海洋立国論

勉強のつもりで書いています。

十二月八日

76年前(昭和16年)の今日12月8日、日本は先の大戦に突入しました。(大東亜戦争・太平洋戦争)

歴史はシームレスですので、どこが発端かというのはなかなか分かりにくいものですが、この日が一つの区切りであることは確かです。

 

まずこの日に何があったのか。

日本時間12/8 03:19(現地時間12/7 07:49)帝国海軍第一航空艦隊(指揮:南雲忠一中将)の航空母艦(赤城・加賀・蒼龍・飛龍・翔鶴・瑞鶴)から飛び立った、一次攻撃隊、零式艦上戦闘機零戦)、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機の戦爆連合およそ180機が、米領ハワイ・真珠湾の米太平洋艦隊、および航空施設などを空襲しました。(後に第二次攻撃も実施)真珠湾には「特殊潜航艇・甲標的」5隻も侵入し攻撃を試み1隻が魚雷を命中させました。

戦勝に湧いていた世論ですが、米軍はもとより日本にも多くの戦死者がでています。ハワイだけでも日本側未帰還機29機、特殊潜航艇5隻、戦死者数およそ100名。これがいわゆる真珠湾攻撃です。(真珠湾以外の島の基地なども攻撃しています)

同じ日に帝国陸軍第二十五軍(指揮:山下秦文中将)が、マレー半島に上陸。 基地航空隊もフィリピンやシンガポールを空襲、空母龍驤がフィリピン・ダバオ空襲、海軍陸戦隊がフィリピン・バタン島米軍飛行場を占領しています。国力を超えた多方面作戦を実施したのには、陸海軍の作戦の妥協の結果なのか、戦力を見誤ったのかなど諸説多数。

ここでも多くの戦死者がでています。戦に無傷の勝利はありえません。

 

開戦に至るには日本側にも複雑な思惑が絡み合っています。

国土防衛(シーレーン確保・資源確保)のために南進する海軍、ソ連中国国民党共産党軍と対峙する陸軍、また世論をミスリードした朝日新聞などの新聞社、国民の熱狂に押されて政治力を高めた東条英機三国同盟や開戦に反対する元・総理の米内光正、連合艦隊司令長官である山本五十六、海軍きっての理論派の井上成美などとの軋轢、関東軍の暴走や日中戦争の長期化による疲弊。

そして一方のアメリカは第一次大戦で急成長し、その後余剰となった産業基盤とリソースを使い、高い失業率とマイナス成長を回復させたいとの思惑や、対日融和策(南部仏印からの撤退で資産凍結や石油禁輸の解除など)を政治的思惑から退けたルーズベルト・・・

 

結果として日本は負けましたが、西洋列強に支配されていた多くのアジアの国々は独立の道を歩み、戦争の悲惨さを現実のものとし今に伝えています。

またこの戦争は「戦争とはなにか」を考える重要な研究テーマにもなっています。現代は「戦争」は人類と切り離せないものと考え、代わりにそれを如何に限定的なものにするか、エスカレーションさせないか、なども重要な課題です。

 

戦史や軍事を学ばないことは、抑止の失敗に繋がり戦争の引き金にもなりかねません。もし避けられない時には、限定的戦闘に収める努力も必要です。先の大戦の犠牲者を悼むとともに、これからもしっかりと学んでいきたいと思います。

国連の限界

北朝鮮問題で・・・

北朝鮮関連で危機管理能力、抑止力、法整備などが問われています。しかしおそらく多くの日本人のイメージでは国家間のイザコザを調整するために存在するはずの「国連」(英語名はUnited Nations 、直訳すると連合国となりますが日本では国際連合と呼ぶ)」は一体何をしているのでしょうか。

 

国連とは・・・

ご存知でしょうが改めて。

そもそも国連第二次世界大戦戦勝国(連合国側)が中心となって設立した「集団安全保障機構」ですが、国際紛争を平和的に解決することを大きな目標としています。もし領土や主権侵害、威嚇や武力行使を受けた場合は、安全保障理事会(以下、安保理)の制約の下で他の加盟国が協力して制裁を加えることとしていますが、その脅威の認定は安保理がおこないます。

その機能は安保理常任理事国5か国(米・英・仏・中・露)の軍事力を背景として平和を維持するのが当初の目的です。それゆえ5か国の協調が前提であるために「拒否権」が与えられています。しかし5大国の国益や思惑が交錯し、この前提は崩れ去り安保理はまともに機能していません。(2003年のイラク戦争国連の同意を取り付けることなく米英は開戦しました。)

 

PKOの役割

軍事力行使に変わる新たな活動にPKO国連平和維持活動)がありますが、意外かもしれませんが憲章には規定もなく公式な定義もありません。この軍事的強制力の無いPKOは麻痺していた国連の集団安全保障機能の一部分として定着しています。

しかし国連は中立的立場をとり、紛争当事者の停戦合意が必要であることや、軍事力は自衛のみが認められているため、自ずと限界が低くなっています。

また冷戦崩壊後は内戦が頻発し民族浄化宗教戦争などが多くなり、内戦による破たん国家の出現は、PKOでは平和構築ができないことを示しました。破たん国家では政府機能が停止しており、警察力も法の制約もなく無秩序と言える状態ですので、停戦監視もままならず、国連の要員の安全確保すらできない有様で、混乱回復のための経済支援、難民帰還、武装解除すら難問となりました。

 

ブラヒミ・レポート

このことを踏まえ当時のアナン事務総長の設置した「国連平和維持活動検討パネル」が2000年8月に「ブラヒミ・レポート」という報告書を国連に提出しました。

このレポートの特徴は、平和維持活動においては原則として

1、当事者間の同意がある事

2、中立である事、

3武力行使は自衛限定

としつつも、和平合意を犯した「破壊者」に対しては毅然とした態度で臨むべきとしています。

これは軍事的圧力を意味しているものですが、当事者間の仲介として守るべきは中立性よりも公平性としています。どっちつかずの態度より一定のルールに基づいて行動するということです。ルールを破れば(基準を超えれば)対象がどちらであろうとも強制力を持って行動するべきとしました。

報告書は平和維持活動を武力行使前提とはしていないものの、軍事力の裏付けが無ければ複雑な要因を含む現代では、平和維持活動の維持継続すら困難であるとしています。一方で、軍事力のみでは平和は作れないが、平和構築の空間を作ることができるとしています。

 

限界点

しかし次の問題にいきつくことになりました。

1、加盟国が犠牲を強いられる活動には要員を提供しない。(他国のもめ事に命がけにはなれない)

2、予算(資金)が潤沢では無いわりに平和維持活動の必要な国が多い 

3、圧倒的軍事力を持つ国の支援が無いと実行できない

など国連の限界がここに見て取れるのではないでしょうか。このような現状もあり、我が国では国連に期待するような行動はできません。北朝鮮問題は中・露が深く関与しているため、安保理自体が十分機能するとは思えませんし、経済制裁決議以上の行動はありえません。

日本だって自衛隊の派遣は反対するのに世界平和を叫んでいる人がいますが、勝手な理屈にしか聞こえません。

国連には国際世論の同意を取り付ける以上の効用は期待しないほうが賢明でしょう。国連を平和の使者かのように思っている人がいるのかもしれませんが、その国連ですら軍事力の背景なしに平和構築の限界を認めています。この冷徹な現実を我が国は突きつけられているのではないでしょうか。

 

海洋国家としての必要なこと(2)

前回、「相応の海軍力が必要」と書きましたが、海上自衛隊は相当の海上戦力を保有しています。しかし広大な海洋を保護するには絶対的に数が足らないのは明白です。戦力も輸送力も不足していると私は考えています。

空母は不要

まず水中戦力として効果的なのは「潜水艦」で現在急速に増勢に努めており、計画では22隻まで増勢予定です。しかし乗員の休息、艦のメンテナンスや補給を考えると常時任務に就くのは広い海域に10隻以下。しかも自衛隊の潜水艦は「通常動力型」で静粛性は極めて高いと言われますが、空気が必要なディーゼルエンジンとバッテリー駆動のモーターとの組み合わせ。長期任務はできずおよそ2週間くらいと言われています。しかも潜水艦は航空機に対しては無力ですのでやはり海洋保護に航空機は欠かせません。

遠方の海域やシーレーン保護で航空優勢(制空権)を確保し他国の干渉を排除するには「空母」となる訳ですが、アメリカが保有しているような巨大空母は非常にコストが高く攻撃的性格が強いため、専守防衛を旨とする我が国には馴染みませんし国民の理解は得られないでしょう。

空母艦隊を構成するには、最低でも空母、搭載する艦載機と艦載ヘリコプター、護衛する護衛艦駆逐艦)、潜水艦が3セット必要で、資材も人員も膨大です。消費税を20%にして全部を防衛費にあてて運用できるまでには10~20年がかり。

しかも完全に航空優勢を確保しようとすると(高価な母艦を保護するためにも)沿岸からの攻撃(長射程の対空・対艦ミサイル)にも対応しなければならないので、対地攻撃力(敵策源地攻撃力)が必要になってきますが、現段階で敵策源地攻撃力はありませんし、議論もすすんでいません。周辺国の反発は必至で空母艦体なんて非現実的なものは不要。かえって軍拡競争のきっかけを我が国が作る事になります。

因みにアメリカの国防費が年間65兆円。海軍ではこれで維持しているのが艦艇総数300隻(うち空母10隻)で任務可能な前方展開している艦艇は120隻程度です。日本はアメリカと異なり全地球上に海軍力が必要な訳ではありませんから、それの1/3としても20兆円(現在は5兆円)4倍増なんて無理ですよね。以前に「核保有の非現実性」を書いたことがありますが、「空母保有も非現実的」なんです。

しかし航空優勢の確保は非常に重要ですし一義的に自国の権益は自国が確保するのが国際常識。ではどうするか。

強襲揚陸艦という選択

日本には対潜水艦のためのヘリ空母とも呼ばれる護衛艦が4隻と甲板が空母状な輸送艦3隻がありますが、他国にはこれと似たような形をしている艦で「強襲揚陸艦」と一般的に呼ばれる艦があります。

国際基準がある訳ではないのですが、通常は1.平甲板(空母のように平たい甲板)2.大量の人員や車両の輸送が可能 3.航空機多数運用が可能 4.ウエルデッキ(後部から小型の船艇が出入りできる)があるなどです。

海上自衛隊の艦艇では、おおすみ輸送艦にウエルデッキがあり、ひゅうが型、いずも型ではヘリコプターの同時多数運用実績が豊富です。この両方の条件を満たす船が一般的に「強襲揚陸艦」と呼ばれます。(例外はあります)

後は今後導入するオスプレイを搭載し、最新鋭ステルス戦闘機F-35B(垂直離着陸型)を導入すれば比較的短期間に装備できます。空母よりも遥かに低コストであり、空母1隻分で3隻装備可能になり、常時1隻は任務に就けることになります。(これはあくまで空母艦隊と比較しての話です)1隻あたりの搭載機はF35が3個飛行隊12機(予備機2機)SH60K哨戒ヘリ3機、オスプレイ1機、その他多用途ヘリ2機程度、人員輸送、LCAC(エアクッション型揚陸艇)1隻程度は必要ですので、それなりに大型化はします。(基準排水量.3~4万トン?)搭載機をぐっと減らして2万トンクラスが現実的でしょうか。

演習でも「無双ぶり」を発揮したF35は優れたステルス性能、優秀なセンサー、データリンクにより遠方からの敵航空機の侵入を一方的に察知し攻撃可能です。つまりこのF35搭載艦が遊弋するだけで圧倒的な抑止力を確保できることになります。

最大の問題は人材不足。これは早急になんとかしなければなりません。人材育成は費用と時間がかかりますので、いざ桶狭間!な時にフネはあっても人手不足ではいけません。

法改正

また航空機(戦闘機)を搭載した艦船が東シナ海を航行すると一部周辺国は反発必死。そこで憲法改正が必要になります。

一般的に「憲法改正=戦争できる国へ」とイメージが刷り込まれていますが、全くの逆だと思います。しっかり軍隊としての役割を明示し関連法案で禁止事項(ネガティブリスト)化すること。軍人としての責務と誇りを与え、安心して任務を遂行できるようにすること。十分に周辺国に説明をおこない理解を得るようにすること。(掃海艇派遣だってPKOだって最初は反発されました)

今のようにどうとでも解釈できる状態のほうが異常です。装備と人材と法律。3点セットで改善しなければならないのではないでしょうか。

(写真は海上自衛隊フォトギャラリーより)

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映画シン・ゴジラ地上波放送記念?兵器解説(ネタバレ注意)

シン・ゴジラでは、ほぼ全てが現有兵器なんですが今回は、シーン別登場兵器を一挙掲載!

==25分~ 
 直立したゴジラをヘリコプターが射撃しようとしますが、
 住民がいることで射撃をしませんでした。

(1) AH-1Sコブラ(対戦車ヘリ) 
20ミリガトリング砲(射撃速度700発/分)とTOW対戦車ミサイル装備。地上目標の攻撃に特化したヘリコプターですが、現在は調達終了しています。

(2)OH-1・観測ヘリコプター
着弾観測、情報収集(偵察)用の国産ヘリコプター
通称「忍者」。非常に取り扱いが容易で機動性も高く優秀な国産ヘリコプターです。

==29分~
 海上自衛隊護衛艦が海中のゴジラを捜索するシーン

(3)DD-111おおなみ
第二護衛隊群(定係港・横須賀) たかなみ型汎用護衛艦 基準排水量4,650トン 同型艦5艦。海自のワークホース的存在がこの汎用護衛艦です。イージス艦のような派手さはありませんが、艦隊護衛、対潜水艦戦など万能にこなします。

(4)SH-60K対潜ヘリコプター
潜水艦を探すためのヘリコプターでこの能力においては海自は世界一と言っても過言ではないレベルと言われています。通常護衛艦に搭載し運用しています。

(5)ディッピングソナー
ヘリコプターから吊り下げて使う「聴音機」で海中の音を探します。本来は潜水艦を見つけるためのもので、探すべき音が分かっていないとダメですが、ゴジラほどの巨体が移動する音なら他の水中雑音と区別できるかもしれません。それともアクティブモード(音波を出して対象を探す)なら巨体だけに見つけられるのかな。

 

==50分~ タバ作戦

(6)F-2A戦闘機
「対艦番長」とか「平成の零戦」とか「バイパーゼロ」など異名が色々ある、日米共同開発の結果生まれた対地対艦攻撃可能な傑作戦闘機。映画では離陸時には翼下に「増槽(燃料タンク)」のみで翼端に「99式空対空誘導弾AAM-4B」のみの装備でこの後にゴジラを攻撃するJDAMは搭載していませんでした。攻撃時にはいつのまにかJDAM(精密誘導爆弾)積んでましたが^_^; JDAMとは無誘導爆弾を誘導爆弾にしたもので、自由落下しつつ目標に向かいます。

(7)10式戦車
最新鋭の戦車。重量が重かった90式に変わり軽量化しつつ攻撃制度をアップさせました。装甲は「モジュール式複合装甲」という、任務に応じた装甲を取り付けます。破損してもその部分だけを取り換えることができ、また移動の際には取り外して軽量化することもできます。劇中に描かれていますが、移動目標相手にスラローム移動しながらピンポイントで射撃を命中させることのできる世界屈指の能力を持ちます。120ミリ滑空砲装備。発射後に砲身が一旦下がりますが、給弾と排莢をして再度発射します。発射した弾はおそらくAPFSDS(運動エネルギーで貫通力を向上させた弾)ですが、ガンダムMS-IGLOOで登場した戦車「ヒルドルフ」が発射したのも同種(笑)

(8)AH-64Dアパッチロングボウ(対戦車ヘリ)
AH-1Sに変わり導入された対戦車ヘリコプターですが、対戦車ヘリコプターは携帯式対空ミサイル(スティンガーミサイルなど)に非常に脆弱であることが湾岸戦争以降明白となったことなどから調達は計画途中で終了しました。ローター(プロペラ)の上に丸いものがついていますが「ロングボウレーダー」という高性能レーダーです。30ミリ機関砲とヘルファイア対戦車ミサイル装備。

(9)99式自走りゅう弾砲 通称「ロングノーズ」
155ミリ榴弾を発射します。弾は放物線状に飛行し着弾するため直接照準ができなくても観測情報があれば射撃できますが、着弾までの目標の移動や地球の自転力なども勘案しつつ見越して射撃しなければならないので、非常に技量が要求されます。劇中では初弾を頭部に同時着弾(同時弾着射撃)させるという神業を披露。

(10)16式機動戦闘車
戦闘も中盤を過ぎたころタイヤが8輪で大砲を乗っけた戦車っぽい車両が走行しつつ射撃しています。戦車では移動に制限があったりしますので、迅速な部隊移動を可能にし島嶼部などへの敵の上陸阻止などの役目を担うために開発されました。火力は10式戦車より劣るものの、迅速な移動と装甲車よりも防御力と火力は高い車両です。でも10式が無力なのに16式はどうーよ?って感じですけどね。

(11)B-2 ステルス爆撃機
機体重量と同じだけの金(GOLD)と価格が同じとか揶揄されるお高い米軍のステルス爆撃機。3機落とされたので米軍えらいこっちゃ~です。ゴジラは劇中台詞で「フェイズドアレイレーダーのような仕組みを持っている」とされていましたが、ステルス機も探知するレベルなのか、飽和攻撃によって撃墜したのかは定かではありませんね。

 

==1:55分~ ヤシオリ作戦
(12)米軍無人攻撃機
MQ-9リーパー・MQ-1プレデターの混成ですが、攻撃兵器はヘルファイア対戦車ミサイルゴジラを疲弊させるために、1機1000万ドル以上がバカバカ落ちる・・・

 

ゴジラは以前は架空兵器のオンパレードでしたが、今回はリアル感満載。 次はガメラの新作も見てみたい。

 

(写真は陸上自衛隊のギャラリーより借用)

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海洋立国としての必要なこと(1)

広大な海を持つ日本

日本の国土面積は狭いですが、世界第六位の広いEEZ排他的経済水域)を持っていますし、資源や貿易はほぼ全てが海運に頼っています。447万㎢・・・広すぎてピンときませんが。

東には広大な太平洋があり、誰がどう見ても間違いなく「海洋立国」です。

EEZを簡単に言うと、経済活動・資源管理的には領海と同様に扱うが、国際間の利用(飛行や無害通航)などについては公海と同様に扱うということです。国連海洋法条約では、領海と排他的経済水域を除く海は「公海」ですから、それ以外を勝手に自国の海とする事は禁じられています。漁業資源と共に海底資源の埋蔵量も豊富と考えられている東シナ海では中国とのせめぎ合いも激しさを増しているところです。

 

FON「航行の自由」作戦

国際的に認められた海域や海峡を軍艦で通過しすることで、特定の国の一方的な主張を認めない行動をアメリカは各地で不定期に実施しており、これを「航行の自由」作戦(FON)と呼んでいます。南シナ海の中国の過剰な領有権主張に反発し、時折無通告で行っている「軍艦の無害通航」はこの「航行の自由作戦」の一環ですが、アメリカはそれ以外の国・海域にも行っています。台湾もイランやインドも。勿論日本に対して実施した事もあります。つまりFONは多くの国を対象としていますが、これは対中国だけに実施すれば中国を必要以上に刺激することになるため、その点はアメリカも配慮しているようです。

 

サラミスライス戦略(サラミ戦術)

現在中国が周辺国に対して実施しているのが「サラミスライス戦略」と呼ぶものです。「サラミスライス戦略」とは、サラミソーセージを丸ごと1本盗むとすぐにばれますが、少しづつ削り取るように盗んでいくとなかなかばれないことから例えられました。同様にして中国は領土領海を削り取る戦略を採用しているとされています。(サラミ戦略は領土に限った戦略を言う訳ではありません)

プロスペクト理論

この戦略の怖い点は少しずつなので、状況に慢性化し、慣れが国民の間に蔓延していく点です。日本でいえば尖閣に中国公船が侵入しだした頃は毎日報道もされましたが、近頃ではさほど騒がれ無くなりました。例えば尖閣のようなちっぽけな無人島の取り合いで「戦争」をするのは割りにあわないとして、譲歩したり看過しているとそこを足掛かりに次は「与那国島」「多良間島」「西表島」へと進むかもしれません。そこで慌てて「我が国に返せ」となるのですが、こちらは既に実効支配されている状態からの外交交渉になります。既に現状に対する参照点が変更されており、(4島減)外交交渉で人の住む「与那国・多良間・西表」の3島を取り返したとしても、「尖閣」は無人島であることもあって実効支配を許してしまうかもしれません。経済学の「プロスペクト理論」では、この参照点からの差を重要視しており、4島減から3島を取り返すと「儲けた」気分になりかねません。もっと取り返そうとすると「戦争」になると脅かされると「妥協」する世論も生まれます。民主国家では世論は強力ですから政府は動けないかもしれません。また、尖閣の取り合いで米軍は関与してこない可能性もあります。1988年に南シナ海ベトナム海軍と中国海軍の軍事衝突に関与せず、その後も南シナ海岩礁の占拠にはさしたる関与をしませんでした。その結果はご存知の通り南シナ海での中国の行動を許すことになっています。

 

だから譲歩できない

この視点から考えても領土問題は最初から一歩も譲ってはならないこと、一義的に自国で対応することが肝要です。言い換えれば「領土」はこうやって拡張するのです。正面戦争によって奪うなんて前時代的な事はしません。そうやって中国が侵攻してくると思うのは間違いです。小さな紛争程度で収めつつ削り取るのが上策です。また日中は経済的にも関係が深いうえ、現段階での武力侵攻は世界中の反発を招きます。この点をしっかり認識をしておきたいと思います。実効支配すれば「こっちのもん」であって、それを取り返すのが容易で無いのは「北方領土」「竹島」で実感していると思います。

 

マハンという人物

中国では近年アルフレッド=マハンという、アメリカ軍人でシーパワーの研究者の書籍がよく読まれているようです。マハンは海上権益確保についての研究で知られており、日本では秋山真之日露戦争時の海軍参謀)などは非常に影響を受けました。海洋進出を国是とする中国で「シーパワーの古典の名著」が読まれるのは理解できます。我が国の指導者層はどうでしょうか。いささか心配ではあります。明治政府や当時の海軍はシーパワーの重要性を認識しており、海軍力の急速な整備を急ぎました。

 

日本は世界第六位の広い海域を保護(権利の主張)するために相応の海軍力が必要になりますが、その点についてはまた。

輸送量は大切ですね

自衛隊は勿論完璧ではありません。どのような組織であっても、いくつかの問題点が存在しますので、それへの対処は非常に重要です。

しかし問題点を指摘されていてもその当時の状況(人員・予算・緊急度など)に応じて問題解決の優先順位がつけられ対応していくしかありません。

北朝鮮弾道ミサイルを発射し初めて日本上空を通過した1998年以降、自衛隊は防空能力(弾道ミサイル対処)の向上が優先されてきました。その為、正面装備として優先的に予算が割り振られて来たのはBMD(弾道ミサイル防衛)能力の質的・数的向上でした。

しかし、北朝鮮情勢がひっ迫するにつれ新たな問題が浮上してきました。もし、北朝鮮が韓国との戦争状態に突入した場合、もしくはそれが目前に迫った場合には緊急に在韓邦人を帰国させなければなりません。(非戦闘員退避活動、通称:NEO)

ここで後回しになっていた問題点が顕在化します。

ソウルは38度線(休戦協定ライン)に近く、開戦後にすぐ被害が相当程度予想されるので避難には時間的余裕がありません。

まずは釜山などの南部の港へ避難させるとしても、そこまでのルート、移動手段の確保が必要ですが、避難するのは日本人だけではありません。勿論韓国や米国、豪州など他国の人も一斉に避難します。当然、混乱が予想されます。これを如何にしてスムースに行うか。最初の関門です。

開戦後は米軍が航空優勢を短期間に確保します。しかし韓国上空は戦闘空域であり平時の空ではありませんので、IFF(敵味方識別装置)の無い民間機は誤射の可能性も捨てきれず利用しにくい状況です。滑走路も混雑するでしょう。

海についても僅かでも脅威(潜水艦・機雷など)が想定されるなら民間船は使えないでしょう。万一民間船が攻撃されたら、政府は苦しい立場に追い込まれます。

そこで自衛隊の出番なんですが、以前はできなかった「邦人救出」が安全保障法制によって可能となっていますが、これには相手国の同意が必要です。なおかつ危険地帯(交戦地域)に侵入し邦人救出する場合では、全面的な武器の使用は認められていないため(警察権の範囲であり正当防衛まで)救出に向かう自衛隊員の安全確保ができない場合がありえます。北朝鮮はフリーハンドで攻めてきますから。

さらに韓国の反日感情によって自衛隊艦艇は入港は拒否される可能性があります。韓国軍の要請によって自衛艦艇が韓国に入港したときですら、自衛艦旗旭日旗)は掲揚できませんでした。(国際間のルールでは軍艦は掲揚することになっているんですが、反日感情に配慮したようです。)手を借りようと思っても米軍、豪軍などは自国民の確保で手一杯。外国人(この場合は日本人)は後回しになります。

そこで、日・米・豪・韓などで有志連合を構成し有志連合の任務として自衛隊輸送艦やC-130H輸送機などを使うとします。

ここで大事なのは輸送量です。ざっくりとした数字で見積もります。

 

輸送機

C-130H・・・90 25機 2250人

C-2・・・100人 5機 500人

C-1・・・60人 15機 900人

輸送艦 

おおすみ型(おおすみ・しもきた・くにさき) 1000名 3隻 3000名

 

輸送機、輸送艦が一斉に行ったとして、一度に輸送できるのはたった6650名

ただし自衛隊が民間の貨客船を借り上げて運航することはあります。その場合はもう少し輸送量が大きくなります。

長期滞在の邦人が約4万人、旅行などの短期滞在が約2万人の合計6万人として、単純計算で9往復。

勿論、飛行機のほうが早く往復できますが、飛行場や港は混雑しています。大規模な退避作戦のオペレーション経験もなく、韓国の反日感情の中で戦時に民間人の退避作戦が順調に行えるとは思えません。

 

非戦闘員退避活動(通称:NEO)は長らく想定してこなかった事態です。安全保障法制ができる前は、「邦人救出」は「海外派兵」と言われ「軍国主義復活だ」と非難されてきた為、政府も自衛隊も十分な訓練や装備の調達、シュミレーションがおこなえませんでした。

現状では軍事衝突の可能性が高いとは言えませんが、突発的な事態で急に戦闘が不可避になる可能性もあります。まずは旅行など不要不急の訪韓は控えつつ、訪韓時には外務省の海外安全HP・危険情報を確認する必要があるようです。(現在は問題無しです)有事に在韓邦人の数が少ないほど退避しやすいのは当然です。

 

ミサイル防衛が注目されていますが、輸送も極めて重要な問題です。

日本は太平洋戦争(大東亜戦争)時にも、指導者が輸送量を軽視する傾向があり、担当者が船腹量の不足を進言し作戦の問題点を指摘しても強行する事が多々あったようです。今回は資源輸送ではありませんが、「船が足らない!」そのような事の無い様にしたいものです。

(写真は航空自衛隊HP・フォトギャラリーより)

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昭和19年10月25日

この日が何か知っている方は多くは無いでしょう。しかし、「特攻隊」この言葉はご存知でしょう。当時の海軍の正式名称は「神風(しんぷう)特別攻撃隊」と言います。

 

昭和16年12月8日に始まった「太平洋戦争(大東亜戦争)」は、開戦初頭と様変わりし、じり貧の日本軍はフィリピンで戦いを繰り広げていました。

 

昭和19年10月に着任したばかりの大西瀧次郎中将(20日に第一航空艦隊司令長官)は、部下と相談し戦闘機に爆弾を搭載し体当たりさせることを立案し、名前を「神風特別攻撃隊」と名付け20日に関大尉を隊長として「敷島隊」「大和隊」「朝日隊」「山桜隊」合計24名で編成しました。

設立の経緯は諸説あるのですが、大西中将の案に対し及川古志郎軍令部総長が「決して命令してくださるな」と念押ししているようです。

大西中将も前年に部下からの進言があった際には「統率の外道」として却下、フィリピン着任前にも上官に対し「強制命令でやれとはどうしても言えぬ」と言っており、かなり迷った様子が伺えます。

 

しかし、既に日本は機材も不十分で技量の未熟な搭乗員(パイロット)が多く、大西洋戦線で戦ってきた歴戦の米軍パイロットが乗る最新鋭機には到底太刀打ちできなくなっており、艦隊戦でも戦力差は歴然でした。

既に海軍は組織的に特攻兵器を数種作り始めており、「特攻」しかやれぬと決断したようです。

 

大西中将は三国同盟や開戦に反対の立場でしたが、開戦後は航空戦力に力を入れるべきとしており、その航空戦力の弱体化が特攻を誘引したのはなんとも皮肉です。

大西中将の写真を見ると、どっしりとした体躯、ふくよかな顔の人でしたが、非公開の写真では特攻機を見送る頃には、別人のように痩せこけて暗い表情になっていたそうです。

 

特攻が始まって以後も「統率の外道」と言い続け、終戦の翌日には切腹によって果てました。享年55歳でした。

切腹は腹を十字に割き、胸を突き刺しましたがなかなか死ねず、駆けつけた軍医や部下に「介錯と延命は不要。できるだけ長く苦しんで責任をとりたい」と言い、ったそうです。

 

最後に残した遺書です。

(改行等はスペースの都合上変更、原文には句読点は無し。)

 

特攻隊の英霊に日す、善く戦ひたり深謝す。 最後の勝利を信じつつ肉弾として散華せり、 然れ共其の信念は遂に達成し得ざるに到れり、 吾死を以て旧部下の英霊と其の遺族に謝せんとす。

次に一般青少年に告ぐ。 我が死にして軽挙は利敵行為なるを思ひ聖旨に副ひ奉り自重忍苦するの誡ともならば幸なり。

隠忍するとも日本人たるの矜持を失ふ勿れ。諸子は国の宝なり。

平時に処し猶克く特攻精神を堅持し日本民族の福祉と、世界人類の為 最善を尽くせよ…

海軍中将大西瀧次郎

 

今日は平成29年10月25日。多くの亡くなられた方のご冥福を改めて祈ります。

戦争は始めることは簡単ですが終わらせることはなんとも難しいもの。このような事を二度と繰り返さないように、しっかり学びたいと思います。