海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

孤立化する台湾

【台湾の孤立化】

2016年5月時点(蔡英文総統就任時)では、台湾と正式な外交関係を結んでいる国は22か国ありましたが、中国の外交的・金銭的圧力によって減少し、16年12月=サントメ・プリンシベ(赤道ギニア近くの島国)、17年=パナマ、18年=ドミニカ共和国カリブ海)、ブルキナファソ(アフリカ)、18年=エルサルバドル(中米)、そして今年9月相次いでソロモン諸島キリバス(南太平洋)が断交しました。

 

 【目指すのは中華統一】

中国(清)は1840年アヘン戦争によって香港をイギリスに割譲、1894年には日本に台湾を割譲したうえ、韓国に対する宗主国の地位を奪われました。

大東亜戦争(太平洋戦争)終戦後、日本と戦った国民党は台湾に逃れ中華民国が成立、その後3度の台湾海峡危機が起きました。95~96年の第三次危機では中国(江沢民)政権が、台湾(李登輝)に対してミサイルで恫喝しましたが、アメリカは空母戦闘群を派遣し、海軍力の大きく劣る中国海軍は引きさがり悔しい思いをしました。これは当時の中国が大国ではない事を証明してしまいました。

さて、習金平は国家主席の任期を撤廃し、「中華民族の偉大な復興という中国の夢」を語り、経済を世界2位に押し上げたうえ「一帯一路イニシアチブ(経済圏構想)」「中国製造2025(産業政策)」「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」を提唱し、中華思想による秩序拡大によってアメリカに変わる覇権国の地位を目指していますが、順調にいっているとは言えません。

「一帯一路イニシアチブ」は「債務のワナ」が指摘されて多くの国々が警戒しはじめ、「中国製造2025」は「米中貿易戦争」で先行き不透明、「AIIB」は目標融資額に届いていないのです。

台湾も2014年に起きた「ひまわり学生運動」によって、現在の民進党政権が誕生して独立指向の現総統となり、香港も学生運動で思うようコントロールできません。

 

【武力統一】

中国は台湾も香港も「核心的利益」であって「国内問題」であるとして諸外国の介入を許しませんし、「軍事力行使」は否定していません。

天安門事件の時代と異なり、相当な口実が無いとなかなか武力行使はできないですが、ロシアのプーチン政権がおこなった「クリミア併合」は諸外国の介入を許す時間を与えずに実効支配できる事を証明したのは参考にしているはずです。中国は軍事力・経済力ともロシアの数倍の力を持っているのですから。

習金平政権は権力維持のために台湾に対して手を緩めることはできませんが、武力での台湾吸収は最もハードルが高いとして、グレーゾーンで活動を続けています。(シャープパワーの行使)

台湾に対しては、前の国民党・馬英九政権時の懐柔策や、台湾をWHOなどの国際機関から締め出す、マスメディアへの介入や放送の買収、退役軍人へのハニートラップ、外交関係の遮断などでプレッシャーをかけています。

南太平洋諸国へは、フィジー孔子学院を設立し中国文化などの教育、奨学金の提供、南太平洋諸国への中国国営放送の無料放送、大量の旅行者を送りこみ親中的な素地を作り上げつつあります。

人民解放軍も米軍に対抗できるように装備の更新や開発、統合運用能力を高めるためにPKOを通じて外征軍としての実績を積み、軍制度の大胆な改革を進め、空母や爆撃機での示威行為などをおこなっています。最早、台湾が独自で中国に対峙するのは不可能です。

 

【海洋権益の確保】

南太平洋諸国は経済規模も国土面積も小さく人口も少ないですが、日本の4倍以上の広大なEEZ排他的経済水域)を持っています。

膨大な人口を養うための魅力的な海洋資源が多くあります。経済成長に伴って、コイを食べていた中国人がマグロ・カツオを食べるようになるのです。海底にも多くの資源が埋もれているかもしれません。

これらの開発に伴い海洋測量や南太平洋諸国での港湾整備や通信などを充実させれば、資源と軍事拠点の確保と拡大が同時にできます。

実際にバヌアツは中国の手によって埠頭の開発が行われ、フィジーパプアニューギニアなども目標になっています。しかし反動もあり、債務過多になった国や経済に影響が大きすぎて警戒している国もあります。

ただ経済規模が何桁も違う国ばかり。中国依存は麻薬のように魅力的にうつるでしょう。人口も少ないため、経済活動に伴って帰化する中国人(華人)が増えれば、選挙や政策にも影響力が発揮できます。ナウルでは中国に批判的な前大統領が落選しています。

 

シーレーン遮断】

ソロモン海、珊瑚海は大日本帝国アメリカが激しく戦った場所です。3次にわたるソロモン海海戦、珊瑚海海戦、サボ島沖海戦ガダルカナル島争奪戦、ラバウル・・・あのあたりには多くの日米の基地があり凄絶な戦いを繰り広げました。日本側はアメリカとオーストラリアのシーレーン遮断を目的として戦線を拡大し大消耗戦となりました。

今回も同様な効果が見込めます。レーダーや音響センサーによって艦船や航空機、潜水艦の行動を監視するなど米豪軍の監視、有事にはシーレーン遮断が果たせるかもしれませんし、万一台湾に武力行使する場合でも米豪軍の接近阻止・遅延に役立ちます。オーストラリアにとっても安全保障上の脅威となりますし、日本もオーストラリアから石炭・鉄鉱石・アルミ鉱石など多くの資源を輸入しており、安全保障上極めて重要な地域です。

 

【日本の役割】

日本は南太平洋諸国とは縁が深くこれからも災害支援や人道支援、医療支援などでコミットし続け、太平洋諸国の経済的自立を促進し、中国とのバランスをとる必要があります。

米豪・ニュージーランド・植民地を持っていたフランス・イギリスとの連携した軍事演習を当該海域で実施したり、ラグビーやオリンピックを通じたスポーツ交流など、平和目的の支援を続けなければなりません。そうすることが間接的に台湾支援になりますし、これならば中国をそれほど刺激しません。

 

日中共同声明

日本は「日中共同声明」の2項と3項に従って行動しなければなりませんので、一部の方が言うような「親日国の台湾と正式に国交」が簡単にできません。

国会での政府答弁も従来通り、非政府間実務関係として維持し、日中共同声明を厳守し独立は認めていません。

平成24年(野田内閣)衆議院での一般質問で、東日本大震災にいち早く救援隊が駆けつけ、民間からの義援金が250億円など多大な援助をしてくれた台湾に対して、追悼式での扱いが一般客であり指名献花もさせずでは非礼では無いか、正式国交を結ぶべきではないかとの質問がなされましたが、この時も「従来通り」と答弁がなされています。

平成30年2月6日の台湾東部地震において、首相官邸にお見舞いのメッセージが掲載されましたが、当初宛先名は「蔡英文総統閣下」となっていましたが、その後その宛先は「台湾の皆様へ」に変更されていることからも、中国への配慮があるように思います。私個人の心情的には残念ですが、政府としては止むを得ない判断でしょう。

 

アメリカの立場】

アメリカは台湾を手放すと中国の太平洋への進出に歯止めが係らなくなるため、「一つの中国」を認めつつも、1979年に制定した「台湾関係法」を根拠に武器の売却を再開、昨年は「台湾旅行法」を制定し、高級官僚の交流を促すなど正式国交は無いものの弱い軍事同盟の状態を作っています。

 

【日本はどうする】

日本にはアメリカのように中国と対峙できる経済力と軍事力はありませんが、台湾を突破されると東シナ海~西太平洋の権益を損なう恐れがありますので、諸外国と協調しながら価値観を共有し親日的な台湾を維持し続けることが国益にかなう事だと思います。民間や企業の活発な交流こそが台湾を維持し、そのことが日本の国益を守ります。

ハードルはかなり高いものの、オーストラリアと軍事同盟の締結ができれば、南太平洋諸国や中国に対しても抑止力が発揮されることになります。

 

日中共同声明

2 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。

3 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

 

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南太平洋とその国々