沈黙の艦隊公開記念 原子力潜水艦
映画「沈黙の艦隊」公開記念!久しぶりに書いてみました「原子力潜水艦」
ここに手を付けることは沼ですのでキリがないとも言えるんですが、この際ひとまとめしておこうと思います。特殊な事例などは除外し通常潜は海自、原潜については米原潜を中心とします。それでも7,000文字越えました・・・
【意外と難しい?潜水艦建造】
世界で潜水艦を運用しているのは40か国ほど。そのうち潜水艦を完全に自国開発・建造できる国は日・米・英・独・伊・仏・スペイン・露・中・スウェーデン・印です。ほかに韓国・北朝鮮・台湾も運用していますが、現段階では完全国産ではありません。
そのうち原潜保有国は米・英・露・中・仏・印のみ。これはNPT(核不拡散条約)によって核兵器保有が認められた5か国と、インドはNPT非加盟で2016年に国産原潜を就役させました。オーストラリアは軍事協定「AUKUS 」によって米英の協力によって原潜保有を目指しています。
北朝鮮は通常潜に弾道ミサイルを搭載した潜水艦を開発しましたが、露からの技術供与で原潜保有を目指しているものと思われます。台湾はどうやら日米の技術者が協力して開発したようですが、対中抑止の一環として日米政府がバックアップしたと考えられます。
潜水艦は水上艦に対しほぼ無双できるうえ、隠密性が高いことで相手は対潜警戒に能力を割かれてしまいます。
高い抑止力と生存性(残存性)によって反撃力を確保できます。また技術力の象徴でもある兵器で、極めて秘匿性が高いのです。正確な潜航深度や速力などの情報や、その他の能力は外部に流出することはありません。
ハッチが開いているときはカバーがかけられ、ハッチ厚すら隠しますし、進水時には書かれてあった艦番号は就役時には消され個艦識別がしにくくなるように配慮されます。乗員はどこに行くかも知らされず、また出港は家族にも伝えることができません。
日本は先の大戦時に伊号などの大型潜水艦をすでに製造していた経験もあり、航空機まで搭載していた艦もあります。歴史的にも潜水艦とは縁が深いのです。通常潜では世界一の製造・運用能力を誇ります。
潜水艦は一度潜ると艦位がわかりません。潜航中はGPSなどの測位衛星の信号は受信できず、昔みたいに天測するためにしょっちゅう浮上をするわけにもいきません。
なので方位はジャイロコンパス・速力は加速度計で測定し、慣性航法装置が外力も加味した数値を算定することで自艦の位置が分かります。この精度は世界一ともいわれます。
【通常潜と原潜】
潜水艦は動力を大別して「通常動力型潜水艦(通常潜)」と「原子力潜水艦(原潜)」に分かれます。
「通常動力型」はディーゼルエンジン(燃料電池、スターリングエンジンもある)とバッテリ、モーターを搭載し浮上中はエンジンで推進し、また発電した電力を充電します。エンジン駆動中は騒音と排気ガスが発生し、また水面に露出しているため潜水艦にとっては極めて危険な時間帯です。
水中はバッテリ駆動で推進します。「そうりゅう型」以降はリチウムイオンを採用し従来の鉛蓄電池よりも高性能になりましたが、艦内酸素やバッテリの都合上、潜航時間も限度があり、出力も小さく水中速力も最大20ノット程度でそれも長くは使えません。通常は数ノットで進みます。電池残量命ですもんね。
反面、通常潜は水中ではモーターですので非常に静粛性が高く、モーターも止めてじっとしていればほぼ無音。艦体も小型(そうりゅう型で水中排水量約4,000トン、全長84m)なのでアクティブソーナーの反射面積も少なく発見されにくい点は利点です。
とはいえ、海自の潜水艦ってそこそこ大きいと思いますが。
原潜は冷却水を回すポンプは止められず騒音は発生し続け、3次冷却水は温水なので潜航深度が浅ければ熱源探知も可能で、艦体は一般的には大型で5,000トン以上(バージニア級BlockⅤで水中排水量約10,000トン、全長140mほど)になるのでソーナー反射面積も大きく、隠密性では劣ります。
米最新戦略原潜である「コロンビア級」などはさらに巨大で、水中排水量20,000トン、全長170m。また潜水艦は金属の塊であるため磁気による探知もおこなわれますが、これも小型の通常潜は有利です。(フランスには3,000トンくらいの小型の原潜があったり、ロシアには磁性を帯びないチタン製の潜水艦もあり例外も多々ありますのであくまで一般論です)
原潜は動力が原子炉であるゆえに非大気依存で大出力なので、水中速力も30ノット以上を継続して出せたりします。
つまりA地点で原潜を発見したとしても一旦見失えば(失探)、高速で移動していることを想定して広範囲を探索しなければならず、突然遠く離れたB地点に出現することもありえるのです。これは原潜ならではの芸当です。
長射程ミサイルを発射後に潜航し高速で移動してしまえば、敵が気づいて発射点に来ても既にそこにはいません。高速を活かしてヒットアンドアウェイができます。
また高速であるということは戦域に進出する時間が短くて済みます。これは敵に大きな負荷を強いることができます。
多くの原潜は加圧水型原子炉を採用し、燃料の交換を運用期間中にほぼしないで済むように高濃縮ウラン235を使用します。復水器に用いる海水は周囲にいくらでもあります。最新型の炉では燃料は艦の寿命と同等の30年は持つといわれます。燃料が核兵器と同等の濃縮率である点がNPT上、実質的に原潜が常任理事国にしか保有が認められない理由です。
駆動は原子炉の蒸気を吹き付けてタービンを回転させ減速ギアを介してプロペラを回転させる、ギアードタービン方式が効率が高いため主流ですが、これは騒音の一因となります。静粛性の優れる発電した電力でモーターを回転させるターボエレクトリック方式もアメリカの最新潜水艦コロンビア級で採用されるようです。それでも冷却水循環ポンプは動かすので静粛性は通常潜には及びません。
一応、自然循環でも冷却ができるような構造にはなっていますが、静粛性というよりも安全対策の一環です。
推進器であるプロペラは細長く捻じれたような形のスキュードプロペラで静粛性のために1軸推進が大半です。このプロペラ形状も極秘扱いで進水式などではカバーで隠され見えなくされます。
【運用】
潜水艦にも運用方法によっていくつかのタイプがあり、相手潜水艦や水上艦、対地目標を攻撃するための色んな武器を搭載します。(対艦には長魚雷やハープーン、対地にはトマホークなど)このような役割の汎用潜水艦は通常潜・原潜ともにあります。
核抑止力3本柱のひとつとして核弾道ミサイル(戦略核)を搭載し、静かにどこかで潜航している戦略ミサイル原潜もあります。英・仏は戦略核運用は原潜のみ。このように潜水艦は多様な攻撃手段のプラットフォームとなっています。
長期間潜航し大型の弾道ミサイルを多数搭載できる原潜は、戦略核と相性が良いのですが、原潜が必ず核兵器を搭載している訳ではありません。汎用潜水艦の搭載兵器である「長魚雷」「ハープーン」「トマホーク」などは非核兵器です。その点は誤解なきように。
米では元々戦略ミサイル原潜であったオハイオ級をロシアとの条約(STARTⅡ)によって4隻削減し、その艦を巡航ミサイル原潜に変更し運用しています。トマホークを154発も搭載している対地の鬼です。
アメリカは遠い地域まで空母打撃群が進出する必要上、それに随伴するためには高速で長期間潜航できる原潜が適しています。
また太平洋・大西洋に囲まれたアメリカは脅威の対象となる国は遠方にあるうえ、海洋の哨戒任務も戦略原潜の護衛も、長距離進出が必要ですので原潜しか保有していません。
冷戦期には戦略原潜は北極海に潜んでいましたが、氷海の下に長期間潜航できるのは原潜をおいて不可能です。
中国は威圧と国威発揚と技術開発のため潜水艦戦力を増強中ですが、通常潜と原潜両方を保有。しかし他国に比べて騒音レベルがまだ高いとされています。ロシアも通常潜と原潜の両方を保有しています。ロシアってウクライナ侵略で経済制裁とかをうけているので、今後原潜戦力維持って大変なんじゃと思います。
北朝鮮や韓国は通常潜に弾道弾を搭載し運用しているのですが、弾道弾を運用するなら原潜のほうが適しており、いずれは原潜に移行するでしょう。これは英仏印と同じです。
北朝鮮は近いうちに露から技術供与を受けることを希望するでしょうし、韓国は米から旧型をレンタルするか購入するかを希望するでしょう。しかし米も潜水艦建造の計画は目いっぱいであり余裕がなく、韓国が米に新造を外注できる可能性は当面は低いでしょう。
日本は反撃能力保有の観点から、先制攻撃を受けても、生存性が高い潜水艦による反撃(対地攻撃)能力を高めるため、「たいげい型」を改修した新型にVLS(垂直発射器)を装備し、新開発する長射程巡航ミサイル(射程900~1500km)を搭載すると考えられています。
【探知と攻撃】
航空機や水上艦などはレーダーで探知します。レーダーは電波ですから直進しほぼ正確に相手との距離などを測定できますが、水平線より向こうは探知できません。そのため航空機や他の艦船の探知情報をネットワークで共有し遠距離を探知します。
電波が使えない潜水艦はソーナー(音波)で相手を探知します。ソーナーには自ら発信し反射音を拾うアクティブソーナー、音を聴くだけのパッシブソーナーがあります。
アクティブは反射波を拾うので比較的正確に距離は測定できますが、こちらの位置も判明してしまいます。パッシブの場合は聴くだけなので、相手にこちらの存在が知られることはありませんが、相手との距離は正確にはわかりません。音の伝播速度は水中の状態(温度や塩分濃度など)によって変わるからです。
パッシブの場合は2つ以上のパッシブソーナーで聴音し三角測量で距離を測定しますが、容易ではありません。また水中には様々な音があるため、敵潜水艦の音かどうか判別するのは簡単ではありません。そもそも静かな相手であれば探知できない可能性もあります。
この点は原潜でも通常潜でも同じなので、より静かな通常潜は有利です。じっとしていれば自艦の雑音が殆ど無いためソーナーが良く効きます。敵と判断できなければ攻撃はできませんので探知技術は最も大切です。
それゆえ潜水艦に限らずセンサー能力は極秘で、潜水艦乗組員でもソーナーマン(聴音手)や幹部の一部しかその能力を知りません。水上艦では電波情報も同じ扱いで、CIC(戦闘指揮所)よりも機密度が高いのが通信室です。米原潜は艦首にアクティブ・パッシブの両ソーナーを装備していますが、海自はパッシブのみ。今後アクティブも搭載することを検討しています。
【日本の原潜保有について】
日本は東シナ海や対馬海峡、大隅海峡などの特定海域(領海及び接続水域に関する法律)や、宮古海峡などのチョークポイントを静かに哨戒するためには、原潜である必要はそれほどありませんでした。むしろ通常潜が都合が良かったのですが、原潜保有となるとそのハードルは極めて高くなります。
まずNPT(核不拡散条約)問題です。NPTは核兵器を現有保有国以外に拡散することを防ぐための条約で、日本も批准しています。しかし非爆発的軍事利用自体は禁止していませんので、理論的には日本が推進力を得るために原潜保有することは可能です。つまり原発ですから。
しかし燃料である高濃縮のウランは核兵器に転用可能。これを燃料として使用しているとIAEAに証明しなければなりません。(NPT第3条、保証処置一時停止規定)これがハードルが高いので、オーストラリアはAUKUSを通じ、IAEA(国際原子力機関)と協力し、NPTの義務を遵守するとして、アメリカから原潜をレンタルか購入する計画です。
しかしそれでさえ中・露は核物質の保管場所や、量を同機関が査察できる保障措置に懸念が残るとして、停止を求めました。
IAEAもオーストラリアに対して保証処置の一時停止規定を認めてしまうと、それが抜け穴となって原潜取得を口実に核兵器の拡散が懸念されます。核保有を目指すイラン、原潜保有を目指す韓国などにも口実を与えます。
その問題を越えても、レンタルや購入では建造ノウハウは手に入らず、保守や点検もいつまでも他国に頼ることになります。インドは過去にロシアから原潜レンタルしていて散々苦労しましたので、原潜を自国開発しましたが、NPT非加盟であったからです。
日本はNPT加盟国であり、核不拡散体制の維持を推進してきましたので、日本が原潜保有となるとこの問題は避けられません。
特に福島第一原発処理水でさえ、中国は日本に対し水産物輸入禁止をしています。原潜保有となるとさらに厳しい経済的な威圧に対抗する覚悟が必要です。
国内でも反原子力派とか親中の人とかが大騒ぎしそうです。
そして高コストであることも問題です。価格は非常に高価で米の汎用原潜である「バージニア級」でおよそ4,000億円ほど。海自の「たいげい型」は約800億円ですから5倍です。同じ予算なら原潜1隻で通常潜5隻保有できることになり、一概に原潜が有利であるとは言い切れません。いくら原潜とはいえ通常潜が5倍あれば勝てない場合もあるでしょう(乗員の問題はあります)。
逆にいうと今と同じ予算なら現在の海自潜水艦22隻を4隻に減らすことになります。もし日本が原潜保有となれば現状に加えて艦隊随伴や太平洋パトロールの原潜3隻以上は必要でしょうから、予算・人員が相当増えないと運用できません。
さらに潜水艦の運用には艦があれば良いという訳ではありません。幸いにも国産原子炉開発と海自潜水艦はどちらも三菱重工業が担っていますので、技術的な問題は他国に比べて低くそうですが、運用や保守をする自衛隊や製造企業の教育訓練も必要です。何年かかるんだか・・・
昭和には国会で散々取り沙汰されましたが、原潜の寄港はどうでしょうか。
国民の核アレルギーは昔「原子力船むつ」でも露になりました。過去には米原潜の事前通告無しの寄港に際して当時の佐世保市長が「原潜の入港は遠慮されたい」と事実上の寄港拒否をしたこともありました。
現在、横須賀は原子力空母ロナルドレーガンの母港になり、時折米原潜も寄港しており神奈川県のHPでも寄港情報が公開されていますので、大きな問題はなさそうに感じますが、しかし海自潜水艦となると母港となります。第一潜水隊母港は呉ですが、呉市民は海自原潜の母港となることを許してくれるでしょうか。
廃棄物処理問題もあります。高濃縮であろうと使用後は核廃棄物処理が問題になってきます。関電でさえ中間貯蔵に苦労しています。ドックの放射線対策も重要になります。
万一停泊時にテロなどで被害を受ければ放射能漏れが懸念されますので、基地警備も厳重にしなければいけません。
よく問題視されるのは非核3原則ですが、原潜は核兵器運用に親和性が高いことは確かです。しかし非核3原則については、平成22年外務委員会での、岡田外務大臣答弁(当時民主党政権)では、「緊急事態ということが発生して、しかし、核の一時的寄港ということを認めないと日本の安全が守れないというような事態がもし発生したとすれば、それはその時の政権が政権の命運をかけて決断をし国民の皆さんに説明する。そういうことだと思っております」であり、現内閣も引き継いでいますので、核兵器の持ち込みは政権の判断で可能です。
しかし「持たず」「作らず」は生きているため、戦略核運用に適した原潜保有は議論が噴出することが予想されます。「原潜保有は核兵器保有の準備か」と騒がれるでしょう。
しかし安全保障環境はますます厳しくなっていますし、中国海軍潜水艦戦力は巨大になりました。通常潜・原潜あわせて60隻以上で海自の3倍。
太平洋に抜けるルート上に日本があるため、現有の海自潜水艦22隻では抑えきれません。また反撃のための長射程巡航ミサイルを搭載した潜水艦を運用するにも、原潜は圧倒的に有利です。日本近海から敵地近くまで高速で進出し、ミサイルを発射し高速で退避できます。
また安倍政権が提唱し広く西側諸国に受け入れられた「自由で開かれたインド太平洋」を実現するには、海自艦艇の遠距離の進出が増えます。艦隊に随伴し長期任務には原潜が圧倒的に有利です。
国民的議論と検討、技術開発は進めていく必要がある時期にきていると考えます。日本独自の政治用語である「専守防衛」から「積極防衛」に変えていくためには避けて通れないと考えます。
【生活環境】
原潜は莫大な電力で海水から酸素や水を作ることもできるため、毎日シャワーも使えるなど居住性が高いと思われていますが、バージニア級では3名で2つのベッドを交代で使うなどそれなりに大変な勤務です。海自潜水艦乗員の皆さま、大変な勤務なのに、見守ってくださってありがとうございます。
原潜は事実上無制限に潜水し航海できますが、搭載している食料や乗員のストレス、機器類のメンテナンスなどもあるため、長期でも2~3か月のようです。しかしロシアの戦略原潜には運動用にプール付きがあるとか・・・原潜のなせる技です。
海自の潜水艦は任務は通常2~3週間のようですし、搭載した水も使用が制限されシャワーも3日毎とも。因みに食事は1日4回、食事は美味しいと言われる海自の中でも潜水艦はぴか一だそうです。景色も見えない狭い艦内での過酷な勤務ですから食事くらいはということのようです。夜間は赤色灯を点灯させ時間間隔を維持しています。
【海江田四郎の目指したもの】
過去、このシリーズで何度も書きましたが、国際社会はアナーキーです。国内では警察機構が法に強制力を担保しますが、国家以上の権力組織は存在しません。積み上げられた慣習国際法や国連憲章、規約、条約などの国際法をよりどころとし、司法制度もあるものの、国内のような強制力はありません。近年ではロシアによるウクライナ侵略がその例でしょう。(国際法が無意味と言っている訳ではありません。)
沈黙の艦隊では、強力な核搭載可能な原潜による国家の統制に捉われない「戦闘国家」を形成し、核武力による強制力により世界の核使用を抑止し、戦争を根絶しようとすることがテーマになっています。
海江田四郎の考え方には個人的には賛同できませんが、冷戦期に生まれた作品ならではの設定ですね。沈黙の艦隊はまさに世相を反映した素晴らしい作品です。
国際社会はアナーキーであること、武力には武力で対抗せざるを得ない現実を示した点で、今こそ読まれるべき作品なのかもしれません。
安保三文書ー平和を考えた
衛星リモートセンシングにおける軍民技術
JAXAは2017年に超低高度衛星技術試験機「つばめ」を打ち上げ、低軌道衛星がイオンエンジンで高度を維持する実証試験を実施し成功するなど独自の技術も開発しています。(飛行高度はギネス記録)
また、一般社団法人日本宇宙安全保障研究所(理事長:元防衛大臣・森本敏)などの専門シンクタンクも活動しており、各種提言をおこなっています。
忘備録的に・・・欧州(NATO)絡みの・・・
第四次台湾海峡危機がくるのか
《できごと》
米ペロシ下院議長の台湾訪問によって態度を硬化させた中国は、台湾周辺で最大規模の軍事演習を実施(マスの中が演習海域)しました。ニュースでも取り上げられていますが、弾道ミサイル等を発射して一部(12発?)を台湾上空を通過させたうえ、その一部を日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾させました。
これによって中国海軍は台湾を海上から封鎖できることを示唆し、また日本に対しても威嚇を強めました。中国に近い台湾の離島(金門島など)では、昨今、無人機が頻繁に飛来し台湾側の軍事施設を撮影するなどをおこなっており、台湾側はその都度警告射撃をおこなうなど対応していますが、信号弾から実弾による警告へレベルを上げました。
そもそも台湾を共産党が支配した歴史的事実は存在しません。台湾はれっきとした独立国です。
《米の対応》
さて米議員団が次々と訪問し台湾への関与をアメリカが示していますが、それだけではなく対中牽制の為にアメリカ第7艦隊所属イージス艦2艦が台湾海峡を通過し艦載ヘリを飛ばす「航行の自由作戦(FOIP)」や、周辺で日米共同訓練なども実施しており、「台湾海峡は公海である」「米は座視しない」「日米連携は完璧である」ことを示しています。
《自衛隊は》
一方、自衛隊は防衛費増をテコに、12式地対艦ミサイル能力向上型(射程1,000km超・ステルス化)の開発を前倒しし量産に入ること、極超音速ミサイルと新型対艦ミサイルの研究、F-15やF-35戦闘機に搭載する長射程ミサイルの導入、FFMよりもさらにコンパクトな「哨戒艦」(4隻)の建造、基地の強靭化や弾薬類の備蓄及び製造ラインの確保、 イージスアショアに変わるイージスシステム搭載艦(2隻)の検討、F-2に変わる次期戦闘機(第6世代)の開発(英と共同開発の計画)などここにきて一気に有事に備えようとしています。
防衛費は5年間をめどに従来の対GDP比1%から2%へ増額する予定ですが、これはおよそ毎年1兆円増額する事になります。このことは弱体化していた防衛基盤の維持に大いに役立つことにまります。
《半導体と遅れる武器売却》
現代生活は半導体が必須ですが、半導体は台湾が多く生産(1位韓国23%2位台湾21%、3位中国16%4位日本15%5位米国11%・2021年末時点) していますので、これを支えなくてはなりません。中国にコントロールさせる訳にはいかないのです。
半導体の行方は台湾が自主防衛するにも、日本が防衛力を強化するにも大きく影響するうえ、アメリカの対欧州向けの武器輸出が多くなると当然ながらアジア方面への武器輸出は遅延することになります。
ここで国産であることが効いてくるのです。半導体に限らず平時は輸入できても有事にはどうなるか判りません。サプライチェーンは民生以上に軍事では重要です。代替が効かない製品が多いためです。
また、アメリカが武器輸出する際には議会の審査や事務的な手続きが必要ですが、この手続きが長期化しています。台湾へは2019年のF-16V戦闘機売却決定(未納)に続き、2021年の自走りゅう弾砲売却決定、高機動ロケット砲システムや携帯型対空ミサイル「スティンガー」、空対地ミサイルSLAM/ER(射程280km)売却決定、2022年8月には空対空ミサイル「サイドワインダー」、対艦ミサイル「ハープーン」などの売却を検討していますが、契約済みで未処理分が140億ドル以上に及んでいます。
実際に台湾はようやくF-16Vを受領開始し、昨年ようやく運用し始めたところです。
《中露連携のリスク》
ロシアのウクライナ侵略は「防衛白書令和4年版」でも多くのページを割いて記載していますが、国連常任理事国でもある大国が、現代においても力による現状変更を行う事が証明されました。
経済制裁にも耐えているロシアですが、どのような形にしろ戦後は弱体化が進むのは間違いありません。対米協調で中露は連携していますが、本来中露は互いを信用していません。ロシアが弱体化することで背後の脅威が薄れた中国はさらに威圧的な行動を強める事は間違いありません。(当面は抑制的でしょうが)
第三次台湾海峡危機までと異なり米中の戦力差は大幅に縮まっており、また欧州に米軍戦力が大きく割かれている現状は長期化します。
横須賀を母港とする米第7艦隊は海軍戦闘艦艇のおよそ半数を保有する最大の艦隊ですが、それは広大なエリアを防衛する為に必要で、全てを一地域(台湾近海)に投入する訳にはいきません。
陸軍と違い未だ戦力を残しているロシア太平洋艦隊と中国軍が協調して活動した場合、台湾有事の際には米軍は台湾防衛に多くの戦力を割かれるため、日本の自主防衛力が問われる事態となります。端的に言えば米軍の全面的な支援は望めません。
ウクライナの例を見るまでも無く、国民の高い国防意思がなくては国は維持できないことは明白ですが、自主防衛努力のみならず、G7各国、NATO、とりわけ米・英・豪などとの連携がさらに重要になってきます。
《学術会議の傲慢さ》
また装備品の開発には研究機関との連携が必須ですが、日本学術会議は「軍事研究をしない」方針を変えていません。これは防衛の為の研究もしないため「座して死を待て」とも言えます。そもそも軍事研究も民生技術も区分が定かではない「デュアルユース」技術であるため、あまりにも勝手な言い分としか思えません。実際にウクライナでは民生技術の多くが戦闘に利用されています。
日本は憲法の制限上「攻撃型空母」「爆撃機」「中距離以上のミサイル」「核」は保有できず、「国家総動員」もできません。「軍事法廷」もありません。その状況で複雑な有事に対峙しなければならないのです。「技術の優位性」を捨てる事は、国を亡きものとしても構わないとも言えると考えます。
技術以外にも防衛力を強化するには、サプライチェーン・生産基盤の問題も解決しなければなりません。
国葬儀や統一教会などの些末なことに時間を割いている余裕はないのです。
自衛隊は「防衛」だけに特化しフルスペックの軍隊ではありませんが、「防衛」のあり方も状況に応じて変えなければ対処できません。
防衛費増を契機に多くの人が国防について考えて貰えればと思います。
ロシアによるウクライナ侵略についてまなぶべきこと
終戦の詔書(玉音放送)について
今年も8月15日を迎えます。
最近の若い人の中には、この日が何かを知らない人もいるようですが、それは教育の失敗であり、伝えなかった大人たちの怠慢であると断じざるを得ません。国の歴史について学ばない事は亡国へまっしぐらです。今回はその点を意識して書きました。
さて、昨年は8月6日から8月31日まで一体何があったのかの大きな流れを書いておきましたし、2019年には終戦直前のソ連の非人道的な侵攻について書きました。今年は「玉音放送」で流された「終戦の詔書」について纏めておきます。
読みやすくするため、ふりがなや句読点の付け足しや改行したりしていますので、原文ままではありません。そもそも新旧で字体も異なるので・・・で、ワシ的解釈超要約を併記しておきます。少し意訳もあるでしょうし、凡人が解釈するなんて畏れ多いですが昭和天皇ならお赦しいただけるでしょう(^_^)
【原文】
朕(ちん)深く世界の大勢と帝国の現状とに鑑み、非常の措置を以って時局を収拾せむと欲し、茲に忠良なる爾(なんじ)臣民に告ぐ。朕は帝国政府をして米英支蘇 四国に対し其共同宣言を受諾する旨通告せしめたり。
【要約】
私は、世界の情勢と我が国の現状を十分に考え、非常手段をもってこの事態を収拾したいので、私の忠義で善良な国民に告げる。私は政府に対し、アメリカ、イギリス、支那(中国)、ソ連の4カ国に、共同宣言(ポツダム宣言)を受諾することを通告させた。
※朕=(天皇の一人称)
▼非常の手段とは聖断のことでしょう。大日本帝国憲法(明治憲法)では、天皇主権であり元首であり大きな権限がありましたが、実際の運用上は、内閣(国務大臣)が天皇の了解を得ることが常でした。 (天皇は国務大臣の輔弼をもって承認するのみ)
大日本帝国憲法では天皇の決断は想定していないうえ、万一天皇が決断した事柄が失敗に終わると天皇の権威が落ちることや、責任を避ける意味もあったのでしょう。しかし終戦に関しては閣議で議論がまとまらず、また徹底抗戦派を抑える意味もあり最終決断は昭和天皇に委ねられました。
【原文】
抑々(そもそも)、帝国臣民の康寧を図かり、万邦共栄の楽しみを偕(とも)にするは、皇祖皇宗の遣範(いはん)にして、朕の拳々措かざる所 曩(さき)に米英二国に宣戦せる所以も、亦実に帝国の自存と東亜の安定とを庶幾(しょき)するに出で、他国の主権を排し、領土を侵すが如きは、固より朕が志(こころざし)にあらず。
【要約】
国民が安らかに暮らし、世界とともに繁栄してその喜びを共にすることは、歴代天皇が手本として残してきた教えで、私もそう願ってきた。アメリカとイギリスの二国に宣戦布告したのも、我が国の自存と東アジアの安定を願ったためであって、他国の主権を排除したり、領土を侵したりするような行為はもとより私の意志ではない。
※遣範: 先人が遺したお手本。
▼《他国の主権を排し~朕が志(こころざし)にあらず。》 この部分、陸軍への非難でしょうか。
【原文】
然るに、交戦已(すで)に四歳を閲し、朕が陸海将兵の勇戦、朕が百僚有司の励精(れいせい)、朕が一億衆庶(しゅうしょ)の奉公、各々最善を尽せるに拘らず、戦局必ずしも好転せず。
世界の大勢、亦我に利あらず。加之(しかのみならず)、敵は新に残虐なる爆弾を使用して、頻に無辜を殺傷し、惨害の及ぶ所、真に測るべからざるに至る。
【要約】
しかし、開戦して4年がたち、陸海軍将兵はよく戦い、役人も職務に励み、全国民もよく奉公した。それぞれが最善を尽くしたのにも関わらず、戦局は好転しなかった。世界情勢もまた我々に不利であり、そのうえ敵は残虐な新型爆弾を使用し多くの罪なき人々を殺傷し、この被害がどこまで及ぶかもわからない。
※新型爆弾=原爆
▼何度も繰り返し「朕が」と言及しているのは、陛下の国民に対する愛情の表れではないでしょうか。また無辜の市民を虐殺した原爆を非難しつつも、これ以上の惨劇は避けたいとの想いが伝わります。
【原文】
而(しか)も尚交戦を継続せむか、終に我が民族の滅亡を招来するのみならず、延(ひい)て人類の文明をも破却すべし。斯の如くむは、朕何を以てか億兆の赤子を保し、皇祖皇宗の神霊いに謝せむや。
是朕が帝国政府をして共同宣言に応せしむるに至れる所以なり。
【要約】
戦争を続けるならば、我が民族の滅亡を招くだけではなく、ひいては人類の文明をも破壊するだろう。そうなれば、私はどうやって我が子(国民)を守り、歴代天皇にお詫びできるだろう。これこそ私が政府に対し、ポツダム宣言を受諾するようにした理由である。
▼天皇は国民の安寧を願い祈るのが代々続いてきた責任であり、それを果たせないことは申し訳が立たない。つまり我が子のように思う日本民族をなんとしても守りたい心情が現れています。
【原文】
朕は帝国と共に終始東亜の解放に協力せる諸盟邦に対し、遺憾の意を表せざるを得ず。
帝国臣民にして、戦陣に死し、職域に殉し、非命に斃たおれたる者、及び其遺族に想いを致せば、五内為に裂く。且戦傷を負い、災禍を蒙り、家業を失いたる者の厚生に至りては、朕の深く軫念(しんねん)する所なり。惟(おもう)に、今後帝国の受くべき苦難は固より尋常にあらず。爾(なんじ)臣民の衷情も、朕善く之を知る。
【要約】
私は、我が国とともに終始東アジアの解放に協力した友好国に対し、遺憾の意を表明する。我が国民が戦死し、職場で殉職し、不幸にも死んだ人々、またそれらの遺族のことを思うと心から悲しみに耐えない。
また、戦傷を負ったり、戦禍にあったり、家業を失った人々のこれからを考えると心が痛む。今後我が国が受ける苦難は尋常ではないだろう。そのような国民の心も私はよくわかっている。
※五内=全身
【原文】
然れども、朕は時運の趨く所、堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、以て万世の為に太平を開かむと欲す。朕は茲に国体を護持し得て、忠良なる爾臣民の赤誠に信倚し、常に爾臣民と共に在あり。
若し夫(そ)れ情の激する所、濫(みだり)に事端を滋くし、或は同胞排儕(はいせい)互に時局を乱り、為に大道を誤り、信義を世界に失うが如きは、朕最も之を戒む。
【要約】
しかし、時世の変化はやむを得ないので、耐えがたいことを耐え、忍び難いことも忍び、未来の平和を求めたい。
私はここに国体(天皇を中心とした国柄)を護持し得て、国民の忠節の心を信じ、常に国民とともにある。もし激情にかられて、みだりに事件をおこしたり、同胞を排斥したりして世の中を混乱させ、人の道に外れるようなこととなって世界から信義を失うようなことは、私が最も戒めることである。
▼国柄についての議論は大日本帝国憲法制定時から続いていますが、「君民一体の一大家族国家」論(天皇家が宗家で天皇は家長であり、臣民はその子供たち)を私は想定しています。
▼ポツダム宣言受諾=無条件降伏と一般的に言われていますが、国体護持のみの条件(一条件)降伏を受け入れることとしました。あやふやな解釈ができるポツダム宣言であったことも受諾が遅れたのも要因です。
▼また天皇は日中戦争時から陸軍を信用しておらず、軍の暴走(クーデター)を警戒しており、急ぎ決断する必要があるとして、14日の御前会議は天皇自ら招集しています。
▼開戦に至る過程もそうなのですが、大日本帝国憲法には制度上の不備が多く見られます。世界情勢に即した政治的機構や戦略的意思決定などが迅速に行えないため、天皇の決断を仰ぐ事態となりました。激変する日本と世界に憲法が規定する制度が追いついていませんでした。現行憲法についても同様になりつつあるのではないでしょうか。
【原文】
宜しく挙国一家子孫相伝え、確く神州の不滅を信じ、任重くして道遠きを念(おも)い、総力を将来の建設に傾け、道義を篤くし、志操(しそう)を鞏(かた)くし、誓って国体の精華を発揚し、世界の進運に後れざらむことを期すべし。爾臣民、其れ克く朕が意いを体せよ。
御名御璽(ぎょめいぎょじ)
【要約】
挙国一致して子孫に受け継ぎ、我が国の不滅を信じて、その道のりは遠く責任は重いと思うが、国家の再建に向けて、全力で未来を建設しよう。
道義心を大事にして、信念を固く持って、我が国の良いところを発揮し、世界の進歩に遅れをとらないようにして欲しい。国民よ、私の気持ちを汲み取ってほしい。
これが全文で「玉音放送」として天皇陛下(昭和天皇)の肉声がラジオで流れました。よく聞く部分は最後のほうですね。なぜマスコミはあの「耐えがたきを耐え・・・」の部分だけ取り上げるのでしょうか。全文を読まないと真意がわかるとは到底思えませんが。
この詔書は漢語が混じっているうえ、当時の教育水準と、放送の音質、さらにレコードの録音盤であったこなどから考えると、当時の全国民が十分理解したとは思えないですが、軍上層部や政府、官僚、知識人には陛下の平和を希求するお気持ちが十分伝わる内容であったのではないかと思います。
詔書の起草は思想家の安岡正篤によるものとされるので正確にお心をあらわしたものでは無いかも知れませんし、閣議で文言が少し変更されたています。そののち昭和天皇ご自身によって読み上げられレコード盤に録音されました。
草案の段階でも経緯は色々ありますが、詔書を昭和天皇が読み上げられた時点で「詔勅(しょうちょく)」となり、陛下自身のお言葉でありこれは絶対的なものです。
あの時点でもし昭和天皇がこの詔書に異を唱えるような事があれば、さらに終戦は遅れ3発目の原爆を投下されていたかもしれず、その点を勘案して昭和天皇ご自身はそのままお読みになられたのだと解釈しています。
昭和天皇は開戦に反対していたことは有名ですが、終戦において全責任を背負う覚悟でこの言葉を発せられました。まず最初の一文で「私がポツダム宣言受諾するよう政府に命令した」と読めますからね。
また最後まで我が国と国民の未来を案じておられた事が良く分かると思います。特に内乱は心配されておられたようです。
こうして多くの血を流して得た平和ですが、近年ロシアや中国などの専制国家によって乱されています。どのようにすれば良いのかしっかり考え続けていきたいと思います。
時折アップするだけの貧弱なブログ「海洋立国論」ですが、誰かが少しでも我が国について考えるひとときにして貰えれば幸いです。