海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

したたか英海軍 VS おそロシア

2021年6月23日の黒海クリミア半島沖での出来事について

 

日本ではあまりニュースにもならないので、日本のマスコミは国際情勢に興味がないんだなぁと思っています・・・コロナ患者数ばっかり・・・そりゃマスゴミと言われるわ・・・

 

黒海で英露が対峙した一件、事態が纏まってきたので記録がわりに整理しておきます。

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黒海でのHMS-Defender

2021年6月23日 黒海クリミア半島沖で英海軍のミサイル駆逐艦HMSディフェンダーとロシア軍との小競り合いがありました。双方の対応が間違っていれば戦争にも発展しかねない事態だった訳ですが、結果的に双方に物質的な被害は無くおさまったようです。

 

ディフェンダーは日本に派遣されるクィーンエリザベスを中心とした空母打撃群CSG21の所属。オランダ海軍HNLMSエバーツェン とともに黒海に派遣され、6月14日イスタンブールを出港し6月18日にオデッサに到着。

英・ウクライナ間での軍事協力の覚書の署名を艦上でおこなった。またウクライナ国境付近で増強されていたロシア軍牽制の意味もあった。(このとき既にロシア軍主力は撤収していたが)

 

オデッサディフェンダーエバーツェンは並んで寄港しているところを港のウェブカメラが捉えているにも関わらず、AIS(安全な航行を助ける為の自動船舶識別装置)の信号がハッキングされ、近くにあるセバストポリロシア海軍基地)の鼻先をかすめる航行をしているように偽造(なりすまし?)された。

緊張状態を高めグレーゾーンの演出をしようとするロシア得意の手段か?憶測ですが。

 

6月22日2隻はオデッサを出港、NATO加盟を目指すジョージアに向かう。航路はクリミア半島フィオレント岬沖を通るが、この領域は2014年にロシアがクリミア半島を併合したことでロシアが領海を主張している。

しかしロシア領海としても、国連海洋法条約(UNCLOS)17条の「無害通航権」があり、通航自体は問題が無い(停泊はできません)。そもそもイギリスは併合を認めていないので、ウクライナの領海内を「無害通航」しているだけと考えている。もし「無害でない通航」とロシアが解釈したとしても、この領域のロシアの主権を国際社会の大半は認めていない。そのため、FONP(航行の自由作戦)を実施し、黒海は国際的な水路であることを意思表示した。

ロシアとすればUNCLOS25条や30条に基づき、一定の処置をとる事が可能であることを根拠に自国領海での法執行をおこなうという建てつけで行動した。

 

ロシアはディフェンダーに無線で退去を要請。『進路を変えなければ射撃する』

ロシア空軍からSu-24M戦闘爆撃機を発進させOFAB-250爆弾(地上攻撃用)4発を投下し警告したと発表。

しかしディフェンダーに同乗していたBBCの記者は爆発を記録しておらず、投下していても不発だった可能性がある。もし、本気で警告するならディフェンダーの近くをフライパスするほど至近距離まで近づいていたのだから、ディフェンダーが認識できるように投下できたはず。ロシア側は「国境警備の為には実弾の使用も厭わない」との意思表示か使用した爆弾の名称を公表した。

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対応したロシアのルービン級巡視艇(ロシア沿岸警備隊

ロシアから軽装備の巡視艇が対応し一時は並走したが、高速のディフェンダーに引き離された。巡視艇は空に向けて30ミリ機関砲で警告射撃を実施したが、これは射程距離外のかなり遠距離で行われた。

これも本気で警告するなら、近距離でできたはずだがしなかった。

ロシアは権利を主張するため「警告をおこなった」としたが、イギリスは「当該海域でロシアが軍事演習をしていたのだろう。射撃はなかった。爆弾は知らない。」と知らん顔をし公式に否定。

 

6月28日から始まるNATOウクライナの合同演習SeaBreeze 2021に対して警告を発したかったロシアの顔を潰し今回の威嚇行動を無駄にした上手な対応といえる。

 

ロシア側とすればクリミア併合(再統一と主張)を自国の権利と主張するため、航空攻撃の事前の準備までおこない、ディフェンダーを待ち構えていた。しかしロシアも戦争に発展することは望んでいないので、地上用爆弾を使用し不発(もしくは遠距離で投下か声明だけ)、海軍艦艇では無く巡視艇の30mm機関砲の射程外での警告射撃とした。というところでしょう。

 

対して英海軍は何も反応せず、ただ航行しコメントを出しただけでロシアの行動を台無しにした。

このような事をある程度想定して、証人としてBBC記者まで乗せたことによってロシアの横暴な主張を世論に広めることができました。

このような行動をとることができるのが英海軍。少し前にも書きましたが「英海軍は強い」のです。国際法と世論、国家間のバランスをよく理解しています。

アメリカと比べて力は劣るものの、昔は世界の海を制覇した海軍。

今回日本に派遣されますが、東シナ海南シナ海などで中国に対してどのような行動にでるの非常に注目されます。