海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

映画シン・ゴジラ地上波放送記念?兵器解説(ネタバレ注意)

シン・ゴジラでは、ほぼ全てが現有兵器なんですが今回は、シーン別登場兵器を一挙掲載!

==25分~ 
 直立したゴジラをヘリコプターが射撃しようとしますが、
 住民がいることで射撃をしませんでした。

(1) AH-1Sコブラ(対戦車ヘリ) 
20ミリガトリング砲(射撃速度700発/分)とTOW対戦車ミサイル装備。地上目標の攻撃に特化したヘリコプターですが、現在は調達終了しています。

(2)OH-1・観測ヘリコプター
着弾観測、情報収集(偵察)用の国産ヘリコプター
通称「忍者」。非常に取り扱いが容易で機動性も高く優秀な国産ヘリコプターです。

==29分~
 海上自衛隊護衛艦が海中のゴジラを捜索するシーン

(3)DD-111おおなみ
第二護衛隊群(定係港・横須賀) たかなみ型汎用護衛艦 基準排水量4,650トン 同型艦5艦。海自のワークホース的存在がこの汎用護衛艦です。イージス艦のような派手さはありませんが、艦隊護衛、対潜水艦戦など万能にこなします。

(4)SH-60K対潜ヘリコプター
潜水艦を探すためのヘリコプターでこの能力においては海自は世界一と言っても過言ではないレベルと言われています。通常護衛艦に搭載し運用しています。

(5)ディッピングソナー
ヘリコプターから吊り下げて使う「聴音機」で海中の音を探します。本来は潜水艦を見つけるためのもので、探すべき音が分かっていないとダメですが、ゴジラほどの巨体が移動する音なら他の水中雑音と区別できるかもしれません。それともアクティブモード(音波を出して対象を探す)なら巨体だけに見つけられるのかな。

 

==50分~ タバ作戦

(6)F-2A戦闘機
「対艦番長」とか「平成の零戦」とか「バイパーゼロ」など異名が色々ある、日米共同開発の結果生まれた対地対艦攻撃可能な傑作戦闘機。映画では離陸時には翼下に「増槽(燃料タンク)」のみで翼端に「99式空対空誘導弾AAM-4B」のみの装備でこの後にゴジラを攻撃するJDAMは搭載していませんでした。攻撃時にはいつのまにかJDAM(精密誘導爆弾)積んでましたが^_^; JDAMとは無誘導爆弾を誘導爆弾にしたもので、自由落下しつつ目標に向かいます。

(7)10式戦車
最新鋭の戦車。重量が重かった90式に変わり軽量化しつつ攻撃制度をアップさせました。装甲は「モジュール式複合装甲」という、任務に応じた装甲を取り付けます。破損してもその部分だけを取り換えることができ、また移動の際には取り外して軽量化することもできます。劇中に描かれていますが、移動目標相手にスラローム移動しながらピンポイントで射撃を命中させることのできる世界屈指の能力を持ちます。120ミリ滑空砲装備。発射後に砲身が一旦下がりますが、給弾と排莢をして再度発射します。発射した弾はおそらくAPFSDS(運動エネルギーで貫通力を向上させた弾)ですが、ガンダムMS-IGLOOで登場した戦車「ヒルドルフ」が発射したのも同種(笑)

(8)AH-64Dアパッチロングボウ(対戦車ヘリ)
AH-1Sに変わり導入された対戦車ヘリコプターですが、対戦車ヘリコプターは携帯式対空ミサイル(スティンガーミサイルなど)に非常に脆弱であることが湾岸戦争以降明白となったことなどから調達は計画途中で終了しました。ローター(プロペラ)の上に丸いものがついていますが「ロングボウレーダー」という高性能レーダーです。30ミリ機関砲とヘルファイア対戦車ミサイル装備。

(9)99式自走りゅう弾砲 通称「ロングノーズ」
155ミリ榴弾を発射します。弾は放物線状に飛行し着弾するため直接照準ができなくても観測情報があれば射撃できますが、着弾までの目標の移動や地球の自転力なども勘案しつつ見越して射撃しなければならないので、非常に技量が要求されます。劇中では初弾を頭部に同時着弾(同時弾着射撃)させるという神業を披露。

(10)16式機動戦闘車
戦闘も中盤を過ぎたころタイヤが8輪で大砲を乗っけた戦車っぽい車両が走行しつつ射撃しています。戦車では移動に制限があったりしますので、迅速な部隊移動を可能にし島嶼部などへの敵の上陸阻止などの役目を担うために開発されました。火力は10式戦車より劣るものの、迅速な移動と装甲車よりも防御力と火力は高い車両です。でも10式が無力なのに16式はどうーよ?って感じですけどね。

(11)B-2 ステルス爆撃機
機体重量と同じだけの金(GOLD)と価格が同じとか揶揄されるお高い米軍のステルス爆撃機。3機落とされたので米軍えらいこっちゃ~です。ゴジラは劇中台詞で「フェイズドアレイレーダーのような仕組みを持っている」とされていましたが、ステルス機も探知するレベルなのか、飽和攻撃によって撃墜したのかは定かではありませんね。

 

==1:55分~ ヤシオリ作戦
(12)米軍無人攻撃機
MQ-9リーパー・MQ-1プレデターの混成ですが、攻撃兵器はヘルファイア対戦車ミサイルゴジラを疲弊させるために、1機1000万ドル以上がバカバカ落ちる・・・

 

ゴジラは以前は架空兵器のオンパレードでしたが、今回はリアル感満載。 次はガメラの新作も見てみたい。

 

(写真は陸上自衛隊のギャラリーより借用)

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海洋立国としての必要なこと(1)

広大な海を持つ日本

日本の国土面積は狭いですが、世界第六位の広いEEZ排他的経済水域)を持っていますし、資源や貿易はほぼ全てが海運に頼っています。447万㎢・・・広すぎてピンときませんが。

東には広大な太平洋があり、誰がどう見ても間違いなく「海洋立国」です。

EEZを簡単に言うと、経済活動・資源管理的には領海と同様に扱うが、国際間の利用(飛行や無害通航)などについては公海と同様に扱うということです。国連海洋法条約では、領海と排他的経済水域を除く海は「公海」ですから、それ以外を勝手に自国の海とする事は禁じられています。漁業資源と共に海底資源の埋蔵量も豊富と考えられている東シナ海では中国とのせめぎ合いも激しさを増しているところです。

 

FON「航行の自由」作戦

国際的に認められた海域や海峡を軍艦で通過しすることで、特定の国の一方的な主張を認めない行動をアメリカは各地で不定期に実施しており、これを「航行の自由」作戦(FON)と呼んでいます。南シナ海の中国の過剰な領有権主張に反発し、時折無通告で行っている「軍艦の無害通航」はこの「航行の自由作戦」の一環ですが、アメリカはそれ以外の国・海域にも行っています。台湾もイランやインドも。勿論日本に対して実施した事もあります。つまりFONは多くの国を対象としていますが、これは対中国だけに実施すれば中国を必要以上に刺激することになるため、その点はアメリカも配慮しているようです。

 

サラミスライス戦略(サラミ戦術)

現在中国が周辺国に対して実施しているのが「サラミスライス戦略」と呼ぶものです。「サラミスライス戦略」とは、サラミソーセージを丸ごと1本盗むとすぐにばれますが、少しづつ削り取るように盗んでいくとなかなかばれないことから例えられました。同様にして中国は領土領海を削り取る戦略を採用しているとされています。(サラミ戦略は領土に限った戦略を言う訳ではありません)

プロスペクト理論

この戦略の怖い点は少しずつなので、状況に慢性化し、慣れが国民の間に蔓延していく点です。日本でいえば尖閣に中国公船が侵入しだした頃は毎日報道もされましたが、近頃ではさほど騒がれ無くなりました。例えば尖閣のようなちっぽけな無人島の取り合いで「戦争」をするのは割りにあわないとして、譲歩したり看過しているとそこを足掛かりに次は「与那国島」「多良間島」「西表島」へと進むかもしれません。そこで慌てて「我が国に返せ」となるのですが、こちらは既に実効支配されている状態からの外交交渉になります。既に現状に対する参照点が変更されており、(4島減)外交交渉で人の住む「与那国・多良間・西表」の3島を取り返したとしても、「尖閣」は無人島であることもあって実効支配を許してしまうかもしれません。経済学の「プロスペクト理論」では、この参照点からの差を重要視しており、4島減から3島を取り返すと「儲けた」気分になりかねません。もっと取り返そうとすると「戦争」になると脅かされると「妥協」する世論も生まれます。民主国家では世論は強力ですから政府は動けないかもしれません。また、尖閣の取り合いで米軍は関与してこない可能性もあります。1988年に南シナ海ベトナム海軍と中国海軍の軍事衝突に関与せず、その後も南シナ海岩礁の占拠にはさしたる関与をしませんでした。その結果はご存知の通り南シナ海での中国の行動を許すことになっています。

 

だから譲歩できない

この視点から考えても領土問題は最初から一歩も譲ってはならないこと、一義的に自国で対応することが肝要です。言い換えれば「領土」はこうやって拡張するのです。正面戦争によって奪うなんて前時代的な事はしません。そうやって中国が侵攻してくると思うのは間違いです。小さな紛争程度で収めつつ削り取るのが上策です。また日中は経済的にも関係が深いうえ、現段階での武力侵攻は世界中の反発を招きます。この点をしっかり認識をしておきたいと思います。実効支配すれば「こっちのもん」であって、それを取り返すのが容易で無いのは「北方領土」「竹島」で実感していると思います。

 

マハンという人物

中国では近年アルフレッド=マハンという、アメリカ軍人でシーパワーの研究者の書籍がよく読まれているようです。マハンは海上権益確保についての研究で知られており、日本では秋山真之日露戦争時の海軍参謀)などは非常に影響を受けました。海洋進出を国是とする中国で「シーパワーの古典の名著」が読まれるのは理解できます。我が国の指導者層はどうでしょうか。いささか心配ではあります。明治政府や当時の海軍はシーパワーの重要性を認識しており、海軍力の急速な整備を急ぎました。

 

日本は世界第六位の広い海域を保護(権利の主張)するために相応の海軍力が必要になりますが、その点についてはまた。

輸送量は大切ですね

自衛隊は勿論完璧ではありません。どのような組織であっても、いくつかの問題点が存在しますので、それへの対処は非常に重要です。

しかし問題点を指摘されていてもその当時の状況(人員・予算・緊急度など)に応じて問題解決の優先順位がつけられ対応していくしかありません。

北朝鮮弾道ミサイルを発射し初めて日本上空を通過した1998年以降、自衛隊は防空能力(弾道ミサイル対処)の向上が優先されてきました。その為、正面装備として優先的に予算が割り振られて来たのはBMD(弾道ミサイル防衛)能力の質的・数的向上でした。

しかし、北朝鮮情勢がひっ迫するにつれ新たな問題が浮上してきました。もし、北朝鮮が韓国との戦争状態に突入した場合、もしくはそれが目前に迫った場合には緊急に在韓邦人を帰国させなければなりません。(非戦闘員退避活動、通称:NEO)

ここで後回しになっていた問題点が顕在化します。

ソウルは38度線(休戦協定ライン)に近く、開戦後にすぐ被害が相当程度予想されるので避難には時間的余裕がありません。

まずは釜山などの南部の港へ避難させるとしても、そこまでのルート、移動手段の確保が必要ですが、避難するのは日本人だけではありません。勿論韓国や米国、豪州など他国の人も一斉に避難します。当然、混乱が予想されます。これを如何にしてスムースに行うか。最初の関門です。

開戦後は米軍が航空優勢を短期間に確保します。しかし韓国上空は戦闘空域であり平時の空ではありませんので、IFF(敵味方識別装置)の無い民間機は誤射の可能性も捨てきれず利用しにくい状況です。滑走路も混雑するでしょう。

海についても僅かでも脅威(潜水艦・機雷など)が想定されるなら民間船は使えないでしょう。万一民間船が攻撃されたら、政府は苦しい立場に追い込まれます。

そこで自衛隊の出番なんですが、以前はできなかった「邦人救出」が安全保障法制によって可能となっていますが、これには相手国の同意が必要です。なおかつ危険地帯(交戦地域)に侵入し邦人救出する場合では、全面的な武器の使用は認められていないため(警察権の範囲であり正当防衛まで)救出に向かう自衛隊員の安全確保ができない場合がありえます。北朝鮮はフリーハンドで攻めてきますから。

さらに韓国の反日感情によって自衛隊艦艇は入港は拒否される可能性があります。韓国軍の要請によって自衛艦艇が韓国に入港したときですら、自衛艦旗旭日旗)は掲揚できませんでした。(国際間のルールでは軍艦は掲揚することになっているんですが、反日感情に配慮したようです。)手を借りようと思っても米軍、豪軍などは自国民の確保で手一杯。外国人(この場合は日本人)は後回しになります。

そこで、日・米・豪・韓などで有志連合を構成し有志連合の任務として自衛隊輸送艦やC-130H輸送機などを使うとします。

ここで大事なのは輸送量です。ざっくりとした数字で見積もります。

 

輸送機

C-130H・・・90 25機 2250人

C-2・・・100人 5機 500人

C-1・・・60人 15機 900人

輸送艦 

おおすみ型(おおすみ・しもきた・くにさき) 1000名 3隻 3000名

 

輸送機、輸送艦が一斉に行ったとして、一度に輸送できるのはたった6650名

ただし自衛隊が民間の貨客船を借り上げて運航することはあります。その場合はもう少し輸送量が大きくなります。

長期滞在の邦人が約4万人、旅行などの短期滞在が約2万人の合計6万人として、単純計算で9往復。

勿論、飛行機のほうが早く往復できますが、飛行場や港は混雑しています。大規模な退避作戦のオペレーション経験もなく、韓国の反日感情の中で戦時に民間人の退避作戦が順調に行えるとは思えません。

 

非戦闘員退避活動(通称:NEO)は長らく想定してこなかった事態です。安全保障法制ができる前は、「邦人救出」は「海外派兵」と言われ「軍国主義復活だ」と非難されてきた為、政府も自衛隊も十分な訓練や装備の調達、シュミレーションがおこなえませんでした。

現状では軍事衝突の可能性が高いとは言えませんが、突発的な事態で急に戦闘が不可避になる可能性もあります。まずは旅行など不要不急の訪韓は控えつつ、訪韓時には外務省の海外安全HP・危険情報を確認する必要があるようです。(現在は問題無しです)有事に在韓邦人の数が少ないほど退避しやすいのは当然です。

 

ミサイル防衛が注目されていますが、輸送も極めて重要な問題です。

日本は太平洋戦争(大東亜戦争)時にも、指導者が輸送量を軽視する傾向があり、担当者が船腹量の不足を進言し作戦の問題点を指摘しても強行する事が多々あったようです。今回は資源輸送ではありませんが、「船が足らない!」そのような事の無い様にしたいものです。

(写真は航空自衛隊HP・フォトギャラリーより)

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昭和19年10月25日

この日が何か知っている方は多くは無いでしょう。しかし、「特攻隊」この言葉はご存知でしょう。当時の海軍の正式名称は「神風(しんぷう)特別攻撃隊」と言います。

 

昭和16年12月8日に始まった「太平洋戦争(大東亜戦争)」は、開戦初頭と様変わりし、じり貧の日本軍はフィリピンで戦いを繰り広げていました。

 

昭和19年10月に着任したばかりの大西瀧次郎中将(20日に第一航空艦隊司令長官)は、部下と相談し戦闘機に爆弾を搭載し体当たりさせることを立案し、名前を「神風特別攻撃隊」と名付け20日に関大尉を隊長として「敷島隊」「大和隊」「朝日隊」「山桜隊」合計24名で編成しました。

設立の経緯は諸説あるのですが、大西中将の案に対し及川古志郎軍令部総長が「決して命令してくださるな」と念押ししているようです。

大西中将も前年に部下からの進言があった際には「統率の外道」として却下、フィリピン着任前にも上官に対し「強制命令でやれとはどうしても言えぬ」と言っており、かなり迷った様子が伺えます。

 

しかし、既に日本は機材も不十分で技量の未熟な搭乗員(パイロット)が多く、大西洋戦線で戦ってきた歴戦の米軍パイロットが乗る最新鋭機には到底太刀打ちできなくなっており、艦隊戦でも戦力差は歴然でした。

既に海軍は組織的に特攻兵器を数種作り始めており、「特攻」しかやれぬと決断したようです。

 

大西中将は三国同盟や開戦に反対の立場でしたが、開戦後は航空戦力に力を入れるべきとしており、その航空戦力の弱体化が特攻を誘引したのはなんとも皮肉です。

大西中将の写真を見ると、どっしりとした体躯、ふくよかな顔の人でしたが、非公開の写真では特攻機を見送る頃には、別人のように痩せこけて暗い表情になっていたそうです。

 

特攻が始まって以後も「統率の外道」と言い続け、終戦の翌日には切腹によって果てました。享年55歳でした。

切腹は腹を十字に割き、胸を突き刺しましたがなかなか死ねず、駆けつけた軍医や部下に「介錯と延命は不要。できるだけ長く苦しんで責任をとりたい」と言い、ったそうです。

 

最後に残した遺書です。

(改行等はスペースの都合上変更、原文には句読点は無し。)

 

特攻隊の英霊に日す、善く戦ひたり深謝す。 最後の勝利を信じつつ肉弾として散華せり、 然れ共其の信念は遂に達成し得ざるに到れり、 吾死を以て旧部下の英霊と其の遺族に謝せんとす。

次に一般青少年に告ぐ。 我が死にして軽挙は利敵行為なるを思ひ聖旨に副ひ奉り自重忍苦するの誡ともならば幸なり。

隠忍するとも日本人たるの矜持を失ふ勿れ。諸子は国の宝なり。

平時に処し猶克く特攻精神を堅持し日本民族の福祉と、世界人類の為 最善を尽くせよ…

海軍中将大西瀧次郎

 

今日は平成29年10月25日。多くの亡くなられた方のご冥福を改めて祈ります。

戦争は始めることは簡単ですが終わらせることはなんとも難しいもの。このような事を二度と繰り返さないように、しっかり学びたいと思います。

力の真空

「力の真空」という言葉をご存知でしょうか。

簡単に言うと「軍事力の無い、若しくは極めて小さい」地域や国のことをこう呼びます。

 

これは過去の例をさかのぼるとよく判るのですが、「真空」地帯は紛争や戦争が極めて起きやすいのです。

真珠湾攻撃

我が国で言うと太平洋戦争時の真珠湾攻撃はその真空地帯だったため行われました。(勿論他にも幾つかの要件がありますが)

当時のアメリカ・イギリスは元々の海軍戦力で日本とほぼ互角。しかし大西洋ではドイツのUボート(小型の潜水艦)による通商破壊が盛んになっており、アメリカの工業力頼みのイギリスを助ける必要もあり、また世論が経済制裁されている日本よりも軍事的にはヨーロッパに注目していました。そのためルーズベルトは大西洋に注力せざるを得ず太平洋方面には軍事力を割いていませんでした。

その間隙を突くため「桶狭間とひよどり越えと川中島とを併せ行ふ」(山本五十六)ことを決意しました。当時の現状に対する「挑戦国」としてアジアでは日本が勢力を拡大していましたので、その「力の真空」を利用して現状変更の実力行使にでたのです。

フィリピン

1992年にフィリピンから駐留米軍が完全撤退しましたが、その後南シナ海では中国が経済成長と共に軍事力の急激な強化をすすめ、南シナ海自国領海(九段線)と宣言し周辺国に圧力を加えています。美しい島々は埋め立てられ滑走路が整備されサンゴも破壊し漁業では魚を採り尽すなどやりたい放題。武力で対抗できない周辺国は押されっぱなしです。フィリピンが国連海洋法条約に基づいて提訴し勝訴しましたが、それすら「紙くず」と言い放っています。これも「挑戦国」による「現状変更の試み」です。

中東

中東でもアメリカの軍事プレゼンスの低下と共に「力の真空」が生じており、その代わりにイラン、ロシアが勢力を拡大しています。特にロシアは自国の権益確保とNATOとの安全保障上の観点から真空地帯に手を延ばしています。親米国であったトルコ、イスラエルサウジアラビアなどは「見捨てられる恐れ(同盟のジレンマ)」にまさにさらされているのではないでしょうか。

他にも

朝鮮戦争ベトナム戦争も「力の真空」状態を発端として始まりました。

 

これは軍事が好き嫌いというレベルの話ではありません。平和を希求するなら理解しておくべき事実です。

 

「力の真空」を作らないようにするために日本はどうすべきか考えなければなりません。

今、米軍が沖縄から引き揚げるとその真空が生まれます。その後はどうなるのか簡単に想像できるでしょう。

アメリカは近年「オフショア・バランシング」という「引きの戦略」が注目されています。これによってアメリカが引きこもると東アジアのパワーバランスは激変し、中東のような状況に陥るかもしれません。

 

しかし日本はアメリカの国益に直結した地理的な位置にあります。これを活用しアメリカを巻き込み続けることは、かえって安価で抑止力確保ができる事に繋がります。軍事だけでは無く経済・産業も絡めた総合的な視点が必要です。

安全を守る「安全保障のジレンマ」

前回の同盟のジレンマに続き今回は「安全保障のジレンマ」を取り上げます。

「安全保障のジレンマ」は経済学のゲーム理論で有名な「囚人のジレンマ」というモデルを応用したものです。

例えば日本が自衛の為に自衛隊の強化や能力の拡大をする、日米の同盟関係を強化する、インドなどとも同盟を結ぶなどすると、その行動(軍備・能力)が中国から見れば脅威となります。中国は自国の安全確保として軍拡にすすみます。

実際に中国は公式には「自国の安全保障のための軍拡である」と言っています。

しかし日本は中国の行動を見てさらに防衛力を高める努力をします・・・といつまでたっても安心できる状態にはなりません。この状態を「安全保障のジレンマ」と呼びます。

 

日本はそれを避けるために軍備を極めて防衛的なものとし、能力の制限をしてきましたし、アメリカ以外との同盟は結んでいませんし、日米とも防衛関係費や調達先、研究開発項目、装備の能力なども可能な限り公開してきました。日米共同の軍事演習に際してはその場所や訓練目的の公開や視察の受け入れなども実施しています。

しかし中国はあらゆる情報を非公開としています。また環太平洋合同軍事演習(リムパック)に近年参加するようになった中国は海軍同士の慣例やルールを無視した行動を取るなどしています。これでは反感は買っても信用はできません。

この状態で防衛力の低下を招く行動や日米同盟を損なう行動はリスクを高め、かえって世界を不安定化させる要因になりかねません。特に東南アジア諸国は注視しています。

 

囚人のジレンマやスタグハントゲームでは相手を信用できれば(協調できれば)互いに有益であるにも関わらず、信用できないため結果的に損をする事があります。これと同様な事が起こっているのです。

 

アメリカの国際政治学者であるロバートジャービスは、「国家は安全を確保すれば戦争に訴えることは無い」と提唱していますが、そのジャービスも「国際社会は国家より上位の主体が存在しないため複数の国家戦略による相互作用が生じる」と主張しており、囚人のジレンマのジレンマのように2者間で考えるよりももっと複雑です。

しかしゲーム理論的に考えると、攻撃し侵略する場合よりも協調したほうが自国の利益が最大化される場合は協調を選ぶ可能性があると言えます。安全保障のジレンマは、軍事力そのものというよりも「攻撃力」と「防衛力」のバランスの問題であるとされています。しかし「防衛力」と「攻撃力」は明確な区分ができる訳ではありません。

どうやって互いに好ましい選択をするようにしていくのか。これはとても複雑で難解な挑戦です。酒を酌み交わせばいいとか、丸腰になればいいとか憲法9条を守っていればいいとかそんな単純なら既に戦争は無くなっています。

 

古代ギリシアの歴史家トゥキデディスの言葉ですが、「戦争が起きる原因は3つしかない それは「利益」か「恐怖」あるいは「名誉」だ 」と言っています。

恐怖させず名誉を傷つけないようにしつつ、協調こそが利益を得る方法だと互いが理解すれば戦争は起こらないのでしょうが、これがどうしてもできない。

しかしこれは人類共通の目標ではあるようです。

 

(写真はリムパックでの艦体行動の様子。Credit: US Navy)

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安全を守るジレンマ「同盟のジレンマ」

衆議院が解散され選挙が近づいてきました。近年は争点として「安全保障」がとりあげられることも多くなったように思います。個人的にはたまには任期いっぱいで解散をみてみたい(-ω-)

 

今回は安全保障の大きなテーマである「同盟のジレンマ」についてです。もう一つ「安全保障のジレンマ」については回を改めて。

日米同盟は片務的ではあるものの「軍事同盟」であり、日本の安全はアメリカの拡大抑止によって確保しています。外務省によると「米国の拡大抑止は、日本の防衛及び地域の安全保障を支えるものである。米国は、あらゆる種類の米国の軍事力(核及び非核の双方の打撃力及び防衛能力を含む)が、拡大抑止の中核を形成し」とあります。

 

しかし、北朝鮮問題や中国の海洋進出に伴う尖閣防衛問題など、日本に直接関係する安全保障問題を抱えるようになって、この2つのジレンマが注目されるようになりました。

東西冷戦時代はまだ分かりやすかった時代です。アメリカは覇権国として共産主義の進出を抑えるため、そして自国の権益を最大化しアメリカ的価値観を世界に広めるためには、日本の地理的な位置は手放せないものでした。(地理的な優位性は通信・流通などが発達した現代でも幕末と同じく一向に変わりません。)

ですから例えば日本に当時のソ連が進出しようものなら、絶対に防衛するだろうと考えられたのです。そのため日本は強大な軍事力を持つアメリカに守られる事は間違いないだろうと安心していました。自衛隊は米軍の補完戦力であれば十分で「見捨てられる恐れ」が低い時代が続きました。

以前の日本は「憲法9条」「非核3原則」「集団的自衛権保有するが行使せず」という政策をとる事で、「巻き込まれる恐れ」を避けてきました。

しかし、今はアメリカの国力・軍事力は相対的に低下し、中国が経済でも軍事力でも世界2位の大国となり、覇権国を脅かす挑戦者となりましたし、核攻撃力を北朝鮮は備えようとしています。

 このような状況で果たしてアメリカは日本を本当に防衛するのかという心配が出てきました。

実際に冷戦の終結以降のアメリカはそのような論調が見られ「日本のためにアメリカの血をなぜ流すのか」と。対応を迫られていた日本でしたが、安倍政権になり集団的自衛権の行使を容認したことで多少は「見捨てられ」なくなったでしょうが、「巻き込まれる」可能性も必然的に高くなります。これは安倍総理の見解とは異なりますが、このジレンマは表裏一体のもので、同盟には常について回るものです。またこれは同盟国同士の地理的条件が大きな要素となりますので、どの程度の同盟関係が良いのかはなかなか見いだせない問題です。 

 

もし、中国が尖閣や沖縄に武力行使や占領するような行為をしたら・・・それに対してアメリカはどのようにふるまうのでしょうか。

自国のリソースを消費してまで尖閣諸島先島諸島防衛に協力してくれるのか。これが「同盟のジレンマ・見捨てられる恐れ」です。(NATOでもロシアの脅威に対してアメリカがどこまで負担するのかという不安は常にあります。NATO諸国もロシアに隣接する国家は不安が高い反面、離れている国家は脅威を感じない場合もあり、足並みはそろわないかもしれません。集団防衛が機能しないこともあります。)

逆の状況が発生した時、例えば南シナ海でアメリカ海軍が中国海軍と諍いを起こし、その反動で中国が尖閣や沖縄に軍事行動をおこすなど、日本が望まないのに武力衝突が起こるなどの場合が考えられますが、これが「同盟のジレンマ・巻き込まれる恐れ」です。

 

一般論として「日米同盟は危険」という人がいますが、私は逆であると考えています。

同盟関係は極めて強固にしておく必要があります。アメリカにとり日本が無くてはならないものとなった時、(変更できない地理的条件は日本側が有利)アメリカの行動を抑制できるようになるからです。実際に米英はそのような関係です。お妾さんから本妻になる努力をするのです。そうして日本は西太平洋~インド洋にかけてのキャスティングボードを握る必要があります。その為にインドとの関係強化は有益です。インド洋においてはインドの協力を得つつ、日印でアメリカの行動を好ましいものにしていくことこそが正しい同盟であると思います。

また北朝鮮のミサイルが日本には届き、アメリカには届かない現在は(北朝鮮は弾道ミサイル以外にアメリカに直接攻撃できない)アメリカは北朝鮮に軍事行動を起こしやすいと考えられます。攻撃への閾値が低い状態です。

もしアメリカの国益を脅かす境界(レッドライン)を北朝鮮が超えるとしたら、アメリカは自国の安全の為に予防的に攻撃を起こす可能性が無いとは言えません。

アメリカ領土でなくても領海内で核爆発などを行った時は「自衛権」の発動の範囲ですから、アメリカの軍事行動を止める理由は無くなります。(CTBT・包括的核実験禁止条約未発効、北はCTBT未署名、NPT・核拡散防止条約脱退なので国際条約違反にはなりません。)しかしそのリスクは日本が(韓国も)負うことになります。

安全保障上、アメリカとの取引材料が無い我が国はこれを拒否できません。

 

北朝鮮問題に限って言えばアメリカは「同盟国の為にあらゆる用意がある」と言い、軍事的な示威行為をしていますが、中国の海洋進出に関しては「日米安保の適用範囲である」と言っているだけに過ぎず、かなりの温度差があります。

つまり北朝鮮問題では「巻き込まれる」かもしれませんが、尖閣問題では「見捨てられる」かもしれません。

 

さて、北朝鮮問題に限って言うと、北朝鮮としては自国の安全確保には「在日米軍」「在韓米軍」「経済制裁」そして「集団的自衛権」が非常に邪魔となります。そこで日本に対し恫喝することで日本国内の「巻き込まれる恐れ」を誘発し、日本国内の世論誘導を目論んでいるかもしれません。日本がアメリカに対し「軍事行動を拒否」すればするほど時間稼ぎができ北朝鮮が有利になります。

9月14日、国連安保理での制裁決議に反応した北朝鮮の報道官声明は「日本は米国の制裁騒動に便乗した」と 非難し「日本列島島を核爆弾で海に沈めなければならない」でしたが、これは明らかに日米分断を意図したもので「武力による恫喝」です。

恫喝に屈しないために単独でできることは

1)相手の攻撃を全て躱しつづける能力を持つ

2)相手に攻撃される前に攻撃し攻撃力を奪う

3)攻撃による被害を最小限に食い止めたのちにやり返し勝つ  の三択です。

普段の生活なら逃げて警察に助けを求めることができますが、国家より上位の権力はありませんし、国土を動かすことはできません。

 

そして現状は(1)~(3)のどれも完全には成しえません。

1)相手が実力行使に至った場合には、被害極限は可能でも無傷では済まないかもしれませんし、いつまでも躱し続けられるものではありません。また恫喝が続けば恐怖心から戦争に至ることは歴史が証明しています。安全保障がこれほど政策として注目されたことはあまりありません。これは日本国民の中に恐怖心が多少芽生えた証明ではないでしょうか。クラウゼビッツ(1780-1831没)という戦略家の言葉に「恐怖感を持つ人間は、善いことよりも悪いことを信じやすく、悪いことは誇大に考えやすい。」この延長線上に戦争があります。

2)(3)は日本にはその能力がありません。

そこで(4)強い仲間を集めて手出しさせない。となりますが、これはどこまで仲間を信用できるのかという命題があります。

 

しかし良い仲間というのは互いを助け合いもしますが、時には過ちを諫める事ができるものです。片務的な同盟から双務的な同盟へーこれは国力や戦力だけの問題では無く関係性のことと思います。

酒を酌み交わせばわかり合えると言った若者がいましたが、思想信条・政治形態も文化も全く異なる者同士では、そんな簡単にいく訳もなく、世界中の研究者、政治家がこのテーマに取り組み解決できない問題、それが「同盟のジレンマ」です。