海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

中国のA2AD戦略と日本の戦略

中国はA2AD(Anti-Access/Area Denial・接近阻止/領域拒否)と呼ばれる戦略をとっているとされています。簡単に言えば中国が脅威を感じているアメリカに対してとる戦略で、海軍と空軍を主力としてできるだけ遠方で米軍に脅威を与えることと、近海においても自由な活動をさせない作戦のことです。

その為に

1.南シナ海岩礁を埋め立て基地化することで、米軍の活動を阻害する

2.東シナ海において鹿児島~沖縄~台湾のライン(中国側呼称:第一列島線)を超えての海軍力の自由な展開

3.近海域へ米韓艇の侵入阻止のための能力構築

4.遠海域での高度な情報収集と伝達能力の向上

5.初撃の攻撃力の向上

などを着実に実行しています。

1・・・既にファイアリークロス礁については基地化しレーダーと対空ミサイルの配備や大型艦艇の寄港が可能な港湾整備など関係国の非難にも関わらず進め、「軍事基地である」と公表。また海外に拠点を確保(ジブチスリランカなど)しつつある。

2・・・尖閣を始め宮古海峡などの頻繁な通過、太平洋への進出、尖閣上空を含めた防空識別圏ADIZ)の設定など。

3・・・攻撃型潜水艦は2000年ごろは5隻程度だったのに対し2020年ごろには70隻程度になる。これらは魚雷以外にも対地攻撃用巡航ミサイルを装備しているとみられる。空母は国産化で4隻体制にするとし、052D型駆逐艦(中華イージス)は10艦以上でさらに増勢中。新型も建造中。

4・・・人工衛星や沿海部の超水平線レーダーの設置など。

5・・・多数の長射程巡航ミサイル弾道ミサイル(通常弾頭)の配備による、在日米軍基地、自衛隊基地への攻撃力向上。

6・・・強襲揚陸艦などによる輸送力の増大

などを実施しています。

 

中国はまず上記1~6の目標を設定し着実に達成しつつあります。米海軍の接近を拒むことができれば、台湾の武力併合を行うことも可能になるでしょう。第三次台湾海峡危機の折、アメリカ(クリントン政権)の空母打撃群(艦隊)による大規模な威嚇に屈して、台湾の脅迫(併合を意図した行動)に失敗した経験を活かそうとしています。

フィリピンから米軍を追い払い(1992)、沖縄での米軍活動を情報戦によって縮小させ第一列島線(鹿児島~沖縄~台湾)の海底地形、水温など各種の海洋データ収集をすすめ、国境付近でせめぎ合っているインド封じ込めの為にスリランカ(ハンバントタ港)、日豪分断の拠点にオーストラリア(ダーウィン港)の99年租借権の確保などで日米を容易には接近させず、一気に台湾を併合する・・・ありえないでしょうか?

 

日本はイージス艦数は日本6艦(2艦建造中)潜水艦数では22艦(予定)潜水艦はすべて通常動力型で原子力潜水艦はありません。巡航ミサイルはこれからで弾道ミサイル保有せず。

沖縄への軍事侵攻を危惧する意見も見かけますが、これは無いとみています。潜水艦哨戒の為の対潜哨戒機は沖縄に多数配備されていますが、弾道ミサイルでこれを攻撃すると哨戒能力は激減します。ただし沖縄の攻撃は米中戦争にエスカレーションするのでまずありませんが、その潜在的脅威は沖縄への恫喝となり、米軍のグアムへの移転など後方へ下がらせる圧力となります。しかし沖縄に米軍基地を置き続けると、前述のように実際には攻撃は無いため、沖縄の安全性は高くなります。かつてのフィリピンのように米軍を追い出した結果、南シナ海で中国の勝手なふるまいを許すことになりました。

 尖閣については「台湾の次」でしょう。台湾と尖閣の両面作戦をするほどの実力が備わってはいないと思います。特に指揮統制についてはまだまだでしょう。

 

このA2ADに近い事はすでにアメリカも実施していますよね。日本とNATOの形で米軍基地を設置する事で。こう考えると、アメリカの安全確保のためには前線基地として日本は必須となり、日本を見捨てることはハワイ、グアムなどの米軍の根拠地や、ひいては本国に中国の接近を許すことになります。これは私が日米同盟を支持する理由のひとつです。アメリカは日本をなかなか捨てられない。守らざるを得ない。

アメリカは太平洋・大西洋に挟まれていた事で他国の攻撃を受けずに繁栄してきましたが、シーパワーの重要性を説いたアルフレッド・セイヤ―・マハン(1840-1914)が「海洋権力論」を書いた頃は、海が障壁として大きな意味を持っていました。

しかし少しづつその「壁(海洋)」は低くなってきています。この「壁」は今まではアメリカが独善的に利用し守ってきました。アメリカの安全保障のコストとして海外に米軍基地を置き、その過程に置いて最も必要だったため、日本に本国以外では最大の軍事力を提供してきています。しかしアメリカの国力は相対的に低下しており、日本は国益の為にも、法による海洋統治の為にも、もっと強くならざるを得ない時代にはいったと思います。しかし日本はGDPも人口も技術開発力も国土の広さや資源量でも中国には歯が立ちませんが、まずはそこを自覚したうえでこの国をどうするかを考えていきたいと思います。