしょう。今ならなんとか被害を限定できる可能性は高いが我が国に敵策源地攻撃力は皆無なのでアメリカ頼みです。

もし、北朝鮮核武装は認めてICBMの配備だけを認めないという段階で妥協したら日韓には脅威だけが残る。しかしアメリカは「同盟国を守る」と公言しているのでその選択肢もとれない。

ん~~やっぱり手詰まりじゃ?

平成30年度概算要求を読んでみた

防衛省が「我が国の防衛と予算~平成30年度概算要求の概要~」を公開しましたので、そのまた概要を掲載します。

【金額について】

まず、総額ですが防衛予算は長い間、横ばいから微減でした。平成25年度以降微増に転じ、今回は2.5%増、およそ5兆円としています。(当然予算折衝で減る事が予想鵜されますが、初の5兆円突入)

平成24年は尖閣の国有化があり、中国の海洋進出が脅威となり島嶼防衛の重要性が増してきた頃でした。

今回は勿論北朝鮮を想定して「ミサイル防衛」が重要な項目となっていますが、北朝鮮の脅威が高まれば高まるほど、日米が緊密に連携して対応するための装備やシステムの強化が進められます。防衛費の増額も世論的にもスムースに受け入れられるので、これは中国にとっては面白くない状態ですので中国にしたら北朝鮮が少々目障りなことでしょう。

平成26年度~30年度中期防衛力整備計画の最終年度でもあり、装備品などの調達が進められます。

 

【注目の装備品】

3900トン型コンパクト護衛艦2隻の建造、イージス艦の増勢は計上されていません。

また、SM-6ミサイルの試験用調達=以前に「海のNIFC-CA」で取り上げましたが、この新型のミサイルは長射程、撃ちっぱなし(発射した艦の誘導が不要)可能で、また早期警戒機E2-DやF35などのセンサーによって、イージス艦のレーダーの視界の外の目標に対象可能な迎撃ミサイルです。エンゲージ・オン・リモート(EOH)超水平線(OTH)攻撃能力と言います。要はイージス艦から探知できない目標を航空機のセンサーを使って探知し攻撃するものです。アメリカはテストで6発同時迎撃など成果をあげています。準中距離弾道ミサイル迎撃にも成功しています。イージスシステムやE2ーDなどのセンサー類も対応するシステムに更新する必要があるんですが、31年度以降にどうなるんでしょうか。

また、弾道ミサイルに対応するため、PAC-3の能力向上型PAC-3MSE、イージスアショアの整備に着手すること、新型迎撃ミサイルSM-3ブロックⅡAの調達(ブロックⅠBも)、空自が運用するジャッジシステム(防空用のシステム)の能力向上など目白押しです。

 

【研究開発】

研究開発では、ちょっと驚きのものがありました。

島嶼防衛用高速滑空弾の要素技術研究」と「島嶼防衛用新型対艦誘導弾の要素技術研究」の2点です。

想定は南西諸島防衛でしょうが、「高速滑空弾」についてはよくわからないのが実情です。似た感じのものは過去にもあるようなんですが、ロケットモーターで発射・上昇し弾頭部分を切り離しグライダーのように滑空し攻撃する兵器ですね。我が国では前例が無いのでよく判りませんね。もう一方の「新対艦誘導弾」ですが、巡航ミサイルと言っても差し付けないようです。自衛隊は「専守防衛」の観点から長射程の対地・対艦攻撃兵器はありませんでしたが、近年は各国のミサイルはどんどん射程距離が延びており、このままでは一方的にやられる事になりますので対応する為の研究を進めるようです。

 

【宇宙・サイバー】

また、ネットワークのクラウド化と監視機能の強化、人員も少しですが増勢するようです。宇宙関連では、JAXAと連携し情報収集、指揮統制、通信能力の強化に取り組みます。現在、弾道ミサイルの情報はまずアメリカの早期警戒衛星の情報をアメリカ本国、在日米軍経由で入手していますので、この点についてはもっと強化して欲しいですね。アメリカ側では日本の準天頂衛星「みちびき」の信号を受信し活用できるような研究も進めているようですし。「みちびき」4号機の打ち上げは10月10日だそうです。

 

【そのほか】

細かなところかもしれませんが、自衛隊が使う軽油引取税の免除を求めていたりします。

また、女性隊員の増加に伴ってトイレや育児環境整備もすすめるとわざわざ書いてます。意外にも「ワークライフバランス」って言葉が出てきます 男社会でしたからしっかり進めて欲しいと思います。

衛生機能については・・・やはり心許ない。海外に派遣される事が増えた事もあり、その点ではもっと進めて欲しいと思います。