力の真空
「力の真空」という言葉をご存知でしょうか。
簡単に言うと「軍事力の無い、若しくは極めて小さい」地域や国のことをこう呼びます。
これは過去の例をさかのぼるとよく判るのですが、「真空」地帯は紛争や戦争が極めて起きやすいのです。
我が国で言うと太平洋戦争時の真珠湾攻撃はその真空地帯だったため行われました。(勿論他にも幾つかの要件がありますが)
当時のアメリカ・イギリスは元々の海軍戦力で日本とほぼ互角。しかし大西洋ではドイツのUボート(小型の潜水艦)による通商破壊が盛んになっており、アメリカの工業力頼みのイギリスを助ける必要もあり、また世論が経済制裁されている日本よりも軍事的にはヨーロッパに注目していました。そのためルーズベルトは大西洋に注力せざるを得ず太平洋方面には軍事力を割いていませんでした。
その間隙を突くため「桶狭間とひよどり越えと川中島とを併せ行ふ」(山本五十六)ことを決意しました。当時の現状に対する「挑戦国」としてアジアでは日本が勢力を拡大していましたので、その「力の真空」を利用して現状変更の実力行使にでたのです。
フィリピン
1992年にフィリピンから駐留米軍が完全撤退しましたが、その後南シナ海では中国が経済成長と共に軍事力の急激な強化をすすめ、南シナ海を自国領海(九段線)と宣言し周辺国に圧力を加えています。美しい島々は埋め立てられ滑走路が整備されサンゴも破壊し漁業では魚を採り尽すなどやりたい放題。武力で対抗できない周辺国は押されっぱなしです。フィリピンが国連海洋法条約に基づいて提訴し勝訴しましたが、それすら「紙くず」と言い放っています。これも「挑戦国」による「現状変更の試み」です。
中東
中東でもアメリカの軍事プレゼンスの低下と共に「力の真空」が生じており、その代わりにイラン、ロシアが勢力を拡大しています。特にロシアは自国の権益確保とNATOとの安全保障上の観点から真空地帯に手を延ばしています。親米国であったトルコ、イスラエル、サウジアラビアなどは「見捨てられる恐れ(同盟のジレンマ)」にまさにさらされているのではないでしょうか。
他にも
朝鮮戦争もベトナム戦争も「力の真空」状態を発端として始まりました。
これは軍事が好き嫌いというレベルの話ではありません。平和を希求するなら理解しておくべき事実です。
「力の真空」を作らないようにするために日本はどうすべきか考えなければなりません。
今、米軍が沖縄から引き揚げるとその真空が生まれます。その後はどうなるのか簡単に想像できるでしょう。
アメリカは近年「オフショア・バランシング」という「引きの戦略」が注目されています。これによってアメリカが引きこもると東アジアのパワーバランスは激変し、中東のような状況に陥るかもしれません。
しかし日本はアメリカの国益に直結した地理的な位置にあります。これを活用しアメリカを巻き込み続けることは、かえって安価で抑止力確保ができる事に繋がります。軍事だけでは無く経済・産業も絡めた総合的な視点が必要です。