海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

北朝鮮の挑発と朝鮮半島有事

先日、日本のEEZ排他的経済水域)に北朝鮮のミサイル(ノドンERか?)が撃ちこまれたことは周知の事実ですね。
最早看過できないレベルにきました。
同じ時刻に同じ場所へ三発とも着弾させています。

G20の最中に(しかも議長国は中国)撃つとは意外でした。しかも着弾地点の距離は、方向を変えればG20開催地であることと、最大射程で発射せず1000キロという意図した距離で着弾させていることは「有事」を想定せざるを得ません。

弾道ミサイル試射から実践運用レベルへ到達しました。予想以上に早く進行しています。
核実験も頻繁におこない、威力をあげており弾頭の小型化も進んで製造能力も向上していると見なければなりません。

日朝間は正式な国交が無いこともあり、相手が対話に全く応じないうえ、安保理の決議もなんら拘束力を持たず無視し続ける以上、こちらもしっかりと準備する必要があります。

海自は弾道ミサイルに対してはいつでも迎撃可能な状態(即応体制)にありますが、前回も書いたように、現段階では敵策源地攻撃能力が無い我が国がどうなるのか、どうすべきかを考えなければなりません。

まず北朝鮮ができることといえば、弾道ミサイルでの攻撃と特殊部隊での重要施設(インフラへの破壊活動)への攻撃。
あとは国内にいる工作員の騒乱などでしょう。
見かけの兵力は大規模でも装備が旧式で我が国に進行する能力はありませんし、巡航ミサイル爆撃機もありません。

一方で我が方は弾道ミサイルはMD(ミサイル防衛)によって迎撃できますが、完全ではなく、着弾する可能性は排除できません。

北朝鮮の特殊部隊は小規模な攻撃ですから、被害は限定的です。
しかし、過去にも言及したように「国内法」が足かせになり迅速な対処(武力攻撃による制圧)が可能かどうかは疑わしい。

さて、数発のミサイルであればMDで対処可能ですが、大量にミサイルを同時発射されれば対応能力を超えてしまうこともあります。

これを飽和攻撃と言いますが、旧ソ連がアメリカに対抗するため採用していた戦術です。
相手の対処能力以上の大規模な攻撃をすることですが、具体的に言うと、迎撃ミサイルを50発装備していても当時のレーダーでは同時に捕捉誘導できる限界が低く数多くのミサイルを撃たれると、対処ができなくなりました。
それに対処するため「イージスシステム」が開発されたのですが、これは「対艦ミサイル」の話。

弾道ミサイル防衛は「イージスシステム」でも多くのリソースを割く為、同時対処能力に限界があります。(現在テスト中なのは、弾道ミサイルと対艦ミサイルの同時迎撃で一応の成功を納めています)。
北朝鮮が多数のノドン、ムスダン、テポドンを混在させ、TEL(移動式発射台)も使って複数を日本各地に発射されれば対応能力を超えます。

MDは非常に高価で運用にも高い能力が必要であり一朝一夕に増強できるものではありません。迎撃ミサイルの数を増やしても周辺の装備(レーダーやリンク、射撃管制など)が揃わないと意味がありません。

また、我が国の法律では「領海と領空(沿岸から12カイリ。約22kmほど)」に侵入した場合は迎撃可能ですが、それではあまりに近すぎます。
EEZ排他的経済水域)もしくはADIZ防空識別圏)内に侵入すれば迎撃可能とするなど法整備を行い、周辺国の理解を得る外交努力が必要と考えます。

こうなると初撃をどうにかしのぎ(被害をこうむる可能性はそこそこあります)、敵策源地攻撃となるのですが、これにはアメリカが対処するしかありません。
毎回言いますが、自衛隊にその能力(適策源地攻撃能力)は全くありません。

日米安保発動の理由づけとして、我が国がまずは独力で防衛にあたり、これの能力を超えた場合にアメリカが出るという順番になります。
日本が最大限の努力をしないと、アメリカの世論は軍事行動に賛成しないでしょう。
日米安保が有効に機能するのかどうかは日本次第です。

ただし、北朝鮮が韓国を攻撃した場合は話がかなり違うと考えます。
現在は「休戦」状態である朝鮮半島ですが、北朝鮮が38度線を超えて攻撃をした場合、休戦ラインに駐留している米軍が標的となります。
攻撃は弾道ミサイルはあまり使用されず、38度線から首都であるソウルは近距離であるため、迎撃不可能な「りゅう弾砲」「ロケット弾」などの一斉射撃が最初でしょう。
その後に米韓相互防衛条約によってアメリカは駐留軍の支援に増派することになります。

その際の前線基地(もしくは後方支援基地として)は日本です。
これをしっかり努めないと世界から日本は孤立することになります。
隣国が危機に瀕し同盟国のアメリカが支援に向かうのに、関わると巻き込まれるからという理由で何もしないなどと先進国として、また経済力3位の国として、ある意味では軍事大国として、無責任の誹りを免れません。世界での日本の信用は地に落ちます。

後方支援としてあるのは、在日米軍基地防護、物資輸送(食料や弾薬、装備品)日本海側の対潜哨戒などでしょう。

しかし北朝鮮は弾道ミサイルによって在日米軍基地への攻撃も辞さないかもしれません。
MDで防御したとしても、在日米軍基地を攻撃したと言う事実は「全面戦争」となり、北朝鮮は崩壊します。

そうなると困るのが中国。日米韓が勝利した場合は、国境沿いにアメリカの息のかかった統一韓国が生まれるかもしれません。また北朝鮮保有している核能力の流出もあります。
それを避けるため北朝鮮が負けそうになったら、仲介役・調停役に入ることもあります。

同じく国境を隣接しているロシアも同じように動くかもしれません。
朝鮮半島北半分にロシアの息のかかった政権を誕生させると、海洋進出への足掛かりが得られますし、中国の進出を阻むことができるからです。
もしかしたら混乱に乗じて北半分もしくはその一部を切り取りにくるかもしれません。口実は自国民の保護や停戦監視、国境警備などいくらでも考えられますし、クリミア半島での出来事を考えると、そう無茶な話ではないと思います。

地政学で言うところの「リムランド」に位置している日本は、有事に備えての想定と法整備、軍事面での整備と訓練を、否応なくしなければならない地理的条件にあると思います。
日米安全保障条約には「極東の平和と安全」がうたわれており、極東地域(明確な線引きはありませんが)は日米共同で安定を図るのがその趣旨です。

第一次世界大戦以後のヨーロッパは当時のドイツに対し、苛烈な賠償を行わせドイツ国内の愛国心に火をつけました。
その後ヒトラーが率いるドイツの横暴に手をこまねいて戦争を引き起こしました。
このような事態にならないように如何に我が国は備えるべきなのかを考えなければならないと思います。

写真は陸自の10(ヒトマル)式戦車「装備品ギャラリーより」

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