海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

中国のA2AD戦略と日本の戦略

中国はA2AD(Anti-Access/Area Denial・接近阻止/領域拒否)と呼ばれる戦略をとっているとされています。簡単に言えば中国が脅威を感じているアメリカに対してとる戦略で、海軍と空軍を主力としてできるだけ遠方で米軍に脅威を与えることと、近海においても自由な活動をさせない作戦のことです。

その為に

1.南シナ海岩礁を埋め立て基地化することで、米軍の活動を阻害する

2.東シナ海において鹿児島~沖縄~台湾のライン(中国側呼称:第一列島線)を超えての海軍力の自由な展開

3.近海域へ米韓艇の侵入阻止のための能力構築

4.遠海域での高度な情報収集と伝達能力の向上

5.初撃の攻撃力の向上

などを着実に実行しています。

1・・・既にファイアリークロス礁については基地化しレーダーと対空ミサイルの配備や大型艦艇の寄港が可能な港湾整備など関係国の非難にも関わらず進め、「軍事基地である」と公表。また海外に拠点を確保(ジブチスリランカなど)しつつある。

2・・・尖閣を始め宮古海峡などの頻繁な通過、太平洋への進出、尖閣上空を含めた防空識別圏ADIZ)の設定など。

3・・・攻撃型潜水艦は2000年ごろは5隻程度だったのに対し2020年ごろには70隻程度になる。これらは魚雷以外にも対地攻撃用巡航ミサイルを装備しているとみられる。空母は国産化で4隻体制にするとし、052D型駆逐艦(中華イージス)は10艦以上でさらに増勢中。新型も建造中。

4・・・人工衛星や沿海部の超水平線レーダーの設置など。

5・・・多数の長射程巡航ミサイル弾道ミサイル(通常弾頭)の配備による、在日米軍基地、自衛隊基地への攻撃力向上。

6・・・強襲揚陸艦などによる輸送力の増大

などを実施しています。

 

中国はまず上記1~6の目標を設定し着実に達成しつつあります。米海軍の接近を拒むことができれば、台湾の武力併合を行うことも可能になるでしょう。第三次台湾海峡危機の折、アメリカ(クリントン政権)の空母打撃群(艦隊)による大規模な威嚇に屈して、台湾の脅迫(併合を意図した行動)に失敗した経験を活かそうとしています。

フィリピンから米軍を追い払い(1992)、沖縄での米軍活動を情報戦によって縮小させ第一列島線(鹿児島~沖縄~台湾)の海底地形、水温など各種の海洋データ収集をすすめ、国境付近でせめぎ合っているインド封じ込めの為にスリランカ(ハンバントタ港)、日豪分断の拠点にオーストラリア(ダーウィン港)の99年租借権の確保などで日米を容易には接近させず、一気に台湾を併合する・・・ありえないでしょうか?

 

日本はイージス艦数は日本6艦(2艦建造中)潜水艦数では22艦(予定)潜水艦はすべて通常動力型で原子力潜水艦はありません。巡航ミサイルはこれからで弾道ミサイル保有せず。

沖縄への軍事侵攻を危惧する意見も見かけますが、これは無いとみています。潜水艦哨戒の為の対潜哨戒機は沖縄に多数配備されていますが、弾道ミサイルでこれを攻撃すると哨戒能力は激減します。ただし沖縄の攻撃は米中戦争にエスカレーションするのでまずありませんが、その潜在的脅威は沖縄への恫喝となり、米軍のグアムへの移転など後方へ下がらせる圧力となります。しかし沖縄に米軍基地を置き続けると、前述のように実際には攻撃は無いため、沖縄の安全性は高くなります。かつてのフィリピンのように米軍を追い出した結果、南シナ海で中国の勝手なふるまいを許すことになりました。

 尖閣については「台湾の次」でしょう。台湾と尖閣の両面作戦をするほどの実力が備わってはいないと思います。特に指揮統制についてはまだまだでしょう。

 

このA2ADに近い事はすでにアメリカも実施していますよね。日本とNATOの形で米軍基地を設置する事で。こう考えると、アメリカの安全確保のためには前線基地として日本は必須となり、日本を見捨てることはハワイ、グアムなどの米軍の根拠地や、ひいては本国に中国の接近を許すことになります。これは私が日米同盟を支持する理由のひとつです。アメリカは日本をなかなか捨てられない。守らざるを得ない。

アメリカは太平洋・大西洋に挟まれていた事で他国の攻撃を受けずに繁栄してきましたが、シーパワーの重要性を説いたアルフレッド・セイヤ―・マハン(1840-1914)が「海洋権力論」を書いた頃は、海が障壁として大きな意味を持っていました。

しかし少しづつその「壁(海洋)」は低くなってきています。この「壁」は今まではアメリカが独善的に利用し守ってきました。アメリカの安全保障のコストとして海外に米軍基地を置き、その過程に置いて最も必要だったため、日本に本国以外では最大の軍事力を提供してきています。しかしアメリカの国力は相対的に低下しており、日本は国益の為にも、法による海洋統治の為にも、もっと強くならざるを得ない時代にはいったと思います。しかし日本はGDPも人口も技術開発力も国土の広さや資源量でも中国には歯が立ちませんが、まずはそこを自覚したうえでこの国をどうするかを考えていきたいと思います。

 

欲しいもんめっちゃ買う。

 

選択肢が無い国政選挙が行われるのがこの国の最大の不幸だといつも思います。

一昔前なら「戦争をする気か!」と社会党あたりが大騒ぎしていたんでしょうが、現在の野党は全く力不足。「もりかけ」で個人攻撃してる暇があったら、現状をちゃんと勉強して分析し今回の導入・調査・検討が適切かどうかをしっかり審議してもらいたい。

いざ有事に無駄だったり使えないとか、法律が~とか言えませんよ。それは政権党の責任だけでは無く、提案しなかった野党の責任でもあります。どこかの芸人みたいに「無責任丸腰論」は政治家にはありえないでしょう。

一方、与党に求めたいのは、安全保障と防衛力の意味を考えて欲しいと思います。

一義的には「相手から攻められない。攻める気にならない」状況を作ることであって、武器を揃えれば良いというものでは無いはず。どのような武器を持てば最も抑止となるかが大切で、武器は使わないままその寿命を終えること。これは抑止が効いた状況です。相手が攻めたく無くなる装備・運用方法・法体系・組織をしっかり作ってほしいと思います。抑止力は複雑な要素(外交・文化・経済~)で構成されるもの。

また、「力でしかわからない相手には力で知らしめる」「やるならやられるリスクを負わせる」「不当な武力には毅然として立ち向かう」こと。これが防衛力の意味。

有事に如何に国を国民を守るか。与野党問わずその青写真をもっと提示してほしいものです。野党は「丸腰でも大丈夫」というならその根拠と道筋、コストを示すべきで、それでこそチェック機能を果たすことになります。夢や理想でミサイルは止められない。

    

     ほんとちゃんとして~

 

さて、ここ最近で自衛隊が買うとか研究するとかで名前が出た兵器などを羅列します。(ちょっとしたまとめのつもりです)

 

・イージスアショア

何度も書いてきましたが、陸上版イージスシステム。陸上にSPYレーダーとVLS(垂直発射器)電源などをセットにして設置。ミサイル脅威に対応します。導入されるSM-3Block2Aミサイルは弾道ミサイル対応、SM-6ミサイルは巡航ミサイルに対応します。2基で日本のほぼ全域をカバー。実績を積めば今後ミサイル防衛強化の為にもう1基導入するのでは?レーダー作動時には近づかないで下さい(笑)

イージスアショアおさらい - オレ様的夜ネタ ~平和を守るために~

 ・電子戦機EA-18Gグラウラ―

FA-18スーパーホーネット(戦闘機)を改造した電子戦機。敵地に侵入し敵レーダーや通信網の妨害、電子情報収集、データリンク中継などを行う現代戦では必須アイテム。日本は本格的な電子戦機は保有しておらず、導入は空自の悲願だった?

話題の多い海自と災害派遣で活躍する陸自。空自はスクランブル対応など多忙にも係らずイマイチ影が薄い印象がありますね。主な任務が空では一般人の目に触れることはあまり無いせいなのかも。

 ・DDHいずも空母化の検討

まぁ元々が固定翼機(F-35)の搭載を考慮しての設計のようで、甲板は耐熱化済みという話もありますが、他にも改造点は多少あるでしょう。発艦の為のスキージャンプ勾配を取り付けたらバランスが悪くなったりしないのでしょうか?

ともかくも近年増えた気がする米空母との訓練はこれを見越してかもしれませんね。中国と異なり日本は米海軍という見本がありますからノウハウの習得は早いと考えられ、「いずも」は固定翼機運用のためのノウハウを集積する意味が大きいのでしょう。海上自衛隊DDH(ヘリ空母)の副長は、ウイングマーク付き(パイロット出身)ですし。一度お会いした方はスマートな紳士でした。

運用実績を積んで次は「強襲揚陸艦にF-35B搭載」でしょうか。因みに先の大戦(開戦時)には世界一の空母大国でした。

 ・島嶼防衛用高速滑空弾と島嶼防衛用新対艦誘導弾の研究

ステルス性の高い長射程のミサイルは、自衛隊が将来備えようとしている能力の「敵基地攻撃能力」「スタンドオフ」攻撃(敵の射程外からの攻撃)に必要なものですね。例えば尖閣に敵部隊が上陸を開始し対空ミサイルを配備した。F-15戦闘機や護衛艦で近づいて攻撃するのはリスクが高いため、沖縄などからこのミサイルを発射し対空ミサイルやレーダーを破壊するなどでしょうか。研究となっていて防衛省の説明もイマイチはっきりしません。

 JSM空対艦ミサイル(取得)長射程ミサイル・JASSM-ERとLRASM(調査)

相手の射程距離も伸びたのでこっちも長くします。長距離を飛ぶのでどうしても発射から着弾まで時間がかかりますが。相手の射程圏外から攻撃できるので発射する側は比較的安全です。F-35のようなステルス能力の高い戦闘機なら近づいても大丈夫かもしれませんが、自衛隊保有するF-15F-2戦闘機の場合はステルス性がほぼ無いので、先に見つかったらこちらの攻撃圏内に入る前に攻撃されますので長射程ミサイルを。竹刀より長刀のほうが強いのと同じです。アメリカはごっそり保有しているようです。

 ・SM-6ミサイル

護衛艦からミサイルを発射する場合、レーダーでは水平線の向こう側は捉えられません。いくらミサイルが長射程化しても視えないものは撃てません。そこでNIFC-CA(海軍統合火器管制-対空)の登場となりました。セットで使うのがSM-6ミサイルです。山の麓の村に町のテレビ映像を届けるには山頂に電波中継アンテナを立てますが、同じような感じです。こちら(艦)からは敵が視えません。ですので、高空を飛行する早期警戒機などに位置を教えてもらい攻撃します。

戦い方を変えるNIFC-CA - オレ様的夜ネタ ~平和を守るために~

 

中国と北朝鮮

北朝鮮の脅威と中国の海洋進出。これに対応するため色んな動きが出てきた昨年ですが、これからどうなるのでしょうか。

==中国==

中国は最大の貿易相手国であり、いわばお隣さんですから必要以上に緊張感を高めるのは得策では無いですし、友好関係を深めることができればそれに越した事はないと考えますが、民主主義と異なり共産党独裁体制はいわばブレーキが無いのと同じ。党(主席)が決定すればいつでも行動ができますし、そのような体制と装備は着々と進めているのは明らかです。ですから対話のチャンネルを開きつつも備えは怠れません。

~強硬な中国~

中国は17年の共産党大会でも明らかなように「台湾・尖閣」は固有の領土としており「祖国の完全統一」を目指すとしていますので、いつ力による(または力を背景とした)現状変更があるとも限りません(台湾・尖閣諸島の併合)。

また、2035年ごろを目途に世界一の軍隊を目指し、安全保障領域での闘争準備を進めるとしています。

先ごろ、駐米中国公使がある会合で「米海軍艦艇が台湾の港に入港するなら、その日は中国人民解放軍が台湾を軍事力で併合する日となるだろう」とアメリカを威嚇するかのような発言をしています。台湾近海での軍事演習は非常に活発で国力差から彼我の戦力差は開く一方。中国は建国以来、チベットを併合し台湾海峡危機を起こしベトナムとも戦争をし、インドとも紛争をおこし、ブータンの国境を一方的に変更するなど枚挙に暇がありません。スリランカでは借金のカタに99年間の港の租借権を取得しました。「真珠の首飾り作戦」の一環とされ、宿敵インドの封じ込めにかかっています。イギリスが香港を当時の清から99年間租借したのと同じ手法です。そのうえ昨年末には南シナ海の基地化を堂々と宣言しており、明らかに中国はアメリカにとって代わる覇権国の地位を欲していますし、実際にアジア地域の覇権国としての地位を築きつつあります。

日本ではニュースにすらなりませんが、まだまだネタはつきません。ま、金持ちになると地位と名誉が欲しくなるのは人の常ですが。

~空母~

また先日、中国は国産空母を4隻体制にすると報道がありました。一部には原子炉を搭載するとの報道もあります。原子力空母は簡単にはいかないでしょうが、核運用能力は日本以上ですからあとは時間の問題。

初の空母「遼寧」で空母の運用については訓練を積んできており、問題点の洗い出しも進んでいるとすれば、次からはもっとスムーズな展開ができると考えなければなりません。アメリカの空母11隻体制には及ばないものの、4隻揃うと必要な海域に常時軍事プレゼンスを示すことができるようになります。

~財政~

ただ気になる点は財政です。高度成長は終わりつつあり地域格差の拡大の対応や急速に進む少子高齢化対策、高齢者の福祉や年金などの問題もあります。空母4隻と搭載機、戦闘群を組むためのその他の多くの艦船の建造と維持、乗員の錬成など今後膨大な費用がかかるので果たして計画通りいくのでしょうか。ソ連は冷戦時代にアメリカとの競争に負けて破たんしましたが、中国はまだアメリカの軍事力と比較して劣るものの、相対的にアメリカの弱体化はハッキリしてきており、日本はアメリカの低下する軍事力を補完し、国の安全を自身で守れる体制を高めなければなりません。日米同盟はいまだ強力ですが、もはや安全保障をアメリカだけに頼ることで済んでいた時代は終わりました。

北朝鮮有事に~

北朝鮮問題に乗じて南シナ海東シナ海での覇権を握ろうとするでしょうし、万一アメリカが北朝鮮に攻撃を仕掛けた場合は、その隙に尖閣諸島の実効支配を目指す可能性は低くはないでしょう。アメリカは中国との全面戦争に発展する事を避けるため、北朝鮮への攻撃は陸上部隊の38度線以北への進軍はしないでしょうが、米軍の全力に近い戦力を投入し、38度線沿いの火砲やミサイル関連施設への大規模空爆を実施します。海軍力の無い北朝鮮相手ですから、米空母はかなり接近して行動できますが、米艦防護、機雷掃海は自衛隊にも要請があるでしょう。中国は難民対策と称して鴨緑江を超えて陸上部隊を侵入させ、北朝鮮の現体制を倒し傀儡政権を樹立させるかもしれません。

ここ数日で南北朝鮮の対話ムードが広がっていますが、オリンピックに乗じた時間稼ぎであろうと考えています。思惑通り軍事演習は延期になりました。北は弾道ミサイルの生産と配備に、アメリカにとっては攻撃準備の時間稼ぎが必要ですので双方が渡りに船だったのではないでしょうか。中国も準備に時間が必要ですから同じかも。

~開戦すると~

あるレポートでは北とアメリカが開戦する確率は20%以下だったり、40%程度だったりとバラつきがありますが、止めて欲しいもんですね。

現在は経済制裁で強制的に政策を変更させ対話するようにしていますが、我が国の現在の法律では韓国の同意が無い以上、自衛隊邦人救出には韓国に入れずかといって攻撃前になるとアメリカから情報はでてこなくなります。

ここで韓国内で日本人が戦闘の犠牲になれば、日本国内での嫌韓感情に火がつくでしょう。国内で在日韓国人に不当な被害が出ることも考えられます。同様に混乱に乗じて中国が尖閣諸島などを実効支配しようとした場合は対中感情も悪化します。人は感情に走ると制御は難しくなりがちです。この雰囲気に押されて政府は対応するとなると・・・

北朝鮮核武装を放棄すれば改善しますが、それは現体制の崩壊に繋がり難民の流入で韓国国内は混乱するでしょう。日本も大きな影響を受けます。そもそも核武装の放棄はありえませんが。

~政府対応は~

政府は矢継ぎ早に「イージスアショア導入決定」「電子戦機EA-18Gグラウラ―の導入検討」「DDHいずも空母化の検討」「高速滑空弾や長距離ステルス巡航ミサイルJASSM-ERの導入研究」などを打ち出しています。

(この兵器類については次回に)

ただ、国力が大きく異なる日中で軍拡競争は疲弊を招くだけです。相手に吊られ単純な軍拡に走るのは愚の骨頂で、日米同盟や豪・英・印なども交えた効果的な抑止力保持と低コストな防衛能力の構築を急ぐ必要があります。

我が国にあまり時間はありません。

安倍政権は軍国主義的なのか

平成30年度の予算案が閣議決定されました。勿論ここでは「防衛関係費」関連のみを取り上げるのですが、この予算を巡っては「安倍政権は軍国主義的でこの国は戦争に向かっている」ネットでこのような意見を見かけます。

その根拠のひとつが以下に挙げるような装備品の調達にあるようです。どのような内容であるかを主な正面装備品で考えたいと思います。

 

1.イージスアショア設計費計上

2.長距離ステルス巡航ミサイルJASSM-ER(ジャズムイーアール)導入調査費計上

3.新型コンパクト護衛艦(30DD)2艦建造

4.予算(防衛関係費)総括

 

1.イージスアショア設計費計上

昨今、導入をほぼ決めた「イージスアショア」ですが、(以前にも書いたことがありますので、イージスシステムの詳細についてはここでは割愛します)目的は「弾道ミサイル防衛」であり、新型のSM-3ブロック2A、今後導入が予定されるSM-6ミサイルによって、日本を照準とする弾道ミサイル巡航ミサイルの脅威を低減させます。

イージスシステムはテスト結果が非常に良好であるうえ、ソフトウェアの改修によって同時対処能力も高まっています。現在はイージスシステム搭載護衛艦によって監視、万一の場合は迎撃を行いますが、護衛艦は艦船であるため、定期的に乗員の休養や艦のメンテナンスなどが必要になり、長期の常時監視には負担がかかりすぎます。現在は4艦あり、「あたご「あしがら」の2艦は弾道ミサイル防衛用のシステムに改修中、2艦を増勢することしていますが、イージス艦は何も弾道ミサイル防衛の為だけにある訳ではありません。本来の艦隊防空の任務もありますので、一定の海域に張り付けておくとなると、南西諸島方面やその他の海域の防衛・パトロールが手薄になります。乗員は多種多様な任務に対応するための訓練も行えなくなり練度が低下する恐れもあります。

そこでイージスアショアとなるのですが、ミサイル防衛のみの機能を持つため艦の運用の為の要員は不要となりますし、調達・運用コストも陸上の強みで低コストになります。また艦船では無いため、訓練を行って陸上自衛隊でも任務を果たせることになります。そうすることで人員の運用面でも余裕が生まれます。これは海上自衛隊の負担減に繋がります。

また2基で日本全土をカバーするため、ミサイル防衛を重層化し安全性を高める事に繋がります。現在の日本が低コストで安全性を高めるなら他に選択肢はありません。

また、これは中国に対しても抑止力を高めることになります。中国は北朝鮮核武装について自国の都合上、積極的には関与してこなかった事がこの点では裏目に出たと言えます。

纏めるとイージスアショアの導入は北朝鮮のみならず中国に対しても抑止力を高め、なおかつ他の方法よりも低コストと言えます。

 

2.長距離ステルス巡航ミサイルJASSM-ER

ロッキードマーチン社が開発した新型の巡航ミサイルでステルス性能を持ちます。固定目標にむけて戦闘機(爆撃機も)より発射され、GPSで誘導し最終的には赤外線画像で誘導し、コンクリートで防護された施設も破壊可能で射程は脅威的な1000kmほどと言われています。

残念ながら自衛隊保有する戦闘機である、F-15JとF-2はこのミサイルをそのままでは搭載できません。新規で導入していくF-35Aでさえ、コンピュータシステムが古くバージョンアップが必要になります。

そこで調査費の計上となります。機体の改修とコンピュータの載せ換え、通信システムの改修など調査項目は多岐にわたります。

しかし搭載できれば高価なステルス戦闘機よりもお得な買い物です。

1機100億円以上、尚且つパイロットの育成、高価なメンテナンスが必要なステルス機を沢山買うよりも、(数が揃うのも時間がかかる)既にあるF-15J(改修型のF-15MJ)やF-2Aを改修し敵防空レーダー外からJASSM-ERを発射し攻撃するほうが、安全で安価なのは間違いありません。

現代はステルス能力の無い戦闘機は確実に撃墜されると言っても過言ではありませんから、乗員の安全と攻撃力保持による抑止力向上がバランスよく目指せるのではないでしょうか。一発あたり1~2億円なんですから、島嶼防衛用としては非常にお買い得ではないかと思います。

 

3.新型コンパクト護衛艦(30DD)2艦建造

大型艦ばかりに目がいきますが、小型の汎用護衛艦が新規建造されるのには苦しい台所事情があるようです。

我が国の広いEEZ(排他的経済水域)の監視には数が必要です。そのため乗員が少なくて済み、尚且つ近海を小回りよくパトロールし装備も運用コストも低く抑えるように設計されているようです。このタイプの護衛艦は年1艦程度建造していましたが、小型化・簡素化し民生品の活用も進めつつ年2艦の建造とし、また旧型艦の代替であり、掃海艇を減少させることになるため特段海軍力増強とは言えないのではないでしょうか。

 

4.予算総括

これらの装備品を備えて総額は5.2兆円で6年連続の上昇となりました。これだけなら「軍拡では?」と言いたいところなんですが。

実は予算そのものは平成9年度で4.9兆円でした。日本は長らくデフレであったため延びてきていませんでした。およその数字で比べてみます。

平成10年=歳出78兆円、社会保障費19%、防衛費6.4% 名目GDP528兆

平成20年=歳出83兆円、社会保障費26%、防衛費5.8% 名目GDP520兆

平成26年=歳出96兆円、社会保障費32%、防衛費5.1% 名目GDP537兆

(歳出・・・一般会計歳出 %は歳出に占める比率 GDP額は国民経済計算マニュアルに基づく 金額、率ともおよその数値)

 

日本が2%程度の成長を続けていれば、GDP比1%としてももっと増えているところですし、NATO基準のGDP比2%なら防衛費は10兆円になります。ミサイルを買うからとかステルス機を買うからとかだけでは判断できません。ステルス機F-35AにしてもF-4戦闘機の代替です。F-4戦闘機ってベトナム戦争の頃の機体です。先日事故を起こしたのも老朽化で金属疲労が・・・どうせ買い替えるなら、役立つモノがいいですよね。

纏めると軍拡どころか縮小してるのでは?と言いたいぐらいの予算規模です。中国による南西諸島への進出、アメリカの衰退、北朝鮮の脅威。安全保障環境が厳しくなるなかで、非常に抑えられた予算と思いますがいかがでしょうか。

 

十二月八日

76年前(昭和16年)の今日12月8日、日本は先の大戦に突入しました。(大東亜戦争・太平洋戦争)

歴史はシームレスですので、どこが発端かというのはなかなか分かりにくいものですが、この日が一つの区切りであることは確かです。

 

まずこの日に何があったのか。

日本時間12/8 03:19(現地時間12/7 07:49)帝国海軍第一航空艦隊(指揮:南雲忠一中将)の航空母艦(赤城・加賀・蒼龍・飛龍・翔鶴・瑞鶴)から飛び立った、一次攻撃隊、零式艦上戦闘機零戦)、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機の戦爆連合およそ180機が、米領ハワイ・真珠湾の米太平洋艦隊、および航空施設などを空襲しました。(後に第二次攻撃も実施)真珠湾には「特殊潜航艇・甲標的」5隻も侵入し攻撃を試み1隻が魚雷を命中させました。

戦勝に湧いていた世論ですが、米軍はもとより日本にも多くの戦死者がでています。ハワイだけでも日本側未帰還機29機、特殊潜航艇5隻、戦死者数およそ100名。これがいわゆる真珠湾攻撃です。(真珠湾以外の島の基地なども攻撃しています)

同じ日に帝国陸軍第二十五軍(指揮:山下秦文中将)が、マレー半島に上陸。 基地航空隊もフィリピンやシンガポールを空襲、空母龍驤がフィリピン・ダバオ空襲、海軍陸戦隊がフィリピン・バタン島米軍飛行場を占領しています。国力を超えた多方面作戦を実施したのには、陸海軍の作戦の妥協の結果なのか、戦力を見誤ったのかなど諸説多数。

ここでも多くの戦死者がでています。戦に無傷の勝利はありえません。

 

開戦に至るには日本側にも複雑な思惑が絡み合っています。

国土防衛(シーレーン確保・資源確保)のために南進する海軍、ソ連中国国民党共産党軍と対峙する陸軍、また世論をミスリードした朝日新聞などの新聞社、国民の熱狂に押されて政治力を高めた東条英機三国同盟や開戦に反対する元・総理の米内光正、連合艦隊司令長官である山本五十六、海軍きっての理論派の井上成美などとの軋轢、関東軍の暴走や日中戦争の長期化による疲弊。

そして一方のアメリカは第一次大戦で急成長し、その後余剰となった産業基盤とリソースを使い、高い失業率とマイナス成長を回復させたいとの思惑や、対日融和策(南部仏印からの撤退で資産凍結や石油禁輸の解除など)を政治的思惑から退けたルーズベルト・・・

 

結果として日本は負けましたが、西洋列強に支配されていた多くのアジアの国々は独立の道を歩み、戦争の悲惨さを現実のものとし今に伝えています。

またこの戦争は「戦争とはなにか」を考える重要な研究テーマにもなっています。現代は「戦争」は人類と切り離せないものと考え、代わりにそれを如何に限定的なものにするか、エスカレーションさせないか、なども重要な課題です。

 

戦史や軍事を学ばないことは、抑止の失敗に繋がり戦争の引き金にもなりかねません。もし避けられない時には、限定的戦闘に収める努力も必要です。先の大戦の犠牲者を悼むとともに、これからもしっかりと学んでいきたいと思います。

国連の限界

北朝鮮問題で・・・

北朝鮮関連で危機管理能力、抑止力、法整備などが問われています。しかしおそらく多くの日本人のイメージでは国家間のイザコザを調整するために存在するはずの「国連」(英語名はUnited Nations 、直訳すると連合国となりますが日本では国際連合と呼ぶ)」は一体何をしているのでしょうか。

 

国連とは・・・

ご存知でしょうが改めて。

そもそも国連第二次世界大戦戦勝国(連合国側)が中心となって設立した「集団安全保障機構」ですが、国際紛争を平和的に解決することを大きな目標としています。もし領土や主権侵害、威嚇や武力行使を受けた場合は、安全保障理事会(以下、安保理)の制約の下で他の加盟国が協力して制裁を加えることとしていますが、その脅威の認定は安保理がおこないます。

その機能は安保理常任理事国5か国(米・英・仏・中・露)の軍事力を背景として平和を維持するのが当初の目的です。それゆえ5か国の協調が前提であるために「拒否権」が与えられています。しかし5大国の国益や思惑が交錯し、この前提は崩れ去り安保理はまともに機能していません。(2003年のイラク戦争国連の同意を取り付けることなく米英は開戦しました。)

 

PKOの役割

軍事力行使に変わる新たな活動にPKO国連平和維持活動)がありますが、意外かもしれませんが憲章には規定もなく公式な定義もありません。この軍事的強制力の無いPKOは麻痺していた国連の集団安全保障機能の一部分として定着しています。

しかし国連は中立的立場をとり、紛争当事者の停戦合意が必要であることや、軍事力は自衛のみが認められているため、自ずと限界が低くなっています。

また冷戦崩壊後は内戦が頻発し民族浄化宗教戦争などが多くなり、内戦による破たん国家の出現は、PKOでは平和構築ができないことを示しました。破たん国家では政府機能が停止しており、警察力も法の制約もなく無秩序と言える状態ですので、停戦監視もままならず、国連の要員の安全確保すらできない有様で、混乱回復のための経済支援、難民帰還、武装解除すら難問となりました。

 

ブラヒミ・レポート

このことを踏まえ当時のアナン事務総長の設置した「国連平和維持活動検討パネル」が2000年8月に「ブラヒミ・レポート」という報告書を国連に提出しました。

このレポートの特徴は、平和維持活動においては原則として

1、当事者間の同意がある事

2、中立である事、

3武力行使は自衛限定

としつつも、和平合意を犯した「破壊者」に対しては毅然とした態度で臨むべきとしています。

これは軍事的圧力を意味しているものですが、当事者間の仲介として守るべきは中立性よりも公平性としています。どっちつかずの態度より一定のルールに基づいて行動するということです。ルールを破れば(基準を超えれば)対象がどちらであろうとも強制力を持って行動するべきとしました。

報告書は平和維持活動を武力行使前提とはしていないものの、軍事力の裏付けが無ければ複雑な要因を含む現代では、平和維持活動の維持継続すら困難であるとしています。一方で、軍事力のみでは平和は作れないが、平和構築の空間を作ることができるとしています。

 

限界点

しかし次の問題にいきつくことになりました。

1、加盟国が犠牲を強いられる活動には要員を提供しない。(他国のもめ事に命がけにはなれない)

2、予算(資金)が潤沢では無いわりに平和維持活動の必要な国が多い 

3、圧倒的軍事力を持つ国の支援が無いと実行できない

など国連の限界がここに見て取れるのではないでしょうか。このような現状もあり、我が国では国連に期待するような行動はできません。北朝鮮問題は中・露が深く関与しているため、安保理自体が十分機能するとは思えませんし、経済制裁決議以上の行動はありえません。

日本だって自衛隊の派遣は反対するのに世界平和を叫んでいる人がいますが、勝手な理屈にしか聞こえません。

国連には国際世論の同意を取り付ける以上の効用は期待しないほうが賢明でしょう。国連を平和の使者かのように思っている人がいるのかもしれませんが、その国連ですら軍事力の背景なしに平和構築の限界を認めています。この冷徹な現実を我が国は突きつけられているのではないでしょうか。

 

海洋国家としての必要なこと(2)

前回、「相応の海軍力が必要」と書きましたが、海上自衛隊は相当の海上戦力を保有しています。しかし広大な海洋を保護するには絶対的に数が足らないのは明白です。戦力も輸送力も不足していると私は考えています。

空母は不要

まず水中戦力として効果的なのは「潜水艦」で現在急速に増勢に努めており、計画では22隻まで増勢予定です。しかし乗員の休息、艦のメンテナンスや補給を考えると常時任務に就くのは広い海域に10隻以下。しかも自衛隊の潜水艦は「通常動力型」で静粛性は極めて高いと言われますが、空気が必要なディーゼルエンジンとバッテリー駆動のモーターとの組み合わせ。長期任務はできずおよそ2週間くらいと言われています。しかも潜水艦は航空機に対しては無力ですのでやはり海洋保護に航空機は欠かせません。

遠方の海域やシーレーン保護で航空優勢(制空権)を確保し他国の干渉を排除するには「空母」となる訳ですが、アメリカが保有しているような巨大空母は非常にコストが高く攻撃的性格が強いため、専守防衛を旨とする我が国には馴染みませんし国民の理解は得られないでしょう。

空母艦隊を構成するには、最低でも空母、搭載する艦載機と艦載ヘリコプター、護衛する護衛艦駆逐艦)、潜水艦が3セット必要で、資材も人員も膨大です。消費税を20%にして全部を防衛費にあてて運用できるまでには10~20年がかり。

しかも完全に航空優勢を確保しようとすると(高価な母艦を保護するためにも)沿岸からの攻撃(長射程の対空・対艦ミサイル)にも対応しなければならないので、対地攻撃力(敵策源地攻撃力)が必要になってきますが、現段階で敵策源地攻撃力はありませんし、議論もすすんでいません。周辺国の反発は必至で空母艦体なんて非現実的なものは不要。かえって軍拡競争のきっかけを我が国が作る事になります。

因みにアメリカの国防費が年間65兆円。海軍ではこれで維持しているのが艦艇総数300隻(うち空母10隻)で任務可能な前方展開している艦艇は120隻程度です。日本はアメリカと異なり全地球上に海軍力が必要な訳ではありませんから、それの1/3としても20兆円(現在は5兆円)4倍増なんて無理ですよね。以前に「核保有の非現実性」を書いたことがありますが、「空母保有も非現実的」なんです。

しかし航空優勢の確保は非常に重要ですし一義的に自国の権益は自国が確保するのが国際常識。ではどうするか。

強襲揚陸艦という選択

日本には対潜水艦のためのヘリ空母とも呼ばれる護衛艦が4隻と甲板が空母状な輸送艦3隻がありますが、他国にはこれと似たような形をしている艦で「強襲揚陸艦」と一般的に呼ばれる艦があります。

国際基準がある訳ではないのですが、通常は1.平甲板(空母のように平たい甲板)2.大量の人員や車両の輸送が可能 3.航空機多数運用が可能 4.ウエルデッキ(後部から小型の船艇が出入りできる)があるなどです。

海上自衛隊の艦艇では、おおすみ輸送艦にウエルデッキがあり、ひゅうが型、いずも型ではヘリコプターの同時多数運用実績が豊富です。この両方の条件を満たす船が一般的に「強襲揚陸艦」と呼ばれます。(例外はあります)

後は今後導入するオスプレイを搭載し、最新鋭ステルス戦闘機F-35B(垂直離着陸型)を導入すれば比較的短期間に装備できます。空母よりも遥かに低コストであり、空母1隻分で3隻装備可能になり、常時1隻は任務に就けることになります。(これはあくまで空母艦隊と比較しての話です)1隻あたりの搭載機はF35が3個飛行隊12機(予備機2機)SH60K哨戒ヘリ3機、オスプレイ1機、その他多用途ヘリ2機程度、人員輸送、LCAC(エアクッション型揚陸艇)1隻程度は必要ですので、それなりに大型化はします。(基準排水量.3~4万トン?)搭載機をぐっと減らして2万トンクラスが現実的でしょうか。

演習でも「無双ぶり」を発揮したF35は優れたステルス性能、優秀なセンサー、データリンクにより遠方からの敵航空機の侵入を一方的に察知し攻撃可能です。つまりこのF35搭載艦が遊弋するだけで圧倒的な抑止力を確保できることになります。

最大の問題は人材不足。これは早急になんとかしなければなりません。人材育成は費用と時間がかかりますので、いざ桶狭間!な時にフネはあっても人手不足ではいけません。

法改正

また航空機(戦闘機)を搭載した艦船が東シナ海を航行すると一部周辺国は反発必死。そこで憲法改正が必要になります。

一般的に「憲法改正=戦争できる国へ」とイメージが刷り込まれていますが、全くの逆だと思います。しっかり軍隊としての役割を明示し関連法案で禁止事項(ネガティブリスト)化すること。軍人としての責務と誇りを与え、安心して任務を遂行できるようにすること。十分に周辺国に説明をおこない理解を得るようにすること。(掃海艇派遣だってPKOだって最初は反発されました)

今のようにどうとでも解釈できる状態のほうが異常です。装備と人材と法律。3点セットで改善しなければならないのではないでしょうか。

(写真は海上自衛隊フォトギャラリーより)

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