海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

そうりゅう型潜水艦と武器輸出

我が国は「武器輸出」を解禁しました。

長らく国内でのみ製造し調達していましたが、現在の兵器の開発コストの高騰もあるうえ、現在主流になっている国際共同開発の流れや、武器輸出による安全保障関係の向上も見込めることで武器輸出を解禁し、装備の調達、輸出、取得を一元的に管理するため「防衛装備庁」を2015年に発足させています。

解禁とされたことで我が国と安全保障上、関係の深い国々との交渉が始まっており、以前夜ネタで書いたP-1対潜哨戒機を海外の航空ショーでデモ飛行させて売り込みを図ったり、US-2飛行艇もインドに売り込みをおこなっています。

我が国以外は既に武器輸出を行う事で関係強化に努めたり、収益を得るなどしています。隣国の韓国、中国は非常に積極的におこなっており、外貨獲得の一つの柱です。

我が国の兵器は非常に優秀で各国が既に興味を示しています。

まず、兵器の輸出がなぜ安全保障に資するのか?という事ですが、一般的には兵器を外国に輸出する場合、モンキーモデルと言う自国兵器のダウングレード製品を輸出するか、コアになる技術はブラックボックス化するなどし開示しないなどを行います。

兵器の運用には訓練設備の導入や訓練自体も必要な為、軍民とも交流も深まります。
また定期的な整備も必要となりますし、追加調達も必要であったりしますので、輸入国は輸出国に逆らえない状況を作ることができます。
相手国の状況次第ではライセンスの停止や後継品を与えないなど対抗処置もとれます。

こうなると輸入国は他国のものに乗り換えることとなるのですが、コスト高となります。そもそも輸入を考えている国は、自国での開発力がないか資金が無い場合が多いので輸入するのです。

また、我が国と軍事的に友好関係を作りたい場合もです。

さて、タイトルの「そうりゅう型潜水艦と武器輸出」についてですが、輸出解禁後に我が国はオーストラリアに「そうりゅう型潜水艦」を輸出すべく働きかけていました。

なんせ4兆円規模の大型受注です。親日政権であった時に我が国に「そうりゅう型」を売ってくれないか?と話があり、安倍総理が「前向きに」進めた話です。
アメリカも「日本製」をオーストラリアに勧めていました

しかし、これにはドイツ、フランスも名乗りを上げており行方が注目されていました。
日本が戦後初の武器輸出(それも先端技術の塊)をするのか?という事です。

オーストラリアは日米豪の環太平洋での同盟国で、海洋進出が著しい中国とのせめぎ合いも今後あるかもしれません
今は東シナ海南シナ海での話なので、多分オーストラリア国民は対岸の火事なんでしょうが・・・
そもそもオーストラリアは潜水艦建造技術が無く、輸入するしかありません。

一時は日本が選定されるのではないか?と言われていましたが結果はフランスになりました。

何故フランスになったのか?を検証します。

オーストラリアの要求・条件としては・・・

1)現政権は親中派であり、中国を刺激したくない。
2)雇用問題もあり国内での建造に拘っている。
  つまり技術供与をして欲しい。
3)ただしアメリカは日本を推している。
4)EEZ排他的経済水域)が広いので、長期間の任務が可能な
  大型艦が必要だが、最も適した原子力潜水艦の運用能
  整備能力が全くない。
5)アメリカは原子力潜水艦は作れても、通常動力潜水艦は作れ
  ないロストテクノロジー。アメリカからは導入できない。
6)オーストラリア首相の訪中時に相当の働きかけがあったこと
  や、軍港であるダーウィン港の中国による租借など中国に
  よる外交的圧力が強い。

対して輸出側は・・・

1)そうりゅう型は通常動力潜水艦としては最大で静粛性や潜航能力などは高性能。自衛隊での運用実績も信頼性も高いが、日本での建造で完成品で輸出する。米国製装備品との親和性も高い。

2)日本は大型兵器の国際取引には素人で、ドイツやフランスは
  大ベテラン。
3)ドイツ、フランスは設計段階。もしくは計画段階。
4)フランスは原子力潜水艦を通常動力型に変更したものを提案。
  日本にはないポンプジェット推進を取り入れた大型艦
  静粛性と推進力に優れる。
5)ドイツは設計段階だが、AIP(非大気依存推進)機関が
  燃料電池であるため潜航時の速力が高い。
  ただし最新型をダウングレードとしたものを現地生産させる
  と提案。
  現行型や他の兵器の輸出実績も豊富でノウハウが豊か
  ので、機密保持に関する能力も高いため、自国兵器の先端
  技術漏えいに関しては心配していない。
7)ドイツ・フランスは中国との関係も日本より良好なため、
  オーストラリアにとっては中国を刺激しない。
8)日本政府は日米豪の軍事的強まりを高めて中国の脅威に対抗
  したいため乗り気だったが、防衛装備庁やメーカー
  (三菱重工川崎重工など)は、商業的なリスクや
  軍事情報の漏えいなどが心配で乗り気でない。

などなどが考えられますが、結果はフランスが選定されました。

大型艦であり、設計段階であるためオーストラリア仕様とできることと、現地生産が何よりも魅力だったのでしょう

まぁもっとも、一発の魚雷攻撃で場合によっては数百人の軍人が戦死する・させることのできる核兵器を除くと、現代最強兵器の潜水艦の輸出です。

その事に気づかない人が多いうえ、「自国製の兵器が他国で運用され戦死者を生む可能性」について、多くの政治家・国民が覚悟も無い議論すらされない現段階では選ばれなかったほうが良かったかもしれませんね。

(写真は海上自衛隊HPより)

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