海洋立国論

安全保障・軍事について自分自身の勉強のつもりで書いています。

徴兵制はあるのか

時折、議論になる徴兵制。

平和安全保障法制の審議の時も「戦争になる」→「徴兵制が復活する」と野党の皆さんが騒いでいましたね。我が国で徴兵制はありうるのかをちょっと考えてみました。

 

1.徴兵制は違憲である

この話は有名ですね。

憲法十八条には、『何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。』とあります。

これに対する政府答弁と解釈

92回国会(昭和55年・衆議院鈴木善幸内閣)では、「平時であると有事であるとを問わず、憲法十三条、第十八条などの規定の趣旨からみて、許容されるものではないと考える。」(抜粋)であり、その後の、94回国会で再度の質問が出た時も「徴兵制度を違憲とする論拠の一つとして憲法第十八条を引用する従来の政府の解釈を変更することは考えていない。」です。その後も政府解釈は変更されていません。

あくまで解釈であって、明示的に「徴兵の禁止」とか「兵役の義務」ともどちらも書いていないので、自衛権の話と同じで、やっぱり日本国憲法って穴だらけです。

これは「徴兵は政府解釈次第で変わりうる」ですが、解釈変更のハードルは高いでしょう。

もうこれで終わりでもいいんですが、それではあっけないので他の要素も考えます。

 

2.先進国は志願制が主流である

冷戦時にはNATO諸国など多くが徴兵制でした。しかし冷戦崩壊後、ソ連の脅威が減じた結果、「徴兵制」は欧米各国で「停止」されてきました。一例を列挙します。

イギリス(1960)

アメリカ(1973)

オランダ(1996)

フランス(2002)

イタリア(2005)

ドイツ(2011)          ※( )内は停止した年

あくまで停止であって、憲法基本法)には徴兵が記載されているものの、法律によって徴兵をおこなっていないだけの国も多く、法改正で容易に徴兵制になる可能性があります。冷戦崩壊後に脅威が減じたため、徴兵を一旦停止しただけで、これをもって「志願制」がトレンドであるとは言えません。テロの脅威が高まったこともあり、ドイツ・フランスは徴兵制復活の議論があります。

 

リトアニア』・・・2008年に停止しましたが2015年に復活。

スウェーデン』・・・2010年に停止。2018年に男女とも徴兵が復活。   (男女平等社会とはこんな一面も?)

ノルウェー』・・・いまも徴兵制。ノーベル平和賞を授与する国ですけど。)

『スイス』・・・国民皆兵で、予備役のあいだは各家庭に自動小銃が常備してたり。永世中立ですけど)

『中国』・・・徴兵制。でもほぼ志願兵のみで人員を賄えるので、実際の徴兵はほぼ無いそうです。国民の数が半端ないですからこんな事ができるのでしょう。ただし「有事」の際は多くが徴兵されるでしょうし、拒否なんてできないでしょうけど。

 

福祉国家は相対的に徴兵制がありがち。徴兵制は人件費を抑えるので、人件費を福祉に回せるのでしょう。

 

3.経済面で考える。

  国家には富を生むための2つのリソース(物理リソースと労働リソース)がありますが徴兵制は強制的に兵役に就かせることになり、企業の人材を強制的に「軍」へ奪い、その結果、生産労働者が減るので企業収益力は落ちます。

さらに従軍期間中は、好きな買い物もしにくく、旅行にも行きにくくなるので、個人消費が落ち込みます。

また、どんな才能を持っていても、「兵隊」さんで一律の職に就くわけですから、分配が非効率になり、人的資本が経済的に有効に利用されなくなり、適材適所ができないので、国が持つ人材という労働リソースの振り分けがアンバランスになります。特に徴兵される若い世代の能力を活かせないのは損失以外の何物でもないでしょう。

これも政策的には得策とは言えません。

また、「従軍」を労働市場のように考えると、予算が同じなら徴兵制と志願制では以下の通りと考えられます。

▲徴兵制

  低い給料で必要な人数だけ兵士にでき、一人当たりの人件費は抑制できる。

   →労働単価は安い

▲志願制

   待遇(給料)が良ければ志願する人も増えるが、民間との競争になるため、

   一人当たりの人件費は増える。→労働単価が高い

 

これを元にざっくり比較してみると・・・(米ドル)

 

▲日本(志願制 ・GDP4.9兆・GDP比0.95% )

 自衛隊員数 250,000人 予算454億ドル(2017)一人当たり181,600ドル

 

▲韓国(徴兵制・ GDP1.5兆・GDP比2.55%)

  兵員数 640,000人 予算392億ドル(2017) 一人当たり61,250ドル

 ストックホルム国際平和研究所(2017)発表をもとに計算

 

やはり志願制は単純計算では人件費が高いですね。

ただ、韓国は北朝鮮と戦争中であり、国家予算、人口が日本よりもかなり小さいのにこれほどの『予算』を支出しているので、物凄く経済を圧迫しています。 

 

安全=売上、軍=産業 と考えると、売り上げをあげる方法はおおきく2つでしょう。

労働集約型にする => 兵士・増 => 低い生産性、人件費・増

資本集約型にする => 設備投資・増 => 人件費・低、維持コスト・増

ではないかと思います。

 

資本集約型の『軍』なら人件費を抑え、設備投資でロボット化、AI化を進めることが、高い能力を持つ『軍』を構成できますので、最新鋭装備の導入は徴兵制を避けつつ、安全を高める為に合理的。

 

1~3を纏めて考えると、現在の日本では徴兵制は、ナシだと思います。

 (正面装備品についての合理性は次回)