海洋立国論

軍事・国際法・自衛隊法などを中心に。

核保有論を徹底的に否定する。

私は自他とも認める「保守」です。祝祭日には国旗を掲揚し、神社によく詣りますし、古事記と新古今和歌集が好きで、国土地理院地図が好物です。www

gemini作成

我が国独自の防衛力整備には大賛成です。

武器輸出に関しての制限の緩和や積極的な装備品移転、スタンドオフミサイル等による長射程攻撃力の保有、南西諸島への部隊配備、多国間による軍事協力、基盤となる予算の増額(韓国やNATO諸国並みの3.5%程度)とそれに伴う、税負担増も受け入れます。

 

安保三文書改訂が待ち遠しいし、自衛隊の処遇改善と地位向上、国家による工廠保有なども大賛成です。更に言えば憲法に、自衛隊による国防を明記することと、緊急事態条項の追加、関係法令の制定などの法整備もお願いしたいと考えています。

 

しかし核兵器保有に関しては絶対反対の立場です。(核動力は別の話)

 

それには以下の通り明確な理由があり、得るものが無さすぎると考えているからです。

1年ほど前にも参政党の核保有主張に反対するため、反論する形で要点を述べましたが、今回は事項ごとに纏めます。繰り返し知っていただきたい現実です。



(1)安全保障のジレンマ問題

ゲーム理論の囚人のジレンマを応用した「安全保障のジレンマ」というのがあります。

自国の安全を高めようとして軍拡(この場合は核保有)を選択した場合では、ナッシュ均衡(双方が最適な戦略を選んだ結果、誰もが損をする状態)が軍拡になります。

具体的には主に中国・ロシア・北朝鮮・韓国に対して脅威と口実を与え、周辺国が核増強に至り、撃たれる前に撃つ選択肢を与えてしまう事で、結果的に自国の核リスクが高まる事になります。エスカレーションです。

日本としても核攻撃に対する核反撃力を持つ必要がありますが、地上基地では隠蔽できず初撃の目標となるため、通常は「原子力潜水艦」による核ミサイル反撃能力を保有する必要が生れます。

また中露は日本の核能力を奪う為、核開発段階で先制攻撃を行うかも知れません。これは安全保障で語られる「脆弱性の窓」と呼ばれるものです。

 

また、唯一の同盟国であるアメリカが核保有を認めません。

現在の日本は建前上、アメリカの核の傘に守られている状態です。これから離れて日本が独自の核戦力を持つという事は、日本の判断で核攻撃ができる事になりますが、それは日本の核攻撃が引き起こす核戦争に、アメリカが「巻き込まれる恐れ」があります。

一方で、ロシアーウクライナでわかるように、核保有国であっても実際は核使用はできません。

ロシアは繰り返し核恫喝をおこないましたが、ウクライナは反撃しました。それに対してロシアは核使用をしていません。

核保有が公然の秘密であるイスラエルも、首都にさえミサイルがバンバン落ちます。

イランを攻撃したトランプ大統領も「最終的な決断」とか「悲惨な結果」とか言い、核使用を仄めかすような発言はしますが、そのような兆候を示す行動はしていません。

つまりコケ脅しくらいにしか核は役に立たないのではないかもしれません。

そのように考えられると核保有は得るものと失うものとは釣り合っていないかもしれません。

先ごろフランス・エビアンで開催されたサミットで、G7首脳が北朝鮮の核・ミサイル計画に深刻な懸念を表明し、完全な非核化へのコミットメントを改めて確認したと報道がありました。そもそもG7も核拡散を認めていないのです。

 

G7サミット(フランス・エビアン)



2NPT(核不拡散防止条約)問題

日本はNPT批准国です。この条約に違反します。

2条=非核兵器国の核不拡散義務、第3条=非核兵器国によるIAEA(国際原子力機関)の保障措置受諾義務があり、監視と検証を受けなければなりません。

勿論遵守できませんから、IAEAを脱退することになります。IAEAを脱退し実質的に核保有国となった北朝鮮は、非難・制裁をする国連決議を重ねられ制裁を受けています。当然、日本も国際社会から切り離され種々の制裁を受ける覚悟をしなければなりません。

現在、IAEA監視下でカナダやカザフスタン産のウランを、原発用の低濃縮ウランとして米英仏で製造されたものを仕入れていますが、NPT体制のもと、核保有国である英米露仏中は、核武装をしようとする日本に核物質を一切輸出しないでしょう。つまり原発用核燃料すら輸入できなくなります。電気の10%を作っている原発が止まります。脱炭素に向けて20%を目指していますが、原発に代わる代替安定電源はありません。

核は濃縮過程が必須ですが、原子炉(軽水炉)では低濃縮35%、核兵器では95%以上の高濃縮ウランが必要です。この濃縮を秘密裏に行っていた事で、アメリカ他各国はイランに対し経済制裁をおこない、昨年アメリカはイランの濃縮施設に対して、B2ステルス爆撃機でバンカーバスターGBU-5714撃ち込み、それが不充分であったのか、今年はアメリカがイランに対し大規模攻撃をおこないました。

 

3)費用

核には莫大な費用が必要です。

濃縮施設と核実験はどうするのでしょうか。六ケ所村に研究用の濃縮施設はありますが、核保有となると規模が違います。

建設運用と人材育成の膨大なコストと時間、そのうえ核保有を内外に宣言しないと、核抑止力を保有したとは言えませんので、核実験をしなければなりませんが、核実験は容易に行えませんし、国内にそのような場所(陸海)があるとも思えません。

 

反撃能力でいえば原潜が最適解ですが、日本は原潜の開発をした事が無いうえ、アメリカが協力するはずがありません。しかも最低3隻以上必要です。建造も核燃料も運用保守も問題山積です。また常時1~2隻オンステージするとしても何処に潜むのでしょうか。中国は原潜の聖域確保のため、南シナ海に九段線を設定し、岩礁を埋立て基地化し常時パトロールをおこなって、長期間に渡って周辺国を排除しようとしています。

 

潜水艦だけではなく地上発射型ミサイルも必要です。目標まで届く長射程ミサイルの開発、搭載するため核弾頭の小型化、再突入技術の開発が必要です。発射方法として固定サイロならどこに設置するのかが問題です。またテロ標的になるので警備が厳重でないといけません。移動式なら隠蔽する方法とミサイル運搬のための移動手段の開発が必要ですが、日本は国土が狭く位置の特定は容易です。攻撃リスクを背負う地元は大反対でしょう。爆撃機を運用するのは最も非現実的なので考慮する必要すらありません。

 

防衛費は現在の2%では勿論足りず、NATO標準を越えて5%10%も視野に入れないといけなくなります。国家財政を破綻させる可能性すらあります。なんせ経済制裁を食らって、円、債権、株価は暴落しているでしょうから。

コスト負担を抑制するために、通常兵器を削減し核武装したと仮定します。すると相手の攻撃に対し、ある程度の反撃以上は核使用しか選択肢が無くなります。紛争はエスカレーションラダーというのを登っていくことで、妥協点を探り停戦などに至るのですが、核戦争はいきなり終末戦争です。

それに対中国を想定した時、5~6発の核ミサイルがあっても役に立ちません。せめて数百発は必要です。

 

4)法的問題

国連憲章は反撃としての自衛権しか認められていません。憲法は大量破壊兵器の保有も使用も禁じているとの政府解釈です。また敵の攻撃着手前の先制攻撃も認めていません。原子力基本法は平和利用しか認めていません。そのうえ国是として「非核三原則」があります。つまり国連憲章・憲法・原子力基本法、非核三原則によって制限されています。平和宣言や広島G7での広島ビジョンとの整合性の問題もあります。これらを被爆国かつ原発再稼働すらままならない我が国が越せるハードルであるとは到底思えません。


まとめ

私は安全保障や軍事を学んではいても、それは非戦と非核の世界を描く為です。断言しても良いですが、左右どちらかに振った過激な集団が力を持った時、国を滅ぼすのです。それは歴史が教えてくれます。

丸腰で生きていけるほど今の国際情勢は甘くなく抑止力と反撃力は必要ですが、核武装するのは短絡的に過ぎます。

 

しかし今回のように筋道を立てて議論はしなければなりません。なにが問題でなにができるのか。ここで書いた以外の効果や問題も多々あるはずです。それらを検証しなければなりません。

最悪なのは、感情的に核を忌避する風潮です。そのような風潮は一気に反転する恐れがあり、それこそが一番危険です。

 

しっかり議論しようではないですか。