海洋立国論

四方を海に囲まれて。

「散る桜残る桜」―甲飛十期の記録― より

【最後の紫電改パイロット】
2021年1月9日ー
「最後の紫電改パイロット」笠井智一さんが94歳で亡くなられました。
 
この事に因み、最初は乗機だった局地戦闘機紫電改」や「紫電」、それらの原型となった「水上戦闘機・強風」を取り上げようと思ったのですが、笠井さんは甲種・海軍飛行予科練習生(通称:予科練)十期出身であったこと、また手元に分厚い冊子(全600ページ)の「散る桜残る桜」―甲飛十期の記録―(昭和47年発行・甲飛十期会編・非売品)がありますので、この内容を少し紹介しつつ、先の大戦で亡くなられた多くの方々を偲ぼうと思います。
 

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予科練
私は子供の頃、「予科練の歌(作曲:小関裕而 作詞:西条八十」)を聞いた覚えがありますが、世代で予科練に対する印象が全然違うでしょうし、そもそも予科練という呼称を若い方は聞いたことが無いかもしれません。
 
先の大戦では航空機の重要性が高まり、搭乗員の育成が急務となっていました。
このことから戦況がひっ迫してから搭乗員速成のために組織されたと思われがちですがそうではありません。
 
昭和の初めごろから将来の搭乗員需要の高まりを見越して、従来の方法に加えて創設された制度であり、予科練制度自体は昭和五年に第一期が募集されています。
 
受験対象は高等小学校卒業者で90名の採用枠に対し5,764名の応募で採用76名、その後も年2回の募集で平均競争率80倍という超狭き門であり、学業体力とも優秀なものが採用されています。修学年限は3年間。
 
当時は学業優秀でも経済的理由で進学を諦めざるを得なかったり、衣食住が保障され兵学校にも進学でき士官になれる可能性があったとPRされていたこと、最先端の飛行機に乗れることへの憧れなどもあって応募が多かったと書かれています。
 
【甲種の創設】
甲種というのは昭和12年にできた制度で、採用資格は旧制中学4年1学期修了程度の学力、修学年限は1年半。
 
予科練習生は殆ど飛行機には乗らず基礎鍛錬・基礎教育が殆どであり、娑婆っ気を抜く事が主要な目的だったようです。
飛行訓練は「予科」が取れて飛行練習生になってから始まります。従来の一期から八期は「乙種」とされ、一応区分されてはいます。
 
甲種の入隊状況を見てみると、第一期(昭和12年9月)212名から第七期(昭和15年10月)312名まで徐々に入隊数が増えていますが、開戦濃厚であった第九期(昭和16年10月)は841名、開戦後に入隊している第十期(昭和17年4月)は1,097名と急増し、戦況がひっ迫してきた第十三期(昭和18年)は、28,111名と第一期の130倍以上になっています。
 
しかしこの制度自体が右往左往している様子が書いてあります。戦況などによって状況が変わったのも一因なのでしょうが、この本には「われわれ予科練出身者の者にさえ、身分規定が良く理解できない」とか「取り扱いの無責任さは常識では考えられない」と書いてあり、そのような組織マネジメントの杜撰さ、グランドデザインの無さは随所に出てきます。
 
開戦に至る経緯や終戦時のゴタゴタ、現代のコロナ対応まで、これはもはや「国民性」なのかと言いたくなります。
 
【激戦地へ】
この甲飛十期は多数の戦死者を出しています。入隊者数1,097に対して戦病死者数は777名。戦病死率は7割にも及びます。
 
開戦劈頭、新人でさえ搭乗員は千時間に迫る飛行時間で、先任搭乗員にも中国戦線で実践を経験した者も多数おり、乗機も当時世界一の性能を誇った零戦であったのに対し、甲飛十期は育成機関が短縮され実機訓練も1カ月そこそこの訓練不十分、指導にあたる実践経験豊富なベテラン搭乗員や優秀な士官が不足した状態で、質の悪い燃料と故障の多発する飛行機に搭乗させられ、アメリカ機動部隊と直接対峙する「第一航空艦隊」などの中心搭乗員として配属するという上層部の愚策が、戦死率の高さの一因であったことは間違いないでしょう。
 
さらには昭和19年10月フィリピンにおいておこなわれた初めての神風特別攻撃隊(特攻)など多くの特攻隊員として、また全戦線において中堅搭乗員となっていたことにも求められます。
 
【追悼】
最後に笠井さんのことも少し触れておきます。
笠井さんは山本五十六連合艦隊司令長官パプアニューギニアブーゲンビル島上空で戦死した時、長官乗機の一式陸攻を「空戦の神様」と呼ばれた杉田正一一飛曹と護衛しています。
(その時の護衛機6機のうち杉田・笠井の他は当地で戦死)
 
ヤップ島では「撃墜王」菅野直大尉の3番機を務め、(4番機も同期の松尾一飛曹、その後体当たりで戦死)ており、技量優秀な搭乗員を集めた本土決戦部隊であった第三四三海軍航空隊 (343空)でも杉田機の二番機を務めています。
 
このことから、笠井さんはじめ予科練生は練度未熟故に「突っ込むだけで良い特攻をさせた」などの非難はあたらないでしょう。空戦で米軍機を撃墜している記録も沢山あるのです。
 
特攻機に十期生が搭乗し、その「直掩(上空援護)」機も同期生がしていたことも多く、この時の同期生を特攻に送り出す心境はどのようなものだったのでしょうか。
無事に護衛任務を果たす時は「特攻」する時なのですから。
 
【遺書】
さて、この本の冒頭には遺書や遺稿が多く掲載されています。
どれも涙無くしては読めないものばかりですが、ほぼ共通するのは「親への感謝」「郷里への想い」「ご心配ご無用」などと書いてあります。
検閲があるため書きたい事が全て書けた訳ではないでしょうが、非常に達筆で入隊時には平均17歳だった少年の言葉とは思えません。予科練時代によほど精神を鍛錬したのでしょう。
当時の彼らがそのような厳しい鍛錬にもよく耐えている様子も書かれています。筆舌に尽くしがたい体罰や厳しい課業、暮らしぶり、そんな中で醸成されていく仲間意識が読み取れます。
 
【生き様として】
とにもかくにも、十期生は20歳になるかならないか、またベテランといっても25歳前後の青年たちがどのような想いで生きて戦ったのか、そのことはいつまでも深く考えていきたいと思います。
甘えと怯えの時代と言われる現代に生きる私は、亡くなった方々に恥ずかしくない生き方ができているとは思えません。わが身を振り返ると恥ずかしくなります。
 
【雑記】
昭和17年1月20日は衣料の購入が点数切符制に変わっています。(正式名は「繊維製品配給消費統制規則」)
またこの頃に有名なラバウルを占領し、ビルマ進攻作戦も開始されています。
 
写真上 散る桜 残る桜 -甲飛十期の記録ー
写真下 自作の紫電改のプラモ(ハセガワ1/48)

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令和の日英同盟

本年も長文をお読みいただいた方、ありがとうございました。更新ものんびりのブログですが、来年もよろしくお願いします。
 
日英同盟破棄から100年】
日本は1921年(大正10年)ワシントン海軍軍縮会議において日英同盟を廃棄しました。それから丁度100年。令和の時代に新たな形で日英同盟が復活しつつあるようです。
 
【QE展開】
2021年初頭にも英海軍新鋭空母クイーンエリザベス(約6.5万トン)を中心とした「空母打撃群」が、アジア太平洋地域(西太平洋)に長期展開されます。
「空母打撃群」とは空母と艦隊護衛の戦闘艦、補給艦、潜水艦などで構成される艦隊です。(同型艦にプリンスオブウェールズ
 
海洋覇権を強める中国を牽制するため、各国との共同訓練や航行の自由作戦を実施するほか、EU離脱後の日本やアメリカとの外交強化など軍事・外交両面を睨んでの展開と考えられます。
 
【日本の存在感】
英国が空母打撃群を長期展開できるのは、ある意味日本のおかげとも言えます。その理由は、艦隊を収容できる港、整備に使える大型ドックを横須賀に保有しています。米第七艦隊も利用していますから実績も能力も申し分ありません。
ただキャパシティに余裕があるわけでは無いでしょうから、やりくりには苦労するかもしれませんね。
 
また、空母クイーンエリザベスは艦載機としてF-35Bを運用可能ですが、日米英とも共通の機体ですので、運用の柔軟性が高くなりますし、F-35Bを強襲揚陸艦で運用する予定の米軍にとっては強襲揚陸艦不足を助けてもらえます。
自衛隊も「いずも」「かが」をF-35Bが運用できるように改修していきますので、こちらでも共通の運用がおこなえます。空自はF-35を選定して正解でした。
 
さらにF-35のアジアでの機体整備拠点(リージョナル・デポ)は「小牧」にあるため、充分な整備も日本で行えます。
英軍の西太平洋への長期展開は日米にとっては対中抑止の助けになりますし、英国は日本の拠点を利用できます。
装備品開発においても協力しやすくなることで自国負担が小さくなったり、より高性能のものを開発できるでしょう。
 
香港の一件で一国二制度の約束を反故にされ大英帝国の面目を潰され、かつての植民地であった豪・印が中国に危機感を募らせてる今、知らぬ顔をする訳にもいかないでしょう。
 
【防衛協力】
対中脅威の高まりと共に日本は米国以外とも防衛協力を深化させてきており、オーストラリアとは2013年に日豪物品役務相互提供協定(ACSA)を日豪情報保護協定(ISA)を発効させ、2014年以降には防衛装備品技術移転協定を、2020年11月には日豪円滑化協定を大枠合意しています。
 
日本が他国と締結したこの種の協定では米国以外とは初めての締結で、オーストラリアは首相ステートメントで「日豪交流における歴史上の転機」「高いレベルの日豪防衛協力に、新たな章を切り開くもの」として高く評価しています。英国はEU離脱後を睨み、2021年1月の日英EPA発効に続き、この日豪円滑化協定にも関心を示しています。(英国の他にも仏・印とも協議中とみられます)
 
英国とは既に、2014年に新たな「防衛装備移転三原則」に基づき、2014年以降に防衛装備品技術移転協定、情報保護協定を締結しており、(他にもNATO・豪・独・伊・仏・印など)2015年には連絡幹部の常続的派遣の受け入れを開始、2018年に日英物品役務相互提供協定(ACSA)が発効しています。
 
これらに基づき、航空自衛隊保有するF-2戦闘機に代わる次期戦闘機、英国の次期戦闘機「テンペスト」に搭載できるとみられる新たなミサイル開発(JNAAM)にも着手しています。さらに日米英の三か国による共同演習も実施していますし、今後も増えるでしょう。
 
【新たな秩序】
世界は力の序列による宗主国と植民地のような「弱肉強食」「上下関係」の時代を経て、冷戦時代の「イデオロギー」で分断された時代に移行し、現代のような「航行の自由」を軍事力の誇示によって保証することで海洋覇権を維持するアメリカのもとで、自由に経済文化の交流を図り共通の価値観と利益を持つ国々と、それに異を唱える国々、「力こそ正義」な独善的な国々におおまかにグループ化されました。
 
当然日本は最初のグループですから、英国や豪・仏などとも連携が深まるのは当然なのかもしれませんが、同盟と言っても準同盟と言うべきレベルであって、日米のような関係にはなりません。
 
軍事同盟は「即応性」「双務性」が重要なため、純粋な意味では実現可能性は高くありません。
実現するとしてもかなり先の話でしょうし、そうでないならば中国の脅威が日英とも差し迫った状況になったときでしょう。
 
しかし「ファイブアイズ」に加盟する話がチラホラでたり、日米英仏豪印などとの多国間協力を深化させるうえで、現実的には日英同盟とも言える関係構築にいずれは繋がるかもしれません。
 
安倍政権が長期政権であったことと、安倍総理の提唱した「自由で開かれたアジア太平洋」構想が世界で支持された結果がここにも表れていると思います。
 
1905年の日本海海戦明治38年)で、バルチック艦隊を破った日本艦隊旗艦「三笠」、日本初の超弩級戦艦「金剛」は英国ビッカース社の建造であり、人材交流も含めて英国海軍から日本海軍は多くを学びました。帝国海軍の師匠とも言うべき存在です。
 
英国車は日本ではあまり人気がありませんが、クルマは左側通行。日本初の鉄道(新橋~横浜)を最初に走ったのも英国の蒸気機関車。日本は開国以来多くを英国に学びました。
 
開戦当初、マレー沖海戦で一式陸攻などによって沈められたのは「レパルス」と最新鋭艦「プリンスオブウェールズ」で、これは世界初の航空攻撃による航行中の戦艦の撃沈記録です。
 
空母の艦隊運用を本格的に行ったのは、帝国海軍による真珠湾攻撃ですが、空母として最初から設計し起工されたのはイギリスの「ハーミーズ」で、起工は遅れたものの帝国海軍の「鳳翔」が先に完成しました。
 
なにか不思議な縁があるように感じます。今後どのように日英の関係が深化していくのか注意深く観察したいと思います。
 
 
※ACSA・・・両軍間の物品・役務を相互に提供することや、その際の決済手続等の枠組みを定めた協定で、これにより共同訓練や共同での情報収集活動、PKO活動、人道支援災害派遣、外国での緊急事態における自国民の保護措置などがおこなえるようになります。物品については相手国の同意を得ずに第三者移転はできません。

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英空母クィーンエリザベス
(写真は英海軍HPより)

あの戦争をなんと呼ぶべきか

今年も12月8日がやってきます。毎年この日には何かを必ず書くようにしています。
まず社会の歴史の時間みたいですが、時間軸を一旦整理してみます。学生時代には歴史の授業が嫌いだったんですけどね。
 
1931(昭和6年) 9/18満州事変
1937(昭和12年)7/7 支那事変
支那事変は元々は北支事変であったものを支那事変(1937/7/7・盧溝橋事件を発端)と呼び変えました。→戦後日中戦争と呼称を変えましたが、当初は宣戦布告がない武力衝突だったため、『事変』と呼称しています。
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1941(昭和16年)12/8米英に宣戦布告真珠湾攻撃・マレー攻撃
           12/9中華民国重慶政府が日本に宣戦布告
           12/10 オランダが日本に宣戦布告
1942(昭和17年)1/12オランダに宣戦布告
1945(昭和20年)8/14ポツダム宣言受諾 9/2調印・発行
1952(昭和26年)4/27サンフランシスコ平和条約発効
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▲戦前~開戦直後
1941(昭和16年)7/2の御前会議『情勢の推移に伴う帝国国策要綱』では、ざっくり言うと「大東亜共栄圏建設を目指し、自存自衛の為に南方進出し、このため情勢により米英ソとの戦争も辞さず」としました。
 
9/6の御前会議では「10月下旬を目途とし、対米英蘭戦争準備に入る」としています。まだ名称は何もでてきていません。想定する相手国の名前が出てきているだけです。
しかし同年11/5の『帝国国策遂行要領』では、「自存自衛」と「大東亜共栄圏」を併記して「対米英蘭戦争を決意し」となり、戦争は避けられないものとしていますが、まだ呼称は決めていません。
 
陸海軍で想定する主な戦域・相手国がそれぞれ異なる事や、海軍は『太平洋戦争』を呼称として提案していたり、他の呼称もいくつか検討課題になっていたようです。
 
この要領をうけて海軍は11/5に『大海令(海軍・天皇の決裁を受けた命令書)第一号』を発令しますが、そこには「自存自衛のため米英蘭に対し開戦を予期し戦争準備をする」としか書いていません。
大陸命(陸軍・同じ)には、「大東亜共栄圏の建設」と『大東亜』という言葉を明示しています。
 
陸海軍夫々の思惑の違いが読み取れます。海軍は自衛の為に米軍を接近させないことを主眼とし、陸軍は資源確保の為の南進を主眼としています。
対日禁輸処置を受けて東アジアへ資源確保に向かうのか、資源確保を確実にするために米軍を接近させないのか。とにかくこの段階でも呼称は決めていません。
 
開戦後の12/10にようやく大本営連絡会議では、「12/8をもって支那事変も含めて『大東亜戦争』と呼称する」と決めて、12/12の閣議決定で正式決定されます。
12/7までは支那事変、12/8以降は支那事変も大東亜戦争に含むという解釈になりますが明文化はされていません。
 
このとき内閣情報局では「『大東亜戦争』と称するは、大東亜新秩序建設を目的とする戦争なることを意味するものにして、戦争地域を大東亜のみに限定する意味に非ず」としていて、戦争目的が主題となった名称という説明です。
 
▲戦後
【太平洋戦争史】
1945(昭和20年)12月8日
GHQが新聞に連載した「太平洋戦争史」が『太平洋戦争』の呼称が広く認識された始まりで、以降日本の学会や研究者の出版物にも『太平洋戦争』の呼称が広く使われるようになっています。
この「太平洋戦争史」は太平洋を主戦場とした米軍の正当性を主張し、極東軍事裁判東京裁判)と一致するように記述され、日本軍の不当さや残虐行為を強調したもので、その後の戦後史観を形作るものになりました。
 
神道指令】
1945(昭和20年)12月15日 
GHQ神道指令により『大東亜』の呼称を禁止しました。刊行物には全て検閲が入る事になり、政府は暫定的に呼称を『先の戦争』『今次大戦』『戦争』などと改めるようになり、公文書もそれにならいました。
 
【指令の失効】
1952(昭和27年)年4月11日に公布された法律第八十一号(昭二七・四・一一)【ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律
によって、すでにこの指令の効力は失効していますので、公的には『大東亜戦争』と呼称しても差し支え無いことになります。
 
【法的根拠】
そもそも『大東亜戦争』と閣議決定はされてはいますが、法令上の根拠はありません。
そして『太平洋戦争』との呼称についても法令上の根拠はありません。
また公文書に大東亜戦争の呼称を用いる事を禁じる法令上の根拠もありません。
このことは2006年(平成18年)11月30日と、2007(平成19年)1月26日、衆議院に提出された質問主意書に対する答弁で明確になっています。
 
【何を使っているか】
法令には『今次の大戦』や『太平洋戦争』が使われ、『大東亜戦争』は使われていません。
昭和天皇は『長きに亘れる戦争』『先の大戦』『不幸な一時期』などを使用されておられます。
国会図書館の分類は『太平洋戦争』で統一されています。
防衛研究所によって編さんされた公刊戦史『戦史叢書』はタイトルに『太平洋戦史』とも『大東亜戦史』ともせず、単に『戦史』としています。
教科書では最も多くが『太平洋戦争』を使用し、次いで『大東亜戦争』、最近は『アジア・太平洋戦争』も検定を通るようになったようです。
靖国神社では1941年12月8日を境に『支那事変』『大東亜戦争戦没者数をそれぞれ分けていいます。
日本的玉虫色な感じがします。
 
【論争は続く】
呼称については当然論争があります。決着していません。
開戦前には海軍も『太平洋戦争』を提唱していましたが、地理的には正しくなく中国戦線を無視しているようになりますし、『太平洋戦争』という呼称は既に中南米での戦争(1865-66、1879-84)で使用されているので、不適切という指摘もあります。
また、支那事変を『日中戦争』とし、『大東亜戦争』を『太平洋戦争』と分けて呼ぶ場合もありますが、個別の戦争をイメージし日本が長くおこなった戦争とは言い難い面もあります。
陸海軍どちらが主体であったかで分離する訳にもいかないでしょう。
 
特に中国に対しては、建前は「自存自衛のため、アジア開放の為、東亜の安定を目指した大東亜共栄圏建設」と言えども、侵略戦争の面は否めず、それらの行為を擁護する訳にはいきません。
 
当時の欧米列強に並ぶべく植民地を持っていた日本が、解放を謳う矛盾がありつつも、結果としては英国などは日本の進出によって植民地の多くを失ったのも事実であり、その後に多くの国は独立を果たしました。これも事実です。
 
そのような政治的イデオロギーを排し戦域的観点や閣議決定されている合法性、日本自身が名付けた点、『太平洋戦争』と呼ぶのは「歴史を直視せず覆い隠すような行為である」とする意見、太平洋のみならず東アジア~アジアに対して「侵略と開放」の二面性があった戦争であったことなどから考えると『大東亜戦争』と呼ぶのが相応しいとする主張も多いのも事実です。
 
【ドナルドキーン氏の意見】
日本文化の研究者として有名なドナルド・キーン氏は、『戦争の歴史的性質を最も的確に表現し、戦争の実体を最も広く蔽いうるもの』とし て『大東亜戦争』を用いるべきであると主張しました。
 
【そのほかの主張】
これは国際的呼称であり、イデオロギー性も無いが日本の直接関わった戦争として視野を限定できない弊害がありますし、あまりに広範囲過ぎるでしょう。
 
支那事変以降を言いますが、一般的に定着しなかったし、満州事変や対米戦争終了後の日中戦争が入ることになるうえ、戦域が分かりにくい。
 
と呼ばれたこともあります。これは日本古来の戦争(乱)が、応仁の乱壬申の乱など元号を冠しているので単純な呼称としては適切とし、また戦争には「侵略と開放」の二面性があり、日本も多くを攻めたが、またABCD包囲網からシベリア抑留や原爆、無差別爆撃を受けた被害も内包する意味からも、このように新たな呼称が相応しいとする論もかつてはありましたが定着しませんでした。
 
『極東戦争』
と呼称する提案も欧米にはあったのですが、「極東」という視点はあまりにヨーロッパ中心主義的であり、欧米がそのような呼称を用いるならば、『大東亜戦争』も日本視点ではおかしくはないことになります。
 
【合意は得られるか】
イデオロギー性を排除して合理的かつ科学的で地域・相手・時間を表現できる呼称。
なかなか見つかりそうにありません。
戦争目的も定まらず、両論併記や玉虫色で決着させ、戦争指導も右往左往した戦線の日本。
呼称すら決められずにいる戦後日本。
簡単に民族性は変わらないということでしょうか。
 
因みに私は『先の大戦』と呼んでいます。
 
皆さんはどうですか。

祝!新型護衛艦進水

2020/11/19 三井E&S造船玉野艦船工場において進水した、新型護衛艦(30FFM)は「くまの」と命名されました。
熊野川」に因んで命名されました。艦番号は「2」ですが、「1」より先行して進水した2番艦です。

その為、通常なら1番艦進水時に「○○型」とネームシップが型式になるのですが、ネームシップ(1番艦)がまだ進水しておらず、艦名が未定(未発表)の為、当面は型式が「3900トン型」となっています。
艦種はFFMとなりますが、これは海自独自。「多用途なフリゲート艦」と言う意味です。他にはDE,DD,DDG,DDHなどが護衛艦の艦種としては存在します。


なお、本艦はこのあと、艤装などを施し、2022年就役の予定です。

艦首部分にスラスター(小さな穴)が見えますね。これで方向転換をおこない、小回りが利くのでタグボート無しでの接岸もできますし、なにより最近は大型の護衛艦が多い中で小型なので、小さな港にも入港できますので、海外の寄港地の幅も広がり、まさに「多用途」な運用ができるようになるでしょう。

全体のシルエットがスッキリしているのは、ステルス性を高めた結果ですが、マストも面で構成していますし、アンカーさえ艦内に収容する作りのようです。

従来の護衛艦からはかなり異質な艦形ですね。


帝国海軍・軽巡洋艦「熊野」、先代護衛艦「くまの」(2001年除籍)に続いて3代目です。

以前にも書いたことがありますが、護衛艦艦内では神社が祀られていますが、過去にならい「熊野本宮大社」に因んだものになるんでしょうか。DDH-182「いせ」は艦内神社に伊勢神宮のお札が祀られているそうです。

 

航海と任務の安全を祈ります。

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くまの進水式

 

5年以内に習金平は台湾を目指すかもしれない

何度も書いていますが、台湾の吸収は中国の核心的利益です。国民党の面影すらも無くさなければなりません。
 
香港返還後にイギリスとの約束を反故にして一国二制度も無くそうとしているのも、中国が支配されていた負の歴史を清算共産党が唯一正当な政権となり、中国を名実ともに世界の覇権国にするためです。それは習金平のプライドでもありそれ自体は施政者として当たり前です。この目標はなんとしても達成しようとします。
 
しかし台湾を吸収するには「力による現状変更」が必須です。台湾は話し合いに応じる意志がない事は明白です。
 
また、隣国である日本(倭国)には多くを与えた教師としての自負がありつつも、海洋の壁に阻まれて冊封体制に組み込めませんでした。さらに日本は開国以来急速に成長し繁栄。清王朝の時代やそれ以前も見下していた日本によって、一時は大陸にまで進出しされました。
 
アメリカの介入によって日本は排除されましたが、中国の力ではありません。そして敗戦後も驚異的に復興しアメリカに次ぐ自由主義社会での大国となりましたが、このことは中国のプライドを傷つけたはずです。
 
力による台湾との統一(吸収)よりも、台湾を国として認め、融和的に関係を深めたほうが損得勘定で言えば得なのに、一切それをしないのはプライドの問題なのです。
 
これは解決できないため、いつかは衝突します。私はここ5年くらいがポイントだと思っています。
なぜそんなに急ぐ必要があるのか?少し相手の立場で考えてみようと思います。
 
【積極的要素】
(1)中国の国力増大に伴い、海軍力・ミサイル戦力を強化した結果、台湾近辺に米軍・自衛隊を接近させないことができるようになってきたとの自信がついた。第一列島線内の聖域化ができるブルーウォーターネイビー(遠征能力のある外洋海軍)としての自信がついた。
 
(2)予算や人員などに縛られてきた海上自衛隊との戦力差がもうすぐ3倍になる。「数の質のうち」で、いくら海自が練度が高いと言っても数でひっくり返せる。
 
(3)海自を排除できれば、世界一とも言われる対潜哨戒網に穴ができるため、米海軍の接近を拒否できる。
 
(4)米軍はINF(中距離核戦力全廃条約)によって中距離ミサイルという運搬手段を保有しておらず、反対に中国は多数保有している。目的は米国本土への攻撃では無く、米軍の接近を阻止するだけで良い 。
このため中距離ミサイルという有利な武器の土俵で戦える状況である。しかし時間がたてばINFを破棄した米軍に追いつかれると予想できるし、本気になった米軍のペースは早い。
 
(5)今まではアメリカに対抗し米軍基地を攻撃する能力のある国家は無かったため、米軍基地は攻撃に対してはかなり脆弱。
今なら多数の中距離ミサイルで、在日米軍基地、自衛隊港湾、飛行場を攻撃しレーダー、滑走路、格納庫などを破壊し即応性を喪失させられる。
時間稼ぎできればその間に台湾を吸収できるかもしれない。
 
(6)日米のイージスシステムによるミサイル迎撃能力には、多数のミサイルによる飽和攻撃やDF-17などの極超音速ミサイルで突破可能。これにより艦船の接近を拒否できるのではないか。
 
(7)米軍は中国より圧倒的な核戦力(ICBM)を保有するが、使えない戦略核は最早意味を持たない。
 
(8)融和的なバイデンが大統領となれば、あと4年はオバマ時代のように時間を稼ぎつつ体制構築ができる。
 
(9)自由主義社会の脆弱性である、資本による世論のコントロールや誘導、社会の分断、経済の深化を進めてきた結果(シャープパワーの行使)、反中勢力は一定量いるものの、親中(もしくは妥協的な)勢力も増えつつある。
しかし徐々に脆弱性を閉じる法整備や規制が進められており、これ以上の効果は見込みにくい。
 
(10)コロナによって疲弊した自由主義社会の経済界は、いち早く回復しつつある巨大市場中国を捨てることはできず、施政者の判断にも影響を与え「台湾を見捨てても自国経済を優先」するだろう。
 
(11)自由主義社会と覇権主義社会では、同じ価値観、人権意識の元では行動していないため、人命の価値は等しく無く、戦術的に負ける事があっても戦略的勝利を得ることができるかもしれない。
 
(12)国際法では民間人への攻撃はできないため、民兵の乗る漁船を民間船に偽装し、これを保護するという名目で、軍用艦艇を航行させグレーゾーンを作り、島嶼部の占拠や沿岸接近拒否に利用する。
民間船への攻撃(無差別攻撃)はハーグ条約8条で禁じられているため、自衛隊保有する機雷による海上封鎖も避けることができる。
 
(13)中国の海洋進出にとって脅威は潜水艦だが、大陸沿岸部は浅い大陸棚が広がっているため接近されにくい。水上艦艇の接近も対艦ミサイルを多数配備してたため拒否できる。
 
(14)北朝鮮・ロシアを背後に抱えたまま正面に中国の三面打ちを強いれば有利に戦える。
 
(15)日米に対し核使用をすれば、核の信頼性を担保するためにアメリカは必ず核報復をおこなう。
これは中国にとって望まないシナリオだが、通常兵器であれば核攻撃は行われない。
 
【消極的要素】
(1)台湾占領の為の攻撃手段は十分だが、兵員の輸送手段が不十分。国民総動員で徹底抗戦された場合、占拠に時間がかかり世界中の介入を招くかもしれない。
台湾の世論調査では戦争になれば8割の国民が戦うと回答している。これを一気に抑えられるほどの上陸戦はおこなえない。
 
(2)これ以上時間がたてばアメリカによる武器売却などによる台湾支援が進む。現在も戦闘機やミサイル及び発射器など多数購入契約しており、またアメリカ議会もそれを認めている。このことはアメリカ議会が台湾危機が近いと感じている証拠である。
台湾はリング中央で足を止めて打ちあう覚悟である事がわかる。
 
(3)価値観が近く同じ海洋国家である日米豪加英印などの軍事的な連携は時間がたてばたつほど深化するが、これは中国にとって好ましくない。
 
(4)移民によって若い活力を維持し続けるアメリカに対し、急速に社会が高齢化する中国には時間が無い。
 
(5)今まで低コストで入手(盗む)できた科学・軍事技術だが、対中包囲網によって今後は入手しにくくなると予想されるため、先延ばしすると先端技術力での差が広がる。
 
(6)連携されてチョークポイントを封鎖されるような長期戦になれば不利になる。
巨大国家を支えるには大きなエネルギーと食料が必要である。太平洋戦争時の日本が好例である。
 
(7)多数の固定目標の攻撃に必要充分なミサイルはあってもISR能力は未だ備わっていない。
 
【防衛側の打てる手】
 
(1)ISR能力(情報収集・警戒監視・偵察)の強化と阻害。
防衛側にとっては相手の行動をつぶさに監視できるようこれらの能力を高めるとともに、攻撃側の能力を阻害する能力を高めること。防衛側がいつどこで何をしているのかを把握させなければ、攻撃できず、また攻撃しても戦果確認させなければ次の行動(攻撃)に移れない。
 
(2)基地の抗堪可
攻撃による被害の低減を図るため、通常弾頭ミサイルに耐えられるような格納庫や滑走路の整備、攻撃されても直ぐに復旧できるような体制を整える。
アメリカがトマホーク巡航ミサイル59発による攻撃でシリアの空軍基地を攻撃したが、通常弾頭の巡航ミサイルでは復旧にはそれほど時間がかからなかったことから、巡航ミサイルに対して基地の強化は効果を見込める。
ただし慣性力がある弾道ミサイルに対抗するには不充分であるため、武器弾薬の分散配置も必要である。(例えば民間空港への分散配備)
 
(3)IAMD(統合ミサイル防衛)体制の早期構築
防衛計画の大綱に従い、またイージスアショア配備断念に伴う防空能力の弱点を補うため、少なくともNATO並みのIAMD体制の構築を急ぐ必要がある。
 
日本はすでに射程1000km前後のミサイル防空体制は地域最高レベルであり、これに従来防空アセットも組み合わせ、JADGE(自動警戒監視システム・空自運用)による一元的な指揮統制をおこなうことで、これらをスムーズに機能させる。
 
その為のクロスドメイン(領域横断)能力をさらに深化させることと、予算処置を十分におこなう。予算の増加はNATO基準に沿った対GDP比2%を目標とする。これにはアメリカの関与を強める効果がある。
 
(4)敵基地攻撃能力の保有
法理的には敵基地攻撃能力の保有は認められる(1956年鳩山首相答弁)うえ、この能力の有無と軍拡競争とはリンクしていないことは明白。
 
日本は法的に問題が無いとしつつも攻撃手段の保有をしてこなかったが、そのことで中国や北朝鮮が軍備拡張をしなかったとは言えないことは現状を見ればあきらか。
 
そしてこの能力の保有によって敵の飽和攻撃や敵ISR能力の阻害をこなう事や増援の阻止が可能(但しミサイル狩りができる訳では無い)。また攻撃を担う米軍の補完戦力ともなり米軍の関与をさせやすくできる。
 
(5)日米同盟の強化と他国間連携
日米が密接に連携し、また日米と連携する国が増えるほど、中国の判断は複雑にならざるを得ず、行動の選択肢を制限し結果を不確実なものにできる。
 
戦略的成果を得られない場合、共産党(習金平)への支持が失われかねないため、行動を抑止することに繋がる。
また、中国のISR能力に負担を強いる事ができ戦力の分散化と大きなコストを強要できる。EPAFTAなどの経済連携や多国間軍事演習、新・防衛法制などによる軍事協力の発展など多くの連携手段を使う。
 
(6)ASEANへの関与
ASEANへの日本の民間投資は成長し続けており、相手国によっては中国以上となりつつある。RCEPなどで中国の経済的な影響力を相対的に弱める事はASEAN自由主義社会を「裏切る」リスクを下げる。
 
(7)新たなアセットの保有
長期戦を見越してチョークポイント封鎖などコストを課すことのできるアセットを保有する。
 
(8)法整備
領海法の制定や武器使用権限の拡大、海保や海自の行動にある程度幅を持たせるため、「できること(ポジリスト)」から「できないこと(ネガリスト)」化する。
 
 
もし有事となれば、全ての攻撃を防ぎ被害を防止するなどは不可能です。
 
戦争になれば被害の一定量は許容しなければならない覚悟を官民とも持たねければなりません。また重点的にどこを守るのかも優先順位も含めて決めておく必要があります。
経済力と軍事力は強い相関関係が認められており、経済力の向上と共に戦力と運用能力向上は嫌でも進みます。
 
しかし相手にとって計算しなければならない要素を増やし判断を複雑にし、攻撃の意志を持つことを躊躇させることならば可能です。
 
我が国としては「現状維持」ができればよく、武力行使に至らなければいいのです。勝つ戦いはできなくても負けない戦いはできると思います。
 
要は「相手が嫌がる事をする」のであって「自分がしたい事をする」のではないのです。政府の議論にはその視点が欲しいと思います。日本は対中国には「弱者」の立場にすでに立っている事を認めることから議論を始めるべきです。
 
また国際関係において「武力の行使」は国連憲章で禁止されているので、中国はあくまで台湾は国内問題として処理しなければなりません。
この点も大いに利用すべきでしょう。
台湾をもっと表舞台で活躍できる場を関係各国で与えるのです。これは民間レベルでもできることがあります。学術的なフォーラムや会議開催、経済と観光、大学や研究機関によるあらゆる共同研究の推進、台湾の得意分野である科学技術を採用した機器やシステムの開発などが考えられます。
 
日米は「自由で開かれたインド太平洋」構想を進めていますが、中国はそれを閉ざそうとしています。開かれると都合が悪いのです。
 
また尖閣沖が騒がしいですが、海保と海警での小競り合いを超える軍レベルにエスカレーションさせてしまえば、これを口実に中国はさらに進出します。
それは相手の思う壺。
中国は少しづつレベルを上げてきており、残された時間はあまり多くありません。
 
東アジア地域は世界中で最もミサイル戦力が多く展開している地域でもあり、中東や欧州などよりよっぽど『火薬庫』であることを日本人も自覚してほしいと思います。
 
(画像:チョークポイントを通過する多くの艦船 MarineTrafficより)

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MarineTraaffic

茹でガエルニッポン。

中国の軍事力については多くの報告や分析がありますが、まずはデータをおおざっぱにいくつか纏めたいと思います。

防衛省防衛白書」、米国防省「中国の軍事力2020」、CSIS戦略国際問題研究所(米・シンクタンク)CSBA戦略予算評価センター(米・シンクタンク)SIPRIストックフォルム国際平和研究所(スウェーデンシンクタンク)など多くが研究、報告していますが、それらをひっくるめて概要だけでも掴めたらと思います。(細かな点で注意は必要です。)

 

【国防予算】

中国の20兆3,000億円に対し日本は5兆7,000億円とすでに大差。中国経済を反映し軍事費の伸びは鈍化していますが、この10年間でおよそ2.4になっています。

日本はGDP比1%の大枠がありますので、GDPが延びない近年は実質の伸びは小さなものです。そのうえ日本は福利厚生費や給与などの人件費もコミコミなのに対し、中国の軍事予算にはそれらが含まれておらず、ほとんどが武器装備、演習などの予算と考えられていますので、その実態の差は大きいでしょう。

まして各国から機密情報を盗んでるようですので、開発コストと期間を抑えられます。ちなみにアジア地域の軍事費のだいたい半分は中国ですので軍事大国の道を歩んでいるのは中国です。安保法制ぐらいで騒ぐ日本人はお目出度いと言わざるを得ません。

 

【ミサイル】

冷戦終結に一定の役割を果たし、核戦争の可能性を低下させたINF(中射程及び短射程ミサイルの全廃に関する米ソの条約)でミサイルの規制があった米ソ(ロシア)とは異なり、中国は自由に開発できたため、多数の中距離ミサイルを保有しています。

このミサイルバランスの偏りがアメリカがINF破棄に至った一因で、先ごろ、防衛省防衛白書」、米国防省「中国の軍事力2020」でも報告されています。

注意していただきたいのは、以下の数は『発射器の数』であってミサイルの数ではありません。

再装填し攻撃する事を考えると、発射器<ミサイルですし、ICBMなどは一発のミサイルを多弾頭化していますので、ミサイルの種類によってはミサイル数の10倍の弾頭数がある可能性があります。

発射器も移動式でいつどこから発射されるのか分かりにくいうえ、即応できる固体燃料式が主力です。

ICBMは全て核、それ以外は核・非核両用が多いことも注意です。

 

ICBM大陸間弾道ミサイル・射程5,500km以上)100基

IRBM(中距離弾道ミサイル・射程3,000~5,500km)200基以上

MRBM(準中距離弾道ミサイル・射程1,000~3,000km)150基以上

SRBM(短距離弾道ミサイル・射程300~1,000km)600基以上

GLCM(地上発射型巡航ミサイル・射程1,500km以下)300基以上

 

【海軍力】

近年強大な戦力となってきています。もはや数では米海軍を追い越しているかもしれません。

ただし近代化されていない旧式艦もありますので、実践経験豊富な米海軍と単純な比較はできませんが、その米海軍でさえ米国防省では「規模は米海軍を追い越した」と認識しているようです。ましてや海上自衛隊は差を付けられる一方です。

ある報告では2030年の中国海軍の規模は以下になるだろうと推定しています。

巡洋艦駆逐艦60隻 フリゲート艦50隻 強襲揚陸艦10隻 空母4隻 通常型潜水艦60隻 攻撃型原子力潜水艦16隻 弾道ミサイル原子力潜水艦8隻

その他で750隻・排水量200万トン程度と推定しています。

 

一方海上自衛隊は、護衛艦48隻(ヘリ空母4隻)通常型潜水艦20隻 などが主力で補助艦艇も含め138隻・50万トン。※2020年度防衛白書資料6より

 

艦艇に搭載される垂直ミサイル発射器(VLS)の数でも中国は海自の倍近くまで差を広げようとしています。

 

勿論、自衛隊は米軍の弱点を補う相互補完関係の戦力として整備されてきた経緯もありますので、全面戦争時には米軍が加わる事には一応なりますが、その自衛隊が弱いとなれば米軍の作戦にも支障がでる恐れがあるでしょう。

それは日米とも避けなければなりませんし、自衛隊を強化することは、米軍に日本周辺での有事に関与させやすくなります。

 

台湾有事などで中国が第一列島線を突破しようとした場合には、海自が米軍と共に戦うことになるかもしれませんし、その時中国軍は尖閣まで進出します。その際に一義的には自国防衛ですから自衛隊が戦うことになります。

 

単純に双方が全戦力を一気にぶつけ合う訳ではありませんし、運用能力など多くの要素も絡んできますので、単純に論じられませんが、比較優位の能力を持った時に共産党がその気になれば抑止が効かず、戦闘行為が始まります。日米安保によって安易にそうできないのが現状ですが、台湾を統一することは共産党政権の核心的利益の筆頭です。

 

【各国の動き】

隣国がそんな状況であり、経済力と軍事力を背景にますます権威主義的態度を強め、力による現状変更を推し進め、WHOのように国際組織を取りこんでルールメーカーになろうとしているときに、欧州や米豪は明確にNOを突きつけています。

台湾蔡英文総統は9日に出席したフォーラムで「中国が周辺地域で示している拡張主義に対し、民主主義諸国は立ち向かおう」と言い、ドイツは中国依存から転換し日本など共通の価値観の国々と連携すると言い、チェコ上院議員が「私は台湾人」と発言し、EUを同調させるなど動きが早い。

 

【日本の動き】

安倍総理は「自由で開かれたインド太平洋」構想で、アメリカとインドをこの地域に巻き込み、日米安保を強化しましたが、これによって中国の東西からアメリカとインドの関与を強め、日本に対する中国リスクを分散させることに成功し、安保法制の拡充で価値観を同じくする英・豪・印などとも連携が深まりました。

 

河野防衛大臣は先ごろCSISで「国土の1センチであれ守る用意がある。日米共同で尖閣防衛のため武力行使も辞さない。何もしなければ南シナ海のようになる」と言いました。多分に総選挙、次の総裁選を意識したのかもしれませんが、国家の意思表示は重要です。

 

尖閣沖中国船衝突事件 で、大局から国益を考えず、APEC議長としての見栄の為に中国人船長を釈放した菅直人元総理とは大違いです。中国の国内事情もありますが、あれ以来尖閣への圧力を強めたんですから。

 

【茹でガエル】

しかし核ミサイルが東京に落ちるより、迎撃ミサイル部品の落下を心配した一部世論や、一地方が反対したためイージスアショア配備取り止めとなる不手際、「攻撃」は言葉が悪いので「反撃」にしようとか言葉遊びし、それも対北朝鮮なのか対中国なのかもあやふやなまま議論を進めています。

尖閣沖中国船衝突事件を経験したにも関わらず、領海警備の為の法整備もほったらかしにしている国会議員もどうかしています

 

政府の説明も不足しているとは思いますが、野党もスキャンダル追及ばかりで肝心な議論はしていない。

それもあって多くの国民が状況を正確に把握しておらず、またメディアが正しく伝えないため、危機意識が低い。専門家でもない人や芸能人がテレビで感傷的に喋り世論に影響を与える。そのうちに危機はレベルを上げていく。こういうのを「茹でカエル」と言うのでしょう。高校ぐらいで安保や軍事学を必修科目にしたいくらいです。

 

CSISのレポートに「中国はメディアを通じた影響力行使を沖縄で図っている」(シャープパワーの行使)と報告され、「日本の非対応」を指摘しています。

沖縄の地理的重要性は今更言うまでもないでしょう。

 

数的には圧倒されている日本がとれる手段はなにか、相手の優位を如何に減ずるか、有事の際のエスカレーションを如何に制御するか、どのような戦略で抑え込むか、日米同盟の信ぴょう性をどこまで高めるか。国も国民ももっと危機感を持たないと、本当に亡国になります。

 

自衛隊は練度が高いとか、質が良いとかいう勇ましい人、大丈夫ですか?

戦いは数がモノを言いますし、頼みの質でも日本はスペースジェットすら未だ飛ばないのに、中国は曲がりなりにも第5世代戦闘機飛ばしてます。

 

安全保障とは自己・相手を知ったうえでのリスクマネジメントによる抑止と被害軽減のためのダメージコントロールだと思います。

 あ、マネジメントって日本の一番苦手分野( *´艸`)

photo by U.S. Pacific Fleet

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台湾侵攻

2019.12.11に「中国は覇権国家を目指す」と題してざっくり書いたのですが、それから8か月。終戦記念日を迎えるにあたり、また李登輝氏の死去もありましたので、中国について改めて書いておこうと思います。

【止まらぬ中国】
香港の国家安全法、台湾への恫喝、ブータン東部の領有権を勝手に主張し、インド・カシミール地方でのインド軍との衝突とその後に領土を拡張し兵舎を一方的に建設、尖閣近辺での嫌がらせ、WHOなどの国際機関での情報隠ぺい、宗教弾圧やウイグル族の弾圧、長期融資による債務のワナ・・・

「中国は覇権国家を目指す」の項でも書いたのですが、習金平主席の目標は「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現」 で、その第一には国家の統一があげられ、それは台湾と香港の完全なる統一が最初の目標です。

香港は返還後50年を待たずにイギリスとの約束を反故にし「国家安全法」を制定し香港の自由を奪い共産党の指導下におきました。世界の反発はありますが、だからと言ってどの国も正当性のない武力行使はできません。共産党にとっては次は台湾だと自信を深めたように思います。

待たなかったのは、習金平主席の存命中に目標達成をしたかったのでしょうか。

【台湾統一までの道のり】
台湾を統一するには「武力」による併合しか選択肢はありません。しかしアメリカが目障り。

その為にデジタルABCD+G(Ai・Blockchain・Cloud・DataCenter・5G)での市場獲得を推進して経済力と技術力をつけてきました。この経済力と技術力を活かして軍事力を着実に成長させ、台湾侵攻に際して欧州・米国の関与を拒否できると判断する時が近いのかもしれません。

台湾統一と自国産業の維持のため、南シナ海の軍事基地化をすすめ、東シナ海では日本の尖閣諸島に対する嫌がらせをしつつ、鹿児島~沖縄~石垣のラインへの進出準備を進めてきました。

【侵攻を想定】
さて、台湾を武力統一する場合を想定してみます。

まず、大事なのは時間です。一気に占領し民主政権の転覆と臨時議会の設置などの体制変更を迅速に行わなければなりません。時間がかかると自由主義国家の関与を招きます。
一旦併合してしまえば、ロシアのおこなったクリミア半島併合と同様、他国が中台間の取り合いに武力で関与はしにくくなります。中国は台湾軍を一気に制圧できる航空戦力・ミサイル戦力は十分。上陸能力は力を蓄えつつあります。

侵攻は西側(大陸側)から始まります。侵攻後に順調に作戦を進めるには海上及び航空優勢を確保しなければなりません。しかし台湾の東側は高い山が連なっているため、侵攻軍は地上からレーダーによる監視や攻撃ができないので、東側から台湾の支援に向かう在日米軍海兵隊などの警戒監視や防御の為には、東シナ海第一列島線あたりに進出した海軍がおこないます。

中国海軍は訓練用として空母「遼寧」を運用し空母運用のノウハウを蓄えたのち、中型の空母「山東」を就役させ3隻目の003型は建造中。その後も計画は目白押し。そのモデルは「米海軍」であり、駆逐艦・潜水艦・補給艦もセットとして遠洋作戦能力を高めた艦隊運用によって、他国海軍の接近拒否をおこないます。

【INFの失敗】
INF(中距離核戦力全廃条約)に縛られる事が無かった中国は、核・非核を含めてASBM(対艦弾道ミサイル)DF-21D「通称:空母キラー」や東風26「通称:グアムキラー」などの準中距離~中距離弾道ミサイルを多数保有しています。それらが狙うのは「米軍基地」「自衛隊基地」「空母打撃群」などです。

日米に限らず自由主義国家では、国民である兵士の犠牲が甚大な場合は政権批判がおこり戦意を沮喪させられるかもしれません。ミサイル1発で高価な艦隊とともに乗り組み員数千人の人的被害は割りにあわず、勝ったとしても米国はそれほど大きな利益があるわけでもない台湾から手を引くかもしれません。武力による恫喝が効果を発揮します。

反面、民間への被害が甚大である都市部、戦時国際法違反である原発やダムなどのインフラへの攻撃は行わないとみられます。民間への被害が出た場合は、反米国家でさえ中国を非難せざるを得ず、民間資本の中国外への流出もあり得ます。そうなると中国には大打撃でしょう。事実、天安門後に中国は苦しみました。戦時国際法違反ならば共産党の主張する「法による統治(ご都合主義ですが)」の正当性が失われます。

海峡封鎖
米海軍の西側からの侵入に対してはバシー海峡などの封鎖を実施。横須賀やグアムから台湾西側に回りこむのを妨害します。これは主に潜水艦によっておこなわれます。

日本の生命線であるバシー海峡マラッカ海峡などを封鎖されると、生活コストが上昇し国民には厭戦気分と政権批判が高まり対中融和派が台頭するでしょう。

尖閣対応】
日米安保の対象と米軍が明言してる以上、中国が尖閣諸島には手を出すとは思えませんが、嫌がらせに耐えきれず日本が法的根拠もないまま中国公船を拿捕や攻撃すれば、第一列島線に中国海軍を進出させる口実を与えることになります。

ここは慎重に対応しなければなりませんが、国家の意思表示はする必要があるでしょう。日米豪英などで共同訓練などはアリではないかと思います。4か国共F-35戦闘機を運用しています。
英国は最新鋭空母クイーンエリザベスを中心とした空母打撃群をインド太平洋に常駐させるオプションを策定しており、常駐するとなれば艦隊や艦載機丸ごと受け入れ可能なのは日本です。米空母艦隊も常駐していますし、帝国海軍を支えたインフラと高い技術力を持っています。日本も「いずも」をF-35運用可能に改修します。その事前訓練にもなるでしょう。

【反中連合】
中国に対する締め付けも厳しくなっています。ファーウェイやTikTok等に対する制裁やヒューストンの中国領事館閉鎖命令、前述のクイーンエリザベスの展開、イージスアショアのグアム配備、INF離脱による中距離弾道弾開発、台湾への武器売却(F-16戦闘機、M1A2戦車、Mk48魚雷)や交渉中のMQ-9無人機、環太平洋合同演習(リムパック)への台湾の招待、米軍の無人空中給油機開発による作戦行動半径の長距離化とミサイルの長射程化、豪州も軍事費を大幅に増額しますし、オーストラリアの上院議員アデレードの中国領事館閉鎖を要求するなど、次々と進んでいきます。

【誇りある国に】
日本もだんまりを決め込む訳にはいかないのです。経済は中国頼りで安保はアメリカ頼りなんて身勝手で国家の意思の見えない、国益を堂々と主張しないそんな軟弱な国であってはならないのです。

遠くマリアナやソロモン海、フィリピン、シンガポール満州アリューシャン、インドまで進出し、戦後の世界地図に影響を与えた日本は、現在の世界秩序においては責任を果たす強靭な国民と国家であるべきと終戦記念日に思います。