海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

安全を守る「安全保障のジレンマ」

前回の同盟のジレンマに続き今回は「安全保障のジレンマ」を取り上げます。

「安全保障のジレンマ」は経済学のゲーム理論で有名な「囚人のジレンマ」というモデルを応用したものです。

例えば日本が自衛の為に自衛隊の強化や能力の拡大をする、日米の同盟関係を強化する、インドなどとも同盟を結ぶなどすると、その行動(軍備・能力)が中国から見れば脅威となります。中国は自国の安全確保として軍拡にすすみます。

実際に中国は公式には「自国の安全保障のための軍拡である」と言っています。

しかし日本は中国の行動を見てさらに防衛力を高める努力をします・・・といつまでたっても安心できる状態にはなりません。この状態を「安全保障のジレンマ」と呼びます。

 

日本はそれを避けるために軍備を極めて防衛的なものとし、能力の制限をしてきましたし、アメリカ以外との同盟は結んでいませんし、日米とも防衛関係費や調達先、研究開発項目、装備の能力なども可能な限り公開してきました。日米共同の軍事演習に際してはその場所や訓練目的の公開や視察の受け入れなども実施しています。

しかし中国はあらゆる情報を非公開としています。また環太平洋合同軍事演習(リムパック)に近年参加するようになった中国は海軍同士の慣例やルールを無視した行動を取るなどしています。これでは反感は買っても信用はできません。

この状態で防衛力の低下を招く行動や日米同盟を損なう行動はリスクを高め、かえって世界を不安定化させる要因になりかねません。特に東南アジア諸国は注視しています。

 

囚人のジレンマやスタグハントゲームでは相手を信用できれば(協調できれば)互いに有益であるにも関わらず、信用できないため結果的に損をする事があります。これと同様な事が起こっているのです。

 

アメリカの国際政治学者であるロバートジャービスは、「国家は安全を確保すれば戦争に訴えることは無い」と提唱していますが、そのジャービスも「国際社会は国家より上位の主体が存在しないため複数の国家戦略による相互作用が生じる」と主張しており、囚人のジレンマのジレンマのように2者間で考えるよりももっと複雑です。

しかしゲーム理論的に考えると、攻撃し侵略する場合よりも協調したほうが自国の利益が最大化される場合は協調を選ぶ可能性があると言えます。安全保障のジレンマは、軍事力そのものというよりも「攻撃力」と「防衛力」のバランスの問題であるとされています。しかし「防衛力」と「攻撃力」は明確な区分ができる訳ではありません。

どうやって互いに好ましい選択をするようにしていくのか。これはとても複雑で難解な挑戦です。酒を酌み交わせばいいとか、丸腰になればいいとか憲法9条を守っていればいいとかそんな単純なら既に戦争は無くなっています。

 

古代ギリシアの歴史家トゥキデディスの言葉ですが、「戦争が起きる原因は3つしかない それは「利益」か「恐怖」あるいは「名誉」だ 」と言っています。

恐怖させず名誉を傷つけないようにしつつ、協調こそが利益を得る方法だと互いが理解すれば戦争は起こらないのでしょうが、これがどうしてもできない。

しかしこれは人類共通の目標ではあるようです。

 

(写真はリムパックでの艦体行動の様子。Credit: US Navy)

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