海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

沈黙の艦隊公開記念 原子力潜水艦

映画「沈黙の艦隊」公開記念!久しぶりに書いてみました「原子力潜水艦

ここに手を付けることは沼ですのでキリがないとも言えるんですが、この際ひとまとめしておこうと思います。特殊な事例などは除外し通常潜は海自、原潜については米原潜を中心とします。それでも7,000文字越えました・・・

【意外と難しい?潜水艦建造】

世界で潜水艦を運用しているのは40か国ほど。そのうち潜水艦を完全に自国開発・建造できる国は日・米・英・独・伊・仏・スペイン・露・中・スウェーデン・印です。ほかに韓国・北朝鮮・台湾も運用していますが、現段階では完全国産ではありません。

そのうち原潜保有国は米・英・露・中・仏・印のみ。これはNPT(核不拡散条約)によって核兵器保有が認められた5か国と、インドはNPT非加盟で2016年に国産原潜を就役させました。オーストラリアは軍事協定「AUKUS 」によって米英の協力によって原潜保有を目指しています。

北朝鮮は通常潜に弾道ミサイルを搭載した潜水艦を開発しましたが、露からの技術供与で原潜保有を目指しているものと思われます。台湾はどうやら日米の技術者が協力して開発したようですが、対中抑止の一環として日米政府がバックアップしたと考えられます。

潜水艦は水上艦に対しほぼ無双できるうえ、隠密性が高いことで相手は対潜警戒に能力を割かれてしまいます。

高い抑止力と生存性(残存性)によって反撃力を確保できます。また技術力の象徴でもある兵器で、極めて秘匿性が高いのです。正確な潜航深度や速力などの情報や、その他の能力は外部に流出することはありません。

ハッチが開いているときはカバーがかけられ、ハッチ厚すら隠しますし、進水時には書かれてあった艦番号は就役時には消され個艦識別がしにくくなるように配慮されます。乗員はどこに行くかも知らされず、また出港は家族にも伝えることができません。

日本は先の大戦時に伊号などの大型潜水艦をすでに製造していた経験もあり、航空機まで搭載していた艦もあります。歴史的にも潜水艦とは縁が深いのです。通常潜では世界一の製造・運用能力を誇ります。

潜水艦は一度潜ると艦位がわかりません。潜航中はGPSなどの測位衛星の信号は受信できず、昔みたいに天測するためにしょっちゅう浮上をするわけにもいきません。

なので方位はジャイロコンパス・速力は加速度計で測定し、慣性航法装置が外力も加味した数値を算定することで自艦の位置が分かります。この精度は世界一ともいわれます。

【通常潜と原潜】

潜水艦は動力を大別して「通常動力型潜水艦(通常潜)」と「原子力潜水艦(原潜)」に分かれます。

「通常動力型」はディーゼルエンジン燃料電池スターリングエンジンもある)とバッテリ、モーターを搭載し浮上中はエンジンで推進し、また発電した電力を充電します。エンジン駆動中は騒音と排気ガスが発生し、また水面に露出しているため潜水艦にとっては極めて危険な時間帯です。

水中はバッテリ駆動で推進します。「そうりゅう型」以降はリチウムイオンを採用し従来の鉛蓄電池よりも高性能になりましたが、艦内酸素やバッテリの都合上、潜航時間も限度があり、出力も小さく水中速力も最大20ノット程度でそれも長くは使えません。通常は数ノットで進みます。電池残量命ですもんね。

反面、通常潜は水中ではモーターですので非常に静粛性が高く、モーターも止めてじっとしていればほぼ無音。艦体も小型(そうりゅう型で水中排水量4,000トン、全長84m)なのでアクティブソーナーの反射面積も少なく発見されにくい点は利点です。

とはいえ、海自の潜水艦ってそこそこ大きいと思いますが。

原潜は冷却水を回すポンプは止められず騒音は発生し続け、3次冷却水は温水なので潜航深度が浅ければ熱源探知も可能で、艦体は一般的には大型で5,000トン以上(バージニアBlockⅤで水中排水量10,000トン、全長140mほど)になるのでソーナー反射面積も大きく、隠密性では劣ります。

米最新戦略原潜である「コロンビア級」などはさらに巨大で、水中排水量20,000トン、全長170m。また潜水艦は金属の塊であるため磁気による探知もおこなわれますが、これも小型の通常潜は有利です。(フランスには3,000トンくらいの小型の原潜があったり、ロシアには磁性を帯びないチタン製の潜水艦もあり例外も多々ありますのであくまで一般論です)

原潜は動力が原子炉であるゆえに非大気依存で大出力なので、水中速力も30ノット以上を継続して出せたりします。

つまりA地点で原潜を発見したとしても一旦見失えば(失探)、高速で移動していることを想定して広範囲を探索しなければならず、突然遠く離れたB地点に出現することもありえるのです。これは原潜ならではの芸当です。

長射程ミサイルを発射後に潜航し高速で移動してしまえば、敵が気づいて発射点に来ても既にそこにはいません。高速を活かしてヒットアンドアウェイができます。

また高速であるということは戦域に進出する時間が短くて済みます。これは敵に大きな負荷を強いることができます。

多くの原潜は加圧水型原子炉を採用し、燃料の交換を運用期間中にほぼしないで済むように高濃縮ウラン235を使用します。復水器に用いる海水は周囲にいくらでもあります。最新型の炉では燃料は艦の寿命と同等の30年は持つといわれます。燃料が核兵器と同等の濃縮率である点がNPT上、実質的に原潜が常任理事国にしか保有が認められない理由です。

駆動は原子炉の蒸気を吹き付けてタービンを回転させ減速ギアを介してプロペラを回転させる、ギアードタービン方式が効率が高いため主流ですが、これは騒音の一因となります。静粛性の優れる発電した電力でモーターを回転させるターボエレクトリック方式もアメリカの最新潜水艦コロンビア級で採用されるようです。それでも冷却水循環ポンプは動かすので静粛性は通常潜には及びません。

一応、自然循環でも冷却ができるような構造にはなっていますが、静粛性というよりも安全対策の一環です。

推進器であるプロペラは細長く捻じれたような形のスキュードプロペラで静粛性のために1軸推進が大半です。このプロペラ形状も極秘扱いで進水式などではカバーで隠され見えなくされます。

【運用】

潜水艦にも運用方法によっていくつかのタイプがあり、相手潜水艦や水上艦、対地目標を攻撃するための色んな武器を搭載します。(対艦には長魚雷やハープーン、対地にはトマホークなど)このような役割の汎用潜水艦は通常潜・原潜ともにあります。

核抑止力3本柱のひとつとして核弾道ミサイル戦略核)を搭載し、静かにどこかで潜航している戦略ミサイル原潜もあります。英・仏は戦略核運用は原潜のみ。このように潜水艦は多様な攻撃手段のプラットフォームとなっています。

長期間潜航し大型の弾道ミサイルを多数搭載できる原潜は、戦略核と相性が良いのですが、原潜が必ず核兵器を搭載している訳ではありません。汎用潜水艦の搭載兵器である「長魚雷」「ハープーン」「トマホーク」などは非核兵器です。その点は誤解なきように。

米では元々戦略ミサイル原潜であったオハイオ級をロシアとの条約(STARTⅡ)によって4隻削減し、その艦を巡航ミサイル原潜に変更し運用しています。トマホークを154発も搭載している対地の鬼です。

アメリカは遠い地域まで空母打撃群が進出する必要上、それに随伴するためには高速で長期間潜航できる原潜が適しています。

また太平洋・大西洋に囲まれたアメリカは脅威の対象となる国は遠方にあるうえ、海洋の哨戒任務も戦略原潜の護衛も、長距離進出が必要ですので原潜しか保有していません。

冷戦期には戦略原潜北極海に潜んでいましたが、氷海の下に長期間潜航できるのは原潜をおいて不可能です。

中国は威圧と国威発揚と技術開発のため潜水艦戦力を増強中ですが、通常潜と原潜両方を保有。しかし他国に比べて騒音レベルがまだ高いとされています。ロシアも通常潜と原潜の両方を保有しています。ロシアってウクライナ侵略で経済制裁とかをうけているので、今後原潜戦力維持って大変なんじゃと思います。

北朝鮮や韓国は通常潜に弾道弾を搭載し運用しているのですが、弾道弾を運用するなら原潜のほうが適しており、いずれは原潜に移行するでしょう。これは英仏印と同じです。

北朝鮮は近いうちに露から技術供与を受けることを希望するでしょうし、韓国は米から旧型をレンタルするか購入するかを希望するでしょう。しかし米も潜水艦建造の計画は目いっぱいであり余裕がなく、韓国が米に新造を外注できる可能性は当面は低いでしょう。

日本は反撃能力保有の観点から、先制攻撃を受けても、生存性が高い潜水艦による反撃(対地攻撃)能力を高めるため、「たいげい型」を改修した新型にVLS(垂直発射器)を装備し、新開発する長射程巡航ミサイル(射程9001500km)を搭載すると考えられています。

【探知と攻撃】

航空機や水上艦などはレーダーで探知します。レーダーは電波ですから直進しほぼ正確に相手との距離などを測定できますが、水平線より向こうは探知できません。そのため航空機や他の艦船の探知情報をネットワークで共有し遠距離を探知します。

電波が使えない潜水艦はソーナー(音波)で相手を探知します。ソーナーには自ら発信し反射音を拾うアクティブソーナー、音を聴くだけのパッシブソーナーがあります。

アクティブは反射波を拾うので比較的正確に距離は測定できますが、こちらの位置も判明してしまいます。パッシブの場合は聴くだけなので、相手にこちらの存在が知られることはありませんが、相手との距離は正確にはわかりません。音の伝播速度は水中の状態(温度や塩分濃度など)によって変わるからです。

パッシブの場合は2つ以上のパッシブソーナーで聴音し三角測量で距離を測定しますが、容易ではありません。また水中には様々な音があるため、敵潜水艦の音かどうか判別するのは簡単ではありません。そもそも静かな相手であれば探知できない可能性もあります。

この点は原潜でも通常潜でも同じなので、より静かな通常潜は有利です。じっとしていれば自艦の雑音が殆ど無いためソーナーが良く効きます。敵と判断できなければ攻撃はできませんので探知技術は最も大切です。

それゆえ潜水艦に限らずセンサー能力は極秘で、潜水艦乗組員でもソーナーマン(聴音手)や幹部の一部しかその能力を知りません。水上艦では電波情報も同じ扱いで、CIC(戦闘指揮所)よりも機密度が高いのが通信室です。米原潜は艦首にアクティブ・パッシブの両ソーナーを装備していますが、海自はパッシブのみ。今後アクティブも搭載することを検討しています。

【日本の原潜保有について】

日本は東シナ海対馬海峡大隅海峡などの特定海域(領海及び接続水域に関する法律)や、宮古海峡などのチョークポイントを静かに哨戒するためには、原潜である必要はそれほどありませんでした。むしろ通常潜が都合が良かったのですが、原潜保有となるとそのハードルは極めて高くなります。

まずNPT(核不拡散条約)問題です。NPT核兵器を現有保有国以外に拡散することを防ぐための条約で、日本も批准しています。しかし非爆発的軍事利用自体は禁止していませんので、理論的には日本が推進力を得るために原潜保有することは可能です。つまり原発ですから。

しかし燃料である高濃縮のウランは核兵器に転用可能。これを燃料として使用しているとIAEAに証明しなければなりません。(NPT3条、保証処置一時停止規定)これがハードルが高いので、オーストラリアはAUKUSを通じ、IAEA国際原子力機関)と協力し、NPTの義務を遵守するとして、アメリカから原潜をレンタルか購入する計画です。

しかしそれでさえ中・露は核物質の保管場所や、量を同機関が査察できる保障措置に懸念が残るとして、停止を求めました。

IAEAもオーストラリアに対して保証処置の一時停止規定を認めてしまうと、それが抜け穴となって原潜取得を口実に核兵器の拡散が懸念されます。核保有を目指すイラン、原潜保有を目指す韓国などにも口実を与えます。

その問題を越えても、レンタルや購入では建造ノウハウは手に入らず、保守や点検もいつまでも他国に頼ることになります。インドは過去にロシアから原潜レンタルしていて散々苦労しましたので、原潜を自国開発しましたが、NPT非加盟であったからです。

日本はNPT加盟国であり、核不拡散体制の維持を推進してきましたので、日本が原潜保有となるとこの問題は避けられません。

特に福島第一原発処理水でさえ、中国は日本に対し水産物輸入禁止をしています。原潜保有となるとさらに厳しい経済的な威圧に対抗する覚悟が必要です。

国内でも反原子力派とか親中の人とかが大騒ぎしそうです。

そして高コストであることも問題です。価格は非常に高価で米の汎用原潜である「バージニア級」でおよそ4,000億円ほど。海自の「たいげい型」は約800億円ですから5倍です。同じ予算なら原潜1隻で通常潜5保有できることになり、一概に原潜が有利であるとは言い切れません。いくら原潜とはいえ通常潜が5倍あれば勝てない場合もあるでしょう(乗員の問題はあります)。

逆にいうと今と同じ予算なら現在の海自潜水艦22隻を4隻に減らすことになります。もし日本が原潜保有となれば現状に加えて艦隊随伴や太平洋パトロールの原潜3隻以上は必要でしょうから、予算・人員が相当増えないと運用できません。

さらに潜水艦の運用には艦があれば良いという訳ではありません。幸いにも国産原子炉開発と海自潜水艦はどちらも三菱重工業が担っていますので、技術的な問題は他国に比べて低くそうですが、運用や保守をする自衛隊や製造企業の教育訓練も必要です。何年かかるんだか・・・

昭和には国会で散々取り沙汰されましたが、原潜の寄港はどうでしょうか。

国民の核アレルギーは昔「原子力船むつ」でも露になりました。過去には米原潜の事前通告無しの寄港に際して当時の佐世保市長が「原潜の入港は遠慮されたい」と事実上の寄港拒否をしたこともありました。

現在、横須賀は原子力空母ロナルドレーガンの母港になり、時折米原潜も寄港しており神奈川県のHPでも寄港情報が公開されていますので、大きな問題はなさそうに感じますが、しかし海自潜水艦となると母港となります。第一潜水隊母港は呉ですが、呉市民は海自原潜の母港となることを許してくれるでしょうか。

廃棄物処理問題もあります。高濃縮であろうと使用後は核廃棄物処理が問題になってきます。関電でさえ中間貯蔵に苦労しています。ドックの放射線対策も重要になります。

万一停泊時にテロなどで被害を受ければ放射能漏れが懸念されますので、基地警備も厳重にしなければいけません。

よく問題視されるのは非核3原則ですが、原潜は核兵器運用に親和性が高いことは確かです。しかし非核3原則については、平成22年外務委員会での、岡田外務大臣答弁(当時民主党政権)では、「緊急事態ということが発生して、しかし、核の一時的寄港ということを認めないと日本の安全が守れないというような事態がもし発生したとすれば、それはその時の政権が政権の命運をかけて決断をし国民の皆さんに説明する。そういうことだと思っております」であり、現内閣も引き継いでいますので、核兵器の持ち込みは政権の判断で可能です。

しかし「持たず」「作らず」は生きているため、戦略核運用に適した原潜保有は議論が噴出することが予想されます。「原潜保有核兵器保有の準備か」と騒がれるでしょう。

しかし安全保障環境はますます厳しくなっていますし、中国海軍潜水艦戦力は巨大になりました。通常潜・原潜あわせて60隻以上で海自の3倍。

太平洋に抜けるルート上に日本があるため、現有の海自潜水艦22隻では抑えきれません。また反撃のための長射程巡航ミサイルを搭載した潜水艦を運用するにも、原潜は圧倒的に有利です。日本近海から敵地近くまで高速で進出し、ミサイルを発射し高速で退避できます。

また安倍政権が提唱し広く西側諸国に受け入れられた「自由で開かれたインド太平洋」を実現するには、海自艦艇の遠距離の進出が増えます。艦隊に随伴し長期任務には原潜が圧倒的に有利です。

国民的議論と検討、技術開発は進めていく必要がある時期にきていると考えます。日本独自の政治用語である「専守防衛」から「積極防衛」に変えていくためには避けて通れないと考えます。

【生活環境】

原潜は莫大な電力で海水から酸素や水を作ることもできるため、毎日シャワーも使えるなど居住性が高いと思われていますが、バージニア級では3名で2つのベッドを交代で使うなどそれなりに大変な勤務です。海自潜水艦乗員の皆さま、大変な勤務なのに、見守ってくださってありがとうございます。

原潜は事実上無制限に潜水し航海できますが、搭載している食料や乗員のストレス、機器類のメンテナンスなどもあるため、長期でも23か月のようです。しかしロシアの戦略原潜には運動用にプール付きがあるとか・・・原潜のなせる技です。

海自の潜水艦は任務は通常2~3週間のようですし、搭載した水も使用が制限されシャワーも3日毎とも。因みに食事は14回、食事は美味しいと言われる海自の中でも潜水艦はぴか一だそうです。景色も見えない狭い艦内での過酷な勤務ですから食事くらいはということのようです。夜間は赤色灯を点灯させ時間間隔を維持しています。

【海江田四郎の目指したもの】

過去、このシリーズで何度も書きましたが、国際社会はアナーキーです。国内では警察機構が法に強制力を担保しますが、国家以上の権力組織は存在しません。積み上げられた慣習国際法国連憲章、規約、条約などの国際法をよりどころとし、司法制度もあるものの、国内のような強制力はありません。近年ではロシアによるウクライナ侵略がその例でしょう。(国際法が無意味と言っている訳ではありません。)

沈黙の艦隊では、強力な核搭載可能な原潜による国家の統制に捉われない「戦闘国家」を形成し、核武力による強制力により世界の核使用を抑止し、戦争を根絶しようとすることがテーマになっています。

海江田四郎の考え方には個人的には賛同できませんが、冷戦期に生まれた作品ならではの設定ですね。沈黙の艦隊はまさに世相を反映した素晴らしい作品です。

国際社会はアナーキーであること、武力には武力で対抗せざるを得ない現実を示した点で、今こそ読まれるべき作品なのかもしれません。

安保三文書ー平和を考えた

安全保障において良い戦略とは、自国に有利な状況を作ることによって、戦争という破滅的な状態を回避するものであるので、戦争が生起した時点で最良の戦略とは言えない。平和な状態では無くなるからだ。
ただし戦争に勝つ事の重要性が低くなるわけでは無い。勝つ為の備えこそ回避する最良の手段だからである。
 
しかし、「回避」が成功している場合に戦略が成功しているかどうかの評価は極めて難しい。
その為に「無駄遣い」の批判はどうしても起こるが、自動車保険を「無駄遣い」とは言わないであろうし、ドライブレコーダーや自動ブレーキを取り付ける事も「無駄遣い」とは言わず、寧ろ安全が向上したと考える人が多い。
 
 意思がなければ能力があっても危険では無い。アメリカは核保有かつ世界一の軍事力、経済力があり、在日米軍基地があり第七艦隊母港であるにもかかわらず、殆どの日本人はアメリカを危険とは見做していない。数発の核と日本海すら越えることのできない軍隊しか持たない北朝鮮の方がはるかに危険であると考えている。
 
簡単に人を轢き殺す事のできる自動車に乗っていても、轢き殺す意思が無ければほぼ危険ではないのと同じだ。
 
軍事や安全保障を即「危険思想」とする人の多くはこの点を誤解しているように思う。
 
戦略を構築するには国家の目標が明確に示されなければならないが、法による秩序を重んじる我が国は覇権を求めてはおらず、「持続的な繁栄」と「国際協調」がその目標となろう。
 
これでは些か具体性に欠けるので、もう少し掘り下げてみると、持続的繁栄のためには、日本と世界に対する平和な状態を脅かす脅威を判定したうえで、現実を認定し、その脅威を如何に抑止するかを考え、国際協調のために法と秩序に基づく自由を保証する環境を能動的に作ることだろう。
 
目標設定を明確にしたのちには手段の選択となる。
前述のような視点から有限なリソース配分(資金、人材、技術など)と、どのようにすすめるかのロードマップに沿った開発や整備などを行うが、軍事関連はとにかく時間がかかる。
 
安保三文書はその行動指針であって、これからようやく実行段階に移行する訳だが、その際に様々な法的技術的な課題があるだろう。
 
しかし我が国が国際社会において重要な地位を占めたいのならば、このようなことは克服しなければならない。このことは、まさに日本国憲法前文の趣旨に沿った行動であり、一部が言うような「軍国化」では決して無い。
私に言わせれば「ようやくマトモに考えるようになった」レベルである。
 
 
国家の場合、ある国の技術や資源が欲しいからと言って合併吸収は現代社会では許されない。(企業ではM&Aや株式取得などで関与できるが)
 
しかしロシアーウクライナ戦争で見るように、覇権国家においてはその限りでは無く、属国化や支配をしようとするため、それに備える必要がある。
過去に我が国がおこした過去の過ちの多くは「尊大な態度による属国化を求める態度」からもたらされた。我が国はそのような国のかたちから決別したが、未だにそのような国は数多ある。
 
ウクライナのゼレンシキー大統領がロシアに対し融和的に対応したにも関わらず、また西側諸国の警告にも関わらず、プーチン大統領は電撃的に攻撃を行いウクライナを支配しようとし、それが叶わないとなれば、市民の虐殺とインフラを破壊し尽くしウクライナを長期戦に持ち込もうとしプレッシャーをかけている。
 
このような真正面からの戦争は21世記には起こらないだろうとの予測があったが、古い形の戦争(殲滅戦)が今もウクライナを苦しめている。まさに19世記の軍人クラウゼヴィッツが「戦争論」で喝破した「政治の道具としての戦争」である。
言語による“対話”ではなく、暴力による“強制”を選択する事が現代においてもあり得ることを明示した。
ほぼリアルタイムでロシアーウクライナ戦争を知る事ができる現代。このような現状をみたとき、我が国の安全保障強化は必須であるだろう。
 
プーチン大統領同様な文脈で先の大戦“太平洋戦争、大東亜戦争”が語られる事がある。周辺国が危険だから自衛圏を拡大しようとしたのだと。自存自衛であり止むを得ない戦争であったと。
 
これは政府•陸軍•海軍の三者三様の戦略と錯誤が招いた結果であり、周辺国には被害を及ぼし敗戦によって終わりを告げた。如何に正当性を訴えようともこの時期の施政者や高級軍人が国策を誤ったのは事実である。そのような指導者の下で家族や友人、国を守りたいと多くの人々が傷つき死んでいった。指導者の失敗は悲しみしか生まない。
 
そのような事を起こさせないのは自由主義社会共通の認識であろうし、大戦以降にも多くの犠牲を払いつつも慣習国際法判例、決議、条約などを積み重ね、平和を希求した。にがい過去の歴史をもつ我が国こそその先頭にたち、平和と自由の旗手となるべきだ。
その為には国家としての戦略を構築し目的と手段の明確化と透明性と責任のある行動で、安心で安定的な状態を作らなければならない。
 
私は今回の岸田政権の策定した安保三文書を強く支持する。

衛星リモートセンシングにおける軍民技術

自衛隊は「宇宙の平和利用」との名目の為、宇宙空間の利用には制限が付きまとっていました。
このため、防衛省所有の宇宙関連防衛装備品は貧弱で、従来は民間衛星の利用などに留まっていました。
 
防衛省専用の衛星は2017年以降にXバンド通信衛星を2機運用している程度で本年度追加の1機を打ち上げる予定です。(従来は民間衛星の一部をレンタルするなど非常に脆弱な体制であった)IGS(情報収集衛星)は所管:内閣官房・運用:内閣衛星情報センターで、今後10機運用体制を目指します。
 
情報収集衛星の画像は「特定秘密保護法」によって「特定秘密」に指定されており非公開です。
 
2020年に航空自衛隊に「宇宙作戦隊」が発足、2022年には改編し「宇宙作戦群」となり、スペースデブリの監視、衛星などの軌道や運用意図などの監視などのため、宇宙状況監視(Space Situation Awareness:SSA)を発展させた宇宙領域把握(Space Domain Awareness:SDA)を米軍・JAXAと緊密に連携しながらおこないます。「特定秘密保護法」の制定によって重要な情報の保全が図られることで米軍との連携が深まりました。
 
デブリの監視は地上に設置したデブリ監視専用レーダー、将来的に打ち上げるSSA光学衛星、低軌道衛星監視用のSSAレーザー測距装置、これらを統合運用するシステムでおこないます。
これら新たな能力を持つ部隊創設には安全保障環境の厳しさを理解していた安倍総理の強力な支援があったようです。
 
 
不審な衛星とは「キラー衛星」があげられますが、その手段はハードキルソフトキルに大別されます。ハードキルは文字通り「物理破壊」を、「ソフトキル」はジャミングやハッキングなどをおこないます。
「キラー衛星」はターゲットとなる衛星に密かに近づき、いざとなれば起動し破壊活動を行うため、事前の監視が重要です。
また自国の衛星群の機能保証や相手側の指揮・通信等を妨害する能力も強化しますが、この際には民生技術をフル活用することとなっています。
 
 
また、デブリの増加によるリスクが高まるため国際的な非難があるなか、中露はすでにキラー衛星による衛星破壊実験に成功しています。すでに上空36,000km(静止衛星軌道)以下は戦場になり得えるということです。ガンダムの世界はそう遠くないのかも・・・これらに伴い宇宙作戦群はさらに増員を予定しています。
 
宇宙領域・衛星の活用は、領域横断作戦(陸海空が連携した作戦)に極めて重要な技術です。
 
 
衛星リモートセンシング技術のうち身近なものがGPSなどの測位衛星ですが、これら通信や画像、測位などを総称して「GEOINT」(地理空間インテリジェンス)と言い、簡単に言えば「地理空間情報付きの情報」で、スマホカメラのジオタグや、カーナビ、GISソフトウェア、ドローン飛行、船舶が利用するAIS(船舶自動識別装置)、ミサイルの誘導、さらに衛星搭載の合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)データや画像データとあわせて防災研究、地質学や火山学、地殻変動の計測などあらゆるところに応用されています。(総称しGeo-Intellignce
また日本が運用している準天頂衛星システム「みちびき」は、測位制度が数センチと高精度です。
 
昔は地図・天気図すら戦略的に重要な資源でしたから、測量や三角点設置は軍などが所管する軍機密でした。しかし現在は高精度なGoogleMapやGoogleEarthをどこでも見られて便利です。
GoogleMapでは場所や経路、お店の情報、口コミまで網羅されていますが、良い使い方だと思います。
 
そのほかには民間では高精度な位置情報を利用して埋設された水道メーターの位置の把握や、無人建機の操作など多様に活用されています。林業においても活用が進んでおり木1本の正確な位置まで把握し、GISソフト上で管理することができます。
 
 
軍用ではミサイルや戦闘機、艦船、無人アセット、また小型無人機のスウォーム(群れ)運用に位置情報を与えるのもGPSなどの精度の高い測位衛星であり、20世紀型の戦争と言われているロシアーウクライナ戦争でも有用である事が証明されました。
 
ウクライナには西側諸国も衛星情報を積極的に提供していると思われますが、勿論どの国がどのような情報提供をしているかは、それこそ軍事情報になるので非公開。
しかし衛星通信は勿論のこと、衛星から提供される各種情報のうち位置情報は長射程火砲、対地ミサイル、無人機(UAV)などの無人アセットによる攻撃画像情報は敵の戦力分析や戦果確認赤外線情報はミサイル発射の熱源探知にも活用されています。日本では北朝鮮弾道ミサイルなどの発射を米軍協力のもとで赤外線センサーで捉えて追跡しています。
 
最近ではウクライナのMiG-29にGPS受信器であるGARMINを取り付け位置情報を取得し、iPadのようなものでミサイルを制御して攻撃するなど、民生品が防衛に役立っています。
 
ロシア製戦闘機にアメリカ製ミサイルをポン付けして、攻撃できるとは専門家もビックリの運用だったようです。勿論兵器の性能を100%引き出せてはいないでしょうが、それでも戦局に影響を与えたようです。
 
逆に資金不足で充分な衛星網を構築できていないと考えられる(または保守できていない)ロシアは、衛星情報の不足によってウクライナの攻撃を充分に察知する事ができていないと思われます。
 
昔は航空機の偵察でしたが、ウクライナ防空網が機能しているため、ロシア機はウクライナ上空を偵察飛行できませんし、勿論西側諸国からの衛星情報の提供はありません。そのためウクライナの攻撃に対してロシア軍は非常に脆弱で地上戦力で圧倒的に勝るロシア軍が各地で領土奪還を許す一因にもなっています。
ロシア兵が不用意にスマホで撮影した写真をネットにアップしたため、位置が特定され攻撃されたり、通信を傍受されたり、衛星画像で武器・弾薬・部隊の位置が特定されたりしています。
 
 
民間が提供する高解像度(分解能1m以下)の衛星画像情報は例えば、コメの作付け状況の把握、森林の状態や植生、降雨の監視、日本のような広大な海洋エリアの監視など軍民両用に有効な活用はいくつもありますが、逆にテロ組織に悪用されるリスクも高まるため、衛星より得た高分解能の情報は、自由に利用できる訳では無く「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律(通称:衛星リモセン法)」によって制限が設けられています。
生活にも企業活動にも有益な衛星情報ですが、悪用されないようしっかりと法の規制と取り締まりをお願いしたいものです。(軍用衛星の分解能は30cm以下とも)
 
 
中国などの滑空兵器は速度が速く軌道が変化するため、地上レーダーや従来の衛星では追尾が難しいため、自衛隊は衛星コンステレーション(小型低軌道に多数投入しネットワーク化し運用)も活用しようとしています。
スターリンク(スペースX社)は将来的に1万機以上を展開しインターネットサービスを提供しますが、我が国でも同様に高性能な赤外線センサーを搭載した多数の小型衛星を低軌道に配備し、極超音速滑空兵器(HGV)を早期に探知・追尾するのに役立てようとしています。
またコンステレーション衛星は多数の衛星が同じ地点を互いがカバーし合いながら長時間観測できる利点もあります。
 
GPS衛星・準天頂衛星・小型コンステレーション衛星、それらに搭載する多様なセンサーの重層的な利用によって、C4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)機能の強化や冗長性・抗たん性が高まります。
防衛省では「衛星コンステレーションに関するタスクフォース合同会議(議長・防衛副大臣)」を設置し議論を進めています。
 
しかしこの分野ではまだ日本は遅れています。
法整備もここ数年整備されつつありますが、大型のH-3ロケットの開発は遅延しており、重量物を遠くまで運搬する能力には不安が残ります。軌道上に迅速安価に運搬できる手段を他国に頼るのは安全保障上問題であり、技術の向上と継承の為にも自国開発のロケット技術確保は必須です。
 

JAXAは2017年に超低高度衛星技術試験機「つばめ」を打ち上げ、低軌道衛星がイオンエンジンで高度を維持する実証試験を実施し成功するなど独自の技術も開発しています。(飛行高度はギネス記録)

また、一般社団法人日本宇宙安全保障研究所(理事長:元防衛大臣森本敏)などの専門シンクタンクも活動しており、各種提言をおこなっています。

 
自衛隊だけでは無くJAXAや関連企業、シンクタンク、大学など研究機関への十分な予算確保を期待したいと思います。
 
おまけ
通信利用での中国の優位性
中国が軍事利用を念頭に開発をしているのが、暗号量子通信で、この分野においての研究では最先端です。
実験も成功していると報道されましたが、将来的には軍事通信ネットワークをこの技術で確立させるでしょう。
量子通信は暗号の解読ができないため極めて秘匿性が高いため軍事利用に最適なのです。
ただしその他の利用では、国際連携が行える西側諸国が有利です。中国が単独で整備運用する衛星情報を、西側諸国では各国の衛星情報をある程度共有しようとしています。価値観を共有する諸国との益々の連携と技術情報保護がさらに重要になってきています。

忘備録的に・・・欧州(NATO)絡みの・・・

NATO発足から今回の侵略開始までをざっくりと年単位で纏めておきます。
ところどころコメントを入れていますが、まぁ忘備録です。
 ==冷戦の始まり==
1949 NATO北大西洋条約機構)設立 対共産圏軍事同盟
1955 WTOワルシャワ条約機構)成立 対NATO軍事同盟
1975 ヘルシンキ最終文書
  第二次大戦後に定められた国境が 不可侵であり、平和的手段及び合意によってのみ変更できることを規定←ロシアにとって受け入れやすかった
1988 ソ連崩壊の始まり
1988 米ソ間でIMF条約(中距離核戦力全廃条約)発効 
==1990年代==
1990~91
東西ドイツ統一・リトアニアジョージア(旧グルジア)・バルト諸国・ウクライナなど旧構成国が独立宣言
1991
ワルシャワ条約機構解体(ロシア軍予算不足で弱体化)
NATO首脳会議でローマ宣言発出(NATOと旧WTOとの欧州安全保障協力を宣言)
ソ連崩壊
1992
・欧州通常戦力条約(通常戦力削減に関する軍縮条約)が発効 
1994
・在欧ロシア軍撤退
1997
・「NATOロシア基本文書」署名。
  これはNATO新規加盟国に戦術核を配備しない、通常兵器の追加配備をしない。とするもの。実際に以降は米軍はローテーション配備をおこない常駐させていない。
一見ロシアに好意的な印象だが、そもそもロシア軍は対抗できる能力・予算が無い。
ただし対ソ連軍事侵攻の懸念を軽減する意味はあった
(当時はエリツィン政権であり、プーチンは大統領府に在籍)
・対ウクライナ黒海艦隊分割協定に応じ、友好協力パートナーシップ条約締結によってクリミアのウクライナ帰属承認。ロシアは融和的な態度を演出しているが、欧州の脅威に抵抗できないため妥協したのか。
1998
プーチンロシア連邦保安庁(FSB)長官に就任
1999
・3月第一次NATO拡大(チェコハンガリーポーランド
・3月24日にNATOによるユーゴ空爆
 (安保理決議を経ない域外への武力行使
プーチンが首相に就任
==2000年代==
2004
・第二次NATO拡大
2007
ミュンヘン演説=プーチンによるアメリカ一極支配の非難、欧州通常戦力条約をロシアが一方的に履行停止を宣言
2008
NATOブカレスト首脳会議でウクライナジョージアの加盟候補国入りが議論の末見送られる。
グルジア(現ジョージア)での南オセチア紛争、ロシアとジョージアが紛争状態に入る。今も最悪な関係。
2009
 アルバニアなんでちょっと前まで鎖国状態だったので、あまり知られていない国では?
==2010年代==
2010 ウクライナ・ヤヌーコビッチ政権誕生
2013 ロシアの圧力により、EUとの「深く包括的な自由貿易協定(DCFTA)の調印を延期
==怒涛の2014年==
ウクライナで反政府デモ(マイダン革命)=>親ロ派ヤヌーコビッチ政権崩壊 =>ポロシェンコ政権
・ロシアのクリミア編入
ドネツク、ルガンスク各人民共和国樹立宣言(国際社会は認めず)
・マレーシア航空機撃墜(ロシアのやらかしでしょうね)
ウクライナがCIS(独立国家共同体)脱退を宣言(CIS側は認めず)
・ロシア軍事ドクトリン公表
  NATOを問題視 東方拡大による戦略的縦深の喪失に伴い対NATO脅威認識を公表
・対ロ経済制裁発動。エネルギー依存度の高い一部の国と英米などと温度差が現れる。
・ロシアによるIMF条約(中距離核戦力惨敗条約)違反をアメリカが非難
NATOウェールズ首脳会議でNATO即応部隊を4万人規模へ増強、数日で展開できる「高度即応統合任務部隊」2万人の創設、東欧などにNATO部隊統合ユニットを新設、東部方面にNATO軍ローテーション配備を確認する。
==2015年以降==
2015
ミンスクミンスク合意のための措置パッケージ)の署名=OSCE(欧州安全保障協力機構)、ロシア、ウクライナ、新ロ派武装勢力・・・全面停戦・国境管理回復・OSCE基準による選挙、和平監視など。=>2016年休眠状態へ
・欧州通常戦力条約からロシアが脱退
2016
ルーマニア・イージスアショア稼働開始(対弾道ミサイル防衛能力のみ)
NATOワルシャワ首脳会議で、5,000人規模の多国籍大隊をポーランド・バルト3国にローテーション展開させる処置を決定(97年 NATOロシア基本文書に沿って常駐はしない)
2017
アメリカトランプ政権クリミア併合不承認
2018
・ロシアによるウクライナ海軍艦艇3隻拿捕、乗員24名拘束
NATOブリュッセル首脳会議・共同宣言で「4つの30」を採択。(有事に30個飛行中隊・30個機械化大隊・30隻戦闘艦を30日以内に配備できるようにする)
トランプ米大統領が「ノルドストリーム2はロシアに対するエネルギー依存度を上げる」と批判。トランプ支持じゃないですが、これは当たってましたね。
2019
ウクライナ・ポロシェンコ政権がEUNATO加盟を目標とする憲法修正案を成立させる
ウクライナ・ゼレンスキー政権
IMF条約失効 (条約締結国ではない中国の脅威が高まったことも要因)
2020
2021
スウェーデン弾道ミサイル防衛のためPAC-3(対空ミサイル)受領開始
プーチンウクライナ論文」(6/26に記事を掲載済み)
・ロシアがNATOに対し不拡大・1997年当時の配置へ戻すこと、軍備管理・信頼醸成処置を要求
2022
・1月 NATOは不拡大と軍配備を戻すことは拒否したが、軍備管理・信頼醸成処置について話し合う用意を示す
・2/21ロシアが「ドネツク/ルガンスク人民共和国」の独立を承認
・2/24ロシアがウクライナへ侵略開始(ロシアーウクライナ戦争)ロシア名「特別軍事作戦」プーチンによる開始声明

第四次台湾海峡危機がくるのか

《できごと》

ペロシ下院議長の台湾訪問によって態度を硬化させた中国は、台湾周辺で最大規模の軍事演習を実施(マスの中が演習海域)しました。ニュースでも取り上げられていますが、弾道ミサイル等を発射して一部(12発?)を台湾上空を通過させたうえ、その一部を日本の排他的経済水域EEZ)に着弾させました。

これによって中国海軍は台湾を海上から封鎖できることを示唆し、また日本に対しても威嚇を強めました。中国に近い台湾の離島(金門島など)では、昨今、無人機が頻繁に飛来し台湾側の軍事施設を撮影するなどをおこなっており、台湾側はその都度警告射撃をおこなうなど対応していますが、信号弾から実弾による警告へレベルを上げました。

そもそも台湾を共産党が支配した歴史的事実は存在しません。台湾はれっきとした独立国です。

 

《米の対応》

さて米議員団が次々と訪問し台湾への関与をアメリカが示していますが、それだけではなく対中牽制の為にアメリ第7艦隊所属イージス艦2艦が台湾海峡を通過し艦載ヘリを飛ばす「航行の自由作戦(FOIP)」や、周辺で日米共同訓練なども実施しており、「台湾海峡は公海である」「米は座視しない」「日米連携は完璧である」ことを示しています。

 

自衛隊は》

一方、自衛隊は防衛費増をテコに、12式地対艦ミサイル能力向上型(射程1,000km超・ステルス化)の開発を前倒しし量産に入ること、極超音速ミサイルと新型対艦ミサイルの研究、F-15F-35戦闘機に搭載する長射程ミサイルの導入、FFMよりもさらにコンパクトな「哨戒艦」(4隻)の建造、基地の強靭化や弾薬類の備蓄及び製造ラインの確保、 イージスアショアに変わるイージスシステム搭載艦(2隻)の検討、F-2に変わる次期戦闘機(第6世代)の開発(英と共同開発の計画)などここにきて一気に有事に備えようとしています。

防衛費は5年間をめどに従来の対GDP1%から2%へ増額する予定ですが、これはおよそ毎年1兆円増額する事になります。このことは弱体化していた防衛基盤の維持に大いに役立つことにまります。

 

半導体と遅れる武器売却》

現代生活は半導体が必須ですが、半導体は台湾が多く生産(1位韓国232位台湾213位中国164位日本155位米国11%・2021年末時点) していますので、これを支えなくてはなりません。中国にコントロールさせる訳にはいかないのです。

半導体の行方は台湾が自主防衛するにも、日本が防衛力を強化するにも大きく影響するうえ、アメリカの対欧州向けの武器輸出が多くなると当然ながらアジア方面への武器輸出は遅延することになります。

ここで国産であることが効いてくるのです。半導体に限らず平時は輸入できても有事にはどうなるか判りません。サプライチェーンは民生以上に軍事では重要です。代替が効かない製品が多いためです。

 

また、アメリカが武器輸出する際には議会の審査や事務的な手続きが必要ですが、この手続きが長期化しています。台湾へは2019年のF-16V戦闘機売却決定(未納)に続き、2021年の自走りゅう弾砲売却決定、高機動ロケット砲システムや携帯型対空ミサイル「スティンガー」、空対地ミサイルSLAM/ER(射程280km)売却決定、2022年8月には空対空ミサイル「サイドワインダー」、対艦ミサイル「ハープーン」などの売却を検討していますが、契約済みで未処理分が140億ドル以上に及んでいます。

実際に台湾はようやくF-16Vを受領開始し、昨年ようやく運用し始めたところです。

 

《中露連携のリスク》

ロシアのウクライナ侵略は「防衛白書令和4年版」でも多くのページを割いて記載していますが、国連常任理事国でもある大国が、現代においても力による現状変更を行う事が証明されました。

経済制裁にも耐えているロシアですが、どのような形にしろ戦後は弱体化が進むのは間違いありません。対米協調で中露は連携していますが、本来中露は互いを信用していません。ロシアが弱体化することで背後の脅威が薄れた中国はさらに威圧的な行動を強める事は間違いありません。(当面は抑制的でしょうが)

第三次台湾海峡危機までと異なり米中の戦力差は大幅に縮まっており、また欧州に米軍戦力が大きく割かれている現状は長期化します。

横須賀を母港とする米第7艦隊は海軍戦闘艦艇のおよそ半数を保有する最大の艦隊ですが、それは広大なエリアを防衛する為に必要で、全てを一地域(台湾近海)に投入する訳にはいきません。

 

陸軍と違い未だ戦力を残しているロシア太平洋艦隊と中国軍が協調して活動した場合、台湾有事の際には米軍は台湾防衛に多くの戦力を割かれるため、日本の自主防衛力が問われる事態となります。端的に言えば米軍の全面的な支援は望めません。

ウクライナの例を見るまでも無く、国民の高い国防意思がなくては国は維持できないことは明白ですが、自主防衛努力のみならず、G7各国、NATO、とりわけ米・英・豪などとの連携がさらに重要になってきます。

 

《学術会議の傲慢さ》

また装備品の開発には研究機関との連携が必須ですが、日本学術会議は「軍事研究をしない」方針を変えていません。これは防衛の為の研究もしないため「座して死を待て」とも言えます。そもそも軍事研究も民生技術も区分が定かではない「デュアルユース」技術であるため、あまりにも勝手な言い分としか思えません。実際にウクライナでは民生技術の多くが戦闘に利用されています。

日本は憲法の制限上「攻撃型空母」「爆撃機」「中距離以上のミサイル」「核」は保有できず、「国家総動員」もできません。「軍事法廷」もありません。その状況で複雑な有事に対峙しなければならないのです。「技術の優位性」を捨てる事は、国を亡きものとしても構わないとも言えると考えます。

技術以外にも防衛力を強化するには、サプライチェーン・生産基盤の問題も解決しなければなりません。

国葬儀や統一教会などの些末なことに時間を割いている余裕はないのです。

自衛隊は「防衛」だけに特化しフルスペックの軍隊ではありませんが、「防衛」のあり方も状況に応じて変えなければ対処できません。

 

防衛費増を契機に多くの人が国防について考えて貰えればと思います。

 

 

ロシアによるウクライナ侵略についてまなぶべきこと

まず大きな点は「核抑止力」は効いていると考えられる点。ロシアの侵攻が思うように進まず何度か「核使用」を暗に匂わせる言動をとっているにも関わらず使用していない事実があります。
ただし、抑止が効いているのかどうなのかは証明ができないので、あくまでも推測でしかありません。核が使用された場合は明らかに核抑止は失敗したと言えるのですが、使用していない理由が「核抑止力」が効いているからなのか、それとも他の理由なのかは現段階では証明できません。
 
 また所謂「安定-不安定のパラドックス」は起きていると考えられています。これは米・NATO・露の双方とも核の抑止が効いているからこそ、核攻撃へのエスカレーションが起きない反面(核の安定)、通常戦力による攻撃が容易となって地域が不安定な状態となっていることから、そのように考えられています。
 
核大国のロシアも武器供与しているからと言ってNATO諸国には攻撃をしていないのはNATOによる大規模介入の口実を与えたくない、核戦争へのエスカレーションは望んでいないということでしょう。
 
またNATOウクライナ国外への戦火の拡大を避けたいため、NATO加盟国では無いこともあってウクライナには資金や武器供与に留め直接の軍事支援はしていません。
しかしNATOが機能しているからこそ戦争は拡大していないと考えられるため、フィンランドなどがNATO加盟を求めるのもこのような軍事同盟の意味を考慮しているからでしょう。
 
また最近ロシアは原発周辺を攻撃の拠点とするなど、原発による放射能汚染のリスクが高まっています。
ロシアは「ジュネーブ諸条約」を批准しており遵守する義務がありますが、特に第一追加議定書の第三十五条・基本原則の1項~3項において「いかなる武力紛争においても、手段は無制限ではなく、残虐な兵器の使用、投射物や物質、戦闘の方法を用いることを禁止し、大規模な環境破壊や長期的な損害を与える、または予測される手段を禁止」しています。原発・ダムなどの大規模インフラを戦闘に利用することはこのことに繋がるため禁止されます。
 
そのほかにも85条など多くに明確に違反していますが、アナーキーな国際社会においては、条約には強制力が伴わないためロシアは違反し続けています。
 
ご承知の通りロシアは国際連合常任理事国国連憲章のもと特権的地位を与えられた国ですが、その国連は機能不全であり安全保障に関してなんら強制力をもちません。
 
つまり文言では、戦争を止める事はできていません。
(因みに偽情報の使用は戦闘行為での使用は禁止されていません。)
 
「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」 と、プロイセンの軍人クラウゼビッツは著書「戦争論」で言いました。
 
そして世界は戦争は起こる前提として認識しつつもそこから非人道性を取り除くため、前述のジュネーブ条約など多くの戦時国際法を整備し紛争解決機関を創設するなど、あらゆる努力をしていますがやはり戦争はなくなっていません。
 
日本人は長い間戦争をしていませんが、ロシアーウクライナで見られるように、戦争はしなくてもされる場合がある事文言では防げない事を事実として認めなければなりません。
それが常任理事国であっても経済的に繋がりが深くてもです。
 
また、今回も同様ですが戦争は止め時がわかりません。
抑止や戦術・戦略の研究は多いのですが、終戦についての研究はそれほど多くありません。
 
今回で言えばウクライナは2014年クリミアの占拠以前の状態を取り戻したいでしょう。ロシアは当初はキーウの占拠とゼレンスキー政権転覆・傀儡政権の樹立が目標でしたが達成できそうもありません。
 
西側の支援が続く限りウクライナは領土回復を目指して何年でも続けるでしょうし、ロシアはウクライナの疲弊を待つことになります。西側諸国が経済制裁をしていますが、それは制裁する側も痛みを伴っています。
 
開戦当初の衝撃も薄れ、物価高などによって生活が苦しくなると民意で成り立つ民主主義国では制裁解除=エネルギー確保の流れも生まれるでしょう。
 
政権は民意によって成り立つので厳しい局面を迎える事になります。
特にNATOでもロシアの脅威度が低いポルトガルやイタリアは軟化するかも知れず、NATOの結束が揺らぐ恐れもあります。
 
アメリカもエスカレーションを避けるためロシアの対応を見つつ段階的に軍事支援するしかなく、膠着状態のままウクライナは厳しい冬を迎える事になります。
 
一部のおバカさんは「降伏すれば人命が助かる」とか「停戦交渉を」とか言っていますが、どちらも選択肢としてはあり得ません。
 
前提としてウクライナ自身が選択していないことと、降伏すれば人命が助かる保証はありません。
 
 
今回もウクライナ・ブチャの虐殺がありました。民間人女性への強姦後の殺害、子供の体を切り刻むなどが明らかになっています。それもロシアとの停戦交渉の時期に起きています。ロシアが国際的な取り決めを守らないのは前述の通りです。
 
日本も8月15日以降にソ連になにをされたか知っていれば、安易に降伏論は言えないでしょう。有名なシベリアでの強制労働、民家への強盗や放火、また日本女性を複数で強姦したり(そのあと腹を割いた例もある)・・・筆舌に尽くしがたいものがあります。
 
停戦も実態が伴わないことも多く、またウクライナが侵略された領土の実効支配に繋がること、停戦期間中にロシアが戦力の回復を図って再度侵攻してくる可能性があること、人道回廊も相手次第で実効性が乏しく、再開された穀物の輸出も、査察や品質管理などの実務面や違反した時の強制力がありませんので、ウクライナが望むような合意はできないでしょう。
 
国土を取り戻せないなら、ウクライナ側からすれば「負け」に等しいのです。
 
 
またウクライナが負けるという事は、主権と領土の一体性と言う国際ルールを武力で常任理事国が変えることを認めることになります。これも受け入れがたい状態です。
 
一旦戦争が始まればエスカレーションの恐れがあり、また止め時が難しいのが良く分かります。「しない」ことは勿論ですが「させない」対策をしっかりとしなければなりません。
 
ウクライナNATOに加盟しておらず、2014年に簡単にロシアにクリミアを占領され、通常戦力でも10倍以上の差があったことが、今回の引き金になりました。
 
それでも半年も持ちこたえているのは脅威ですが、それは自国の土地と文化・民族を守りたいとする国民の意思があり、それを西側諸国が認め支援し続けているからです。
意志と能力の掛け算が戦力となる原則はここでも活きています。
 
さて我が国はどうでしょうか。
先ごろおこなわれた第209回臨時国会での衆議院の質問事項をみても、全41質問中にウクライナに関する質問は1件、サハリン2に関する質問が1件、国葬儀関連が10件、統一教会関連が6件となっており、世界からみれば小さな問題が半数を占めているのは異常ではないでしょうか。
 
ウクライナでは今まさに多数の人命が失われおり、国土が蹂躙されているというのに。
悲しいのは私だけでしょうか。人の命がーと叫ぶ人こそ、この状態を憂うべきではないでしょうか。
 
 

終戦の詔書(玉音放送)について

今年も8月15日を迎えます。

最近の若い人の中には、この日が何かを知らない人もいるようですが、それは教育の失敗であり、伝えなかった大人たちの怠慢であると断じざるを得ません。国の歴史について学ばない事は亡国へまっしぐらです。今回はその点を意識して書きました。

 

さて、昨年は8月6日から8月31日まで一体何があったのかの大きな流れを書いておきましたし、2019年には終戦直前のソ連の非人道的な侵攻について書きました。今年は「玉音放送」で流された「終戦詔書」について纏めておきます。

 

読みやすくするため、ふりがなや句読点の付け足しや改行したりしていますので、原文ままではありません。そもそも新旧で字体も異なるので・・・で、ワシ的解釈超要約を併記しておきます。少し意訳もあるでしょうし、凡人が解釈するなんて畏れ多いですが昭和天皇ならお赦しいただけるでしょう(^_^)

 

          終戦詔書

【原文】

朕(ちん)深く世界の大勢と帝国の現状とに鑑み、非常の措置を以って時局を収拾せむと欲し、茲に忠良なる爾(なんじ)臣民に告ぐ。朕は帝国政府をして米英支蘇 四国に対し其共同宣言を受諾する旨通告せしめたり。

 

【要約】

私は、世界の情勢と我が国の現状を十分に考え、非常手段をもってこの事態を収拾したいので、私の忠義で善良な国民に告げる。私は政府に対し、アメリカ、イギリス、支那(中国)、ソ連の4カ国に、共同宣言(ポツダム宣言)を受諾することを通告させた。

※朕=(天皇の一人称)

非常の手段とは聖断のことでしょう。大日本帝国憲法明治憲法)では、天皇主権であり元首であり大きな権限がありましたが、実際の運用上は、内閣(国務大臣天皇の了解を得ることが常でした天皇国務大臣の輔弼をもって承認するのみ)

大日本帝国憲法では天皇の決断は想定していないうえ、万一天皇が決断した事柄が失敗に終わると天皇の権威が落ちることや、責任を避ける意味もあったのでしょう。しかし終戦に関しては閣議で議論がまとまらず、また徹底抗戦派を抑える意味もあり最終決断は昭和天皇に委ねられました。


【原文】

抑々(そもそも)、帝国臣民の康寧図かり、万邦共栄の楽しみ偕(とも)にするは、皇祖皇宗遣範(いはん)にして、朕の拳々措かざる所 曩(さき)に米英二国に宣戦せる所以も、実に帝国の自存と東亜の安定とを庶幾(しょき)するにで、他国の主権をし、領土を侵すきは、より朕が志(こころざし)にあらず。

 

【要約】

国民が安らかに暮らし、世界とともに繁栄してその喜びを共にすることは、歴代天皇が手本として残してきた教えで、私もそう願ってきた。アメリカとイギリスの二国に宣戦布告したのも、我が国の自存と東アジアの安定を願ったためであって、他国の主権を排除したり、領土を侵したりするような行為はもとより私の意志ではない。

※遣範: 先人が遺したお手本。

▼《他国の主権を排し~朕が志(こころざし)にあらず。》 この部分、陸軍への非難でしょうか。

 

【原文】
然るに、交戦已(すで)四歳し、朕が陸海将兵の勇戦、朕が百僚有司励精(れいせい)、朕が一億衆庶(しゅうしょ)奉公、各々最善をせるにらず、戦局必ずしも好転せず。
世界の大勢、亦我に利あらず。加之(しかのみならず、敵は新に残虐なる爆弾を使用して、頻に無辜を殺傷し、惨害の及ぶ所、真に測べからざるに至る。

 

【要約】

しかし、開戦して4年がたち、陸海軍将兵よく戦い、役人も職務に励み、国民もよく奉公した。それぞれが最善を尽くしたのにも関わらず、戦局は好転しなかった。世界情勢もまた我々に不利であり、そのうえ敵は残虐な新型爆弾を使用し多くの罪なき人々を殺傷し、この被害がどこまで及ぶかもわからない

※新型爆弾=原爆

▼何度も繰り返し「朕が」と言及しているのは、陛下の国民に対する愛情の表れではないでしょうか。また無辜の市民を虐殺した原爆を非難しつつも、これ以上の惨劇は避けたいとの想いが伝わります。

 

【原文】

(しか)も尚交戦を継続せむか、終に我が民族の滅亡を招来するのみならず、延ひいて人類の文明をも破却すべし。斯の如くむは、朕何を以てか億兆の赤子を保し、皇祖皇宗の神霊いに謝むや。
是朕が帝国政府をして共同宣言に応しむるに至れる所以なり。

 

【要約】

戦争を続けるなら、我が民族の滅亡を招くだけではなく、ひいては人類の文明をも破壊するだろうそうなれば、私はどうやって我が子国民守り、歴代天皇にお詫びできるだろうこれこそ私が政府に対し、ポツダム宣言受諾するようにした理由である。

天皇は国民の安寧を願い祈るのが代々続いてきた責任であり、それを果たせないことは申し訳が立たない。つまり我が子のように思う日本民族をなんとしても守りたい心情が現れています。

 

【原文】

朕は帝国と共に終始東亜の解放に協力せる諸盟邦に対し、遺憾の意を表せざるを得ず。
帝国臣民にして、戦陣に死し、職域に殉し、非命に斃たおれたる者、及び其遺族に想いを致せば、五内為に裂く。且戦傷を負い、災禍を蒙り、家業を失いたる者の厚生に至りては、朕の深く軫念しんねんする所なり。惟(おもう)に、今後帝国の受くべき苦難は固より尋常にあらず。爾(なんじ)臣民の衷情も、朕善く之を知る

 

【要約】

私は、我が国とともに終始東アジアの解放に協力した友好国に対し、遺憾の意を表明する。我が国民が戦死し、職場で殉職し、不幸にも死んだ人々、またそれらの遺族のことを思うと心から悲しみに耐えない。

また、戦傷を負ったり、戦禍にあったり、家業を失った人々のこれからを考えると心が痛む。今後我が国が受ける苦難は尋常ではないだろう。そのような国民の心も私はよくわかっている。

※五内全身

 

【原文】

然れども、朕は時運の趨く所、堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、以て万世の為に太平を開かむと欲す。朕は茲に国体を護持し得て、忠良なる爾臣民の赤誠に信倚し、常に爾臣民と共に在あり。
若し夫(そ)れ情の激する所、濫(みだり)に事端を滋くし、或は同胞排儕(はいせい)互に時局を乱り、為に大道を誤り、信義を世界に失うが如きは、朕最も之を戒む。

 

【要約】

しかし、時世の変化はやむを得ないので、耐えがたいことを耐え、忍び難いことも忍び、未来の平和を求めたい。
私はここに国体(天皇を中心とした国柄)を護持し得て、国民の忠節の心を信じ、常に国民とともにある。もし激情にかられて、みだりに事件をおこしたり、同胞を排斥したりして世の中を混乱させ、人の道に外れるようなこととなって世界から信義を失うようなことは、私が最も戒めることである。

▼国柄についての議論は大日本帝国憲法制定時から続いていますが、「君民一体の一大家族国家」論(天皇家が宗家で天皇は家長であり、臣民はその子供たち)を私は想定しています。

ポツダム宣言受諾=無条件降伏と一般的に言われていますが、国体護持のみの条件(一条件)降伏を受け入れることとしました。あやふやな解釈ができるポツダム宣言であったことも受諾が遅れたのも要因です。

▼また天皇日中戦争時から陸軍を信用しておらず、軍の暴走(クーデター)を警戒しており、急ぎ決断する必要があるとして、14日の御前会議は天皇自ら招集しています。

▼開戦に至る過程もそうなのですが、大日本帝国憲法には制度上の不備が多く見られます。世界情勢に即した政治的機構や戦略的意思決定などが迅速に行えないため、天皇の決断を仰ぐ事態となりました。激変する日本と世界に憲法が規定する制度が追いついていませんでした。現行憲法についても同様になりつつあるのではないでしょうか。

 

【原文】

宜しく挙国一家子孫相伝え、確く神州の不滅を信じ、任重くして道遠きを念(おも)い、総力を将来の建設に傾け、道義を篤くし、志操(しそう)を鞏(かた)くし、誓って国体の精華を発揚し、世界の進運に後れざらむことを期すべし。爾臣民、其れ克く朕が意いを体せよ。

御名御璽(ぎょめいぎょじ)

 

【要約】

挙国一致して子孫に受け継ぎ、我が国の不滅を信じて、その道のりは遠く責任は重いと思うが、国家の再建に向けて、全力で未来を建設しよう。

道義心を大事にして、信念を固く持って、我が国の良いところを発揮し、世界の進歩に遅れをとらないようにして欲しい。国民よ、私の気持ちを汲み取ってほしい。

 

 

これが全文で「玉音放送」として天皇陛下昭和天皇)の肉声がラジオで流れました。よく聞く部分は最後のほうですね。なぜマスコミはあの「耐えがたきを耐え・・・」の部分だけ取り上げるのでしょうか。全文を読まないと真意がわかるとは到底思えませんが。

 

この詔書は漢語が混じっているうえ、当時の教育水準と、放送の音質、さらにレコードの録音盤であったこなどから考えると、当時の全国民が十分理解したとは思えないですが、軍上層部や政府、官僚、知識人には陛下の平和を希求するお気持ちが十分伝わる内容であったのではないかと思います。

 

詔書の起草は思想家の安岡正篤によるものとされるので正確にお心をあらわしたものでは無いかも知れませんし、閣議で文言が少し変更されたています。そののち昭和天皇ご自身によって読み上げられレコード盤に録音されました。

 

草案の段階でも経緯は色々ありますが、詔書昭和天皇が読み上げられた時点で「詔勅(しょうちょく)」となり、陛下自身のお言葉でありこれは絶対的なものです。

あの時点でもし昭和天皇がこの詔書に異を唱えるような事があれば、さらに終戦は遅れ3発目の原爆を投下されていたかもしれず、その点を勘案して昭和天皇ご自身はそのままお読みになられたのだと解釈しています。

 

昭和天皇は開戦に反対していたことは有名ですが、終戦において全責任を背負う覚悟でこの言葉を発せられました。まず最初の一文で「私がポツダム宣言受諾するよう政府に命令した」と読めますからね。

 

また最後まで我が国と国民の未来を案じておられた事が良く分かると思います。特に内乱は心配されておられたようです。

 

こうして多くの血を流して得た平和ですが、近年ロシアや中国などの専制国家によって乱されています。どのようにすれば良いのかしっかり考え続けていきたいと思います。

 

 

時折アップするだけの貧弱なブログ「海洋立国論」ですが、誰かが少しでも我が国について考えるひとときにして貰えれば幸いです。