海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

安倍政権は軍国主義的なのか

平成30年度の予算案が閣議決定されました。勿論ここでは「防衛関係費」関連のみを取り上げるのですが、この予算を巡っては「安倍政権は軍国主義的でこの国は戦争に向かっている」ネットでこのような意見を見かけます。

その根拠のひとつが以下に挙げるような装備品の調達にあるようです。どのような内容であるかを主な正面装備品で考えたいと思います。

 

1.イージスアショア設計費計上

2.長距離ステルス巡航ミサイルJASSM-ER(ジャズムイーアール)導入調査費計上

3.新型コンパクト護衛艦(30DD)2艦建造

4.予算(防衛関係費)総括

 

1.イージスアショア設計費計上

昨今、導入をほぼ決めた「イージスアショア」ですが、(以前にも書いたことがありますので、イージスシステムの詳細についてはここでは割愛します)目的は「弾道ミサイル防衛」であり、新型のSM-3ブロック2A、今後導入が予定されるSM-6ミサイルによって、日本を照準とする弾道ミサイル巡航ミサイルの脅威を低減させます。

イージスシステムはテスト結果が非常に良好であるうえ、ソフトウェアの改修によって同時対処能力も高まっています。現在はイージスシステム搭載護衛艦によって監視、万一の場合は迎撃を行いますが、護衛艦は艦船であるため、定期的に乗員の休養や艦のメンテナンスなどが必要になり、長期の常時監視には負担がかかりすぎます。現在は4艦あり、「あたご「あしがら」の2艦は弾道ミサイル防衛用のシステムに改修中、2艦を増勢することしていますが、イージス艦は何も弾道ミサイル防衛の為だけにある訳ではありません。本来の艦隊防空の任務もありますので、一定の海域に張り付けておくとなると、南西諸島方面やその他の海域の防衛・パトロールが手薄になります。乗員は多種多様な任務に対応するための訓練も行えなくなり練度が低下する恐れもあります。

そこでイージスアショアとなるのですが、ミサイル防衛のみの機能を持つため艦の運用の為の要員は不要となりますし、調達・運用コストも陸上の強みで低コストになります。また艦船では無いため、訓練を行って陸上自衛隊でも任務を果たせることになります。そうすることで人員の運用面でも余裕が生まれます。これは海上自衛隊の負担減に繋がります。

また2基で日本全土をカバーするため、ミサイル防衛を重層化し安全性を高める事に繋がります。現在の日本が低コストで安全性を高めるなら他に選択肢はありません。

また、これは中国に対しても抑止力を高めることになります。中国は北朝鮮核武装について自国の都合上、積極的には関与してこなかった事がこの点では裏目に出たと言えます。

纏めるとイージスアショアの導入は北朝鮮のみならず中国に対しても抑止力を高め、なおかつ他の方法よりも低コストと言えます。

 

2.長距離ステルス巡航ミサイルJASSM-ER

ロッキードマーチン社が開発した新型の巡航ミサイルでステルス性能を持ちます。固定目標にむけて戦闘機(爆撃機も)より発射され、GPSで誘導し最終的には赤外線画像で誘導し、コンクリートで防護された施設も破壊可能で射程は脅威的な1000kmほどと言われています。

残念ながら自衛隊保有する戦闘機である、F-15JとF-2はこのミサイルをそのままでは搭載できません。新規で導入していくF-35Aでさえ、コンピュータシステムが古くバージョンアップが必要になります。

そこで調査費の計上となります。機体の改修とコンピュータの載せ換え、通信システムの改修など調査項目は多岐にわたります。

しかし搭載できれば高価なステルス戦闘機よりもお得な買い物です。

1機100億円以上、尚且つパイロットの育成、高価なメンテナンスが必要なステルス機を沢山買うよりも、(数が揃うのも時間がかかる)既にあるF-15J(改修型のF-15MJ)やF-2Aを改修し敵防空レーダー外からJASSM-ERを発射し攻撃するほうが、安全で安価なのは間違いありません。

現代はステルス能力の無い戦闘機は確実に撃墜されると言っても過言ではありませんから、乗員の安全と攻撃力保持による抑止力向上がバランスよく目指せるのではないでしょうか。一発あたり1~2億円なんですから、島嶼防衛用としては非常にお買い得ではないかと思います。

 

3.新型コンパクト護衛艦(30DD)2艦建造

大型艦ばかりに目がいきますが、小型の汎用護衛艦が新規建造されるのには苦しい台所事情があるようです。

我が国の広いEEZ(排他的経済水域)の監視には数が必要です。そのため乗員が少なくて済み、尚且つ近海を小回りよくパトロールし装備も運用コストも低く抑えるように設計されているようです。このタイプの護衛艦は年1艦程度建造していましたが、小型化・簡素化し民生品の活用も進めつつ年2艦の建造とし、また旧型艦の代替であり、掃海艇を減少させることになるため特段海軍力増強とは言えないのではないでしょうか。

 

4.予算総括

これらの装備品を備えて総額は5.2兆円で6年連続の上昇となりました。これだけなら「軍拡では?」と言いたいところなんですが。

実は予算そのものは平成9年度で4.9兆円でした。日本は長らくデフレであったため延びてきていませんでした。およその数字で比べてみます。

平成10年=歳出78兆円、社会保障費19%、防衛費6.4% 名目GDP528兆

平成20年=歳出83兆円、社会保障費26%、防衛費5.8% 名目GDP520兆

平成26年=歳出96兆円、社会保障費32%、防衛費5.1% 名目GDP537兆

(歳出・・・一般会計歳出 %は歳出に占める比率 GDP額は国民経済計算マニュアルに基づく 金額、率ともおよその数値)

 

日本が2%程度の成長を続けていれば、GDP比1%としてももっと増えているところですし、NATO基準のGDP比2%なら防衛費は10兆円になります。ミサイルを買うからとかステルス機を買うからとかだけでは判断できません。ステルス機F-35AにしてもF-4戦闘機の代替です。F-4戦闘機ってベトナム戦争の頃の機体です。先日事故を起こしたのも老朽化で金属疲労が・・・どうせ買い替えるなら、役立つモノがいいですよね。

纏めると軍拡どころか縮小してるのでは?と言いたいぐらいの予算規模です。中国による南西諸島への進出、アメリカの衰退、北朝鮮の脅威。安全保障環境が厳しくなるなかで、非常に抑えられた予算と思いますがいかがでしょうか。