海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

日米同盟の意味

G20直前、トランプ米大統領が「日米同盟は不公平だ」と言ったとマスコミではニュースになっていましたね。相変わらず面白い人ですね。

 

日米同盟は非対称

確かに、日米同盟は非対称です。アメリカは日本の防衛義務を負いますが、日本は集団的自衛権の範囲を超えての防衛義務は負わず、アメリカ本土どころかハワイが攻撃されていても自衛隊はハワイ防衛ができる訳ではありません。まぁ、トランプ大統領の言うように第三次世界の時に、日本はソニーのテレビを見ているだろうとは思えませんが。湾岸戦争の時はそうでしたが、なんせ世界大戦ですからね・・・・

 

見落としがちな点

日米安保はその点では非対称ですが、この条約によってアメリカは日本に基地を置き、日本の予算も費やして維持しています。

そもそもこの条約のカタチを決めたのは、日本の再軍備を自由にさせないようにコントロールしようとした結果であり、またアメリカが太平洋~インド洋、対ソ連・対中国などの共産主義国家などに対応するために日本に軍事力を置く必要があったためです。日本はお蔭で戦後復興が進みました。

 

地理的に重要な日本

最強の海軍と言われるアメリカ第七艦隊は、遠くインド洋までを任務地としており、その範囲は広大です。

艦隊には母港やドック、乗員の休息地などが必要ですが、日本はアメリカ本土~インド洋においてちょうど良い位置にあるうえ、かつての帝国海軍の名残もあって、巨大なドック、親米的な国民、高い技術と造船能力、本土以外では最大の燃料や弾薬の貯蔵量があります。

勿論ペルシャ湾東シナ海南シナ海、それらのシーレーンに戦力投射をおこなうには、日本はアメリカにとって好都合なのです。ハッキリ言いますが、日本が無ければアメリカの覇道は成立しません。

 

対中国にとっても

また近年中国の軍事的脅威が高まっていますが、アメリカにとって核抑止力を確保するには、中国の戦略原潜弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を遠ざける必要があります。今のところ、中国の戦略原潜ソ連時代の旧型を数隻保有しており、搭載ミサイルの射程距離もそれほど長くはありません。

この貴重な報復能力によってアメリカ本土・ハワイなどを核攻撃(報復)するなら、日本海や沖縄などの第一列島線を超えて進出しなければなりませんが、このラインは世界一とされる海上自衛隊の対潜哨戒能力によって監視されています。

もし、危険な兆候があった場合は、旧型で大柄な戦略原潜を見つける事は容易であり、ミサイル発射の為に潜望鏡深度まで浮上すれば、追跡していた自衛隊からの連絡を受けた米軍に即座に撃沈されることになります。

逆に言うと中国はアメリカに対して軍事的恫喝をおこなう為には、海自のディフェンスラインを突破しなければなりません。

日米同盟によって自衛隊は掃海、哨戒に注力できるので米軍の負担は相当に軽減されているはずです。

この点でも日米同盟はアメリカにとっても必要なのです。

 

本音は違う

今回の発言は日米同盟は日本にとって死活的に重要な同盟関係だが、アメリカにとっては、重要ではあるが死活的ではないと受け取るべきだと思います。

アメリカは覇権を握れなくはなるが、すぐに滅亡する訳ではありませんが、日本は中国・ロシア・北朝鮮に囲まれており、韓国も旗色は分かりませんし、狭い国土は縦深性が無いため、海という防衛ラインを突破されれば、まさに死活問題です。

NATOなどと比べても多くの駐留経費を負担している点は、トランプ大統領も評価しているところですし、マティス前国防長官も日米同盟の重要性は高く評価していました。軍事専門家はその事はよく判っています。「日米同盟破棄によりアメリカが得るものは何も無い」のです。

日本はアメリカとあらゆる点で深い関係性を持っています。アメリカが日本を守らない時、アメリカは多くを失います。

世界第三位の経済大国の信用、4億ドル以上のアメリカ製防衛装備品購入国、130か所以上の基地や軍事施設、1,200億ドルの貿易相手国、日本企業の雇用する80万人以上のアメリカ人、EU28か国よりもはるかに多い対米直接投資。これら全てがアメリカ経済に影響を及ぼします。

経営者でもあったトランプ大統領がこの事を軽視するはずがなく、来日前のこの発言はもっと対等になるような同盟関係に見直したいとのメッセージかもしれません。もし費用負担が増えるのなら、逆に地位協定をさらに見直すことや、日本の施政下にあるとした尖閣について、日本の領有権を明言させるなどの取引をおこなうなどすればいいだけです。

トランプ大統領は今のところ平和主義者のような振る舞いをしています。過去に例のないほど攻撃性の高い言葉とは裏腹に、実際に戦闘行動を米軍に命令したのは、効果のあやふやなシリアへの巡航ミサイル攻撃くらいのものです。今回のホルムズ海峡でのタンカーへの対処も今までのところ言葉だけの攻撃です。

 

マスコミは発言をセンセーショナルなものとして取り上げるだけでなく、もっと冷静な報道を望みたいと思います。

アメリカは中国の脅威に対抗する

アメリカは中国の脅威に対抗する事を決意したように思えます。

興味深いレポートが2つあります。

ひとつは、米国国防長官府が出した年次報告書の「米国議会への中華人民共和国に関わる軍事・安全保障上の展開2018」であり、もうひとつはアメリカのシンクタンクである、戦略予算評価センターの提言する新たな戦略「海洋プレッシャー」とその作戦構想「インサイド・アウト防衛」です。

 

債務の罠

年次報告書には、中国は増大した経済・外交・軍事力の影響力を行使し、一帯一路イニシアチブによって中国資本への依存度を高め、他国の利益を自国の利益とし、中国に対する批判と対抗を抑制しようとしているとしています。まぁ周知の事実なんですが。

オーストラリアのダーウィン港、ギリシャピレウス港、スリランカのハンバントタ港などの長期(99年)租借権獲得(その他の港湾も巨大投資をしています)や、対北朝鮮の為に韓国が配備した、終末段階高高度地域防衛システム(THAAD)に対して、観光客の禁止など外交的圧力を使ったりしたこと、尖閣に対する常時の接続水域への侵入やパトロール(※1)南シナ海での領有権争い、インドとの国境争いを問題視しています。(※2)

 

不法な技術取得

さらに報告書では、軍の再編と近代化を急速に進めるために、必要な外国技術取得に不法な手段を多用しており、民間の合弁企業、学生や研究者の海外経験、産業スパイなども活用し短期的能力向上を目指している。と明確にしています。党と軍、民間は非常に関連が深く、民生用技術の軍事利用も容易であることも問題視。また外国企業への制限を加速する法整備をおこなっていることも書かれています。ファーウェイを巡るカナダ対中国の人質合戦なども記憶に新しいですね。

 

台湾併合

中国は台湾の軍事力による統一を否定しておらず、その為の軍事オプションがいくつも存在し、それはアメリカの介入を許さず迅速に既成事実化するものである。と警鐘を鳴らし、中国が平和維持軍に注力するのは戦闘経験を積ませることや海外情報収集の為であり、現実に地域最大の軍であり装備の近代化、組織の改編、戦略投射可能な軍への改革を進め、新型の弾道ミサイルを開発し核戦力の強化をしている・・・

この辺で止めておきますが、もう何でもありです。アメリカの焦りが感じられます。アメリカはオバマ政権時に関与政策をとり中国には穏やかに接してきましたが、その間に軍の近代化をすすめ領域を拡大し経済を大きく発展させました。トランプ政権はアメリカの焦りの表れが生んだのかもしれません。

 

※1

従来は波高2m程度で海が荒れた場合は、中国の海警(沿岸警備隊に相当)は一旦引き上げていたようですが、現在はその程度では引き揚げず、海上保安庁にプレッシャーをかけ続けています。接続水域への侵入は常態化しています。これは主権の存在をアピールするためと、相手の疲弊と状態の慢性化を意図しているのではないでしょうか。次は時々領海侵入を繰り返し、その頻度を上げ、緊張のレベルを引き上げることと、日本側の対応を見極めているのでしょう。

海自ではなく海保、中国海軍ではなく海警。ここは重要な点です。過度に反応せず緊張を適度にコントロールできればいいのです。直ぐに勇ましい右側の方が「撃沈せよ!」とか馬鹿な事を言いますが、口実を相手に与えるような真似はしてはなりません。脅威はコントロールできれば良いのです。

 

※2

インドと中国に挟まれているブータンでは、中国による一方的な道路延長が行われ、国土の20%が中国に実効支配されているようです。小国で僅かな兵力しか持たないブータンに打つ手はありません。日本との関係を築こうとしているのも、このことがあってのことでしょう。

幸せの国ブータンの人々が平穏でいられるように、中国に対し外交的な圧力はかける必要があるのでしょう。眞子さまが訪問された事を日本のメディアは報じますが、その国の背景は報じない。ジャーナリストってなんなんですかね。

 

海洋プレッシャーとインサイドアウト防衛

さて、もうひとつのレポート「海洋プレッシャー」と「インサイドアウト防衛」ですが、端的に言うとアメリカは従来とは異なって巨大化し近代化された中国に対抗するための新たな戦略を提言しています。軍事的な解説は省き概要のみ纏めてみます。

 

既成事実化を阻止する

2014年にロシアがウクライナに対して行ったような迅速な併合は、その既成事実化によって不当な占拠がおこなわれた事実を覆すことができないことを証明しました。我が国の北方領土竹島のように既成事実化されたものは、なかなか取り返せないのです。

台湾や尖閣諸島に対してそのような行動が行われた時、同様な状況に陥る可能性があります。

そのため、新たな戦略を用いて中国指導部に軍事的試みを諦めさせることを主眼としています。(防衛的・拒否的抑止)

所謂第一列島線(九州~沖縄~台湾~フィリピン~ボルネオ)に大量に分散配置される対艦・対空ミサイルと支援するネットワークを確立すること、第一列島線内側は自衛隊海兵隊が監視し、外側には艦艇、航空機が控えることでバックアップする。迅速な対応によって既成事実化を防ぎ、懲罰的な軍事行動や封鎖の時間稼ぎをおこなう。

このような事を中国に分からせることで、コストのかかる大規模な紛争へのエスカレーションを防ぐことを目的としています。

ロシアとのINF条約によって、中距離弾道ミサイル巡航ミサイルの制限があったアメリカと異なり、中国はこの分野では優位に立ってきましたが、INF破棄を決定した今、アメリカはミサイルの射程延伸などを通じて中国に中距離ミサイルに対応するためコストをかけさせることができるようになります。

 

日本の重要性

このように対中抑止としての方策を提言していますが、文中に「同盟国とパートナー国が・・・」と言う文言が沢山見られます。つまり日本と自衛隊が非常に大きな役割を担うことになりますし、南西諸島の基地化や沖縄の重要性がますます増大することは間違いありません。日米同盟強化と深化は益々重要になってくるのです。

海自潜水艦と陸自の対艦ミサイル部隊はインサイド戦力として、空自の早期警戒網はセンサーノードとして重要な役割を担うことになります。

 

台湾を併合したら南シナ海は中国の聖域になります。そうなると沖縄~南西諸島は時間の問題。アメリカはグアム・ハワイに退くかもしれません。そうなると我が国の持つ広大なEEZをわがもの顔で利用するでしょう。自衛隊にそれらを排除する戦力はありません。中国のわがままを拒否するためには我が国は非常に重要なプレーヤーです。

「かが」と「加賀」~フネの名前~

先日、日本に国賓として来日したトランプ米大統領

最終日に、海上自衛隊保有する最大のヘリコプター搭載型護衛艦・かが(DDH184)に乗艦しましたが、この「かが」という名称は2代目にあたります。

 

艦名の決め方

艦名には一定の規程があり、この規定の正式名称は海上自衛隊訓令第30号・昭和35年9月24日付の「海上自衛隊の使用する 船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令」によって定められ、機動艦艇(一般的に言う護衛艦)は「海上自衛隊の使用する船舶の名称を選出する標準について(通知)」によって同型艦は同系統のものを用いるとされています。

訓令30号の別表には従来なかったFFMという艦種が載っています。(付則・平成30年4月1日)FFMとは海上自衛隊が新たに調達する新型の艦艇です。

 この訓令に則って1番艦を「いずも」2番艦が「かが」と名付けられているのですが、どちらも律令時代の旧国名出雲国」「加賀国」に由来しています。前級の「ひゅうが」「いせ」も「日向国」「伊勢国」です。

帝国海軍時代にも命名基準はあり、旧国名は「戦艦」に名付けました。「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」などです。

 

初代・加賀

初代「加賀」も実はもともと戦艦として起工され、途中で解体の危機があったものの免れて航空母艦(空母)「加賀」として昭和3年竣工しました。

空母になぜ戦艦の名前がついたのかというと、空母自体が新しい兵器であることもあって、起工時には命名の明確な規定がなかったこと、途中で戦艦から空母へ艦種を変更した事などがその理由です。

 

この「加賀」は当初飛行甲板が3段になっており、今でもマニアには人気ですし、アニメ宇宙戦艦ヤマトの敵役・ガミラスでは3段型空母が登場しています。この3段は不都合が多くてその後に改装を受け1段だけの全通甲板になりましたが、戦艦からの改装が幸いして船体が幅広いため高い安定性と大きな飛行甲板を持つ就役時から戦争の終盤まで海軍最大の空母でした。

上海事変真珠湾攻撃、南方での作戦に従事しましたが、ミッドウェー海戦で戦没しています。

 

海自の「かが」もヘリコプター搭載型護衛艦から、改修をうけて固定翼機(F-35B)搭載可能な艦になる事を考えれば、なんだかゆかりのようなものを感じます。

イージス護衛艦が「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」「あたご」「あしがら」「まや」など、山岳名。旧海軍では重巡洋艦につけられていた名前ですが、まぁ妥当なところでしょうか。

 

人名は使わない

来日時にトランプ米大統領は、在日米軍横須賀基地を訪問し強襲揚陸艦「ワスプ」に乗艦しましたが、その際に横須賀に停泊している修理中のイージス駆逐艦「John S McCaim(仲が悪かった上院議員の名前)」(艦尾に書いてある)のペイントを隠したそうです。

海上自衛隊の艦船には人名は規定されておらず、このような心配はありません。例外的に南極観測船「しらせ」がありますが、建前は日本人初の南極上陸である白瀬中尉由来ではなく、南極の白瀬海岸を由来としたから問題ないとしたとか。いや、そもそも海岸名が人名由来ですから・・・ある意味日本的です。

 

艦内神社 

さて、護衛艦や帝国海軍艦艇の多くは「艦内神社」があります。「加賀」「かが」どちらも石川県白山市の「白山比咩神社」が祀られています。乗員は参拝してるのでしょうね。私も地上からですが航海の無事を祈っています。

軍事力の使い方の分類

「軍事力」と言ってもその使い方がいくつかに分類されています。今回はそのうち「抑止」「強要」を概観します。

多くの研究がされており言葉の定義やその範囲など細かな点では不一致がみられるものの、大まかにはほぼ同じようですが、この分野では2005年にノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリング博士の著作「紛争の戦略」(ゲーム理論を使った研究)が有名です。 これには「力ずく」もあるんですが今回は省きます。

 

以前にも書きましたが、最も研究されており重要なのが「抑止」です。相互のバランスをとって有事に至らないようにするものです。軍事力という強制力をもって現状維持をはかるものです。

これにはおおきく3タイプの分類があります。(線引きが曖昧で厳格に分類できない場合もあります)

 

〇懲罰的抑止・・・「攻められたら反撃するぞ。」

 例えば、核による相互確証破壊。核攻撃するなら核によって反撃するので相手は手を出せない。(暴発されたら世界の破滅)

 日米安全保障条約なども該当しますね。「日本を攻めたらアメリカが反撃するぞ」ですし、今回のトランプ大統領訪問では「アメリカは令和初の国賓として来日し天皇陛下と会談するほど強固な同盟関係だ。だから日米安保は信用性が高いぞ」となり、抑止力を間接的に向上させています。紙切れの約束が何の役に立つんだ?と言う人がいますが、「もしかしたら・・・」が重要なんですよ。

 

〇拒否的抑止・・・「攻めても無駄だぞ。」

 例えば、イージスアショアなどのミサイル防衛システム。ミサイル攻撃してもかたっぱしから迎撃され効果が上がらず無駄になる。コストもかかる。そのうえ攻め手は国際的な非難を浴びるのは必至。

でも拒否的抑止にはお金がかかります。全て想定される事態に対応する装備や人員などはとても賄えるもんじゃありませんし、装備の更新や教育訓練費用も大変です。そのため、脅威度を判定し優先順位をつけて対応します。

過去、米ソ冷戦時代にはソ連の脅威が高かったため、北海道に陸上自衛隊戦車主力が駐屯していましたが、順次整理縮小廃止され、今は対中国に備え、水上艦艇の拡充や水陸機動団の創設など南西諸島防衛に向けた改変がされています。戦車ファンにとっては若干寂しいですが。

 

〇報償的抑止・・・「止めたらご褒美をあげよう」(いやなら武力で・・ゴニョゴニョ・・・)

 例えば、1994年の米朝枠組み合意。核開発の代わりに軽水炉を作ってあげたり、原発が発電できるまで発電用重油を供給してあげようとしました。しかしこれは失敗した好例?です。その間に核開発を極秘に進められてしまいました。

などがあります。

 

それと対のように言われるのが、「強要」と呼ばれるものです。

例えばA国がB国の現状に対し、A国が軍事力を強制力として使用すると脅す威嚇をおこない、B国の現状変更を要求、B国は威嚇されることでやむを得ずA国の要求に従った行動を選択するものです。

一般的に外交交渉とともに併用される手段でありA国の要求を達成するには、B国の行動が必要な場合には効果的な戦略とされています。

ただし軍事力行使や威嚇がどの程度なら「強要」に該当するのかなどは、明確な定義がないようです。

これにも「懲罰的」「拒否的」の2分類があるとされています。

〇懲罰的

B国がおこなう行動で得る利益以上のコストを課すぞとA国が脅すこと。

この場合はB国が課されるコストを受け入れてしまえば、A国はその行動を阻止できない場合があり得ます。そうなった時には、A国は実力行使にでるか諦めるかになってしまいますし、実力行使に出た場合でも、その強度次第ではA国にも相応のコストがかかり損得勘定が難しくなります。

〇拒否的

B国が選択した行動でB国が得る利益を得られないように阻むぞと脅すこと。

これによってB国の行動を変える事を目指します。

 

ざっと見ただけでも武力行使に至る前には多くの戦略が考えられます。

武力行使はどの国にとってもコストがかかるものであり避けるべきものでしょうが、どの線を超えたら武力行使をすると判断するのかは、国家の事情、国際関係、経済、文化、政治などの諸条件が左右しますので、明確な決まった閾値がある訳ではありません。

ですから、平時こそ正確な情報分析、それに基づく適切な軍事力整備、官民それぞれのあらゆる交流や外交努力、経済の深化などあらゆる手段を講じなければなりません。

特に我が国では法、資源の海外依存度の高さ、自衛隊の戦力などにおいても使える手段は限られます。

この点を理解していないと、丸山穂高議員の発言になります。その点で彼は安全保障を語る資格のある議員とは思えませんので、前回「辞職」を求めました。それもクリミアを併合するようなロシア相手に・・・

 

 

 

 

 

丸山穂高は即時議員を辞職せよ

維新の会 丸山穂高議員の発言が物議を醸しています。

全く国会議員のレベルとは思えない。酒の席の戯言としたら、彼は2016年に「在職中、公私とも禁酒する」と宣言しているのです。

私は多少なりとも安全保障に興味を持つ者ですが、「戦争」そのものは絶対悪なのです。

如何に戦争をせずに安全を担保するのかが肝要であって、その為に集団安全保障体制があり、政府があり議会を構成し、自衛隊保有しています。


多くの研究機関やシンクタンクはその為に、各国の情勢分析をしているのであり、戦力分析を行い、バランスをとろうとしています。如何に平和を作るか・・・この事を少しでも理解する一助になるならと思い、ブログに投稿しているのです。

 

確かに法的には不法行為による武力によって占拠されている「北方領土」(法的な不当性については過去に投稿していますので割愛します)ですが、奪還の為の武力行使となれば、先制攻撃が必須ですので、国際法憲法どちらにも違反することになります。

 

基本的に武力行使による現状変更は、始めた側が「侵略者」です。「侵略者」から「奪還」するのは、自衛権の行使ですので意味は大きく異なります。その観点からも、国際世論は味方になりませんし、ロシアは国連で拒否権を持つ常任理事国です。あり得ない話ですが、根回しがうまくいき国連安全保障理事会で、ロシアの不法占拠が認められ、日本の武力行使が正当性を持つ決議が提出されても、露・中の拒否権発動で終わりです。


武力による現状変更を「是」とするなら、尖閣諸島を中国に武力によって占領されても「是」としなければなりません。
ロシアによるクリミア半島占拠も彼は「是」とするのでしょうか。「非」だからこそ、ロシアは各国から制裁をされているのに。

 

そもそも自衛隊の装備と能力ではそもそも武力奪還は不可能です。北方4島に上陸できるだけの装備と人員もなく、千島などに配備された多数の対艦ミサイルをどう掻い潜って上陸するのか。
兎に角も米軍の力が必要ですが、米軍は対中、対北朝鮮、対イランと忙しく、現状でも手一杯。ロシアに対応する事はできませんし、日米安保で防衛の義務は負っても、日本の先制攻撃の片棒を担ぐ義務はありません。

 

戦争を始めたとして、彼には戦争のエスカレーションを防ぐ手立てはあるんでしょうか?ある訳はありません。武力行使は強度のコントロールが重要なのです。

 

国会議員である者が、なんの認識もなく「戦争で」という発言をおこなうのは、大ばか者としか言えません。
先の大戦では軍民300万柱の犠牲をうんだ痛みを、たった73年で忘れたのでしょうか。

 

丸山穂高議員に即時辞職を求めます。

 

(久しぶりなのに、こんな形での投稿とは・・・)

 

自衛隊の任務

自衛隊には実に多くの任務が課せられています。意外とうろ覚えだったりするので纏めておきたいと思います。

 

カリアゲ君の先軍政治の国と異なり、我が国は民主的手続きで選ばれた文民である国会(議員)が予算と法律を、国会が指名した内閣総理大臣防衛大臣自衛隊の行動を指揮していますし、重要事項は国家安全保障会議で議論します。一部の行動については国会の承認(事後・事前)を得ることが必要です。自衛隊の役割は法律「自衛隊法(略称:隊法)」によって規定されており、当然これを逸脱する事はできません。

 

自衛隊法3条1項

自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。」

とあり、第六章には「自衛隊の行動」として76条~86条で詳細に規定されています。

 

まずは3条1項にあるように

 

【主となる任務】=我が国の防衛をすること

【従となる任務】=必要に応じ公共の秩序維持にあたること(必要に応じとは、一義的には警察機構が担い、能力が不足する場合には自衛隊が補完的役割を果たす)

 

これらを、「本来任務」と呼んでいます。

 

【主となる任務】

・防衛出動

・防衛出動下令前の展開予定地域に防御施設の構築

・防衛出動下令前の行動関連処置(米軍への物品提供や役務の提供)

【従たる任務】

・国民保護等派遣

・治安出動(命令/要請)

・治安出動前の情報収集

海上保安庁の統制

・施設警護(自衛隊施設、在日米軍基地)

・海賊対処

海上警備行動

弾道ミサイル破壊処置

災害派遣

地震防災派遣

原子力災害派遣

・領空侵犯処置

・機雷除去

・在外邦人の保護・輸送 

などがあります。

 

弾道ミサイル破壊処置

北朝鮮のみならず、弾道ミサイル技術の世界的拡散は我が国の安全にとり脅威です。中国、ロシア、韓国なども我が国に到達する弾道ミサイル保有しています。そのためこれらに対処する為にイージスシステム搭載護衛艦PAC-3、レーダー網の整備を進めてきました。

武力攻撃となるなら「防衛出動」で対処可能ですが、突然ミサイル発射があった場合やその兆候が認められる場合、その段階では我が国に対する「侵略」「急迫不正の侵害」に当たるかどうかはわかりません。また、人工衛星や打ち上げ用ロケットの落下など「武力攻撃」でないものが落下してくるかもわかりません。それらに備えるための任務です。

これをさらに重層的かつ強固にしようとするものが「イージスアショア」です。(個人的にはレーダーをSPY-6を採用せず、LMSSRを採用したのには不満がありますが、アメリカの都合もあるんでしょうし政治的なものもあるようです。)

 

〇在外邦人輸送

在外邦人の輸送は以前は「付随的任務」だったのですが、「本来任務」に格上げされています。輸送方法は基本的には政府専用機(空自が運用)ですが、使用中であったり、滑走路が足りない、収容人員が不足するなどの場合に備えて、艦載ヘリコプターやC-130Hなどの輸送機、場合によっては車両も使えます。数度の改正で輸送手段は柔軟になってきています。

護衛艦ならば艦載ヘリでピストン輸送する事が可能です。特に大型の「ひゅうが型」「いずも型」などは、同時運用できるヘリも多く、収容場所、医療設備もあって適切な邦人救出ができるようになっています。

ただし、保護した人員や自衛隊員の安全確保のため、派遣する空港などの設備・管制などの安全確保がなされている事が条件です。

 自論ではありますが、政府専用機は数を増やす必要があると考えています。総理と外相、財務大臣などが別々に行動する時などもあるでしょう。その際に民間機では・・・政務に支障がでませんか?

また第3条2項には1項の任務遂行に支障をきたさない限度での任務として、

「後方支援活動」があります。

一口に後方支援と言っても多様で、重要影響事態、国際緊急援助活動、国際平和協力業務、国際平和支援、などのそれぞれの法律に基づきます。

 

例えば84条5項-3には、国連平和維持活動で、大規模災害時に活動する他国軍隊に対して物品の提供を行えますが、相手国は「アメリカ・オーストラリア・イギリス」の軍隊に制限されています。

100条6項、8項、10項には「米・英・豪」の3か国に対する後方支援活動についてそれぞれ規定しています。

 日米英豪の連携は夢のよう

先の大戦ではこの三か国相手に戦争し、悲惨なガダルカナル島争奪戦は、米豪の連絡を遮断する目的で行われました。米軍は輸送船を容赦なく沈め、日本軍は兵糧攻めになり餓死者が戦死者を上回る戦いでした。

開戦劈頭、日本海軍は航空機で英の新鋭戦艦「プリンスオブウェールズ」をマレー沖海戦で沈めました。これは作戦行動中の戦艦を航空攻撃のみで沈めた世界初の出来事で、当時のチャーチル首相がかなりキレたそうですね。

時代は変わりました。そう考えると感慨深いものがあります。

日米同盟の深化と最近ではイギリスとの防衛協力もかなり進んでいます。日英同盟の復活はなかなかあり得ないですが。

 

【付随的な業務】

これには意外なものもあります。

・土木工事受託

・教育訓練受託

・運動会への協力(大きな大会など)

・南極地域観測への協力(砕氷船しらせ)

国賓輸送

・不発弾処理 

 

余談ですが、「しらせ」を防衛省では砕氷艦文科省では南極観測船と呼称しています。建造費は文科省、運用・船籍は海自。当然軍艦旗を掲揚しており、国際法上は軍艦です。ただし固定武装はありません。

 

国賓輸送は以下の人が指定されています。

天皇と皇族 ・国賓に準ずる賓客 ・衆参両院議長 ・最高裁長官 ・内閣総理大臣 ・国務大臣 です。

陸上自衛隊ではEC-225LP 通称:スーパーピューマを3機購入、搭乗人数を減らして改装しローテーション運用し要人輸送に使用しているそうです。要人輸送用なのでさぞかし内装は豪華だろうな・・・見てみたいものです。映画シン・ゴジラではゴジラの光線で閣僚もろとも破壊されました。ショッキングなシーンでした・・・優柔不断だった総理(大杉連)が決断力を見せてきた頃だったのに・・・

 

もうね・・・ただでさえ人員不足なんです。予算はあまり増えない。人も増えない。中露韓朝など周辺国は友好国では無いため、陸自の南西諸島への駐屯地の進出、イージスアショアの設置、FFMと呼ぶフリゲート護衛艦の数も、他国との演習や任務もどんどん増える。

災害派遣を要請する場合、地方自治体の首長が「災害派遣」を防衛大臣に要請できるが、自治体は自衛隊募集に協力的でない・・・自衛隊員は降って湧いてくる訳ではないですよ。いざとなったら海外の邦人救出もするのに、基地周辺には「自衛隊No」なんて看板たてたり、ミサイルは怖いくせにイージスアショアは嫌だとか・・・

 

勝手じゃないですか?いつも書きますが自衛隊を国民が支える事は国民自らの安全を高める事です。  と・・・最後に愚痴を。(^_^;)

 

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スーパーピューマ

写真引用元:陸上自衛隊HP Googleフォトより。

防衛産業は経済に貢献するか

安全保障は国家の義務

国の所得=消費+民間投資+政府支出+純輸出 が基本で 、防衛費は政府支出ですが、この政府支出が「公共投資」であるなら、インフラ整備などに使われたりしますので、民間投資を呼びこみ再生産する活きたお金になります。それによって新たな産業も起こりますし、道路なら輸送の効率化が進み、新商品を開発し消費を喚起し企業収益に貢献しますし、教育なら優秀な人材育成に繋がり、財の創出に貢献するでしょう。結果的に国を富ませることになります。それとは異なり防衛予算は再生産されないお金が殆どです。弾薬に至ってはボカン!で終わりです。例えばいくら高性能な護衛艦でもフェリーやタンカーのようにヒト・モノの輸送に使えません。民間船を守るために使うので間接的で、護衛艦の運用そのものは財を生みません。また、民生用の生産に使えたはずのヒト・モノを使うので、再生産しないものに民間リソースを使うことになります。

国内の軍需産業は儲かるのか

軍事関連産業は儲かるじゃないかとの意見が聞こえそうですが、先だって「コマツ」が軽装甲機動車から撤退したように、そのままを市販できません。生産数が計画で決められ量産効果も出ず、不備があった場合の負担、実践での損失もおきないので増産も無く・・・儲からないので、政府は高値で買うことになります。これすなわち税金です。

このように兵器等の国内需要が限られているので、企業が儲ける為には「世界標準仕様」や「相手先仕様」の派生型などを作るなりして海外輸出する事ができればいいのでしょうが、従来あった「武器輸出三原則」は実質的に武器輸出を禁じており、この縛りが長く続いた結果、兵器市場での競争力、ノウハウを全く持たない我が国の防衛産業が、輸出条件を大きく緩和した「防衛装備品三原則」になったからといて、バンバン輸出ができるほど甘くありません。そのうえ武器の輸出に積極的になると、「死の商人」などの悪いイメージが生まれることによる企業イメージの悪化もあるためか、企業側もあまり大型の案件での売り込みに消極的なようです。競争力の強い自動車や半導体などは長い期間、苦労を積み重ねてきたのですから。

平和の配当

このように企業にとっては儲けが出にくいうえ、限りある国家予算から、防衛費を増やせば政府支出としての民間への公共投資が減るので、(危機があって不景気という場合以外は)政策として「国家予算のうち軍事支出が占める割合の増大」は得策ではなく、政府としては防衛費は抑えるべきもの。また憲法上は、自衛の範囲に留まる防衛力整備に制限されている事もあって防衛予算の伸びは抑制する力が働きます。長期安定政権である安倍政権でさえ、北朝鮮・中国の脅威がこれほど高まっていても、増額はしてもGDP比1%を超える事はできていません。

武器生産を拡大することは、企業の生産能力を再生産しないモノの生産の為に奪うことになりますので「軍事予算の急激な拡大」はヒト・モノ両面で「財」の喪失を発生させることになりかねません。 

一般的に軍事費削減に対する民間部門の拡大は『平和の配当』と言われます。事実、日本は「日米安全保障条約」によって、軽い防衛費で済ますことでそのお金を民生部門に回し経済成長を遂げてきました。

 機会費用

軍事費(防衛費)に多額の投資をすると経済活性化するなんて話は、数字を見る限りでは第二次世界大戦朝鮮戦争までのようです。朝鮮特需なんてのもありました。

脅威や戦争が無ければもっと豊かになるために使うことができた財を、武器弾薬、戦後復旧に使う事になります。一次的には武器等の生産や破壊された町などの復旧に使うため、政府支出が増えて経済が回るから、戦争中より豊かな感じはするでしょう。

でも戦争がなくそもそも破壊されていなければ家を建て直すこともなく、新車や洋服に消費できるのだから、戦争や脅威がなければ最終的にはこちらのほうが利益が多いと考えられます。本来つかうことができた財を使う事ができなかったことで「機会費用」がかかります。

戦争の場合 -1から0に戻すことで、1の増 =実質0

戦争がない 0から1増える 1の増加 =実質1

人も同じで、ある人が戦死した場合は、その人が生きていたら生みだしたはずの「財」を失うので同じです。見えないだけです。

あくまで理想論としては「防衛にお金を使うくらいなら福祉に!公共投資に!」と言うのはここまでは否定できません。

 

 

防衛費用の必要性

 防衛産業はすそ野が広く、正面装備品(護衛艦とか潜水艦とか)を国産化することは、大型の案件なら数千の企業が関わりますので、経済に全く貢献しない訳ではありませんし、機密保持も比較的容易です。安易な防衛装備品の輸入は財の流出に繋がります。自衛隊員の人材育成・教育・訓練や福利厚生、棒給を向上させることは、士気の向上に繋がるでしょうし、優秀な人材確保に繋がります。防衛研究開発は民生利用に転用できるものも多く、勿論全てではありませんが、日本の防衛研究はその研究結果を公表し民生利用を促しています。また、防衛装備品の海外依存は、「安全の質」を海外に依存することになりますので、リスクも負いますし、日本独自に要求される性能・能力もあります。ここは見極めが大事です。

中国・韓国・北朝鮮・ロシアなどの脅威も高く、太平洋の防波堤の位置にあり、また、「日米安全保障条約」を中心とした従来の軽い防衛力整備はアメリカの国力の低下に伴い、責任分担を求められつつあります。中露の領空領海侵犯、北朝鮮の核、韓国の姿勢、尖閣竹島北方領土問題、シーレーン防衛など国家に関わる諸問題には一義的に自国で対処するのが当然です。日米安保体制はアメリカの都合もあって強固な同盟とは言えますが、神聖視すべきではありません。

 

 

安全の度合いは定量的に測れるものではありません。見方を変えれば「高い防衛力があればこそ安心があり、安定的な経済活動が維持できる」のだとすれば、安易に防衛力を低下させることはかえって機会費用がかかることにもなるかもしれませんし、確かにある種の公共投資とも言えるかもしれません。

世界や周辺国の様子を見ると、とても丸腰ではいられませんが、かといって安易に防衛に費やす訳にもいかないのが「防衛費」。どこまでコストをかければ良いのか、国内開発・生産の比率はどれくらいが適切か、海外調達はどの分野で規模はどれぐらいが良いのか、コストに見合った防衛力を維持しているか、判断が難しい。

 

トレンドは国際共同開発

因みに防衛装備品は昔と異なり、高度な技術力と高額な開発コストが必要となり、アメリカでさえも単独開発よりも国際共同開発に移行しているものも多くあります。最新鋭ステルス戦闘機F-35もそうです。その為の「防衛装備品三原則」なんです。

F-2戦闘機、F-15戦闘機の退役を控えての後継機の問題もあります。「自国開発」「共同開発」「輸入」それぞれ一長一短。輸出案件では飛行艇US-2、そうりゅう型潜水艦、P-1対潜哨戒機などの大型案件の動きに注目したいと思います。

 

平和ボケ

日本が「平和憲法だ!」とか「専守防衛だ!」とか内に籠って議論してるうちに、世界の潮流からドンドン取り残されています。結局損をするのは自分自身(日本国民)です。コスト高の武器を揃えるので数は揃わない、コストがかかるのでその分民生部門の政府支出が目減りする。丸腰になってなにかあっても丸焼けにされる根性も無い。でも米軍基地はヤダと言う。

憲法前文の一部「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して~」その結果、どこも同様な憲法を採択していないし、世界中どこかで戦争は続いているんですけどね。その現実を見据えての議論が欲しいものです。