茹でガエルニッポン。
中国の軍事力については多くの報告や分析がありますが、まずはデータをおおざっぱにいくつか纏めたいと思います。
防衛省「防衛白書」、米国防省「中国の軍事力2020」、CSIS戦略国際問題研究所(米・シンクタンク)CSBA戦略予算評価センター(米・シンクタンク)SIPRIストックフォルム国際平和研究所(スウェーデン・シンクタンク)など多くが研究、報告していますが、それらをひっくるめて概要だけでも掴めたらと思います。(細かな点で注意は必要です。)
【国防予算】
中国の20兆3,000億円に対し日本は5兆7,000億円とすでに大差。中国経済を反映し軍事費の伸びは鈍化していますが、この10年間でおよそ2.4倍になっています。
日本はGDP比1%の大枠がありますので、GDPが延びない近年は実質の伸びは小さなものです。そのうえ日本は福利厚生費や給与などの人件費もコミコミなのに対し、中国の軍事予算にはそれらが含まれておらず、ほとんどが武器装備、演習などの予算と考えられていますので、その実態の差は大きいでしょう。
まして各国から機密情報を盗んでるようですので、開発コストと期間を抑えられます。ちなみにアジア地域の軍事費のだいたい半分は中国ですので軍事大国の道を歩んでいるのは中国です。安保法制ぐらいで騒ぐ日本人はお目出度いと言わざるを得ません。
【ミサイル】
冷戦終結に一定の役割を果たし、核戦争の可能性を低下させたINF(中射程及び短射程ミサイルの全廃に関する米ソの条約)でミサイルの規制があった米ソ(ロシア)とは異なり、中国は自由に開発できたため、多数の中距離ミサイルを保有しています。
このミサイルバランスの偏りがアメリカがINF破棄に至った一因で、先ごろ、防衛省「防衛白書」、米国防省「中国の軍事力2020」でも報告されています。
注意していただきたいのは、以下の数は『発射器の数』であってミサイルの数ではありません。
再装填し攻撃する事を考えると、発射器<ミサイルですし、ICBMなどは一発のミサイルを多弾頭化していますので、ミサイルの種類によってはミサイル数の10倍の弾頭数がある可能性があります。
発射器も移動式でいつどこから発射されるのか分かりにくいうえ、即応できる固体燃料式が主力です。
ICBMは全て核、それ以外は核・非核両用が多いことも注意です。
ICBM(大陸間弾道ミサイル・射程5,500km以上)100基
IRBM(中距離弾道ミサイル・射程3,000~5,500km)200基以上
MRBM(準中距離弾道ミサイル・射程1,000~3,000km)150基以上
SRBM(短距離弾道ミサイル・射程300~1,000km)600基以上
GLCM(地上発射型巡航ミサイル・射程1,500km以下)300基以上
【海軍力】
近年強大な戦力となってきています。もはや数では米海軍を追い越しているかもしれません。
ただし近代化されていない旧式艦もありますので、実践経験豊富な米海軍と単純な比較はできませんが、その米海軍でさえ米国防省では「規模は米海軍を追い越した」と認識しているようです。ましてや海上自衛隊は差を付けられる一方です。
ある報告では2030年の中国海軍の規模は以下になるだろうと推定しています。
巡洋艦・駆逐艦60隻 フリゲート艦50隻 強襲揚陸艦10隻 空母4隻 通常型潜水艦60隻 攻撃型原子力潜水艦16隻 弾道ミサイル原子力潜水艦8隻
その他で750隻・排水量200万トン程度と推定しています。
一方海上自衛隊は、護衛艦48隻(ヘリ空母4隻)通常型潜水艦20隻 などが主力で補助艦艇も含め138隻・50万トン。※2020年度防衛白書資料6より
艦艇に搭載される垂直ミサイル発射器(VLS)の数でも中国は海自の倍近くまで差を広げようとしています。
勿論、自衛隊は米軍の弱点を補う相互補完関係の戦力として整備されてきた経緯もありますので、全面戦争時には米軍が加わる事には一応なりますが、その自衛隊が弱いとなれば米軍の作戦にも支障がでる恐れがあるでしょう。
それは日米とも避けなければなりませんし、自衛隊を強化することは、米軍に日本周辺での有事に関与させやすくなります。
台湾有事などで中国が第一列島線を突破しようとした場合には、海自が米軍と共に戦うことになるかもしれませんし、その時中国軍は尖閣まで進出します。その際に一義的には自国防衛ですから自衛隊が戦うことになります。
単純に双方が全戦力を一気にぶつけ合う訳ではありませんし、運用能力など多くの要素も絡んできますので、単純に論じられませんが、比較優位の能力を持った時に共産党がその気になれば抑止が効かず、戦闘行為が始まります。日米安保によって安易にそうできないのが現状ですが、台湾を統一することは共産党政権の「核心的利益」の筆頭です。
【各国の動き】
隣国がそんな状況であり、経済力と軍事力を背景にますます権威主義的態度を強め、力による現状変更を推し進め、WHOのように国際組織を取りこんでルールメーカーになろうとしているときに、欧州や米豪は明確にNOを突きつけています。
台湾の蔡英文総統は9日に出席したフォーラムで「中国が周辺地域で示している拡張主義に対し、民主主義諸国は立ち向かおう」と言い、ドイツは中国依存から転換し日本など共通の価値観の国々と連携すると言い、チェコの上院議員が「私は台湾人」と発言し、EUを同調させるなど動きが早い。
【日本の動き】
安倍総理は「自由で開かれたインド太平洋」構想で、アメリカとインドをこの地域に巻き込み、日米安保を強化しましたが、これによって中国の東西からアメリカとインドの関与を強め、日本に対する中国リスクを分散させることに成功し、安保法制の拡充で価値観を同じくする英・豪・印などとも連携が深まりました。
河野防衛大臣は先ごろCSISで「国土の1センチであれ守る用意がある。日米共同で尖閣防衛のため武力行使も辞さない。何もしなければ南シナ海のようになる」と言いました。多分に総選挙、次の総裁選を意識したのかもしれませんが、国家の意思表示は重要です。
尖閣沖中国船衝突事件 で、大局から国益を考えず、APEC議長としての見栄の為に中国人船長を釈放した菅直人元総理とは大違いです。中国の国内事情もありますが、あれ以来尖閣への圧力を強めたんですから。
【茹でガエル】
しかし核ミサイルが東京に落ちるより、迎撃ミサイル部品の落下を心配した一部世論や、一地方が反対したためイージスアショア配備取り止めとなる不手際、「攻撃」は言葉が悪いので「反撃」にしようとか言葉遊びし、それも対北朝鮮なのか対中国なのかもあやふやなまま議論を進めています。
尖閣沖中国船衝突事件を経験したにも関わらず、領海警備の為の法整備もほったらかしにしている国会議員もどうかしています。
政府の説明も不足しているとは思いますが、野党もスキャンダル追及ばかりで肝心な議論はしていない。
それもあって多くの国民が状況を正確に把握しておらず、またメディアが正しく伝えないため、危機意識が低い。専門家でもない人や芸能人がテレビで感傷的に喋り世論に影響を与える。そのうちに危機はレベルを上げていく。こういうのを「茹でカエル」と言うのでしょう。高校ぐらいで安保や軍事学を必修科目にしたいくらいです。
CSISのレポートに「中国はメディアを通じた影響力行使を沖縄で図っている」(シャープパワーの行使)と報告され、「日本の非対応」を指摘しています。
沖縄の地理的重要性は今更言うまでもないでしょう。
数的には圧倒されている日本がとれる手段はなにか、相手の優位を如何に減ずるか、有事の際のエスカレーションを如何に制御するか、どのような戦略で抑え込むか、日米同盟の信ぴょう性をどこまで高めるか。国も国民ももっと危機感を持たないと、本当に亡国になります。
自衛隊は練度が高いとか、質が良いとかいう勇ましい人、大丈夫ですか?
戦いは数がモノを言いますし、頼みの質でも日本はスペースジェットすら未だ飛ばないのに、中国は曲がりなりにも第5世代戦闘機飛ばしてます。
安全保障とは自己・相手を知ったうえでのリスクマネジメントによる抑止と被害軽減のためのダメージコントロールだと思います。
あ、マネジメントって日本の一番苦手分野( *´艸`)
photo by U.S. Pacific Fleet
台湾侵攻
2019.12.11に「中国は覇権国家を目指す」と題してざっくり書いたのですが、それから8か月。終戦記念日を迎えるにあたり、また李登輝氏の死去もありましたので、中国について改めて書いておこうと思います。
【止まらぬ中国】
香港の国家安全法、台湾への恫喝、ブータン東部の領有権を勝手に主張し、インド・カシミール地方でのインド軍との衝突とその後に領土を拡張し兵舎を一方的に建設、尖閣近辺での嫌がらせ、WHOなどの国際機関での情報隠ぺい、宗教弾圧やウイグル族の弾圧、長期融資による債務のワナ・・・
「中国は覇権国家を目指す」の項でも書いたのですが、習金平主席の目標は「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現」 で、その第一には国家の統一があげられ、それは台湾と香港の完全なる統一が最初の目標です。
香港は返還後50年を待たずにイギリスとの約束を反故にし「国家安全法」を制定し香港の自由を奪い共産党の指導下におきました。世界の反発はありますが、だからと言ってどの国も正当性のない武力行使はできません。共産党にとっては次は台湾だと自信を深めたように思います。
待たなかったのは、習金平主席の存命中に目標達成をしたかったのでしょうか。
【台湾統一までの道のり】
台湾を統一するには「武力」による併合しか選択肢はありません。しかしアメリカが目障り。
その為にデジタルABCD+G(Ai・Blockchain・Cloud・DataCenter・5G)での市場獲得を推進して経済力と技術力をつけてきました。この経済力と技術力を活かして軍事力を着実に成長させ、台湾侵攻に際して欧州・米国の関与を拒否できると判断する時が近いのかもしれません。
台湾統一と自国産業の維持のため、南シナ海の軍事基地化をすすめ、東シナ海では日本の尖閣諸島に対する嫌がらせをしつつ、鹿児島~沖縄~石垣のラインへの進出準備を進めてきました。
【侵攻を想定】
さて、台湾を武力統一する場合を想定してみます。
まず、大事なのは時間です。一気に占領し民主政権の転覆と臨時議会の設置などの体制変更を迅速に行わなければなりません。時間がかかると自由主義国家の関与を招きます。
一旦併合してしまえば、ロシアのおこなったクリミア半島併合と同様、他国が中台間の取り合いに武力で関与はしにくくなります。中国は台湾軍を一気に制圧できる航空戦力・ミサイル戦力は十分。上陸能力は力を蓄えつつあります。
侵攻は西側(大陸側)から始まります。侵攻後に順調に作戦を進めるには海上及び航空優勢を確保しなければなりません。しかし台湾の東側は高い山が連なっているため、侵攻軍は地上からレーダーによる監視や攻撃ができないので、東側から台湾の支援に向かう在日米軍・海兵隊などの警戒監視や防御の為には、東シナ海・第一列島線あたりに進出した海軍がおこないます。
中国海軍は訓練用として空母「遼寧」を運用し空母運用のノウハウを蓄えたのち、中型の空母「山東」を就役させ3隻目の003型は建造中。その後も計画は目白押し。そのモデルは「米海軍」であり、駆逐艦・潜水艦・補給艦もセットとして遠洋作戦能力を高めた艦隊運用によって、他国海軍の接近拒否をおこないます。
【INFの失敗】
INF(中距離核戦力全廃条約)に縛られる事が無かった中国は、核・非核を含めてASBM(対艦弾道ミサイル)DF-21D「通称:空母キラー」や東風26「通称:グアムキラー」などの準中距離~中距離弾道ミサイルを多数保有しています。それらが狙うのは「米軍基地」「自衛隊基地」「空母打撃群」などです。
日米に限らず自由主義国家では、国民である兵士の犠牲が甚大な場合は政権批判がおこり戦意を沮喪させられるかもしれません。ミサイル1発で高価な艦隊とともに乗り組み員数千人の人的被害は割りにあわず、勝ったとしても米国はそれほど大きな利益があるわけでもない台湾から手を引くかもしれません。武力による恫喝が効果を発揮します。
反面、民間への被害が甚大である都市部、戦時国際法違反である原発やダムなどのインフラへの攻撃は行わないとみられます。民間への被害が出た場合は、反米国家でさえ中国を非難せざるを得ず、民間資本の中国外への流出もあり得ます。そうなると中国には大打撃でしょう。事実、天安門後に中国は苦しみました。戦時国際法違反ならば共産党の主張する「法による統治(ご都合主義ですが)」の正当性が失われます。
【海峡封鎖】
米海軍の西側からの侵入に対してはバシー海峡などの封鎖を実施。横須賀やグアムから台湾西側に回りこむのを妨害します。これは主に潜水艦によっておこなわれます。
日本の生命線であるバシー海峡、マラッカ海峡などを封鎖されると、生活コストが上昇し国民には厭戦気分と政権批判が高まり対中融和派が台頭するでしょう。
【尖閣対応】
日米安保の対象と米軍が明言してる以上、中国が尖閣諸島には手を出すとは思えませんが、嫌がらせに耐えきれず日本が法的根拠もないまま中国公船を拿捕や攻撃すれば、第一列島線に中国海軍を進出させる口実を与えることになります。
ここは慎重に対応しなければなりませんが、国家の意思表示はする必要があるでしょう。日米豪英などで共同訓練などはアリではないかと思います。4か国共F-35戦闘機を運用しています。
英国は最新鋭空母クイーンエリザベスを中心とした空母打撃群をインド太平洋に常駐させるオプションを策定しており、常駐するとなれば艦隊や艦載機丸ごと受け入れ可能なのは日本です。米空母艦隊も常駐していますし、帝国海軍を支えたインフラと高い技術力を持っています。日本も「いずも」をF-35運用可能に改修します。その事前訓練にもなるでしょう。
【反中連合】
中国に対する締め付けも厳しくなっています。ファーウェイやTikTok等に対する制裁やヒューストンの中国領事館閉鎖命令、前述のクイーンエリザベスの展開、イージスアショアのグアム配備、INF離脱による中距離弾道弾開発、台湾への武器売却(F-16戦闘機、M1A2戦車、Mk48魚雷)や交渉中のMQ-9無人機、環太平洋合同演習(リムパック)への台湾の招待、米軍の無人空中給油機開発による作戦行動半径の長距離化とミサイルの長射程化、豪州も軍事費を大幅に増額しますし、オーストラリアの上院議員がアデレードの中国領事館閉鎖を要求するなど、次々と進んでいきます。
【誇りある国に】
日本もだんまりを決め込む訳にはいかないのです。経済は中国頼りで安保はアメリカ頼りなんて身勝手で国家の意思の見えない、国益を堂々と主張しないそんな軟弱な国であってはならないのです。
遠くマリアナやソロモン海、フィリピン、シンガポール、満州、アリューシャン、インドまで進出し、戦後の世界地図に影響を与えた日本は、現在の世界秩序においては責任を果たす強靭な国民と国家であるべきと終戦記念日に思います。
コロナと周辺安全保障
新型コロナウイルスの影響で、世界中で経済が縮小し自粛と都市閉鎖まであってこの先の不安感は半端ないですね。そんななかでも、我が国の周辺の安全保障環境は厳しさを増しています。弱り目に祟り目、泣き面に蜂ですし、水に落ちた犬は叩け(毛沢東)とも言いますしね。
概要だけですが、頭の片隅にでも入れておいていただければと思いますので、少し整理します。
▲令和2年 尖閣諸島付近での中国公船による事案
1月 接続水域入域27日98隻 領海侵入2日8隻(19日70隻3日12隻)
2月 接続水域入域26日90隻 領海侵入2日8隻(16日54隻3日12隻)
3月 接続水域入域25日89隻 領海侵入1日4隻(16日60隻3日12隻)
全て前年を上回っています。中国武漢発祥とされるコロナウイルスが猛威を振るっていてもです。
※( )内は前年同月の数字。隻数はのべ数
▲北朝鮮ミサイル事案
3/2 2発 3/9 2発 3/21 2発 3/29 2発 3月合計8発
全て短距離ミサイル(北朝鮮側の呼称は超大型放射砲など)ですが、移動式発射器からの発射で発射場所が異なっています。3/21は日本のEEZ(排他的経済水域)外の日本海の島に着弾、ロシアのイスカンデル短距離弾道ミサイル同様の飛行後半での飛行経路の変更が可能とされます。これらは最高到達高度が低いディプレスト軌道で飛行するため、日米が運用するBMDシステムの主役、SM-3の迎撃最低高度以下なので対応できない場合があります。ただし現状では射程が短く日本の大部分には届かないため、このミサイルは対韓国用とみるべきですし、毎週発射のペースは国内引き締めを狙っての事かも知れません。
▲スクランブル事案
スクランブルとは国籍不明機が領空侵犯のおそれがある時に戦闘機を緊急発進させ対応するものです。令和元年4月~12月の期間の累計が公表されていますが、対中国は523回 対ロシア216回 と非常に多いのです。情報収集機や爆撃機の飛行、日本周辺の周回飛行などがおこっています。飛行時間で管理される航空機には負担が大きい任務です。
▲護衛艦しまかぜ事故
そして昨夜飛び込んできたニュースですが、3/30 20:28 東シナ海を航行中の護衛艦「しまかぜ」が中国漁船と衝突しました。被害は比較的軽微(20cmの破孔)ですが、気になるのは左舷後部を損傷したとする点。断定することはできませんが、これは漁船がぶつかってきたと考えるのが妥当かも。修理の間任務には就けません。
漁船がぶつかって穴が開くなんてと思う方もいらっしゃるでしょうが、近年の戦闘艦艇は機動性を与えるために軽量化しています。またコストを抑えるため装甲はペラペラ。近距離で大砲打ち合う戦闘なんて想定していませんし、現代兵器は少々装甲したところで無駄ですので。
この事故で思いだすのは2000年10月に米イージス駆逐艦コールが民間小型船に偽装したアルカイダの自爆攻撃を受けて大きく損傷、17名死亡、復帰に3年を要した事件です。
イージスシステムがあっても民間小型船の接近はアメリカでさえ許してしまい、被害を与えることが可能であることを証明されてしまいました。
今回の「しまかぜ」も中国海軍・民兵組織によるそのテストと考えれば恐ろしくなります。突然、偽装した民間船が突っ込んできても自衛隊は一方的に沈める事ができません。
▲米海軍
米空母「セオドアルーズベルト」にもコロナの感染者が出ましたが、フィリピン海での任務を中断しグアムに帰港するかもしれません。帰港しても乗員は簡単に上陸できず休養もできません。また想定しにくいですが戦略原潜に感染者がでた場合は、核報復能力の均衡が崩れます。米軍はわざわざ「積極的な対応により、空母セオドア・ルーズベルトは地域のあらゆる危機に対応できると確信している 」とコメントしていますが、即応能力低下への危機感の現れでしょう。3月27日には横須賀の空母「ロナルドレーガン」乗員の感染が判明し基地は一時封鎖されました。軍人や軍関係者の海外出張や会議なども制限されますので、演習や連携などに支障がでるかもしれません。
コロナ騒動が落ち着いても西側諸国は経済回復に全力を上げねばなりませんので、中国・イラン・ロシア・北朝鮮に対する抑止力の低下は免れないでしょう。非常時には民主国家より専制国家のほうに有利に思えます。
世界中がコロナの対応に追われている間に、発端となった中国はどのような振る舞いに出るのか気になります。
(写真は海上自衛隊フォトギャラリーより)
病院船は不要なのか(過去記事再掲)
コロナウイルス騒ぎで「病院船」が少し話題になりつつありますが。
当ブログでは既に2017/08/16「病院船は不要なのか」と2018/6/17に「病院船マーシー寄港しましたね」で考察をアップしていますので、再掲しておきます。(文字色やサイズ等の改変はしています)
「病院船は不要なのか」(201708/16)
反射衛星砲?
宇宙戦艦ヤマトというアニメは有名だと思いますが、ヤマトが太陽系脱出の最後の難関が敵役・ガミラスの前線基地である冥王星基地。地球とって脅威である冥王星基地を無視せずヤマトは攻撃を行います。
その際に登場するのが「反射衛星砲」という、オトコゴコロくすぐられる兵器。
レーザーは光速で直進するため、発射されると標的はリアクションタイムが極めて小さく対応が難しい反面、水平線外は狙えないのが欠点ですが、その欠点を克服したのが「反射衛星砲」。
発射した大出力レーザーを「反射板」を備えた衛星で反射させ、極端に言うと星の反対側の標的でも破壊可能とした兵器。ヤマトは苦戦を強いられます。
ある意味、単純に破壊力が大きい「波動砲」よりもワクワクしたものです。
「反射衛星砲」は固定砲台ゆえに大口径・大出力も可能であり、衛星を多数運用することで、複数の射角からの攻撃が可能となります。
元祖宇宙戦艦ヤマトでは基地に潜入した乗り組み員によって破壊され、宇宙戦艦ヤマト2199では、索敵機によって遮蔽シールド内の砲台が発見されヤマトの砲撃(時限信管の曲射榴弾を使用/放物線を描く弾道で着弾後時間を経てから爆発)によって破壊されました。
アメリカはレーガン政権の時に似たようなコンセプト(SDI構想)を描きましたが、当時の技術レベルでは実現不可能とされ、冷戦終結とともに計画は消えました。
これがとうとう・・・実現するかも!
(たまたまネットで見つけた情報が面白かったので、書いているんですが裏取りはあまりしてませんよ)
特許庁が12/26に公開した公開情報によると、
【発明の名称】迎撃システムと観測装置
【出願人】(株)IHIエアロスペース
図のようなほぼそのまんま「反射衛星砲」が。
IHIエアロスペースは「イプシロンロケット」などで有名な会社です。
【概要】
観測衛星が捉えた情報に基づき、複数の低密度のレーザーを発射し、軌道上の反射衛星のミラーによって反射させ、ブースト段階(発射直後の上昇段階)にあるミサイルを破壊するというもの。
過去の課題は、レーザーの大出力化による諸問題があったのですが、これを低密度レーザーを複数運用することで解決しようとするものです。
まだまだ超え無ければならない課題は多いでしょうが、実現できるとなるとメリットが多いシステムです。
先ごろロシアが発表した「アバンガルド」のような、極超音速で飛行しターミナル段階(命中する前の段階)での軌道変更が可能なミサイルであってもブースト段階ならば関係ありません。
従来のMD(ミサイル防衛)システムの突破は、ロシア・中国が実現しつつありますので、憲法によって縛られて先制攻撃ができない我が国にとっては脅威となります。また、北朝鮮が「露中」の技術を手に入れたらこれも脅威です。
韓国は軍事費は既に日本を追い越していますしその伸び率も高い。近年の装備体系をみてみると「そこそこ仮想敵国・日本」なので、北朝鮮と統一した時を考えると決して安心ではありません。
SM-3やPAC-3など多様な迎撃手段のバリエーションが増える事は、安全度が増すことになりますし、MD(ミサイル防衛)を突破しようとする相手に対して、よりコスト負担を強いることで、攻撃を躊躇させる効果も見込めます。
まぁ、専守防衛にぴったりな「イージスアショア」でさえ、批判する人が沸いてくるので、こんなの開発したら騒ぐでしょうけどね。
まぁ色々問題ありなのですが、年末の面白ネタでした。
中国は覇権国家を目指す
▼習金平の指導力
「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現」・・・これは習金平総書記が就任した時に目標として掲げた言葉です。
絶対的権力者である彼の言葉はそのまま中国の国家運営方針となり、そのなかで「核心的利益」を5つ掲げてその点に関しては譲らない事を方針として着々と進めています。それらの意味を解釈すると以下のようになると思います。
1)国家の統一
台湾と香港の完全なる統一と新疆ウイグル自治区、チベット自治区を維持する。また思想や宗教を制限し完全なる統一を目指す。
2)国家の安全
列島線を設定し対アメリカに対し「A2/AD(接近阻止・領域拒否)」をおこない、軍事的な介入を阻止する。
3)領土の保全
南シナ海、対ロシア、対インド、東シナ海での領土を保持、または拡張する。
4)中国の憲法による社会の安定
共産党一党独裁政権の維持。共産党支配による中央集権体制による統治。
5)国家の主権
これらの国家主権に係る諸問題に対して、他国の干渉を受けず介入は認めない。干渉、介入には厳しく対処する。
こういいつつも、中国にとって好ましい態度を取るなら「協調的関係を築き平和発展の道を歩む」としています。
つまりアジアの盟主となろうと考えているのでしょう。 目的は明確です。
▼経済と軍事は政治にリンクする
実際、中国は急拡大する経済力を背景に、「一帯一路(シルクロード経済ベルト)+(21世紀海上シルクロード)」を提唱し、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立・発足させ、投資を進めています。「一帯一路は」アフリカ・ラテンアメリカ・北極圏まで拡大させています。
習金平はアメリカを始め先進諸国による「先進国有利ルール」を不公平と批判、中国をリーダーとするアジア中心の安全保障ネットワークを構築し、中国にとり好ましい安全保障環境をつくろうとしています。
そのため、軍事予算を大規模に増額し軍編成の再編と空母機動艦隊の創設を始めとした海軍力の強化をおこなっています。
元来は陸軍国であった中国ですが、広大な海洋を支配しなければ自国の影響力は限定的ですし、物資を締め上げられればお手上げです。
そのため、アメリカに対抗するため、本心では信用を全くしていないロシアとの関係改善を図り、国境紛争を決着させたうえ、ロシア主導の「ユーラシア経済連合(EAEU)」と一帯一路をリンクさせ「大ユーラシアパートナーシップ」を構想、資金面でもロシアとの繋がりを深めようとしています。
中国の恐ろしいところは、このように「目的の為には敵とも手を結ぶ」ことができる点です。
▼自信を深める人民解放軍
成長する経済による軍事力の強化は中国軍に自信を与えました。
南シナ海での横暴なふるまいをし、海域に九段線と呼ぶラインを一方的に設定し周辺国を軍事力で威圧、フィリピンの提訴によって常設仲裁裁判所の裁定で「敗訴」すると、「紙くず」として無視、さらには同海域での米軍機(P-8)や艦船(カウペンス)に対する挑発行動。
東シナ海では尖閣諸島を巡っての常態的な接続水域や領海への侵入と火器管制レーダー照射や防空識別圏(ADIZ)侵入による自衛隊機の緊急発進の増加(30年度で約1000回のうち65%ほどが中国機)
香港や台湾、ウイグルやチベットの問題に対して、これを批判するものは【国家の主権】を犯すもの、内政干渉として非難しています。
経済的に中国依存が強いASEANは、アメリカのASEAN政策への不信感もあってこれらの行動を全面的に非難はせず言わばある程度黙認してきました。
一方で、成長する経済力を背景に台湾の外交関係を妨害、他国へ華人が流入することによる世論への影響力の増大、中国の意に沿わない時には旅行者の制限や輸出制限なども堂々とおこなっています。(シャープパワーの行使・2018/09/20)日本でもレアメタル問題がありましたし、韓国では旅行の制限などもしました。
これらの行動の原動力は「経済力」ですが、それを「中国は夢の巨大市場」としてもてはやし育ててきたのは、他でもない「日米欧」の先進国です。
中国はその受益者であったのですが、その受益者が今は脅威となりつつあります。
経済力と軍事力を背景にして中国に有利な国際環境を作り上げようとしているのは明白です。
日本も北海道の原野を大規模に買収(10,000ヘクタールを超えるとも)し、一帯一路のルートとして北海道に触手を延ばしています。「即位正殿の儀」に出席した王副主席が出席後に北海道を訪問したことでもその意味がわかると思います。
南西諸島も丸ごと買い取りたいとの情報もありますし、基地問題を契機として沖縄への関与をますます強めています。沖縄は南西方面防衛の要ですし、本国以外の米軍最大の根拠地ですので安全保障上の脅威となります。
▼対抗する太平洋諸国
【米・豪・ASEAN】
アメリカは「貿易戦争」「資本流入の制限・株式市場上場への制限の検討」「香港人権法・ウイグル人権法の制定」、ファーウェイ(5G)技術への締め付けなどの手を打っています。
オーストラリアも「反スパイ法」を成立させ、ビジネス名目の中国のスパイ活動に対処、外国からの政治献金を制限し内政干渉を防止するなどしています。
ASEANはPOC(南シナ海における関係国の行動に関する宣言)を採択し、COC(行動規範・非公開)を策定しつつあります。
【日本】
日本は安倍政権の提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」に、アメリカやインド、ASEANが賛同、そのASEANはインド・オーストラリアとの関係を強化。
Quad (日米豪印)戦略対話の開始、TPPやRCEP(東アジア地域包括的経済連携)による協調路線(取りこみ)の模索などをおこなっています。
自衛隊は中国海軍との国際交流の促進、南シナ海での潜水艦の浮上による示威行為、海自最大の護衛艦「いずも」「かが」などの派遣や、先だっては「ロナルドレーガン」「いずも」との共同訓練、多国間訓練の実施や沿岸諸国への寄港などで抑止を図っています。
▼幼稚な政治と国民
しかし国内の法整備は遅れており、土地の買収に関する危機感も欠如しています。
特に自衛隊基地や港湾、空港などの周辺土地の買収や、企業買収による情報漏えいは国家の安全保障に関わる重大な問題です。
海洋防衛に死活的に重要な潜水艦隊基地の周辺の土地を買い取られ、そこから監視・攻撃されたら・・・
軍民供用の空港で意図的に中国旅客機が滑走路上で事故を起こしたら・・・
サイバー戦の人員数でも桁が違うので対抗できるはずがありません。通信インフラをコントロールされたら・・・
夢ではなく有事には容易に想定できる事態です。善意で国際関係は生き残れません。
無慈悲な暴力はいつ襲ってくるかわかりません。世界中で戦争は起きているしテロは絶え間いのです。
ちょっとした花見ごときの問題で国会を止めるなど能天気も良いところです。
気づかないうちにあちこちに「五星紅旗」がはためくことになりますよ。
ぼーっと報道に踊らされてるんじゃねーよ!
12月8日。
毎年12月8日は、「先の大戦」(大東亜戦争・太平洋戦争)について考えます。
なぜ開戦に至ったのか? 一体何を得て何を失ったのか。
一般的に帝国海軍は開戦に消極的であり、帝国陸軍が積極的であったと解釈されています。また、海軍は「インテリで理性的」陸軍は「野蛮で好戦的」なイメージだと思いますが、必ずしもそうでは無いと思います。
国民の熱狂の渦とそれを煽った新聞、急成長する日本に対する諸外国の思惑、憲法と軍に縛られた日本の政治力、2.26や5.15事件の影響、工業化に向かう中でのエネルギー需要。 複雑で読み解く事は不可能なのかもしれません。
それでも、一応は我が国の転機となった日ではあります。
この戦争で多くの方が亡くなりました。それも敵味方・軍民・老若男女問わず。
一方で戦争は功罪両面あるのも事実です。戦後に活きたものも多くあります。
「戦争は悪」ですが、その一点だけで思考停止に陥らないようにしたいと思います。
幸いにも多くの方々が貴重な資料や研究を進めています。それら資料を読み解き戦史・軍事を学ぶことは、二度と不幸な出来事を経験しないために必要だと思います。
毎年、この日になると思うことです。