海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

敵基地(策源地)攻撃論の非現実

ミサイル防衛に絡みいくつか書きましたが、ミサイル防衛では完全無欠のものは無いため、どうしても行きつく先は「敵基地攻撃」になります。

特に北朝鮮を想定した場合は、このオプションを検討する事になりますが、中国に対してはあまりの非現実性に防衛省でも検討すらしていないようです。

意外かも知れませんが、「専守防衛」の自衛隊は実はこのような事態においては、法的には敵基地(策源地)を攻撃可能とされています。敵地への攻撃にはいくつかの分類がありますが、国際法上も憲法上も可能なものとして「反撃」による敵基地攻撃は可能となっています。

相手が殴りそうになってきても、歯を食いしばって、最初の一発は殴られなければ仕方が無いんですね。

自衛権の発動の三要件は以下の通り

(1)我が国、または我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること

(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

これを素直に解釈すると、やられた時には、相手の基地を攻撃する他に危機から逃れる方法が無い場合は実力行使可能である となりますね。

ただし、日米安保において米軍が5条を適用し武力行使した場合は、この要件に当てはまらないと解釈もできます。(適当とされる方法があるため)
しかし一方では集団的自衛権の一環として(関連法整備がまだですが)米軍の任務の肩代わりをすることはあるでしょう。
防空監視や対潜哨戒、基地警護、ロジスティックなどの「楯」としての役割です。

仮に北朝鮮の中距離弾道弾ムスダンやテポドンによる攻撃について考えると・・・

ムスダンは射程距離から考えると「グアム」攻撃用です。
日本向けにはオーバースペックですが先ごろ書いた「ロフテッド軌道」で打ち上げると、日本にも着弾させることができます。テポドンは日本のほぼ全土を射程内に収めています。

ミサイルの脅威を取り除く為、時々言われるのが「敵基地(策源地)攻撃論」なのです。
要は「これ以上やられる前に策源地(攻撃の発生するところ。基地とは限りません)を壊してしまえ」です。

日米安保によって自動的に米軍が攻撃するとは限りません。
まずは一義的に自衛隊が攻撃する事になるのですが、種々の問題があり現実性は非常に乏しいものです。

理由を列挙していきます。

攻撃するには・・・
(1)航空自衛隊が主役となります。
海自の護衛艦には対地攻撃力は殆どありません。また有事は対潜哨戒と弾道ミサイル迎撃などで手一杯でしょう。しかし陸自は上陸戦となるので、正面戦争になります。中国が「侵略」と騒ぐことになりますし、この選択肢はありえません。

(2)空自の装備では攻撃できない。
敵地攻撃の装備がありません。有効な攻撃には「爆撃」がありますが、爆撃機は持っていませんし、また主力戦闘機F-15Jでは航続力が不足します。
解決するには空中給油機が必要ですが、戦闘機に比べ圧倒的に数が足りません。戦闘機を爆撃に使うなら護衛機が必要ですが、やはり数が揃いません。

(3)韓国の同意が得られない。
日米・米韓では締結しているような「防衛協力協定」が日韓では結ばれていません。
韓国のドタキャンなどもあり交渉はなかなか進展しません。
その為、現在の関係では韓国の領空通過は認められないでしょう。また韓国の基地を空自が使用することも同様にできません。

(4)どこを攻撃するのかがわからない
弾道ミサイルはいつもテレビで見るロケット発射台みたいなもので発射される訳ではありません。
近年はTELと言う移動発射器(トレーラーで運んで発射する)で運用する事が多くなっていますし、北朝鮮も相応の数を揃えています。
山間地に隠れたらレーダーも衛星もなかなか見つける事は困難です。
世界中でケンカしている米軍でも全てを発見し破壊する芸当はできなかったのです。
固定サイロも頑丈なコンクリートで固めて地下に設置すると、巡航ミサイルごときでは破壊できません。まして移動目標を攻撃する能力はトマホークは乏しいものがあります。

策源地攻撃はこのように難しいものです。

よく書きますが自衛隊には「戦力投射能力」が、全くと言っていいほどありません。

なんだかんだといっても日米安保に依存するしか無いのが現状です。
これは「安全保障のジレンマ」をはらみ、「巻き込まれるおそれ」と「見捨てられるおそれ」もあり、満点の回答ではありません。

経済・対話・軍事 三位一体となって取り組んで行かなければ平和な時代は続かないのが常です。人間の本質は「戦争」なのかもしれません。

あの物理学者 アルバート・アインシュタインはこう言っています。

「人類が存在する限り、戦争はなくならないだろう。」

そして、こうも言っています。

「我々は平和のためには、英雄的な犠牲を払って戦争に備えなければならない。それ以上に重要で大事な任務はない。 」

(写真は航空自衛隊HPより引用)

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