海洋立国論

安全保障・軍事について自分自身の勉強のつもりで書いています。

南シナ海は波高しなのか

中国の国力増大に伴い、海洋進出が目覚ましくなっていますが、最も注目されているのは「南シナ海」でしょう。南シナ海のせめぎ合いについて整理しておこうと思います。

 

2013年12月、中国はスプラトリー諸島(中国名:南沙諸島)の埋め立てを開始しました。(占領そのものは1988年より)2015年末までに13万平方キロメートルを埋め立て、「ビッグスリー」と呼ばれる3つの岩礁(スービ・ファイアリークロス・ミズチーフ)には3,000m級滑走路を整備。

その後インフラ整備が進み、対空ミサイル(紅旗9型か)対艦ミサイルを配備、通信設備、兵舎、格納庫、軍港などを建設。最近は駐留兵士の家族の為なのか小さな街が建設され、滑走路にはY-8輸送機(軍用機)の離発着がおこなわれるなど、急速な軍事拠点化がすすんでいます。

各国海軍が周辺海域へ展開したり、アメリカ海軍が当該島嶼の近海を航行し圧力をかけているにも関わらず、中国の姿勢は変化しておらず「中国軍の軍事プレゼンス」は高まっていると言えます。

 

 しかし、この地域は「係争地」であり以前から周辺国が領有権を争っている地域です。

南シナ海を取り囲む国は、中国・台湾・ベトナム・フィリピン・マレーシア・ブルネイシンガポールですが、そのうちのフィリピン、台湾、マレーシア、ベトナム岩礁を埋め立てて1980年代までに軍用機が発着可能な滑走路を既に持っており、軍事要塞化しています。中国が最後発で滑走路を建設しました。

このように中国以外の国々も滑走路の建設、港などのインフラ整備は以前より行い、それなりの実効支配をしていますが、中国の開発は急速で大規模なことと、周辺国に比べて圧倒的な軍事力を持っている事、領域支配の主張が不明確な歴史的根拠に基づく事であり、中国政府の説明「民間船・航空機の避難などの民生利用、また最低限の自衛的処置である」との主張を周辺国やアメリカ・日本が信用できないことにあります。

 

中国も国内政治的には政権安定の為に「人民解放軍」を味方につける必要がありますが、その人民解放軍の考え方は、2011年に馬暁天総参謀長の論文にある「戦略的チャンス期で積極的に大いに振舞うことで発展できる」との考えです。

また、世界2位の大国として超大国アメリカへの挑戦国の位置にたったことは、国民に自信を植え付けました。

一方で2010年の共産党国務委員の論文では「先頭に立たず覇を唱えず求めないことが戦略的選択であり、平和発展こそが国是である」としています。この論文は中国国内メディアが報じたのにも関わらず、人民解放軍機関紙は報じませんでした。微妙な距離感があるのでしょうか。

ただでさえデモ・暴動で苦しめられている国内世論を纏める為には「大国らしく振る舞う」事が必要であり、それが周辺国には強圧的な態度となっているのでしょう。

 

中越戦争を戦ったベトナム、完全な支配を目指す台湾、フィリピン、シンガポールなどの中小国に対して遠慮はできない意思表示表れなのかもしれませんが、アメリカが航行の自由(FONOP)作戦の実施を強化した事への対抗処置もあるでしょう。

 

中国・フィリピン間での南シナ海仲裁手続きは、中国側の全面的「負け」という結果に終わりましたが、中国は「公平でない」ことを理由に裁定を拒否しています。

しかし、これは中国にとって国際的にはネガティブな結果であり、対抗処置としてこれを覆すだけの事実を積み上げるしかありません。もし、関係国と政治的破たん状態になった時には、他国はこの裁定を名目として中国を国際的に非難できるうえ、連携して中国を取り囲むことに利用もできるからです。

 

一方では軍同士の偶発的な衝突を避けるための枠組みやルール作りも進められており、米中間では「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」に基づいた各種ルールの合意や、相互通報制度の設置など各種の危機管理をおこない、コントロールする努力も続けられています。リスクコントロールの取り組みの一端です。

また、国際ルールを学んできているのか、近頃の中国海軍はやや紳士的な振る舞いがみられることもままあるようです。

日米豪仏英などの海軍艦艇が南シナ海を通航する時や、アメリカ海軍のFONOP実施の際にも抑制の利いた警告、視認可能で衝突回避可能な10kmの距離を保ったままの追尾などの事例もあります。

一方隔年で開催している国際的な演習であるリムパック演習では過去2回参加していますが、国際ルールを無視したような振る舞いが問題視され今回の演習には招待されませんでした。アメリカの対中姿勢がトランプ政権後に強硬になってきていることも関係あるのではないでしょうか。

 とはいえ、周辺国に脅威を与えている事は間違いなく、中国は今後も経済的利益を得るためにはアメリカへの挑戦を続けることになるのではないでしょうか。

ボーダーラインはスプラトリー諸島の飛行場への戦闘機の配備とみています。対艦ミサイルや対空ミサイル配備の良い訳はできても、明らかに攻撃兵器である戦闘機の配備は緊張を一気に違うレベルへ引き上げる恐れがあります。

しかし総じて南シナ海においては「高いレベルの緊張状態」ではあるものの、係争国や日本、アメリカまども交えた事態をコントロールする努力も続けられていますので、我々はあまり感情的にならず相手の手法や事情を理解しつつ、この問題の各国の対処方法や立場を東シナ海尖閣諸島)で利用するぐらいのずる賢さや視野が欲しいものです。