海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

病院船は不要なのか(過去記事再掲)

コロナウイルス騒ぎで「病院船」が少し話題になりつつありますが。

当ブログでは既に2017/08/16「病院船は不要なのか」と2018/6/17に「病院船マーシー寄港しましたね」で考察をアップしていますので、再掲しておきます。(文字色やサイズ等の改変はしています)

 

「病院船は不要なのか」(201708/16)

「病院船」という船をご存知でしょうか。主に海軍によって運用される文字通り「病院機能を持った船」です。写真のように国際的な戦争時の決まりである、ジュネーブ条約によって以下の要件(抜粋)が定められた船のことを言います。
 あらましは・・・
1.船体は白色 2.赤十字の表示 3.非武装 4.軍事活動の禁止 5.係争国への通知
 となっており病院船への攻撃は「戦争犯罪」となり禁止されています。
 アメリカ海軍はタンカーを改修した大型の病院船を2隻保有し西海岸と東海岸に配備しており、米軍の軍事作戦への従事は勿論、ハイチ地震人道支援団体への医療支援活動などを実施し、米国民のみならず捕虜に対しても治療活動を実施して成果をあげています。
 中国もアメリカほど大型ではないにしろ、高性能な病院船を運用しており、大規模災害発生時は勿論、平時でも島嶼部や医療の不備な地域への派遣など中国の存在感をアピールするためにも運用されています。中国海軍の海外での評価は実は高いのです。
 
さて病院船に必要な機能とはなんでしょうか。
1)災害時に派遣する場合、着岸(波止場へ横づけ)できない場合もあるため、傷病者の搬送に必要なヘリデッキを持つこと。
2)高度な医療機器の装備、入院設備を相応の数が装備されていること。
3)潤沢に淡水を供給できる能力があること
4)荒天時でも動揺を抑えられること
5)長期間の従事になるため居住性がよいこと
 などがあげられます。この為、高機能で大型の船になり建造費、維持費とも高額になります。
 
日本でも阪神大震災の時に検討が始められましたが、その時は大型輸送艦おおすみ型」の就役など、ある程度に必要な機能を持つことができる艦船の就役、そして自衛隊法改正により「邦人輸送」が可能になった事などから、輸送、宿泊、医療の機能はこれらで対応可能と判断されました。
 その後東日本大震災が発生し平成24年4月「病院船(災害時多目的)の建造推進、超党派議員連盟」が発足し、5月に政府に要望書を提出しました。
それに基づき、調査費が予算計上され「災害時多目的船(病院船)に関する調査検討報告書」が内閣府・防災担当から提出されました。類型を3型に分類し検討されています。
 ざっくりと整理してみます。
 1.総合型病院船・・・急性期~慢性期の医療を総合的に受け持つ。入院機能あり。72時間以内に被災地へ到着し患者はヘリコプター搬送を行う。災害拠点病院の機能を持つ。
 2.急性期病院船・・・72時間以内に被災地へ到着し患者はヘリコプター搬送を行う。急性期の応急処置を行い、その後に拠点病院へ搬送する。
 3.慢性期病院船・・・被災地内の病院も被災しているので慢性疾患患者の対応のための機能を持つ。1週間を目途として到着し近辺に着岸し活動する。
 
報告書ではそれぞれについて「医療装備」「船舶装備」「要員数」「費用」について検討し各種諸元を設定しています。隻数は2隻としておりそれらから生じる「問題点・課題・法律上の制約」を整理しています。また代替案についても検討されています。
 詳細は省きますが、結論としては「建造~運用コストがかさむこと、転用がしにくいこと、オペレーション上の問題が山積していること、人員確保の点でも容易でないこと」
また海外派遣には「海賊船対処」などの問題もあるとして新規導入よりも既存の艦船(民間船・自衛艦など)に医療モジュールを搭載するなどで対応することがいいのではないか。と纏めています。
 
個人的には「病院船」は海外派遣時に派遣先の国に着岸して医療行為をするということは、世界への貢献のみならず、相手国への相当なアピールに繋がり日本の地位を高める一助になると思うのですが。報告書ではそのあたりにはあまり触れておらず、もっぱら内向きな事情が語られています。「島国根性まるだし官僚の報告書」で世界を見ていないと断罪したいくらいです。
 お金の問題だけに絞って考えると、建造費は最大で350億円、年間維持費は最大20億円(一隻あたり)と見積もっていますが、平成28年度の「政党交付金」の総額がおよそ310億円ですので、建造費は決して高くないと思います。
 政党交付金は毎年ですが建造費は1回限り。それで国際貢献ができるのです。安い買い物ではないでしょうか・・・
 
※「病院船マーシー寄港しましたね」(2018/6/17)でも同様の記事を掲載していす。